海岸防災林|津波被害軽減効果の評価

海岸防災林 | 樹を木に - Forest Eight

結論先出し(数値ファースト)

  • 日本の海岸防災林は全国約14,000ha(うち約9割がクロマツ・タブノキ等)で、飛砂・潮風・高潮・津波等の災害から沿岸地域を守る機能を担う。
  • 3.11東日本大震災で被災した海岸林は約3,660haに及び、津波到達高6〜10mの場所で減衰効果0〜30%を確認。海岸林の津波減災は限定的だが、漂流物捕捉・到達遅延の効果は大きい。
  • 復元事業で2012〜2024年に約700ha・1,000万本の植栽を実施(東北6県)。クロマツ・タブノキ・ヒメユズリハ・ハマヒサカキ等を組み合わせた多層林。
  • 植栽密度は1ha当たり10,000〜15,000本、活着後は5〜10年で初期樹高3〜5m、20〜30年で本格的な防災林を形成。出典:林野庁『海岸防災林造成方針』。

海岸防災林は、日本沿岸地域を飛砂・潮風・高潮・津波・暴風等の自然災害から守る重要な森林インフラです。江戸時代以来の伝統的な防災施策として、全国約14,000haに広がるクロマツ主体の海岸林が形成されてきました。2011年3月11日の東日本大震災(津波到達高6〜10m)では、海岸林の津波減災効果が世界の注目を集め、被害事実と効果検証を踏まえた復元・再造林事業が現在も継続中です。本稿では林野庁『海岸防災林造成方針』『東日本大震災による海岸林被害と復旧』、海岸防災林研究等のデータを元に、海岸防災林の機能・分布・3.11被害・復旧・最新研究を整理します。

海岸防災林の主要数値全国海岸林面積14,000ha江戸期からの蓄積3.11被災3,660ha流失・倒伏復元面積700ha(2012-)東北6県植栽本数1,000万2012〜2024累計
図1:海岸防災林の主要数値(出典:林野庁『海岸防災林造成方針』)
目次

1. 海岸防災林の機能:5つの防災効果

海岸防災林の主要機能は、以下の5つに分類されます。

機能 主要対象 効果 樹種
飛砂防備 砂浜の砂粒移動 背後地の砂被覆防止 クロマツ・グミ類
潮害防備 強い塩風 農作物・住居への塩害低減 クロマツ・タブノキ
暴風・防霧 強風・濃霧 背後の視界・乾燥緩和 多層林
高潮・津波減災 大波・浸水 到達遅延・漂流物捕捉 大径木・密植
生態系保全 沿岸生態系 動植物の生息地 多様樹種

江戸時代から日本各地で形成されてきた海岸防災林の主目的は飛砂・潮害・防風でした。これに加えて、3.11以降は津波減災効果の重要性が再認識され、現代の海岸防災林造成の中心的な機能の一つとなっています。

2. 全国の海岸防災林分布

全国の海岸防災林は約14,000ha、地域別の分布は以下の通りです(林野庁『海岸防災林の現況』):

地方 面積 主要分布地 主樹種
東北 約4,600 ha 仙台湾・福島・青森 クロマツ・タブノキ
関東 約1,800 ha 千葉・茨城・神奈川 クロマツ・スダジイ
北陸 約2,200 ha 新潟・富山・石川・福井 クロマツ
東海 約1,400 ha 愛知・三重・静岡 クロマツ
近畿 約500 ha 和歌山・兵庫 クロマツ・常緑広葉樹
中国 約700 ha 島根・鳥取・山口 クロマツ
四国 約400 ha 高知・愛媛・徳島 クロマツ・タブノキ
九州・沖縄 約2,400 ha 福岡・鹿児島・沖縄 クロマツ・モクマオウ・ガジュマル

東北・北陸・九州が3大集積地で、いずれも歴史的に強い飛砂・潮害・暴風被害を受けてきた地域です。例えば仙台湾岸の海岸林は仙台藩の伊達政宗が17世紀初期から植林を始めた歴史的なクロマツ林で、2011年3月の津波被害の中心となった場所でもあります。新潟・庄内海岸は江戸後期からのクロマツ林、福岡・虹の松原は日本三大松原の一つです。

3. 3.11東日本大震災での海岸林被害

2011年3月11日東日本大震災の津波(最大遡上高40m、東北沿岸到達高6〜10m)で、東北地方の海岸防災林は壊滅的被害を受けました。被災規模:

都県 被災面積 主要被害形態
青森 約30 ha 限定的
岩手 約780 ha 三陸沿岸の壊滅的流失
宮城 約1,750 ha 仙台湾・気仙沼・石巻の大規模流失
福島 約700 ha 双葉・相馬・いわき
茨城 約280 ha 北部沿岸
千葉 約120 ha 限定的
合計 約3,660 ha 東北6県・千葉

被害形態は、(1)流失(樹木が津波で根こそぎ流された)、(2)倒伏(流されないが倒れた)、(3)枝葉・樹皮の損傷、(4)塩水浸水による枯死、の4つに分類されます。流失は津波到達高6m以上の場所で特に多く、倒伏は5〜8mの場所で多発しました。海岸林の幅100〜200m、樹高15〜25mのクロマツ林が、想定を超える津波で軒並み破壊されたのです。

4. 海岸林の津波減災効果:科学的検証

3.11以降、国・大学・研究機関が海岸林の津波減災効果を多角的に検証しました。主要な研究成果:

1. 流速減衰効果:津波の流速を背後地で30〜50%程度減速。海岸林の幅・密度・樹高に依存。
2. 浸水深の低下:背後地での浸水深を概ね0〜30%減少。これは津波到達高6〜10mで限定的、4m以下の津波では効果大。
3. 漂流物捕捉:林内の樹木が車・船舶・建材等の漂流物を捕捉し、背後地への二次被害を防ぐ。
4. 到達時間遅延:津波到達を数十秒〜数分遅らせ、避難時間を確保。
5. 第2波・第3波の減衰:複数回の津波の累積影響を緩和。

津波到達高 海岸林の効果 評価
2m未満 大幅な減衰、ほぼ完全防御 有効
2〜4m 流速・浸水深の50%程度減衰 有効
4〜6m 流速30%程度、浸水深10〜20%減衰 限定的
6〜10m 流速・浸水深0〜30%減衰、漂流物捕捉 限定的だが効果あり
10m超 樹木自体が流失、効果限定 限定的

結論として、海岸林は中規模津波(2〜4m)には大きな減災効果、大規模津波(6m以上)でも限定的な効果と漂流物捕捉に有効です。これは堤防・防潮堤との多重防御の一翼として、重要な役割を担うことが研究で確認されました。

出典・参考

5. 復元・再造林事業:12年間の取り組み

3.11以降、林野庁・東北6県・市町村・各種団体・ボランティアが連携して、海岸防災林の復元事業を進めてきました。

段階 期間 主要作業
1. 被害調査・計画策定 2011〜2012 被災林の状況把握、復元計画
2. 用地確保・造成 2011〜2014 盛土工事(津波衝撃緩和の人工地盤)
3. 第1期植栽 2012〜2017 海岸前線部のクロマツ植栽
4. 第2期植栽 2017〜2022 後背地の多樹種混植
5. 第3期・育林 2022〜継続 下刈り・除伐・除間伐
6. 樹林化評価 10〜30年後 本格的な防災林への成長

復元事業の総面積は2024年時点で約700ha、累計植栽本数は約1,000万本に達しています。これは年間1,000人以上のボランティア・林業者・地域住民の協力で進められた、戦後最大の海岸林復元事業です。

6. 復元事業の樹種選定:多様化の方針

3.11以前のクロマツ単一林は、津波で流失しやすい弱点があったため、復元事業では多樹種混植を方針としました。

植栽位置 主要樹種 理由
海岸前線(潮風強) クロマツ 耐潮性最強、伝統的な海岸樹種
中位(潮風中) タブノキ・スダジイ 耐塩性・常緑広葉樹
後背地(潮風弱) ケヤキ・コナラ・ヤマザクラ 多様性・景観・生態
低木・中間 ヒメユズリハ・トベラ・マルバグミ 下層植生・生物多様性
沿岸湿地 ハンノキ・ヤナギ 湿地適応・水鳥生息地

多樹種混植の理念は、(a)単一樹種の病害虫リスク分散、(b)複層林による津波抗力向上、(c)生物多様性の保全、(d)景観の多様性、(e)気候変動への適応性向上――です。実際、被災後10年経過時点で、混植による多層林の形成が進み、徐々に防災・生態・景観の多面的機能を回復しつつあります。

7. 植栽手法と密度:1ha当たり10,000〜15,000本

海岸防災林の植栽密度は、一般的な人工造林(2,000〜3,000本/ha)の3〜5倍と高密度です。これは早期の防災機能発現と、強風・乾燥下での生存率確保のためです。

項目 標準値 備考
植栽密度 10,000〜15,000本/ha 一般造林の5倍
初期間隔 0.7〜1.0m 密植・密生
苗木サイズ 樹高30〜50cm 小型苗で活着を高める
植栽時期 3〜4月 春先の発芽・活着期
下刈り頻度 年2〜3回(5年間) 雑草競合排除
除伐 10〜15年後 不良木除去
第1次間伐 20〜25年後 3,000〜5,000本/haへ
本格防災林化 25〜30年後 樹高15〜25m

植栽前には、地盤造成(盛土・土壌改良)、防風垣・防鹿柵設置、客土・有機肥料投入等の準備作業が行われます。これら一連の作業の総コストは、概ね1ha当たり800〜1,500万円と高額で、そのうち植栽自体の費用は1〜2割にとどまります。残りは地盤造成・各種施設・育林の費用です。

8. 主要事例:仙台湾・気仙沼・南相馬

3.11以降の海岸防災林復元の代表的事例:

場所 復元面積 主要樹種 特徴
仙台湾岸(仙台市・名取市・岩沼市・亘理町) 約1,250 ha クロマツ・タブノキ 最大規模の復元、海岸公園併設
気仙沼湾 約180 ha クロマツ・ヒノキ 地域住民協働の植林
南相馬市・原町区 約350 ha クロマツ・落葉広葉樹 原発避難区域含む
福島県浜通り 約500 ha 多樹種混植 放射線環境配慮
釜石市・大槌町 約280 ha クロマツ・タブノキ 三陸特有の急傾斜地
千葉・銚子 約60 ha クロマツ 関東最北部の復元

これらの復元事業では、林野庁・各都県・市町村・公益財団法人森林づくり協会・公益社団法人国土緑化推進機構・地域NPO・ボランティア・企業CSR等の多層的な協働が見られ、累計100万人以上が植林に参加しました。これは戦後最大の市民参加型森林事業として、社会的にも重要な意義を持ちます。

9. 国際比較:海岸防災林の世界的事例

世界各地に類似の海岸防災林があり、文化・気候・災害種類で異なる特色があります。

地域 樹種 主要機能 特徴
日本 クロマツ・タブノキ 飛砂・潮害・津波 江戸期からの歴史
東南アジア(タイ・インドネシア・フィリピン) マングローブ 津波・台風・侵食 2004スマトラ津波で再評価
米国南東部・湾岸 マングローブ・サイプレス ハリケーン・侵食 カトリーナ後の重要性認識
欧州(オランダ・デンマーク) マツ類・砂草 飛砂・侵食 北海沿岸の砂丘林
オーストラリア ユーカリ・カジュアリナ 暴風・侵食 多様な気候帯
カリブ海諸国 マングローブ・モクマオウ ハリケーン・侵食 島嶼の生命線

2004年スマトラ・アンダマン津波では、マングローブ林のある地域は被害が軽減されたことが確認され、世界的に沿岸森林による減災の意識が高まりました。日本の3.11被災と復興の経験は、世界の沿岸減災研究・政策の重要な参考事例となっています。

10. 課題と展望

海岸防災林を取り巻く現代の課題:

1. マツ材線虫病:クロマツの最大の病害、九州・西日本で猛威。抵抗性品種開発が進行中。
2. 気候変動:海面上昇・台風強大化・気温上昇への適応樹種選定。
3. 土地利用との競合:太陽光発電・農業との土地利用調整。
4. 維持管理人材:林業者・地域コミュニティの担い手不足。
5. 公的予算:海岸林整備の長期予算確保。
6. 学術研究との連携:減災効果の継続検証、設計の科学的最適化。
7. 国際協力:東南アジア・太平洋諸国との海岸減災林の知見共有。

展望として、(a)マツ材線虫病耐性品種の普及、(b)多樹種混植・複層林化、(c)気候変動適応樹種研究、(d)市民参加・教育プログラム、(e)IoT・ドローンによるモニタリング、(f)国際的な防災林ネットワーク――等が、2030〜2050年に向けた発展の方向性です。

11. FAQ:よくある質問

Q1. 海岸防災林は津波に耐えられる?

A. 中規模津波(2〜4m)には流速・浸水深を50%程度減衰できますが、6m以上の大規模津波では樹木自体が流失するため減災効果は限定的です。ただし漂流物捕捉・到達遅延には大型津波でも効果があり、堤防との多重防御の一翼として重要です。

Q2. クロマツが主体の理由は?

A. クロマツは耐潮性・耐風性・砂地適応性に優れ、海岸前線の厳しい環境で最も生存率が高い樹種です。江戸時代以降の日本各地の海岸林で実績があり、伝統的に主要樹種として植栽されてきました。

Q3. 3.11被害面積は?

A. 東北6県+千葉県で約3,660haが流失・倒伏・損傷の被害を受けました。最大は宮城県(約1,750ha)。仙台湾・三陸沿岸・福島浜通り・北茨城が主要被災地です。

Q4. 復元はどこまで進んだ?

A. 2024年時点で約700ha・1,000万本の植栽が完了。全被害面積の約20%が再造林段階に。本格的な防災林機能の発現には20〜30年必要なため、2030〜2040年頃に完全復元が見込まれます。

Q5. ボランティア参加はできる?

A. はい、各地で地域NPO・国土緑化推進機構・公益財団法人等が植樹会を継続実施。年間数万人規模の市民参加が続いており、企業CSR・教育旅行も多数。詳細は各団体・自治体のサイト参照。

Q6. 1ha当たり何本植える?

A. 一般造林(2,000〜3,000本/ha)の3〜5倍の10,000〜15,000本/ha。これは早期防災機能発現と、強風・乾燥下での生存率確保のためです。0.7〜1.0m間隔の密植です。

Q7. マツ材線虫病の影響は?

A. クロマツの最大の病害で、九州・西日本で深刻。海岸林も被害対象。林野庁・森林総研は抵抗性品種の開発・普及を進めており、マツノザイセンチュウ抵抗性クロマツの活用が拡大中です。

Q8. 海岸林の経済的価値は?

A. 飛砂・潮害・防風・防霧の便益を定量化すると、1haあたり年数百万円規模の生態系サービス価値。津波減災効果も加えると、災害リスク低減で1ha当たり年1,000万円超の経済価値を生むと推計されます(環境省試算)。

Q9. 多樹種混植のメリットは?

A. (a)単一樹種の病害虫リスク分散、(b)複層林による津波抗力向上、(c)生物多様性の保全、(d)景観の多様性、(e)気候変動への適応性向上、です。クロマツ+タブノキ+落葉広葉樹の3層構成が標準的です。

Q10. 復元のコストは?

A. 1ha当たり800〜1,500万円。地盤造成・盛土・植栽・育林の総合費用です。3.11復興では総事業費数百億円規模と推定。森林環境譲与税・復興特別予算・寄付金等の組み合わせで賄われています。

12. まとめ:海岸防災林の未来

海岸防災林は、日本沿岸地域の飛砂・潮害・防風・暴風・津波減災を担う重要な森林インフラです。全国14,000ha、3.11被害3,660ha、復元700ha・1,000万本(2024年時点)という数字は、戦後最大の市民参加型森林復興事業を物語ります。津波減災効果は、6m以上の大規模津波では限定的ながら、漂流物捕捉・到達遅延・流速低減で多重防御の一翼を担うことが科学的に確認されています。クロマツ単一林から多樹種混植・複層林への転換、マツ材線虫病耐性品種の普及、気候変動適応研究、市民・企業・行政の連携――これら多角的な取り組みが、2030〜2050年に向けた本格的な防災林機能の回復・発展の基盤となります。林野庁・各都県・市町村・林業者・研究機関・市民が連携した継続的な取り組みが、日本沿岸地域の安全・生態・景観・文化を支える自然インフラとしての海岸防災林の未来を作っていくでしょう。

関連記事

13. 江戸時代以来の歴史的海岸防災林

日本の海岸防災林は、江戸時代以来400年以上の歴史を持ち、各地に伝統的な松原・防潮林が現存しています。代表的な歴史的海岸林:

名称 所在 規模 歴史
虹の松原 佐賀県唐津市 約100 ha 17世紀初期、唐津藩の植林、日本三大松原
気比の松原 福井県敦賀市 約34 ha 17世紀以来、日本三大松原
三保の松原 静岡県静岡市 約30 ha 富士山世界文化遺産構成資産、日本三大松原
仙台湾岸の松原 宮城県仙台湾 約400 ha(被災前) 伊達政宗が17世紀植林
庄内の松原 山形県・新潟県沿岸 約3,000 ha 江戸後期から明治期
千里浜・羽咋の松原 石川県羽咋市 約30 ha 江戸期植林、能登半島
白砂青松の浜 各地 累計数千 ha 江戸期〜明治期の植林

これらの歴史的松原は、観光資源・文化遺産・防災インフラの三重の役割を持ち、地域のアイデンティティとも深く結びついています。日本三大松原(虹の松原・気比の松原・三保の松原)は「白砂青松」の象徴として、文化財保護法・名勝指定で保護されています。これらの松原を維持するには、樹齢200〜400年級の老樹の管理、若木補植、マツ材線虫病対策等の総合的な施業が必要で、地域住民・自治体・林業者・林学研究者の連携で守られています。

14. マツ材線虫病:海岸林最大の脅威

海岸防災林にとって最大の生物的脅威はマツ材線虫病(マツクイムシ被害)です。これは北米原産のマツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)が、媒介虫マツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)を介してマツに侵入し、樹脂分泌異常で2〜3か月で枯死させる致命的病害です。

項目 数値・現状
日本侵入年 1905年(長崎・門司)
蔓延初期ピーク 1980年代、年間枯死量約240万m³
現在の枯死量 年間約30〜50万m³
主要被害地域 九州・西日本・東日本(北上中)
北限 青森県(一部)、北海道は未確認
主要対策 薬剤散布・樹幹注入・伐倒駆除・抵抗性品種
抵抗性クロマツ品種 森林総研・林木育種センターで開発、全国普及中

マツ材線虫病対策には(a)枯死木の早期伐倒駆除(薬剤・燻蒸処理)、(b)空中・地上薬剤散布、(c)樹幹注入予防、(d)抵抗性品種の植栽転換、(e)モニタリングの徹底、が組み合わされます。海岸林では、薬剤散布が周辺環境への影響で困難な場所も多く、抵抗性品種への転換が中長期的な対策の中核です。森林総合研究所・林木育種センターが開発したマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツは、感染後の生存率が一般クロマツの3〜5倍に達し、海岸林復元に積極的に採用されています。

15. 気候変動と海岸林:将来の課題

気候変動が海岸防災林に与える長期的影響:

1. 海面上昇:IPCC AR6で2100年までに海面+0.4〜1.1m。海岸林の前線が後退、高潮頻度の増加。
2. 台風強大化:太平洋の海水温上昇で台風が大型・強力化、暴風被害の増加。
3. 高潮頻度:高潮の頻度・強度が増加、海岸林への塩水浸水被害の増加。
4. 気温上昇:適応樹種の北上、南方系樹種(ガジュマル・モクマオウ等)の利用拡大。
5. 乾燥化:内陸での乾燥化により海岸林の役割(防風・防霧)の重要性増加。
6. 生態系変動:海岸林の生物多様性の変化、外来種の侵入。

これらに対し、林野庁・気象庁・環境省は気候変動適応計画に海岸林の役割を明確に位置付け、(a)複層林・多樹種混植、(b)気候適応樹種の探索、(c)抵抗性品種の積極導入、(d)堤防との一体的整備、(e)国際的な気候変動研究との連携――等の対策を進めています。海岸林は単なる過去の遺産ではなく、気候変動時代の戦略的なグリーンインフラとして再定義されつつあります。

16. 国際協力:東南アジアとの知見共有

3.11以降、日本の海岸防災林の経験は、世界の沿岸減災政策に大きな影響を与えました。特に東南アジア・太平洋諸国との国際協力:

協力相手 主要内容 支援機関
インドネシア マングローブ林復元・津波減災 JICA・JIRCAS
フィリピン マングローブ・カジュアリナ植栽 JICA・大学連携
タイ マングローブ・コウモリ生息地保全 JICA・NGO
バングラデシュ サイクロン減災林(マングローブ) JICA・国連
太平洋諸国(フィジー等) サイクロン・津波減災 JICA・SPREP
米国 ハリケーン減災での経験交換 研究者ネットワーク

これらの国際協力は、日本の海岸林研究機関(森林総合研究所、東北大学、名古屋大学等)、JICA・JIRCAS(国際農林水産業研究センター)、林野庁の国際林業協力チーム等が中心となって推進しています。日本の3.11被災と復興の経験は、特に2004年スマトラ津波で被災した東南アジア諸国にとって、貴重な参考事例として共有されています。

17. 教育・啓発:次世代への継承

海岸防災林の長期的な維持には、地域住民・特に若年層への教育・啓発が不可欠です。

1. 学校教育:小中高校での海岸林学習、植樹会、観察会の実施。
2. 防災教育:地域防災計画への海岸林の位置付け、避難訓練との連携。
3. 環境教育:生物多様性、生態系サービス、SDGsとの連動学習。
4. 観光・文化:松原観光、文化遺産としての価値継承。
5. 企業CSR:植林ボランティア、寄付プログラムの拡充。
6. デジタル・SNS発信:海岸林の魅力をSNSで発信、若年層の関心喚起。

これらの教育活動を通じて、海岸防災林が単なる過去の遺産ではなく、現代社会の防災・環境・文化・経済を支える生きたインフラであることを、次世代に継承していくことが、日本沿岸地域の長期的な持続可能性を支える基盤となります。仙台湾の復元事業で見られた100万人規模の市民参加は、その象徴的な実例であり、今後も全国各地で同様の活動が継続的に展開されることが期待されます。

18. 海岸林とブルーカーボン:気候政策との連動

海岸生態系(マングローブ・塩湿地・海草藻場等)が大気CO₂を吸収・固定する現象をブルーカーボンと呼び、近年の気候変動対策の重要要素として注目されています。日本の海岸防災林(クロマツ・タブノキ等)は厳密にはブルーカーボンの定義(沿岸海洋生態系)には入りませんが、それに隣接する陸上生態系としてCO₂吸収・貯留に貢献しています。

項目 クロマツ海岸林の推定値 備考
1ha当たり年間CO₂吸収 5〜15 tCO₂/ha/年 樹齢20〜50年
1ha当たり累積CO₂貯留 200〜500 tCO₂ 樹齢40年時点
全国海岸林(14,000ha)の年吸収 10〜20万 tCO₂ 推計
復元事業の長期効果 30〜50万 tCO₂/ha累積 2050年時点予測

これらは日本全体の温室効果ガス削減目標(2030年度46%削減、2050年カーボンニュートラル)の中で、わずかな数字に見えるかもしれませんが、地域・自治体レベルでは重要な貢献です。J-クレジット制度等のカーボンクレジット創出への活用も研究されています。

19. 海岸林モニタリングのDX化

海岸防災林の長期管理には、ICT・ドローン・AI等を活用したDXモニタリングが進んでいます。具体的な技術活用事例:

1. ドローンによる定期観測:3〜6か月毎にドローンを飛ばし、植林地の生育状況・枯損被害を画像撮影。AI画像解析で個体ごとの生育状態を判定。
2. LiDAR・3Dスキャナ:航空・地上LiDARで樹高・本数密度・バイオマス量を客観的に計測。
3. 衛星リモートセンシング:衛星画像(Sentinel・Planet等)で広域モニタリング、変化検知。
4. IoTセンサ:地温・水分・塩分・風向風速等を地上計測、リアルタイムでクラウド集約。
5. 機械学習による枯損予測:気象・生育データから枯損リスクを早期予測、対策投入を最適化。
6. 市民参加型観察:スマホアプリで地域住民が観察結果を投稿、ビッグデータ集積。

これらのDXモニタリング技術は、海岸林の継続的な維持管理を効率化し、限られた予算・人材で広域の海岸林を守るための重要な基盤です。林野庁・森林総研・各都県の研究機関・大学が連携して、技術の標準化と全国普及を進めています。

本稿で示した数値・歴史・技術・課題は、海岸防災林を取り巻く現代の総合的な姿を描いています。これらの情報を踏まえ、地域住民・自治体・林業者・研究機関・市民が連携して、日本沿岸地域の自然インフラとしての海岸防災林を守り育てていくことが、次世代への重要な責任です。

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