銀座中央通りを新橋方向へ抜けていくと、ガラスの向こうに木の柱と梁がそのまま立ち上がっている一棟が目に入ります。HULIC &New GINZA 8――2021年に竣工した、日本で初めての耐火木造による12階建て商業施設です。銀座という日本でもっとも地価の高い商業地で、しかも高層で、木を隠さずに見せる。この3つを同時に成立させた建物は、それまで存在しませんでした。
まずは基本データ
| 所在地 | 東京都中央区銀座8丁目9番7号 |
|---|---|
| 用途 | 商業施設(店舗・飲食) |
| 竣工 | 2021年10月 |
| 規模 | 地下1階・地上12階/延床面積 約2,460m² |
| 構造 | 耐火木造+S造のハイブリッド構造 |
| 主要木材 | 耐火集成材(柱・梁)、CLT/使用量 約300m³ |
| 木材産地 | 福島県産スギを中心とした国産材 |
| 事業主 | ヒューリック株式会社 |
| デザイン監修 / 施工 | 隈研吾建築都市設計事務所 / 竹中工務店 |
| 最寄駅 | 銀座駅(東京メトロ銀座線ほか)徒歩約6分 |
「銀座の中心に森をつくる」という無茶な要求
計画のコンセプトは「銀座の中心に森をつくる」。言葉としては美しいのですが、建築的にはかなり無茶な要求です。銀座8丁目は防火地域で、12階建てともなれば主要構造部には最高ランクの耐火性能が求められます。木は燃える材料ですから、通常は石膏ボードで厚く包んで完全に隠してしまう。それでは「森」になりません。
この矛盾を解いたのが、耐火集成材という技術です。断面を「荷重支持層・燃え止まり層・燃えしろ層」の三層構成にして、火災時には外側の燃えしろ層が炭化しながら燃え進み、中間のモルタルなどによる燃え止まり層で炭化を止める。芯にある荷重支持層は最後まで健全に残り、建物は自立し続けます。ボードで覆わなくても法定の耐火性能を満たせるので、木の柱や梁をそのまま室内に現しにできるわけです。
ただし全部を木でつくったわけではありません。この建物は耐火木造とS造を組み合わせたハイブリッド構造で、鉛直荷重や水平力の一部は鉄骨が受け持っています。細長い敷地に12層を積むという条件下では、木だけで押し切るより、木と鉄それぞれの得意分野を割り振るほうが合理的だったということです。「純木造か否か」より「どこに木を効かせたか」で見るべき建物です。
福島のスギ約300m³、植えた木は約12,000本
使われた木材は約300m³。主力は福島県産のスギです。ヒューリックはこの使用量に相当する約12,000本の植林を実施しており、「使ったら植える」までを事業のセットとして提示しました。都市の商業ビルが山側の再造林と直接ひも付いた事例として、しばしば引用されます。
数字の意味を補助線として整理しておくと、スギ人工林は1haあたりおおむね3,000本前後で植栽されますから、12,000本はざっくり4ha規模の再造林に相当します。林業の側から見れば決して大きな面積ではありませんが、「都心のテナントビルの建設が、具体的な山の面積に翻訳された」という点にこの取り組みの価値があります。木材利用の脱炭素効果は、伐った後に確実に植え直されて初めて循環として完結するからです。
銀座で木を見せるという意味
デザイン監修は隈研吾建築都市設計事務所。ファサードはガラス面を大きく取り、内側の木架構が街路から透けて見える構成になっています。夜になると木の色が照明で浮かび上がり、周囲の石やガラスやアルミの建物とは明確に違う質感の塊として立ち現れる。「木造であること」がそのまま広告になっている状態です。
商業施設としてこれは合理的な判断でもあります。銀座8丁目は路面店の競争が激しく、上層階へ客を引き上げるのが難しいエリア。木という素材の可視性は、その集客動線の弱点を補う装置として働きます。木造化を「環境配慮」だけでなく「不動産としての差別化」として説明できたことが、事業として成立させた大きな要因でした。
この一棟が変えたこと
2021年時点で、日本の中大規模木造はまだ「公共建築・地方・低層」に偏っていました。公共建築物等木材利用促進法(2010年制定、2021年に対象を民間建築物へ拡大)が動き出してはいたものの、都心の民間商業ビルで高層かつ耐火という組み合わせは前例がなかったのです。
HULIC &New GINZA 8はそこに、「一等地・民間・高層・木」の実物を置きました。以降、都心部での木造オフィス・商業ビル計画が相次いで表に出てきます。同じ竹中工務店が手がける日本橋本町三井ビルディング &forest(地上18階・2026年竣工予定)へと続く流れの、実質的な出発点にあたる建物です。
よくある質問
Q. 中に入って木を見られますか?
商業施設なので、営業時間内であればテナントを利用しながら木架構を間近で見られます。柱・梁が室内に現しになっているフロアが多く、外からもガラス越しに構造材を確認できます。
Q. 「純木造」ではないのですか?
耐火木造とS造を組み合わせたハイブリッド構造です。主要構造部に耐火集成材とCLTを使いながら、一部を鉄骨が負担しています。純木造の高層建築としては大林組Port Plusが国内の代表例です。
Q. なぜ福島県産スギなのですか?
事業者が国産材利用と森林循環をコンセプトに掲げ、調達先として福島県産スギを中心に選定したためです。使用量約300m³に相当する約12,000本の植林も併せて実施されています。

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