同じ木を伐って運び出すのに、ドイツでは1m³あたり4,000円ほど、日本では1万円近くかかることがある——その差を生んでいる一番の要因が、じつは「道」です。森の中をどれだけ道が走っているかを示す路網密度で見ると、日本は森林1haあたり約25m、ドイツは約100m。実に4倍もの開きがあります。
道が少なければ、伐った木を機械や人が遠くまで引きずってこなければなりません。それがコストにのしかかり、国産材が輸入材に押される根っこの理由のひとつになっています。この記事では、日本の25mという水準が何を意味するのか、欧州との比較を交えながら見ていきます。
日本の林道は「3階層」でできている
ひとくちに「林道」と言っても、日本の森の道は規格と役割によって3つの層に分かれています。大型トラックが通れる本格的な林道、それより簡易な林業専用道、そして作業中だけ使う森林作業道。下にいくほど幅が狭く、コストが安く、密度が高い——そんなピラミッド構造です。
一番上の林道は、市町村や都道府県、国が管理する公道相当の構造物で、幅3.0〜4.0m、10〜20tの大型トラックが通れます。真ん中の林業専用道は2010年代に新設された区分で、幅2.5m・簡易舗装、整備費は林道の約半分。一番下の森林作業道は、未舗装でフォワーダやハーベスタといった林業機械が走る作業用の道で、1kmあたり500〜1,500万円ほどと最も安く済みます。この3つを組み合わせて、伐採と搬出を成り立たせているわけです。
「平均25m」の中身は、かなりバラバラ
全国平均25mと言っても、その内訳は地域や所有者、地形によって大きく散らばっています。所有別では、広大な国有林が30〜40m/haと高め、公有林が20〜30m/ha、個人の民有林になると15〜25m/ha。所有規模が小さくなるほど、計画的に道を入れにくく密度が下がります。地形でも、北海道・東北の緩傾斜地は40〜50m/ha、本州中山間や四国・九州の急傾斜地は10〜20m/haと、ここでも大きな差が開きます。
この偏りは、そのままお金の話になります。緩傾斜地45m/haの北海道・東北では1haあたりの伐出コストが7,000〜1万円台で済むのに、急傾斜地15m/haの中部山岳や四国、紀伊半島では15,000〜25,000円。立木価格の差ではとても埋まらない、構造的な格差です。素材生産が盛んな県(北海道・宮崎・大分・岩手)と路網密度の高い県がほぼ重なるのは、この経済構造をそのまま映しています。
ドイツ100m/haと並べてみる
欧州に目を向けると、ドイツの路網密度は約100m/ha。オーストリアは山岳国でありながら45m/ha、スイス40m、フランス35m、イタリア30mと続きます。下の表は、各国の路網密度と伐出コストを並べたものです。
| 国 | 路網密度(m/ha) | 伐出コスト(円/m³) | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| ドイツ | 100 | 3,500〜5,000 | 中欧型・トラック直接搬出 |
| オーストリア | 45 | 5,000〜7,000 | 山岳・索道併用 |
| スイス | 40 | 7,000〜10,000 | 急峻・索道主体 |
| フランス | 35 | 4,500〜6,500 | 広葉樹中心 |
| 日本 | 25 | 7,000〜13,000 | 急傾斜・小規模分散 |
| スウェーデン | 22 | 3,000〜4,500 | 平地・大型機械 |
| フィンランド | 20 | 3,000〜4,500 | 平地・大型機械、湿地多 |
ドイツの100m/haは、平坦地から中傾斜地が国土の中心で、トラックが直接森に入れることが大きい。木を伐った場所から道までの距離(集材距離)が30〜50mほどに抑えられるので、伐倒から積み込みまでの工程がぐっと短くなります。日本では集材距離が100〜200mに伸び、機械の稼働率も1日の処理量も落ちます。労働生産性で見ると、欧州中欧の主伐現場が1人1日30〜50m³なのに対し、日本は8〜15m³。この差が、そのままコスト差につながっています。
面白いのは「北欧の逆説」
路網密度が伐出コストを左右する関係は、データでもはっきりしています。森林総合研究所などの調査では、密度が10m/ha増えると伐出コストは1m³あたり500〜1,000円下がるという関係がつかめています。日本とドイツの密度差75m/haを当てはめれば、理論上は1m³あたり3,800〜7,500円の差。実測値ともだいたい合います。
ところが、ここで見過ごせない事実があります。スウェーデンやフィンランドは、路網密度こそ日本と同じ20〜25m/haなのに、伐出コストは日本の半分以下なのです。なぜか。北欧は地形が平坦なので、大型のハーベスタやフォワーダが森の中をそのまま走り回れる。道に頼らず「機械が動ける範囲」で集材を完結させてしまうからです。
つまり、伐出コストを決めるのは路網密度だけではありません。地形・林分の形・機械の組み合わせが絡み合った、複合的な問題なのです。日本のように急傾斜地が多い国では、道を増やすだけでなく、架線集材(タワーヤーダなど)を組み合わせるのが現実的な答えになります。
目標までの道のりは、まだ遠い
森林・林業基本計画は、緩傾斜地で75m/ha、急傾斜地で35m/haという目標を掲げています。ところが現状は、緩傾斜地で目標の6割、急傾斜地で4割ほどの水準。下の図が、その差をまとめたものです。
目標を全国一律に当てはめると、追加で必要な路網はざっと20〜30万km。今の13万kmの2〜3倍です。年間の整備量は林業専用道・作業道を含めても8,000〜1万km程度なので、目標達成には20〜30年規模の継続投資が要る計算になります。財源は林野公共事業(年400億円規模)に森林環境譲与税(2024年度で年600億円規模)などを組み合わせて賄いますが、これだけでは到底足りず、地方単独事業との合わせ技が欠かせません。
道は「機械化」と「集約化」の前提条件
路網密度が効いてくるのは、コストだけではありません。林業労働者1人が1日に処理できる量、つまり労働生産性にも直結します。日本の標準的な現場では1人1日10m³前後ですが、ドイツ・オーストリアは30〜40m³、北欧にいたっては50〜80m³。この差を生むのが、集材距離(路網密度)・機械化率・林分の集約度という3つの要因です。
日本で北欧型のCTL方式(ハーベスタ+フォワーダ)がなかなか広がらないのは、急傾斜地でハーベスタが走りにくいこと、道が少なくフォワーダの移動距離が長くなること、そして1事業地が0.5〜2haと小さく機械の据付・撤去を何度も繰り返さねばならないこと——この3つが重なるからです。道を整備することは、このうち集材距離の問題を直接ほどき、機械化と集約化への土台をつくる基盤投資にほかなりません。だからこそ、森林経営管理制度や森林環境譲与税を使って小さな所有をまとめ、路網とセットで進める地域戦略が動き始めています。
まとめ
日本の林内路網密度は森林1haあたり25m。林道7.4万km・林業専用道2.0万km・森林作業道3.6万kmの3階層で組み立てられています。ドイツの100m/ha、オーストリアの45m/haとくらべると欧州中欧の4分の1にとどまり、1m³あたり数千円の伐出コスト差、3〜5倍の労働生産性差を生む構造的なハンディになっています。ただし北欧の例が示すように、答えは「ひたすら道を増やす」ことだけではありません。急傾斜という日本の地形に合わせ、道と架線と機械をどう組み合わせるか——その設計こそが、国産材の競争力を取り戻す鍵になります。

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