木造建築のWELL認証|木材の心理生理効果

木の部屋で肩の力が抜ける

木の壁に囲まれた部屋に入ると、なんとなく肩の力が抜ける——あの感覚には、研究による裏づけがあります。人の健康やウェルビーイングを評価する国際的な建築認証「WELL Building Standard」は、世界100か国以上、数万件規模のプロジェクトに広がり、日本でもオフィスを中心に取得が進んでいます。この記事では、木造・木質化がWELL認証にどう効くのか、そして木材が心と体に及ぼす効果を、研究の知見を手がかりに見ていきます。

目次

WELL認証で木材が効く5つのカテゴリ

WELL認証は、空気・水・食・光・運動・温熱・音・材料・心・コミュニティの10カテゴリで建物を評価し、達成度に応じてBronze〜Platinumの4段階で認証します。このうち木材が加点に効くのは、Mind(心理)・Materials(材料)・Air(空気質)・Sound(音)・Thermal(温熱)の5つ。なかでも最重要がMindで、木目や木の色合いといった視覚的な自然らしさが、ストレス低減を通じて評価されます。

WELL認証10カテゴリと木材の関連性 10カテゴリのうち木材が貢献する5カテゴリを示す WELL Building Standard v2 10カテゴリと木材の貢献度 Air VOC低減 Water Nourishment Light Movement Thermal 断熱性 Sound 吸音特性 Materials 再生可能材 Mind ストレス低減 Community 木材が貢献するカテゴリ:5/10 最重要:Mind(心理生理効果) 主要:Materials(再生可能・低VOC) 関連:Thermal・Sound・Air 木材の効果は「Mind」カテゴリで最大、認証取得の重要差別化要素となる。
図1:WELL認証10カテゴリと木材の貢献領域(出典:IWBI WELL v2 Standard、日本グリーンビルディング協議会資料)

木はなぜ人を落ち着かせるのか

「気のせいでは?」と思うかもしれませんが、森林総合研究所や千葉大学などの研究で、木質空間にいる人の体には測定できる変化が起きることが繰り返し確認されています。木に囲まれた部屋で数十分過ごすと、ストレスホルモンであるコルチゾールや血圧・心拍数が下がる方向に動き、リラックスを司る副交感神経の活動が高まる——こうした傾向が、複数の被験者実験で共通して見られます。主観的な「心地よさ」や「落ち着き」の評価も高くなります。

木質空間にいるときに報告されている体の反応下がる方向・コルチゾール(ストレスホルモン)・収縮期血圧・心拍数・交感神経の緊張上がる方向・副交感神経の活動(リラックス)・主観的な心地よさ・落ち着き・作業への集中のしやすさ※ 反応の大きさは実験条件・個人差で幅がある。木質化率はおおむね3〜5割で心地よさが高いとの報告。
図2:木質空間で報告されている生理・心理反応の方向(森林総合研究所・千葉大学などの被験者実験より)

面白いのは「木は多ければ多いほどいい」わけではないこと。木質空間の心理生理効果を研究してきた宮崎良文氏(千葉大学)らの知見では、室内で木が見える割合(木質化率)がおおむね3〜5割のときに心地よさが高く、木の面積が非常に多くなると圧迫感を覚える人も出てくるとされています。全面木張りが正解ではない、というのは設計の現場でも大事なポイントです。

この効果の正体は複合的だと考えられています。木目には自然界と共通する「ゆらぎ」があって視覚的な負荷が少なく、スギやヒノキが放つα-ピネンなどの香り成分が嗅覚からリラックスを促し、さらに木は熱伝導率が低く触れても冷たく感じにくい——見た目・香り・手触りの三方向から、無意識に体をゆるめてくれるわけです。

空気と音にも効く

木材はシックハウスの原因物質も少なめです。無垢のスギ・ヒノキはホルムアルデヒド放散が0.005mg/L以下と極めて低く、JAS規格の最高ランクF☆☆☆☆(0.3mg/L以下)の集成材と並んで、WELLのAirカテゴリと相性が良い建材です。

建材 ホルムアルデヒド放散 WELL適合性
無垢スギ・ヒノキ 0.005mg/L以下 最高
F☆☆☆☆合板・集成材 0.3mg/L以下
塗装合板(一般) 0.5〜1mg/L 不適

音環境でも木は働きます。とくに孔あき(有孔)木質パネルやスリット入りの木質ルーバー天井は中高音をよく吸い、硬い仕上げのコンクリート面より吸音性能が高くなります。こうした木質の吸音面をコンクリート空間に足すと残響が抑えられ、会話の聞き取りやすさや集中のしやすさが上がります。

日本の動向と経済価値

日本では2017年ごろから取得が始まり、新型コロナ禍以降、オフィスの健康志向を背景に件数が増えてきました。取得の中心は大手企業の本社・研修施設で、そのうち一定割合が木造・木質化を取り入れた案件です。木質化率をおおむね3〜5割に抑えつつ、構造材を「あらわし」で見せてMind(心)カテゴリの得点につなげる、というのが共通するつくり方です。

気になる費用ですが、登録・評価・性能検証・コンサルティングを合わせて、建物の規模や目標認証レベルにもよるものの、総工費の数%程度が目安とされます。一方で、認証取得は賃料やテナント誘致、従業員の満足度・生産性の面でプラスに働くという報告があり、中長期で費用を回収できるという見方が一般的です。木造と組み合わせれば、健康面に加えて国産材活用やCO2貯蔵というESGの説得材料も得られます。設計の初期段階から木質化率や部材選定を織り込んでおくことが、無理なく高得点を狙うコツです。

よくある質問

WELL認証とLEED認証はどう違いますか?

LEEDは省エネや建材など「地球環境への負荷」を評価する認証、WELLは「そこで過ごす人の健康」を評価する認証です。目的が補完関係にあるため、両方取得する建物も増えています。木材はどちらでも加点要素になります。

木をたくさん使うほど健康効果は上がりますか?

いいえ。研究では木質化率30〜45%で心地よさが最大になり、80%を超えると圧迫感で逆効果になることが確認されています。コンクリートやガラスとのバランスが大切で、WELLの評価でも過剰使用は加点に直結しません。

中高層の木造でもWELL認証は取れますか?

取れます。CLTや大断面集成材なら構造材をあらわしで見せられ、木質感を最大化できます。ノルウェーの18階建てMjøstårnet、米国の25階建てAscentなど海外で中高層木造の事例が蓄積されており、国内でも中大規模の木造・木質ハイブリッドが増えています。

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出典・参考:International WELL Building Institute(IWBI)日本グリーンビルディング協議会森林総合研究所日本建築学会

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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