エリートツリー植栽の成長予測:50年伐期での1.5倍材積収穫

ートツリー植栽の成長予測 50年 | Forest Eight

「同じ50年をかけて育てるなら、できるだけたくさんの木材が穫れる木を植えたい」——林業に関わる人なら誰もが思うことです。その願いに応える存在が、近年急速に普及しているエリートツリーです。林野庁と林木育種センターが何十年もかけて選び抜いた優良な系統で、従来の苗木より2〜5割も成長が速いとされます。この記事では、エリートツリーがどんな仕組みで生まれ、何ができるのかを、できるだけかみくだいてお伝えします。

成長率向上20-50%対標準認定樹種5+スギ等認定系統100+系統全国合計伐期短縮10-15対標準50年
図1:エリートツリーの主要諸元
目次

「精英樹」から「エリートツリー」へ

エリートツリーのルーツは、戦後の造林期にさかのぼります。木材が足りず荒れた山を立て直すことが国の課題だった1950年代、全国の天然林・人工林から形のよい優れた個体が「精英樹」として約9,000本選び出されました。これが日本の林木育種の出発点です。

選んだ親木が本当に優れた遺伝的能力を持つのかは、見た目だけではわかりません。そこで親木から採った種子を全国の試験地に植え、その子どもたちの成長や形質を10〜20年かけて観察する「次代検定」が積み重ねられました。この長い検証を経て、確かに優れていると確認された系統を、林野庁が2014年から公的に認定したのが「エリートツリー」です。さらに今は、エリートツリー同士を交配して選び直す第2世代、その先の第3世代の開発も進んでいます。一本の優れた木を世に出すのに、数十年という時間がかかっているのです。

何を基準に選ばれているのか

エリートツリーは、ただ背が高ければいいというわけではありません。認定には、次代検定のデータにもとづいた複数の基準が設けられています。

中心になるのは成長量で、標準的な在来種に比べて材積でおよそ1.5倍以上が目安です。ただし、成長を優先するあまり材が粗くなっては本末転倒なので、年輪密度や強度といった材質が在来種と同等以上であることも条件です。あわせて、幹のまっすぐさや枝の付き方といった形質、地域で問題になる病害虫への抵抗性、そして花粉症対策の観点から雄花の少なさも評価されます。認定された系統は林木育種センターのサイトで特性が公開され、各都道府県や苗木生産者が参照できるようになっています。

主役はスギ、樹種ごとに進む普及

エリートツリーはスギ・ヒノキ・カラマツ・トドマツなど複数の樹種で認定されていますが、普及の中核はやはりスギです。挿し木で増やしやすく苗木の供給体制を整えやすいうえ、無花粉系統との掛け合わせによる「無花粉エリートツリー」も登場しています。

ヒノキは挿し木が難しく種子から育てるため次代検定の重要性が高く、西日本を中心に普及が進みます。カラマツは北海道・東北・長野が中心で、CLT(直交集成板)の主要原料として需要が急増しており、成長量1.5倍は大径材の安定供給に直結します。トドマツは北海道で寒冷地適応と成長量の両立が課題。ナラやブナなどの広葉樹はまだ研究段階で、これからの分野です。

成長率比較標準スギ100 成長率%(標準=100)1次エリート130 成長率%(標準=100)2次エリート150 成長率%(標準=100)理想的(理論)180 成長率%(標準=100)
図2:エリートツリーの成長率比較(標準スギ=100)

50年伐期で材積はどれだけ増えるのか

では実際、どのくらい収穫が変わるのでしょうか。地位中位の試験地データをもとに試算してみます。標準的なスギを50年育てると、1ヘクタールあたりの材積はおおむね550〜650立方メートル。これに対しエリートツリーは、成長量1.3〜1.5倍として同じ条件で800〜950立方メートルと見込まれ、200〜400立方メートルもの増加になります。

関東育種区(茨城)の試験地では10年生時点で材積比1.8〜2.0倍、九州育種区(熊本)では15年生で標準系統の1.5倍を超える成長が実証されています。増えるのは量だけではありません。幹がまっすぐなぶん製材の歩留まりがよくなり、成長が速いぶん下刈り回数を5〜7回から3〜4回に減らせる例もあります。立木価格を1立方メートルあたり1万円とすれば、1ヘクタールで数百万円の収益差になるという試算もあるほどです。あるいは伐期を35〜40年に縮めて、回転の速い経営に切り替える道もあります。ただし、これらはあくまで好条件での値であり、風倒・雪害・獣害・病害などで実際の収量は大きく変わる点には注意が必要です。

選抜を加速させる新しい技術

これまでの次代検定は結果が出るまで10〜20年かかりましたが、ゲノム解析でこの期間を大きく縮める技術が実用段階に入ってきました。成長や病害抵抗性に関わるDNAの目印(マーカー)を調べ、苗木のうちから優良な個体を見抜くマーカー支援選抜や、全ゲノム情報と機械学習で育種価を予測するゲノミック選抜です。スギ・ヒノキではすでにゲノム解読が完了し、選抜のサイクルを2〜3倍速める実装が始まっています。立地や気候のデータから成長を予測する機械学習モデルも開発が進み、「この土地にはどの系統が向くか」を提案できるようになりつつあります。

花粉症対策・脱炭素との合流

エリートツリーは、林業以外の社会的な課題ともつながっています。ひとつは花粉症対策です。林野庁は2030年までに、スギ人工林を植え替える際の花粉発生源対策苗木の割合を9割以上に引き上げる目標を掲げており、花粉をほとんど出さない無花粉・少花粉スギと高成長のエリートツリーを掛け合わせた系統の開発が進んでいます。

もうひとつは脱炭素です。成長が速く単位面積あたりの炭素吸収量が多いため、J-クレジット制度の森林吸収プロジェクトで発行できるクレジット量の増加に貢献します。伐期が短くなれば一定期間あたりの炭素吸収・木材生産も増え、建材として使われたあとも炭素を固定し続けます。

使うときに気をつけたいこと

良いことの多いエリートツリーですが、現場で活かすにはいくつか押さえておきたい点があります。苗木は需要が逼迫しているため、植える前年の早い段階で都道府県や苗木生産者と相談して予約することが大切です。価格は標準系統の2〜3倍(1本300〜600円程度)ですが、造林補助金や都道府県独自の上乗せ補助と組み合わせれば自己負担はかなり軽くなります。

そして見落としがちなのが遺伝的多様性です。優れているからといって単一の系統ばかりを大面積に植えると、病害の大発生に弱くなったり、生態系への影響が懸念されたりします。育種区内で複数の系統を混ぜて植える、在来種と組み合わせる、といった配慮が、長い目で見た森の健全さにつながります。優れた苗木を上手に、しかし偏りすぎずに使うこと——それがエリートツリーと付き合ううえでの基本になります。

よくある質問

Q. 個人の林業者でも使えますか?

使えます。各都道府県の林業センターや苗木生産者を通じて入手でき、まずは地域の林務担当窓口や森林組合に相談するのがおすすめです。苗木は予約が必要なことが多いので、早めの手配を。

Q. 成長率20〜50%向上は本当ですか?

林木育種センターの試験データに裏付けられた数値です。ただし適した植栽地で適切に管理した場合の話で、実際の現場では地域や管理の質によって変動します。

Q. 無花粉スギとエリートツリーはどう違うのですか?

無花粉スギは「花粉を出さない」性質に着目した系統、エリートツリーは「成長や形質に優れた」系統です。別々の観点で選ばれており、両方の性質を併せ持つ「無花粉エリートツリー」の開発も進んでいます。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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