地拵え(じごしらえ)の技術体系:全刈り・筋刈り・坪刈りと機械化の最前線

地拵え(じごしらえ)の技術体系 | Forest Eight

地拵え(じごしらえ)は、伐採が終わった山に苗木を植える前の「下ごしらえ」にあたる作業です。伐り終わった現場には枝葉や倒木、雑草木が散乱していて、そのままでは苗木を植えるスペースもなければ、植えた後の競争にも勝てません。どの方式でどこまで刈り払うか――この一手が、植栽の手間も、その後数年間の下刈り回数も、さらには土壌の健全さまで左右します。地味ですが、造林の成否を握る工程です。

ここでは坪刈り・筋刈り・全刈りといった方式の違いから、近年急速に進む機械化、コスト、安全管理、そして土壌や生物多様性への配慮までを、林野庁や各県林業技術センターのデータをもとに整理していきます。

目次

地拵えは「草刈り」ではない

地拵えと聞くと単なる草刈りを思い浮かべがちですが、実際には複数の目的を同時にこなす作業です。まず植栽スペースの確保。雑草木が密生したままだと、苗木1本を植える時間が通常の30〜90秒から3〜5分に伸び、ha単位では作業全体が破綻します。次に初期競争の軽減。スギ・ヒノキの苗が育つには林床の日射量が20%以上ほしいところ、ススキやササの繁茂下では5%以下まで落ち込み、活着不良や枯死につながります。

もうひとつ見落とされがちなのが伐採残材の整理です。スギ・ヒノキの標準的な林分では、主伐で出る枝条が1ha当たり50〜120立方メートル、重量にして30〜80トンにもなります。これを片付けずに放置すると、植栽作業者が枝を踏み越えて歩く非効率に加え、転倒や刺し傷といった労災が起きます。残材を列の外側に集める、斜面に棚状に積む、その場で破砕してチップ化する――どう処理するかを計画段階で決めておく必要があります。あわせて、害虫が残置枝条で繁殖するのを防ぐ効果もあります。

主な方式の使い分け

地拵えの方式は、刈り払う範囲の広さで大きく分かれます。範囲が広いほど苗木は育ちやすくなりますが、手間とコスト、そして土壌へのダメージも増える――このトレードオフを地形や目的に応じて調整するのが施業設計の腕の見せどころです。

  • 坪刈り:苗木の周囲半径1〜2mだけを円形に刈る最小撹乱方式。労務10〜25人日/ha、コスト3〜8万円/ha。表土や有機物層を守れて生物多様性も維持できる一方、雑草との競争が激しく下刈り回数は増えます。急傾斜地や保護林向き。
  • 筋刈り:植栽列に沿って幅1〜2mの帯状に刈り、列間は残す折衷方式。労務20〜40人日/ha、コスト6〜12万円/ha。残した部分が雨滴を受け止め土壌侵食を抑えるため、コスト・効果・保全のバランスがよく、現代日本の標準のひとつです。
  • 全刈り:地内の雑草木をすべて刈り払う最も強度の高い方式。労務40〜80人日/ha、コスト10〜15万円/ha(機械なら5〜10万円)。植栽効率は最大ですが、表土露出による侵食、有機物層の喪失、菌根菌群集の撹乱という代償を伴います。
  • 棚積み:残材を斜面に水平に積み上げる方式。急傾斜地で土砂流出防止と植栽スペース確保を両立できます。

かつて全国で広く行われた火入れは、いまや限定的です。残材を焼くと灰のカリウム・カルシウムが土壌に戻り短期的に肥沃化しますが、有機物層は完全に消え、土壌微生物への打撃も大きい。さらに消防法第3条第1項と市町村の火入れ条例による許可制で、防火帯整備・消火用水準備・無風の天候確認・近隣への通知が義務づけられます。ササ密生地の前処理など、ごく一部に残るのみです。

地拵え3方式の概念図 全刈り、筋刈り、坪刈りの違いと植栽地内の雑草除去パターンを可視化。 地拵え3方式の比較 全刈り 全面刈り・最大労務 10〜15万円/ha 筋刈り 列に沿って帯状・中労務 6〜12万円/ha 坪刈り 苗周辺のみ円形・最少労務 3〜8万円/ha 植栽苗 刈取済 残置(雑草木) 出典: 林野庁「下刈り作業省力化の手引き」を参照
図1:地拵え3方式の比較(出典:林野庁「下刈り作業省力化の手引き」を参照)。

急速に進む機械化

長らく刈払機・チェーンソー・鎌による人力作業が中心でしたが、いま現場は大きく変わりつつあります。林野庁の令和5年資料によれば、機械地拵えの導入で人力20〜80人日/haが機械5〜20機械時間/haに圧縮され、労災リスクも大幅に下がるとされます。令和2年代後半には、機械地拵えの実施面積が全国の地拵え面積の3割を超えたと推計されています。

主役は二つ。ひとつは主伐に使うバックホー(10〜20トン級)にグラップルやハーベスタヘッドを装着し、伐採と並行して残材集積・地拵えを連続施工する方式。残材をどう配置するかを設計段階で決められる柔軟さが強みで、直径30cmまでの枝条を一掴みで集積できます。もうひとつは自走式の専用地拵機です。

機械 特徴 作業能率
イワフジ ロータリークラッシャー 切株破砕+下刈り兼用、強力なロータリー刃 0.3〜0.5ha/日
キャニコム自走刈機(BFCシリーズ) 軽量2.5t・車幅1.6mで小回り、緩傾斜地特化 0.4〜0.7ha/日
大型ブッシュカッター 北海道国有林などの大面積向け 0.8〜1.2ha/日

ただし万能ではありません。傾斜30度を超える急傾斜地や狭小地では機械投入が難しく、人力作業が残ります。林業機械の損料は1機械時間あたり5,000〜15,000円とまだ高く、小規模地では投資回収が課題です。そもそも機械を搬入する作業道が整っていなければメリットを享受できないため、路網整備が前提条件になります。

近年は主伐・地拵え・植栽を続けて行う一貫作業システムも推進されています。根鉢付きのコンテナ苗と相性がよく、伐採後30日以内に植栽を終える高速サイクルが組めます。林野庁は「林業の成長産業化」の柱として、令和10年代までに人工林造林の50%を一貫作業化する目標を掲げています。

コストと安全管理

地拵えコストは方式・地形・機械化率で3〜15万円/haと幅があります。人力なら坪刈り3〜8万円、筋刈り6〜12万円、全刈り10〜15万円が目安。機械全刈りは労務費が下がる代わりに機械損料がかさみ、合計5〜10万円ほど。労務単価は1日1.5〜2万円(地域差大)で計算しています。森林整備事業や低コスト造林推進事業などの補助を使えば、自己負担はおおむね3〜5割に圧縮できます。

安全面は軽視できません。林業の労災発生率(千人率)は全産業平均の10倍以上で、地拵え・下刈りはその中でも上位を占めます。刈払機の反動・転倒・刃の接触・蜂刺傷・転落が主な原因です。保護メガネ・防振手袋・チャップス・ヘルメットといった保護具の徹底、刈払機作業中は左右15m以内に他者を入れない、傾斜35度以上では単独作業を避け連絡手段を確保する――こうした基本を作業計画書(リスクアセスメント・KY活動・連絡体制)に落とし込み、現場全員で共有することが労働安全衛生規則上の前提です。夏季は30分ごとの休憩と水分補給(1日2〜3L目安)、スズメバチの活動最盛期(7〜9月)の警戒も欠かせません。

土壌と生物多様性への配慮

強度の全刈りは、表土・有機物層・菌根菌群集にダメージを与え、長期的な土壌劣化や種多様性の低下を招くリスクが認識されつつあります。林床植生は地拵え後の数年で最大80%が消失し、回復に10〜20年。土壌中の菌根菌群集も強度撹乱で多様性が30〜50%下がり、再構築に15年以上かかると報告されています。

これを避ける「低撹乱地拵え」の研究と実装が国内外で進んでいます。筋刈り・坪刈りを中心に全刈りを避け、落葉層・腐植層を撹乱せず残し、広葉樹や低木を選択的に残す。残材を現地に保留して有機物・養分の循環を保ち、急傾斜地・水源域・希少種生息地に優先適用する――こうした考え方です。スザンヌ・シマードの「Mother Tree」概念に通じ、欧州・北米の再生型林業とも整合します。J-クレジット制度の森林管理プロジェクト(FO-001/002/003方法論)でも地拵え強度が炭素収支評価の要素とされ、土壌炭素を維持できる低撹乱施業はクレジット創出の面でも評価されます。

気候変動下では判断がさらに難しくなっています。豪雨による表土流亡が目立つ地域では筋刈り・棚積みへ、夏の高温で苗木乾燥が増える地域では坪刈り+雑草残存で遮光環境を確保する――地域の気候シナリオを踏まえた施業計画の見直しが求められています。

よくある質問

地拵えなしで植栽できますか

理論上は可能(無地拵え植栽)ですが、活着率と初期成長が劇的に下がります。最低でも苗木周辺1m半径の雑草除去(坪刈り程度)はほぼ必須と考えてください。

地拵えと下刈りはどう違いますか

地拵えは植栽前の整備、下刈りは植栽後の若齢林管理での雑草除去です。一度クリアにしても雑草は数年で再生するため、植栽後5〜7年は年1〜2回の下刈りが続きます。

雑草抑制効果はどのくらい持続しますか

全刈りで2〜3年、筋刈りで1〜2年、坪刈りで半年〜1年が標準です。九州〜四国の温暖湿潤地ではススキやクズが半年〜1年で全面再生することもあり、方式選択は想定される下刈り回数とセットで判断するのが合理的です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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