下刈りの省力化:機械刈り・除草剤・密植法・大苗・隔年刈りの比較

下刈りの省力化の打ち手

植えた苗木を雑草から守る下刈り(したがり)は、夏の盛りに何年も繰り返す、再造林でいちばんつらく、いちばんお金のかかる作業です。1回あたりの人件費が大きく、植栽後5〜6年も続けると累計は再造林総コストのかなりの部分を占めます。しかも林業の死傷年千人率は全産業のおよそ10倍で、暑い盛りの刈払機作業はその中でも事故の多い工程です。下刈りの省力化は、もはや「コスト削減」というより「事業を続けられるかどうか」の問題になっています。

この記事では、機械刈り・除草剤・密植・大苗・隔年刈りといった主な省力化策を、削減効果とコスト感が一目で分かるように並べて比べます。どれか一つの正解ではなく、自分の山に合った組み合わせを見つけるのがゴールです。

目次

そもそも下刈りは何のため?

下刈りはただの草刈りではありません。植えたばかりの苗木(樹高30〜60cm)は、ススキ・ササ・クズ・フジといった先住の雑草に光を奪われ、放っておくと大きな割合が被圧で枯れたり成長が停滞したりします。下刈りの役割は主に4つ——光の奪い合いを和らげる、水と養分の競争を減らす、クズやフジの巻き枯らしを防ぐ、そして草むらに潜むノウサギやノネズミの食害を抑える、です。

実施時期は6月下旬〜8月上旬、雑草の生育最盛期の直前が基本。早すぎても遅すぎても、再び茂るまでの抑制期間が短くなります。卒業の目安は、苗木の樹高が周囲の雑草の1.2〜1.5倍に届いたとき。そこまで育てば、もう光争いに勝てます。

省力化の7つの打ち手を見比べる

下刈りを楽にする方法は、大きく7系統あります。それぞれの労務削減効果を並べると、こうなります。

下刈り省力化策の比較 機械刈り・除草剤・密植・大苗・隔年・無下刈り・複合戦略の省力化効果を比較したグラフ。 下刈り省力化策の労務削減効果 標準(5-6回 = 100%) 機械刈り -40% 除草剤 -50% 密植法 -60% 大苗植栽 -60% 隔年刈り -50% 無下刈り -90%(試験段階) 一貫作業 -65% 複合戦略 -70% 各手法の削減幅は立地・樹種・雑草の状況で大きく変わる(概略イメージ)
図:単独でも下刈り回数を数割減らせ、組み合わせればさらに大きく減らせる。無下刈りは試験段階。数値は目安。

かいつまむと、こういうことです。

  • 機械刈り:自走式機械(キャニコムCM141等)や建機装着アタッチメントは緩斜面で人力の2〜5倍速い。ただし傾斜30度超では、機械より刈払機のほうが経済的なまま。
  • 除草剤:労務削減効果は最大級。スギ・ヒノキ造林ではササ類に効くヘキサジノン系が標準。水際30m以内は不使用、FSC/PEFC認証林では制限が厳しい点に注意。
  • 密植法:3,500〜4,000本/haで植え、苗木同士の自己被陰で雑草を抑える。苗木費が10〜20万円増える代わりに下刈りを30〜50万円減らせます。
  • 大苗植栽:樹高60cm以上の苗で初年度から競争を有利に。下刈りが5〜6回→2〜3回に。シカの食害高さも早く抜けられます。
  • 隔年刈り:毎年を2年に1回へ。北海道・東北では既に標準化が進行中。雑草の伸びが中程度の場所向き。
  • 無下刈り/一貫作業:大苗+密植+シェルターを前提に下刈りを完全省略する試み(北海道・東北で試験段階)と、主伐〜植栽〜下刈りをまとめて機械化する一貫作業。それぞれ最大級の削減を狙えます。

樹種で「がんばりどころ」が変わる

被圧に強いか、初期成長が速いかで、力の入れどころは大きく違います。

樹種 被圧耐性 標準回数 相性のよい省力化
スギ 5〜6回 大苗+密植+隔年化
ヒノキ 低(要徹底) 6〜7回 大苗+除草剤+丁寧な毎年下刈り
カラマツ・アカマツ 高(陽樹) 3〜4回 機械刈り+隔年化
広葉樹(コナラ等) 4〜5回 大苗+下刈り省略の試行

初期成長が遅く被圧にも弱いヒノキは丁寧な下刈りが欠かせませんが、それでも大苗・密植・地拵え徹底で省力化の余地はあります。逆にカラマツアカマツは陽樹で伸びが速く、3〜4年で卒業に届くことが多いので、機械化と相性抜群です。

コストはどれだけ違うのか

10年累計のコストで比べると、戦略の選び方で大きな差がつきます。標準的に毎年下刈りを続けるケースを基準にすると、大苗・密植・隔年刈りなどを組み合わせて回数を半分以下に減らせれば、苗木やシェルターへの追加投資を差し引いても総額で明確に下回ります。下刈りは1回あたりの人件費が大きいので、回数を2〜3回減らす効果は、苗木費の増加分をおおむね上回るのが一般的です。

参考までに、北欧(スウェーデン・フィンランド)の下刈りは0〜1回が標準です。冷涼な気候・機械地拵えの徹底・大苗の3点が支えています。日本の温暖湿潤な気候では完全な再現は難しくても、地拵えと大苗の徹底で回数を大きく減らすことは可能です。

現場では、こう組み合わせている

実際の現場では、複数の手法を組み合わせるのが定石です。緩斜面では「大苗+やや密植+自走式機械刈り+隔年化」で下刈り回数を半分程度に落とす例が各地の森林組合で報告されています。急傾斜地で自走式機械が使えない現場でも、刈払機作業に除草剤の点散布や地拵えの徹底を組み合わせることで、回数と作業負担を減らせます。機械化が難しい現場でも工夫の余地は大きい、というのが共通の教訓です。

省力化は、労務とコストを減らすだけでなく、刈払機のキックバックや熱中症、ハチ・マムシといった下刈り特有の労災リスクそのものを下げる効果もあります。自走式・遠隔操作の機械を使えば、作業者が急傾斜地で刈払機を振り続ける時間を大きく減らせます。

進め方の勘どころ

最後に、判断の流れを整理しておきます。

  1. 地域を診断:気候帯・主要雑草・標準下刈り回数を、県森林研究所や森林組合のデータで確認。
  2. 樹種で強度を決める:スギ・ヒノキは丁寧に、カラマツ・アカマツは省力化寄りに。
  3. 傾斜で機械化の可否を判定:30度超は人力、25度以下は機械化の候補。
  4. 複合で最適化:大苗・密植・地拵え・除草剤・機械化・隔年化を組み合わせ、回収期間2〜3年を目安に。
  5. 補助を使い倒す:造林補助(造林・保育の標準的な補助率はおおむね7割程度)、林業機械化の推進事業、低コスト造林の技術導入支援、森林環境譲与税。

一つの魔法はありません。地域・樹種・立地・人手の事情を踏まえて打ち手を重ねれば、3〜7割の削減は十分に現実的です。まずは林野庁「下刈り作業省力化の手引き」を起点に、地元の森林組合や林業普及指導員へ相談するところから始めてみてください。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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