同じ木を伐って運び出すのに、日本では欧州の何倍もコストがかかることがある——その差を生んでいる大きな要因が、じつは「道」です。森の中をどれだけ道が走っているかを示す路網密度で見ると、日本は林道と作業道を合わせて森林1haあたりおよそ24m。トラックの走れる林道だけなら約5mにとどまります。ドイツやオーストリアは、林内をトラックや機械が走れる道が数十m〜100m/ha規模あり、日本の数倍です(※国によって「道」の数え方が違うため、比較には幅があります)。
道が少なければ、伐った木を機械や人が遠くまで引きずってこなければなりません。それがコストにのしかかり、国産材が輸入材に押される根っこの理由のひとつになっています。この記事では、日本の路網の水準が何を意味するのか、欧州との比較を交えながら見ていきます。
日本の林道は「3階層」でできている
ひとくちに「林道」と言っても、日本の森の道は規格と役割によって3つの層に分かれています。大型トラックが通れる本格的な林道、それより簡易な林業専用道、そして作業中だけ使う森林作業道。下にいくほど幅が狭く、コストが安く、密度が高い——そんなピラミッド構造です。
一番上の林道は、市町村や都道府県、国が管理する公道相当の構造物で、幅3.0〜4.0m、10〜20tの大型トラックが通れます。真ん中の林業専用道は2010年代に新設された区分で、幅2.5m・簡易舗装、整備費は林道の約半分。一番下の森林作業道は、未舗装でフォワーダやハーベスタといった林業機械が走る作業用の道で、1kmあたり500〜1,500万円ほどと最も安く済みます。この3つを組み合わせて、伐採と搬出を成り立たせているわけです。
「平均24m」の中身は、かなりバラバラ
全国平均24m前後と言っても、その内訳は地域や所有者、地形によって大きく散らばっています。所有別では、広大な国有林が30〜40m/haと高め、公有林が20〜30m/ha、個人の民有林になると15〜25m/ha。所有規模が小さくなるほど、計画的に道を入れにくく密度が下がります。地形でも、北海道・東北の緩傾斜地は40〜50m/ha、本州中山間や四国・九州の急傾斜地は10〜20m/haと、ここでも大きな差が開きます。
この偏りは、そのままお金の話になります。緩傾斜地45m/haの北海道・東北では1haあたりの伐出コストが7,000〜1万円台で済むのに、急傾斜地15m/haの中部山岳や四国、紀伊半島では15,000〜25,000円。立木価格の差ではとても埋まらない、構造的な格差です。素材生産が盛んな県(北海道・宮崎・大分・岩手)と路網密度の高い県がほぼ重なるのは、この経済構造をそのまま映しています。
欧州と並べてみる
欧州に目を向けると、林内をトラックや機械が走れる道を合わせた路網密度は、ドイツが約100〜120m/ha、山岳国のオーストリアでも約90m/ha。日本の全路網(林道+作業道)約24m/haとくらべると数倍の開きがあります。下の表は、各国の路網密度と伐出コストのおおよその水準を並べたものです(国により定義が異なるため、目安として見てください)。
| 国 | 路網密度(m/ha) | 伐出コスト(円/m³) | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| ドイツ | 約110 | 3,500〜5,000 | 中欧型・トラック直接搬出 |
| オーストリア | 約90 | 5,000〜7,000 | 山岳・索道併用 |
| スイス | 40 | 7,000〜10,000 | 急峻・索道主体 |
| フランス | 35 | 4,500〜6,500 | 広葉樹中心 |
| 日本 | 約24 | 7,000〜13,000 | 急傾斜・小規模分散 |
| スウェーデン | 22 | 3,000〜4,500 | 平地・大型機械 |
| フィンランド | 20 | 3,000〜4,500 | 平地・大型機械、湿地多 |
ドイツの高い路網密度は、平坦地から中傾斜地が国土の中心で、トラックが直接森に入れることが大きい。木を伐った場所から道までの距離(集材距離)が30〜50mほどに抑えられるので、伐倒から積み込みまでの工程がぐっと短くなります。日本では集材距離が100〜200mに伸び、機械の稼働率も1日の処理量も落ちます。労働生産性で見ると、日本は主伐で1人1日およそ7m³(2018年時点)。オーストリアは車両系で30〜60m³/人日と報告されており、この差が、そのままコスト差につながっています。
面白いのは「北欧の逆説」
路網密度が伐出コストを左右する関係は、データでもはっきりしています。各種の分析では、路網密度が高まるほど集材の手間が減り、伐出コストが下がるという関係がつかめています。日本と欧州中欧の密度差は大きく、それがそのままコスト差の一因になっています。
ところが、ここで見過ごせない事実があります。スウェーデンやフィンランドは、路網密度こそ日本と大きく変わらないのに、伐出コストは日本の半分以下なのです。なぜか。北欧は地形が平坦なので、大型のハーベスタやフォワーダが森の中をそのまま走り回れる。道に頼らず「機械が動ける範囲」で集材を完結させてしまうからです。
つまり、伐出コストを決めるのは路網密度だけではありません。地形・林分の形・機械の組み合わせが絡み合った、複合的な問題なのです。日本のように急傾斜地が多い国では、道を増やすだけでなく、架線集材(タワーヤーダなど)を組み合わせるのが現実的な答えになります。
目標までの道のりは、まだ遠い
森林・林業基本計画は、地形に応じた路網密度の目標を掲げていますが、現状はそれを下回る水準にとどまっています。とくに急傾斜地での遅れが目立ちます。
目標の水準まで路網を増やすには、長い時間軸での継続的な投資が必要です。財源は林野公共事業に森林環境譲与税などを組み合わせて賄いますが、それでも足りず、地方単独事業との合わせ技が欠かせません。
道は「機械化」と「集約化」の前提条件
路網密度が効いてくるのは、コストだけではありません。林業労働者1人が1日に処理できる量、つまり労働生産性にも直結します。日本の標準的な現場では1人1日10m³前後ですが、ドイツ・オーストリアは30〜40m³、北欧にいたっては50〜80m³。この差を生むのが、集材距離(路網密度)・機械化率・林分の集約度という3つの要因です。
日本で北欧型のCTL方式(ハーベスタ+フォワーダ)がなかなか広がらないのは、急傾斜地でハーベスタが走りにくいこと、道が少なくフォワーダの移動距離が長くなること、そして1事業地が0.5〜2haと小さく機械の据付・撤去を何度も繰り返さねばならないこと——この3つが重なるからです。道を整備することは、このうち集材距離の問題を直接ほどき、機械化と集約化への土台をつくる基盤投資にほかなりません。だからこそ、森林経営管理制度や森林環境譲与税を使って小さな所有をまとめ、路網とセットで進める地域戦略が動き始めています。
まとめ
日本の林内路網密度は森林1haあたり25m。林道・林業専用道・森林作業道の3階層で組み立てられています。林内をトラックや機械が走れる道を合わせた密度は欧州中欧の数分の1にとどまり、伐出コスト差や労働生産性差を生む構造的なハンディになっています。ただし北欧の例が示すように、答えは「ひたすら道を増やす」ことだけではありません。急傾斜という日本の地形に合わせ、道と架線と機械をどう組み合わせるか——その設計こそが、国産材の競争力を取り戻す鍵になります。

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