【モチノキ/黐の木】Ilex integra|鳥もちの伝統と庭木の定番樹種、印章材・櫛材の文化的価値

モチノキ | Forest Eight

冬の庭で、深緑の葉のあいだに赤い実をびっしりつけた木を見かけたら、それがモチノキ(黐の木、Ilex integra)かもしれません。名前の由来は、樹皮から採れる粘着剤「鳥黐(とりもち)」。かつては小鳥を捕る道具の原料として全国で利用され、「黐」のつく地名が今も各地に残ります。一年中つやのある葉を保ち、潮風にも大気汚染にも強いことから、江戸時代以来「庭木の定番中木」として親しまれてきた木でもあります。

気乾比重0.74(0.69〜0.78 重硬)緻密均質樹高15-20m最大樹齢約300年中高木葉長6-9cm革質・全縁常緑果実径8-10mm11-12月赤熟雌雄異株
図1:モチノキの主要スペック(含水率15%基準・代表値)
目次

クロガネモチとの見分け方

モチノキはモチノキ科の常緑広葉樹で、樹高は15〜20m。よく似た木にクロガネモチがあり、どちらも冬に赤い実をつけるので庭木でも街路樹でも混同されがちです。見分けるポイントは、葉・果実・樹皮の三つ。

葉は長楕円形で長さ6〜9cm、厚い革質でつやがあり、縁はつるりとして鋸歯(ギザギザ)がありません。クロガネモチは葉縁がやや波打ち、葉も少し薄め。果実の付き方も違い、モチノキは赤い実がやや疎らに、クロガネモチは枝先に密集してつきます。樹皮はモチノキが灰白色でなめらか、クロガネモチは灰褐色でやや粗いのが目印。花期もモチノキが4〜5月、クロガネモチが5〜6月とずれます。「クロガネ=金持ち」の語呂で縁起木として人気なのはクロガネモチのほうです。

モチノキは雌雄異株で、赤い実をつけるのは雌株だけ。庭に実のなる木が欲しいなら、苗木のラベルで「雌株(実なり)」を選ぶ必要があります。受粉は虫媒で、近くに雄株が一本あると結実が安定します。

名前の由来になった「鳥黐(とりもち)」

モチノキの和名は、樹皮から精製される天然の粘着剤「鳥黐」に由来します。夏の終わりに樹皮を剥ぎ、清水に二、三か月漬けて発酵させ、繊維を取り除いて練り上げると、半透明で褐色の強力な粘着物質ができあがります。油でしか落ちないほど粘りが強く、江戸時代から昭和初期にかけては、小鳥を捕る「黐竿」、果樹を登る害虫を止める塗布剤、和紙や羽根細工の接着剤として広く使われました。

現在は鳥獣保護管理法によって、鳥黐を使った野鳥捕獲は原則禁止されています。和歌山・三重・岐阜などの山村には伝統製法が無形民俗文化財として残るものの、流通量はごくわずか。「黐木坂」「黐ヶ谷」といった地名が、かつて鳥黐づくりが地域の生業だった名残を今に伝えています。

緻密で重い、印章と櫛の名材

モチノキの木材は気乾比重0.74前後の重硬材で、コナラと同等以上の強度を持ちます。木目が緻密で均質、彫刻刀の通りがなめらかで仕上がりに光沢が出るため、小物の工芸材として重宝されてきました。代表が印章材と櫛材です。

印章材としては、彫った印影の輪郭がくっきり出る特性から、象牙の取引が規制された1989年以降、国産の代替素材として再評価されました。京都・大阪・東京の老舗印章店では今も「国産銘木印」として扱われ、実印用で5,000〜15,000円ほど。櫛材としては、髪通りがよく静電気を抑える性質から、高価な本柘植の代用として京都・薩摩の伝統櫛工房で使われてきました。ほかにも将棋駒、そろばん玉、ろくろ細工など、硬さと緻密さが求められる場面で活躍します。ただし幹は細く曲がりやすいので、長尺の建築材には向かず、小物向けの小ロット流通が中心です。

庭木・社寺の常磐木として

江戸時代の園芸文化のなかで、モチノキはマツやマキとともに「庭木の定番中木」として定着しました。耐陰性・耐潮性・剪定への強さを兼ね備え、放っておいても自然樹形が整うので手がかかりません。京都・桂離宮や金沢・兼六園など歴史的庭園には、今も樹齢200年級の古木が景観を支えています。年間を通じて葉色を保つことから「常磐木(ときわぎ)」として、サカキやヒサカキとともに神社の社叢林にも植えられ、御神木に指定された個体もあります。

生長がゆっくり(年20〜40cm)で刈り込みに強いため、生垣にも好適。株間50〜80cmで密植すれば、3〜5年でつやのある緑垣ができ、防音・目隠し効果も高く評価されます。社叢林の古木保全や街路樹・公園木の管理は、用材生産に限らない多面的な森林管理として森林環境譲与税の活用対象にもなり、詳細は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照ください。

よくある質問

モチノキとクロガネモチはどう違いますか?

同じモチノキ属の別種です。モチノキは樹皮が灰白色でなめらか、葉は全縁で厚く、赤い実はやや疎ら。クロガネモチは樹皮が灰褐色でやや粗く、葉縁が波打ち、実が密集します。花期もモチノキが4〜5月、クロガネモチが5〜6月とずれます。詳しくは【クロガネモチ】Ilex rotunda|赤い実の街路樹の定番をご覧ください。

庭木としての手入れは難しいですか?

とても育てやすい木です。耐陰性・耐潮性・大気汚染への強さがあり、年1〜2回の軽い剪定で美しい樹形を保てます。病害虫はカイガラムシやスス病が時折出る程度で、薬剤散布なしでも管理できることが多いです。実を楽しみたい場合は雌株を選び、近くに雄株があると結実が安定します。

赤い実をつけるのはどの株ですか?

雌雄異株なので、実をつけるのは雌株だけです。苗木は園芸の慣習で「雌株(実なり)」「雄株(実なし)」と表示されることが多く、観賞用なら雌株を指定して購入するのが基本。開花期(4〜5月)の花を見れば、雌しべが目立つのが雌花、雄しべが目立つのが雄花と区別できます。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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