戦後に植えたスギ・ヒノキがいよいよ主伐期を迎えるなか、日本の林業は「伐ったあとに、どうやって植え直すか」という大きな宿題に直面しています。働き手は減り続け、木材価格は1980年の3分の1。そんな条件のもとで再造林を回していくための切り札が、林野庁が推す一貫作業システムです。主伐・地拵え・植栽を別々の工程として時間を空けて行うのではなく、同じ機械と事業者が連続して仕上げてしまう。それだけのことですが、労務は3分の1以下に縮みます。
そもそも、なぜ「植え直さない」山が増えたのか
一貫作業の話に入る前に、出発点となる数字を共有しておきます。主伐したあとにきちんと人工造林(植え直し)が行われる割合――再造林率は、全国平均で30〜40%にとどまります。残りの6〜7割は天然更新まかせ、あるいは放置や転用へ流れていく。人工林の世代交代が進まない、というのが日本の山の現実です。
理由はシンプルで、収支が合わないから。主伐で多少のお金が入っても、そこから経費を引けば手元にはほとんど残らない。一方、植え直し(地拵え・植栽・10年分の下刈り)には従来工法だと200〜250万円/haもかかってきました。「植えても赤字」とわかっていれば、伐ったあとの山は放置されます。一貫作業システムは、この収支構造そのものを書き換えて、再造林に踏み切る動機を取り戻すための技術だと考えるとわかりやすいです。
従来のやり方と、何がどう違うのか
これまでの林業は、主伐・地拵え・植栽をそれぞれ独立した工程として、別の労務・別の機械・別のタイミングで順にこなすのが普通でした。主伐から植栽完了まで1〜2年かかることも珍しくありません。その間に事業者の段取り替え、苗木の二次輸送、地拵え跡への雑草侵入といった「ムダ」が積み重なります。
一貫作業では、主伐に使ったグラップルやフォワーダをそのまま残材整理・地拵えに転用し、地拵えが終わったらすぐ植栽へ移ります。工期は数週間〜数ヶ月に圧縮され、地拵え直後に植えることで雑草が再侵入する前に活着させられるため、その後の下刈り負担まで軽くなる――という副次効果まで付いてきます。
使う機械と、削減される労務
実装の核は、林業機械の組み合わせです。立木を伐倒・枝払い・玉切りまでこなすハーベスタ、玉切り材を林道まで運ぶフォワーダ(空荷時に苗木を現場へ運ぶ「逆積み」も効く)、残材整理から地拵えまで兼ねるグラップル付建機、残材を破砕しながら地拵えする機械地拵え機。これらを密に配置した機械作業道(幅員2.5〜3.5m、欧州標準で30〜40m/ha)の上で動かして、稼働率を最大化します。植栽自体は日本では今もほぼ手植えですが、コンテナ苗を使えば1人日あたり400〜600本と、裸苗の倍近いペースで進みます。
労務を工程別に分解すると、削減幅が大きいのは地拵えと植栽。主伐はもともと機械化が進んでいるので横ばいです。緩斜面15度・1haを想定したモデル試算が下の表です。
| 工程 | 従来(人日/ha) | 一貫作業(人日/ha) |
|---|---|---|
| 主伐・造材 | 6〜8 | 2〜3 |
| 残材整理・搬出 | 4〜6 | 1〜2 |
| 地拵え | 8〜10 | 0.5〜1 |
| 苗木運搬 | 1〜2 | 0.2〜0.5 |
| 植栽 | 6〜8 | 1.5〜2.5(コンテナ苗) |
| 合計 | 25〜34人日 | 5〜9人日 |
従来は人力での残材整理+筋刈り・坪刈りで1ha当たり8〜10人日という重労働だった地拵えが、機械地拵えなら半日〜1日。植栽もコンテナ苗なら1,500〜2,000本/ha水準で3〜5人日です。
傾斜によって、効果は大きく変わる
ただし、この削減効果は地形に強く依存します。機械を自由に動かせる緩斜面ほど効果が大きく、機械投入が制約される急斜面では限定的になります。日本の山は急斜面が多いので、現実の平均的な削減効果は60〜75%程度と見ておくのが妥当です。
コストはどこまで下がり、収支はどう変わるか
一貫作業に加え、コンテナ苗・低密度植栽(1,500〜2,000本/ha)・大苗をフルパッケージで組み合わせると、再造林(地拵え〜下刈り10年)の総コストは従来の200〜250万円/haから100〜150万円/haまで圧縮できる、というのが林野庁の低コスト造林ガイドや森林総合研究所の試算です。とくに効くのが下刈り。低密度+大苗で植えると苗が早く雑草を被圧するため、下刈り回数が従来の5〜7回から2〜3回に減ります。
最後に、所有者がいちばん気にする「で、結局もうかるのか」を収支で見ます。樹齢50年スギ人工林、立木価格5,000円/m³、蓄積400m³/haを前提にした1ha試算です。
| ケース | 主伐収益 | 再造林コスト | 収支差 |
|---|---|---|---|
| 従来工法(裸苗・3,000本/ha) | +200万円 | −230万円 | −30万円 |
| 一貫作業のみ導入 | +200万円 | −170万円 | +30万円 |
| 一貫作業+コンテナ苗+低密度 | +200万円 | −130万円 | +70万円 |
| フルパッケージ+大苗 | +200万円 | −110万円 | +90万円 |
従来工法では収支がマイナスで「植えても損」が常態化していましたが、フルパッケージなら収支がプラスに転じる。この一点が、所有者を再造林へ動かす最大のドライバーになります。実際には木材価格・搬出距離・補助金(森林整備事業など)で大きく上下し、補助を含めれば収支はさらに改善します。
うまく回すための前提と、つまずきやすい点
一貫作業を成立させるには、いくつかの前提が欠かせません。主伐の1〜2年前から再造林計画と苗木数量を固めておくこと(コンテナ苗は生産に1〜2年かかる)、機械を入れられる地形であること、主伐〜植栽を同一または密接に連携した事業者で回すこと、そして機械搬入・苗木搬入のための作業道が整っていること。連続施工ゆえに、どこか一工程が遅れると全体が連鎖的に詰まるので、苗木の納期遅延や機械故障、豪雨による作業道崩壊といったリスクへの備え――代替手段やバックアップ機械、予備日の設定――を契約・段取りに織り込んでおくと安心です。
急斜面の多い東北・四国などではウインチ付ハーベスタや架線系(タワーヤーダ)との組み合わせが模索されており、逆に北海道や九州(大分・宮崎)の緩斜面ではコンテナ苗・低密度植栽・一貫作業の三点セットが標準化し、再造林率50〜70%という全国トップ水準を実現しています。森林経営管理制度(2019年施行)による市町村への森林集積が「まとまった事業地」の確保を後押しし始めており、これも普及の追い風です。
よくある質問
急斜面の多い山でも導入できますか?
緩斜面ほどの効果は出ませんが、ウインチ付ハーベスタや架線系(タワーヤーダ)と組み合わせる事例が増えています。茨城森林管理署が公開する急傾斜地マニュアルが実装の参考になります。
中小規模の事業者でも実装できますか?
機械の自社所有はハードルが高いものの、リースや近隣事業者との連携で対応可能です。森林組合など広域の事業体でまとめて実装するのが現実的な解になります。
苗木はどう確保すればいいですか?
コンテナ苗は生産に1〜2年かかるため、主伐の1〜2年前に苗木業者と数量・樹種・規格を確定しておくのが鉄則です。地域の苗畑容量を超える場合は、隣接地域からの調達や複数年契約での平準化が選択肢になります。

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