【キリ/桐】Paulownia tomentosa|日本産木材最軽量、桐箪笥・琴・下駄の戦略樹種

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この記事の結論(先出し)

気乾比重0.30(0.27〜0.32 日本産最軽量)軽軟・加工容易曲げ強度50-65MPa軽量材として比強度高曲げヤング率5-7GPa軟構造耐朽性★★★☆☆D2-D3屋内利用前提
図1:キリ/桐の主要スペック(含水率15%基準・代表値)
  • キリ/桐(Paulownia tomentosa)はキリ科キリ属の落葉高木で、気乾比重0.27〜0.32と日本産木材で最軽量。スギ(0.30〜0.45)よりさらに軽く、世界商業木材中でも最軽量級です。
  • 桐箪笥・琴・下駄・桐箱の素材として、軽量性・調湿性・防火性・音響特性の四特性で日本伝統工芸の中核を担い、製材1m³ 30〜80万円のプレミアム取引が標準。
  • 会津桐(福島)・南部桐(岩手)・新潟桐(加茂市)の三大産地が伝統産業を支え、五七桐花紋は内閣総理大臣の章・500円硬貨の意匠として国家的象徴性を持ちます。
  • 早成樹(10〜15年で利用可)として林業適性が高く、森林環境譲与税の特用林産物枠での復興余地も大きい戦略樹種です。

桐箪笥、琴、下駄、桐箱──日本の伝統工芸を支える独特の軽軟材を提供する落葉高木がキリ/桐(学名:Paulownia tomentosa (Thunb.) Steud.)です。気乾比重0.27〜0.32という日本産木材で最軽量の特性、調湿性・防火性・音響特性の四つのバランスから、桐箪笥・琴・下駄等の伝統工芸を1,000年以上支えてきた戦略樹種であり、皇室準紋章(菊紋に次ぐ)として国家的象徴性も併せ持ちます。本稿では植物学・力学特性・伝統工芸・地域ブランド・家紋文化・気候適応・観察ポイント・FAQ10項目まで、数値ファースト・出典明示で体系的に整理します。

目次

クイックサマリ:キリの基本スペック

和名 キリ/桐(別名:シロギリ、ホンギリ)
学名 Paulownia tomentosa (Thunb.) Steud.
分類 キリ科(Paulowniaceae、旧ゴマノハグサ科)キリ属(Paulownia
英名 Princess Tree, Foxglove Tree, Empress Tree
主分布 中国原産、日本では栽培(北海道〜九州)
樹高 / 胸高直径 10〜20m / 40〜80cm
気乾比重 0.27〜0.32(日本産木材で最軽量)
曲げ強度 50〜65 MPa(軽量材として高水準の比強度)
圧縮強度(縦) 24〜30 MPa
せん断強度 5〜7 MPa
曲げヤング係数 5〜7 GPa(軟構造)
収縮率(接線方向) 3.5〜4.5%(極めて低い、寸法安定性高)
熱伝導率 0.07〜0.10 W/m·K(断熱性極めて高)
発火温度 約425℃(一般材300〜400℃より高)
耐朽性 中(D2〜D3級、屋内利用前提)
主要用途 桐箪笥、琴、下駄、桐箱、桐紙、家紋・紋章
独自特徴 日本産木材最軽量、調湿性・防火性・音響特性
地域ブランド 会津桐(福島)、南部桐(岩手)、新潟桐(加茂市)
製材価格帯 30〜80万円/m³(国産・銘木桐箪笥用)
成長速度 10〜15年で利用径級到達(早成樹)
キリ/桐と主要針葉樹の力学特性プロファイル気乾比重曲げ強度圧縮強度せん断強度耐朽性ヤング率 キリ/桐 スギ ヒノキスギを基準とした相対値(外側ほど高性能)
図2:キリ/桐とスギ・ヒノキの力学特性比較

分類学的位置づけと植物学的特性

キリ属の独自性とAPG分類体系での位置

キリ属(Paulownia)は東アジア原産の小属で、世界に約8種が分布します。日本に自生・栽培されるのは P. tomentosa(キリ)が中心ですが、近縁種として P. fortunei(タイワンキリ)、P. elongata(中国産材用品種)等が知られています。学名 Paulownia はロシア皇女アンナ・パヴロヴナ(1795-1865)への献名で、英名「Princess Tree」「Empress Tree」もこの皇室との関連を反映しています。

分類学的には、従来の「ゴマノハグサ科」から、APG IV体系(2016年)でキリ科(Paulowniaceae)として独立しました。これは分子系統解析により、ノウゼンカズラ目(Lamiales)内で独自系統を形成することが確認されたためです。シソ目(Lamiales)の中で、キリ科は1属8種という極小グループでありながら、東アジア文化圏で独自の文化的・産業的地位を確立した稀有な分類群です。

日本のキリは中国原産種が古代(奈良期以前)に渡来して定着し、現代では「日本の伝統樹種」として完全にローカライズされています。古文献『万葉集』には「桐」の文字こそ現れませんが、平安期以降の和歌・漢詩・装飾文様には頻出し、特に『源氏物語』第一帖「桐壺」の名は、桐紋が皇室の象徴であった事実と密接に結びついています。

形態的特徴の詳細

  • 葉:広卵形〜広心形、長さ20〜30cm(極めて大型、若木では40cm超に達することも)、葉縁は浅裂または全縁、対生、葉柄も10〜20cmと長大。葉裏には密な腺毛が生え、種小名 tomentosa(綿毛のある)の語源となっています。
  • 樹皮:灰褐色で平滑、若木では特に滑らか、老木で縦に浅く裂ける。皮目(lenticels)が散在し、ヤナギ科の樹皮に似た質感を持ちます。
  • 花:5〜6月、葉の展開前に長さ20〜30cmの円錐花序を樹冠に多数立ち上げ、淡紫色〜紫色の筒状花を咲かせる。花冠は長さ5〜6cm、ジギタリスに似た形状から英名「Foxglove Tree」の由来。
  • 果実:卵形の蒴果、長さ3〜4cm、9〜10月に成熟、内部に翼種子を多数(1果あたり1,000〜2,000粒)含む。1個体の年間種子生産量は数百万粒に達し、風散布で広範囲に分散します。
  • 樹形:直立性、樹高10〜20m、整った卵形〜広円錐形。胸高直径は40〜80cm、最大個体では100cm超に達します。
  • 萌芽性:伐採後の切株から旺盛に萌芽し、3〜5年で再び利用径級に達することもある(萌芽更新の典型樹種)。

「キリ/桐」の名前の由来と歴史的呼称

「キリ」の和名は、伐採後の切り口から萌芽再生する旺盛さに由来する「切る」が語源との説が有力です。別説として、葉が大きく風に「切られる」ように動くことから、樹皮の縦裂を「切れ目」と捉えた説もあります。漢字「桐」は中国伝来で、東アジア共通の呼称として定着しました。

古名・別名としては、シロギリ(白桐:木地が白いことから)、ホンギリ(本桐:園芸品種との区別)、ハナギリ(花桐)、ニシキギリ(錦桐)等があります。地方名では会津地方で「アイヅギリ」、岩手で「ナンブギリ」、新潟で「カモギリ」と産地名を冠する呼称も定着しています。

力学特性と科学的背景

気乾比重0.30の科学

キリの最大の独自性は気乾比重0.27〜0.32という日本産木材で最軽量の値です。これは細胞壁が薄く(厚さ約2〜3μm、スギの半分以下)、道管・繊維細胞の内腔が大きく空気を多く含むことによります。木材実質(cellwall material)の比重は樹種を問わずほぼ1.5前後ですから、木材の比重差は実質的に「空隙率」の差を意味します。キリは空隙率約80%で、針葉樹のスギ(70〜80%)・ヒノキ(65〜75%)よりも空気を多く含む構造です。

この多孔質構造が後述の調湿性・断熱性・音響特性の科学的基盤となります。木材組織が大量の空気を含むことで、(1) 湿度変動への応答が迅速、(2) 熱伝導率が低い、(3) 振動の減衰特性が独特、という三つの物性が同時に成立します。

強度特性:軽量材としての比強度

絶対値としての曲げ強度50〜65 MPaはスギ(60〜75 MPa)よりやや低めですが、比重で割った「比強度(specific strength)」では針葉樹を上回るケースもあります。比強度は航空機・自動車等の軽量化が必要な分野で重視される指標で、桐がカーボンニュートラル時代の素材として再評価される理由でもあります。

圧縮強度(縦)24〜30 MPa、せん断強度5〜7 MPaは軽軟材として標準的水準で、構造材としては不適ですが、家具・楽器・包装材としての要求性能は十分満たします。曲げヤング係数5〜7 GPaの軟構造は、琴の響板に求められる「振動が長く続き、減衰が穏やか」という音響特性に直結しています。

収縮率と寸法安定性

キリ材の接線方向収縮率は3.5〜4.5%で、スギ(5〜7%)・ヒノキ(5〜6%)よりも顕著に低い値です。半径方向収縮率も2.0〜2.5%と低く、異方性比(接線/半径)も2.0前後に収まります。これが桐箪笥の引出しが季節を問わずスムーズに動く(湿度変動下でも狂いが小さい)科学的根拠で、収納家具の素材として千年規模で使われ続ける理由の一つです。

熱伝導率と断熱性

熱伝導率0.07〜0.10 W/m·Kは、針葉樹の0.10〜0.14 W/m·Kよりも低く、木材の中でも最高クラスの断熱性能です。グラスウール(0.04 W/m·K)には及ばないものの、構造材としても断熱材としても機能する稀有な素材です。桐箪笥が外気温の変動を緩衝し、収納品の温度環境を一定に保つのはこの熱伝導率の低さが寄与しています。

日本最軽量材としての伝統工芸

用途別の伝統工芸

用途 活かされる特性 備考
桐箪笥(タンス) 調湿性・防虫性・防火性・寸法安定性 会津桐・新潟桐(加茂)の地域ブランド
琴(こと) 音響特性、共鳴性、軟構造 日本伝統音楽の中核楽器、龍角・龍尾も桐
下駄 軽量性、足触り良好、汗吸収性 江戸〜昭和の標準履物、現代も浴衣用に流通
桐箱 調湿性・防虫性、贈答用包装、香り 高級和菓子・茶道具・工芸品・刀剣収納
羽子板・櫛・印鑑 軽量・加工容易・木目美観 細工物・小物・伝統工芸品
桐紙・桐炭 絶縁性・吸湿性 絶縁紙、書道用紙、消臭炭
桐下駄・桐げた 軽量性、湿気逃がし 夏物履物、健康下駄
桐火鉢・桐鉢 断熱性、軽量 茶道・園芸用

調湿性の科学:吸放湿サイクル

キリ材の最大の特性は調湿性です。木材組織の多孔質構造により、湿度の変動に応じて水分を吸放湿し、収納品(衣類・楽器・茶道具)の湿度環境を一定に保ちます。具体的には、外気湿度が上昇すると木材表面が水分を吸収し、相対湿度65〜70%のレベルで内部環境を安定させます。逆に乾燥時には水分を放出し、内部の急激な乾燥を防ぎます。

この吸放湿能力は針葉樹の1.5〜2倍に相当し、絹・木綿の着物(湿度の急変で繊維が劣化)、古文書(湿度80%超でカビ、20%以下で繊維脆化)、骨董品(金属・漆器の腐食)の保存に決定的に重要です。これが桐箪笥・桐箱が高湿地域の日本で1,000年以上使われ続ける理由で、絹の着物・古文書・骨董品の保存に不可欠な特性です。

防火性のメカニズム

桐の発火温度は約425℃と一般材(300〜400℃)より高く、(1) 着火しても表面が炭化層を形成し内部への燃焼進行を遅らせる(炭化速度約0.5mm/分)、(2) 燃焼時に水分を放出して周囲の温度を下げる、(3) 熱伝導率が低いため内部に熱が伝わりにくい、の三点で防火性を発揮します。

江戸期の火災では、桐箪笥の中身(着物・古文書)が無事だった事例が多数記録されており、家財保護の伝統的選択肢として定着しました。明治期には逓信省が郵便切手の保管庫に桐箱を採用、皇室の御物・国宝の保管にも桐製の箱(御桐箱)が標準で使われ続けています。

音響特性:琴・三味線の響板として

琴(箏)の本体は全長約180cm、幅約25cmの一枚板の桐材から製作されます。桐の軟構造(曲げヤング率5〜7 GPa)は、振動の減衰が穏やかで余韻が長く、かつ低音域が豊かに響く特性を生みます。スプルース(ヤング率10〜13 GPa)を用いる西洋楽器(ピアノ・バイオリン)とは対照的に、東洋楽器の「間(ま)」を活かす音色を実現する素材です。

三味線の胴も伝統的に桐が使われ(現代は花梨等も併用)、軽量性と音響特性のバランスが評価されています。和太鼓の胴体には欅・栃が主流ですが、小型の鼓・締太鼓には桐が使われる場合もあり、和楽器素材としての桐の地位は依然として高い水準にあります。

家紋・紋章としての文化的価値

皇室準紋章としての桐紋

キリ(桐)の花・葉を意匠化した「桐紋」は、菊紋に次ぐ皇室準紋章として、平安期から国家的象徴として用いられてきました。代表的な意匠が「五七桐花紋」(中央花序が7花、両側が5花)と「五三桐花紋」(中央5花、両側3花)の二種で、(1) 内閣総理大臣の章(五七桐花紋)、(2) 戦国大名豊臣秀吉の家紋、(3) 多くの武家家紋(菊池氏・足利氏・織田氏等)として広く使われてきました。

後醍醐天皇が足利尊氏に下賜した「桐の紋章」が中世武家への賜紋の起源とされ、以後桐紋は「武家の最高位紋章」「天皇から下賜される最高栄誉」として機能してきました。秀吉が桐紋を多用し家臣にも下賜したことで、桐紋は戦国期に大量に拡散し、現代の日本国民の家紋分布調査でも最も多い意匠の一つとなっています。

現代日本における桐紋の地位

現代の日本国政府の公式紋章としても五七桐花紋が使われ、内閣総理大臣の演台・国会議事堂の装飾・在外公館の紋章として現役です。500円硬貨の表面意匠は桐の花であり、日本国民の日常生活に最も浸透した植物紋章となっています。日本国旅券(パスポート)の表紙も菊紋ですが、内閣府発行文書の多くは桐紋を冠します。

地方自治体・神社仏閣でも桐紋は多用され、京都府章、福島県会津若松市の市章、伊勢神宮の関連社寺等で意匠化されています。企業ロゴ・商品パッケージへの使用も多く(虎屋の羊羹、桐生市の織物等)、文化的・経済的に深く浸透した紋章と言えます。

用材市場と地域ブランド

地域ブランド 主産地 特徴 主用途
会津桐 福島県会津若松市・喜多方市・三島町 日本最高級ブランド、年輪緻密、淡黄色で艶 銘木桐箪笥、皇室御用達桐箱
南部桐 岩手県盛岡市・八幡平市 東北の代表ブランド、寒冷地由来の堅さ 桐箪笥、南部桐箱
新潟桐(加茂桐) 新潟県加茂市 加茂桐箪笥産業の原料、淡白色で柔らか 加茂桐箪笥(経済産業省指定伝統工芸品)
越後桐 新潟県上越地方 豪雪地由来の年輪緻密 箪笥、桐箱
飯山桐 長野県飯山市 北信濃の伝統ブランド 飯山仏壇、家具

会津桐:日本最高級ブランドの背景

福島県会津地方は江戸初期から桐の主産地として確立し、「会津桐」は現代でも国産桐の最高級ブランドです。会津盆地の冷涼な気候(年平均気温11℃前後)と適度な積雪が、年輪の緻密さと木質の引き締まった性質を生み出します。会津桐の特徴は、(1) 木地が淡黄色〜白色で艶がある、(2) 年輪幅が均一で狂いが少ない、(3) 香りが穏やかで嫌味がない、の三点です。

会津桐の主用途は銘木桐箪笥で、製材1m³ 50〜80万円のプレミアム取引が標準です。桐箪笥1棹(昭和標準寸法、高さ180cm×幅120cm)に必要な原木は約0.3〜0.5m³で、原料費だけで15〜40万円。完成品としての販売価格は職人手仕事込みで100〜300万円のレンジが一般的です。三島町の生活工芸館では、会津桐の伐採から製材・加工までの一貫した展示が可能で、産地観光の中核となっています。

新潟(加茂)桐箪笥の伝統工芸品指定

新潟県加茂市の桐箪笥は経済産業省「伝統的工芸品」(1976年指定)として、明確な産地ブランドを確立しています。加茂桐箪笥は江戸期に始まり、現在も20以上の事業所が伝統的製法(蒸し乾燥・研磨仕上・漆塗)で製作しています。原料の加茂桐は加茂市周辺で限定的に栽培され、近年は中国産桐との競合で苦戦しています。

加茂桐箪笥の代表的意匠は「総桐」(前面・側面・背面すべて桐材)と「胴丸」(前面のみ桐、側面は別材)で、価格帯は50〜200万円。婚礼家具としての需要が中心ですが、現代ではアパートサイズの小型桐箪笥(30〜60cm幅)も製作されています。

国産桐 vs 中国産桐の市場構造

国産桐の流通量は限定的(年間生産量数千m³規模)で、製材1m³ 30〜80万円のプレミアム取引が標準です。一方、中国産桐(主に P. fortuneiP. elongata)は1m³ 5〜15万円と国産の1/4〜1/5の価格で大量に流通し、現代の桐箪笥・桐箱の主原料となっています。

国産桐は産地証明・トレーサビリティで差別化されていますが、最終消費者が産地を識別するのは困難で、業界では「国産桐表示の厳格化」(地理的表示GI制度の活用)が議論されています。会津桐については2018年にGI登録の申請が検討されましたが、生産者組織の整備課題で未登録のままです。

森林環境譲与税の活用余地

キリは特用林産物として森林環境譲与税の活用対象となります。具体的には、(1) 中山間地の伝統工芸用材供給林として、桐の植林・育成・保育への譲与税充当、(2) 6次産業化型特用林産物として、桐製品の製造・加工・販売事業への支援、(3) 文化財修復用材として、神社仏閣・伝統建築の修復に必要な国産桐の確保、(4) 地域ブランド振興として、会津桐・南部桐・新潟桐の産地表示・トレーサビリティ整備への活用、という四つの観点から譲与税の活用が可能です。

2024年度の森林環境譲与税は約629億円規模で、市町村実施率は82%に達しています。福島県会津地方・岩手県盛岡地方・新潟県加茂地方等の桐産地では、譲与税を活用した桐の植林事業・産地振興イベント・伝統工芸品PR等が始まっています。譲与税の制度設計は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照ください。

気候変動と分布動向

キリは中国原産で耐暑性・耐寒性ともに中程度(適生温度範囲:年平均気温8〜18℃)で、現状は北海道南部〜九州まで広範に栽培されています。温暖化下では、(1) 栽培適地の北上(北海道全域への拡大)、(2) 南方産地での生育期間短縮による年輪緻密化の困難化、(3) 病害虫リスクの変化、という三つの動向が予想されます。

早成樹(10〜15年で利用径級到達)のため、気候適応への余地は比較的大きい樹種です。樹齢15年で胸高直径30〜40cmに達し、20年で銘木桐箪笥用の利用可能径級(直径50cm以上)に到達します。これはスギ(40〜50年)・ヒノキ(60〜80年)と比較して圧倒的な早成性で、気候変動による産地移動への対応速度も速いと評価できます。

米国南部・欧州中部では P. tomentosa が侵略的外来種として問題化しており、年間数百万粒の翼種子が風散布で広範囲に拡散、二次林・河川敷で純林を形成する事例が報告されています。日本国内では侵略的外来種としての懸念は限定的ですが、海外栽培時のリスク管理は今後の課題です。

識別のポイント(Field Guide)

  • 葉:広卵形〜広心形、20〜30cmと極めて大型、対生(最大の識別ポイント)。葉裏に密な腺毛、触ると粘り気を感じる。
  • 花:5〜6月、葉の展開前、淡紫色〜紫色の筒状花、長さ20〜30cmの円錐花序。樹冠を覆うほど多数咲き、開花期の景観は他樹種と一線を画します。
  • 樹皮:灰褐色平滑、若木で特に滑らか、皮目散在。老木では縦に浅く裂けるが、ゴツゴツした節は形成しません。
  • 果実:卵形蒴果、3〜4cm、9〜10月成熟、翼種子多数。冬期にも蒴果が枝に残るため、落葉後の識別ポイントとなります。
  • 樹形:直立性、樹高10〜20m、整った卵形〜広円錐形。枝張りが大きく葉が極大なため、夏期は強い陰を作ります。
  • 萌芽:切株からの萌芽が旺盛で、伐採後数年で株立ちの大群を形成。これも他樹種との識別補助となります。
  • 類似種との区別:キササゲ(ノウゼンカズラ科)と葉が似ますが、キリは葉が対生・キササゲは三輪生で区別。アオギリ(アオギリ科)とも別物で、樹皮が緑色のアオギリと灰褐色のキリは樹皮で識別可能です。
キリ/桐の主用途1桐箪笥23下駄4桐箱5桐紙6家紋・紋章
図3:キリ/桐の主用途。樹種特性が決定する経営的位置づけを示す

よくある質問(FAQ)

Q1. なぜ桐は最軽量なのですか?

細胞壁の薄さ(厚さ約2〜3μm、スギの半分以下)と多孔質組織により、木材組織が空気を多く含むためです。気乾比重0.27〜0.32は針葉樹のスギ(0.30〜0.45)よりも軽く、世界の商業木材の中でも最軽量級です。空隙率約80%という構造が、調湿性・断熱性・音響特性の科学的基盤となっています。

Q2. 桐箪笥はなぜ防火性があるのですか?

(1) 着火しても表面が炭化層を形成し内部への燃焼進行を遅らせる(炭化速度約0.5mm/分)、(2) 燃焼時に水分を放出して周囲の温度を下げる、(3) 熱伝導率が低いため内部に熱が伝わりにくい、の三点で防火性を発揮します。発火温度約425℃は一般材(300〜400℃)より高く、江戸期の火災で桐箪笥の中身が無事だった事例が多数記録されています。

Q3. 国産桐と中国産桐の違いは?

(1) 年輪密度(国産が緻密、中国産がやや疎)、(2) 色合い(国産が淡黄色、中国産がやや黄褐色)、(3) 価格(国産が3〜5倍)、(4) 樹種(国産は P. tomentosa、中国産は P. fortuneiP. elongata 等)で識別されます。会津桐・南部桐等の高級桐箪笥は国産材を前提とし、産地証明書付きで流通します。

Q4. 庭木として育てられますか?

育成可能ですが、樹高10〜20mに成長し、根が広く張り、年間数百万粒の翼種子で広がりやすいため、住宅庭園にはやや扱いにくい樹種です。広い敷地・記念樹に向きます。早成樹のため「子供(特に女児)が生まれたら桐を植え、嫁入りに桐箪笥を作る」という日本の伝統慣習があり、文化的価値の高い植栽選択です。

Q5. 桐の花言葉は何ですか?

桐の花言葉は「高尚」「高潔」で、皇室準紋章としての歴史的地位を反映しています。5〜6月の花期には淡紫色の円錐花序が樹冠を覆い、特に樹高15m以上の老木では遠望でも視認できる景観を作ります。京都・東京・福島の各地に「桐の名所」があり、開花期は毎年話題となります。

Q6. 桐の調湿性はどの程度の精度ですか?

密閉された桐箱内の相対湿度は外気の急変に対して約65〜70%のレベルで安定し、外気湿度が30〜90%の範囲で変動しても箱内変動は5〜10%以内に収まる実測データがあります(森林総合研究所他の研究)。これは絹・木綿の着物(湿度の急変で繊維劣化)・古文書(湿度80%超でカビ、20%以下で繊維脆化)の保存に決定的に重要な性能です。

Q7. 桐の利用径級到達年数は?

植栽後10〜15年で胸高直径30〜40cmに達し、20年前後で銘木桐箪笥用の利用可能径級(直径50cm以上)に到達します。これはスギ(40〜50年で20cm)・ヒノキ(60〜80年で30cm)と比較して圧倒的な早成性で、林業の投資回収期間も短くなります。萌芽更新も可能で、切株から再び3〜5年で利用径級に達することもあります。

Q8. 五七桐花紋と五三桐花紋の違いは?

意匠の構成要素の数で区別されます。五七桐花紋は中央花序が7花、両側花序が5花の構成で、内閣総理大臣の章・豊臣秀吉の家紋として有名です。五三桐花紋は中央5花、両側3花で、より広く武家・庶民家紋として使われました。両者とも皇室から下賜された紋章として高い格を持ちますが、五七桐花紋の方が格上とされる慣例があります。

Q9. 桐は花粉症の原因になりますか?

桐の花粉は虫媒花のため大気中に大量に飛散することはなく、花粉症の原因樹種ではありません。スギ・ヒノキ・シラカバ等の風媒花樹種とは対照的に、虫媒花のキリの花粉は粘着性で、ハチ等の訪花昆虫に運ばれます。観賞樹・記念樹として安心して植栽できる樹種です。

Q10. 桐の文化財・産業遺産はどこで見られますか?

(1) 福島県三島町「生活工芸館」(会津桐の産地展示)、(2) 新潟県加茂市の「加茂桐箪笥業協同組合」(伝統工芸品の製作工程見学)、(3) 岩手県盛岡市「岩手県立博物館」(南部桐関連展示)、(4) 京都国立博物館・東京国立博物館(桐製の文化財収蔵箱)、(5) 各地の神社仏閣(桐紋装飾、桐製御物箱)が代表的見学地です。500円硬貨の意匠も国民の日常で桐紋に触れる機会となっています。

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まとめ

キリは、(1) 気乾比重0.27〜0.32という日本産木材最軽量の独自性、(2) 桐箪笥・琴・下駄・桐箱の伝統工芸を支える素材としての四特性(軽量性・調湿性・防火性・音響特性)、(3) 五七桐花紋=内閣総理大臣の章・500円硬貨意匠という国家的象徴性、(4) 会津桐(福島)・南部桐(岩手)・新潟桐(加茂)の三大地域ブランド、(5) 10〜15年で利用径級到達という早成樹としての林業適性、(6) 森林環境譲与税の特用林産物枠での復興余地、という六層の重層的価値を持つ戦略樹種です。植物学・力学特性・伝統工芸・家紋文化・地域経済・気候適応のすべての観点から再評価されるべき、日本固有の文化的・産業的価値を凝縮した木材と言えます。

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