マユミ(学名:Euonymus hamiltonianus)は、名前そのものが古代の武具に直結する珍しい木です。和名「真弓」は、その名のとおり弓の材として使われたことに由来します。万葉集に「梓弓 真弓槻弓」と詠まれ、神武天皇の弓もマユミ製だったと伝えられる――地味な里山の落葉小高木でありながら、日本史の早い時代から「弾力に富む弓の素材」として朝廷の武具に組み込まれていた木なのです。
そして秋。マユミは弓とはまったく別の顔を見せます。ピンク色に熟した実が四つに裂け、なかから朱色の種子が顔をのぞかせる――この独特の姿は、ほかの木では見られない里山の秋の名物です。
なぜ「真弓」になったのか
古代の弓に求められたのは、弾力性・しなやかさ・折れにくさの三つ。マユミの材は木目が緻密でよくしなり、火入れ(蒸し曲げ)の加工にも割れずに耐えました。樹高5〜10mのマユミから比較的まっすぐな幹を選び、長さ150〜180cmに削り出した一木の弓――いわゆる「丸木弓」です。奈良・正倉院には古代弓が現存し、その素材研究の対象にもなっています。
「真(まこと)の弓」という冠が示すように、当時ほかにも弓材はありましたが、マユミは最も標準的で信頼される素材でした。鎌倉以降、木と竹を貼り合わせた合成弓が普及するとマユミ単材の弓は実用から退き、神事用・装飾用として細々と受け継がれていきます。
緻密な木が生む将棋駒・印章・こけし
弓の役目を終えたマユミ材は、その緻密で均質な木目を活かして別の道へ進みました。乾燥後の狂いが少なく彫刻刀の通りがよいため、将棋駒・印章・こけし・櫛といった細工物の素材として今も小ロットで流通しています。
将棋駒の世界では最高峰が本榧と本黄楊で、マユミはその次に位置する上等な代用材。プロ棋戦は本黄楊が選ばれますが、愛好家向けの中堅価格帯ではマユミ駒が長く支持されてきました。印章では、柘植・黒水牛・象牙の三大素材に対して「軽くて手に馴染む和材」として独自の地位を保ち、緻密な木目で印面が割れにくく、彫刻刀で書体の細部まで再現できる点が職人に好まれます。東北こけしでも、肌が滑らかで彩色映えする上等材として上級品に使われてきました。
四季で楽しむシンボルツリー
近年のマユミは、庭のシンボルツリーとして人気があります。理由はやはり、四季の表情の豊かさ。5〜6月に淡緑色の可憐な小花を咲かせ、夏は濃い緑の葉、そして10〜11月にあのピンクの実と朱色の種子、さらに赤〜橙に染まる紅葉と続きます。落葉後も実が枝に残る個体では、雪景色とのコントラストまで楽しめます。
育てやすさも魅力です。半日陰〜日向で良く育ち、自然と樹形が整うので剪定の手間が少なく、病害虫もほぼ気になりません。剪定は落葉期の12〜2月に軽くする程度。ただし花芽は前年枝に付くので、強く刈り込むと翌年の実が減ります。施肥は厳冬期の寒肥だけで十分で、初心者にも扱いやすい木です。寄せ植えなら、同属のニシキギ(枝に翼状のコルクが付くのが目印)やコマユミと組み合わせると、秋の紅葉と実の競演が楽しめます。
注意:実は毒があります
美しい実ですが、果実・種子・葉には強心配糖体などの毒が含まれます。誤食すると嘔吐・下痢にとどまらず、心拍の異常を起こすこともあり、絶対に口にしてはいけません。とりわけ鮮やかな朱色の種子は子どもが手を出しやすいので要注意です。鳥は平気で食べて種を運んでくれますが、これは消化のしくみが違うため。家庭で植えるなら、実が落ちる10〜11月は地面の落果をこまめに掃除し、子どもやペットの動線には気を配ってください。児童公園や保育施設での植栽は慎重に判断したいところです。

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