バッテリーチェーンソーの動向|プロ現場での使い分けと稼働時間の壁

バッテリーチェーンソーの現在地

「バッテリーのチェンソーって、プロの現場で本当に使えるの?」――ほんの数年前なら、多くの林業従事者が首をかしげた問いです。ところが2020年代に入って状況は変わりました。STIHL・Husqvarna・Makita・Milwaukeeといったメーカーが立て続けにプロ機を投入し、いまや最上位モデルはガソリン50ccクラスに近い切断性能を持つところまで来ています。市場調査各社はプロ用途でもバッテリー機の比率が今後10年で大きく高まると見込んでおり、とくに住宅街・自治体・アーボリスト(樹上作業)用途では置き換えが先行しています。この記事では、何が起きていて、どう使い分ければいいのかを整理します。

目次

なぜ急に電動化が進んだのか

背景にあるのは「電池が良くなった」だけではありません。むしろ規制・労働安全・運用コストという三つの圧力が同時にかかったことが大きいのです。

第一に排ガス規制。EU Stage Vや米EPA Phase 3、カリフォルニア州CARBの強化で、2サイクル小型エンジンには触媒や電子制御の追加コストがのしかかりました。プロ用ガソリン機の本体価格はこの十数年で上昇傾向にあり、規制対応のコストが上乗せされています。とくにカリフォルニア州は2024年から小型ガソリンエンジン(SORE)の新規販売を実質的に電動限定化する規制を施行し、他州も同様の動きを検討しています。

第二に振動。ガソリン機の前ハンドル振動値がおおむね4〜5 m/s²台なのに対し、バッテリー機は往復運動のクランクがないぶん2〜3 m/s²台と低い傾向にあります。振動障害(白蝋病)のリスクを抱える自治体・造園・アーボリスト企業にとって、1日あたり安全に作業できる時間を延ばせるこの差は大きな意味を持ちます。

第三に運用コスト。ガソリン機は混合燃料代と定期的なオーバーホール工賃がかかるのに対し、バッテリー機は充電電気代が中心で、メンテもチェーン・バー交換が主体。稼働時間が長い事業者ほど、数年スパンではガソリン機との差が縮まります。

主要機種を一覧で見る

各メーカーは自社の電動工具と電池を共通化するプラットフォーム戦略を採っています。STIHLはAP 36V、HusqvarnaはBLi 36V、MakitaはXGT 40V Max、Milwaukeeは72VのMX FUEL。代表的なプロ機を並べると、トップエンドはかなり高性能になっています。

機種 システム ピーク出力 標準バー 振動値 主な用途
STIHL MSA 300 C-O AP 36V 2.95 kW 40 cm 2.7/2.9 m/s² プロ伐倒・玉切り
STIHL MSA 220 T C-B AP 36V 2.0 kW 30 cm 2.5/2.7 m/s² 樹上アーボリスト
Husqvarna 542i XP G2 BLi 36V 3.4 kW 35〜40 cm 2.6/2.8 m/s² プロ伐倒・玉切り
Husqvarna T542i XP BLi 36V 2.0 kW 25〜35 cm 2.5/2.6 m/s² 樹上アーボリスト
Makita UC011G/012G XGT 40V Max 2.4 kW 40 cm 3.0/3.2 m/s² 準プロ・建設・公園
HiKOKI CS3640DA マルチ36V 1.8 kW 35 cm 3.1/3.3 m/s² 建設・準プロ
Milwaukee CHSC 16″ MX FUEL 72V 3.7 kW 40 cm 2.8/3.0 m/s² 北米プロ・電力

注意したいのは、本体価格(プロ機で11〜23万円ほど)だけでは済まないこと。電池1個(5〜10Ah)が3.5〜10万円、急速充電器が2〜5万円かかり、プロ運用前提なら本体+電池3個+充電器2台でシステム合計35〜70万円規模になります。ここがガソリン機との初期投資の差で、導入判断の一番のハードルです。

体感の「キレ」を決めるのはトルク

バッテリー機の切れ味を決めるのは、ピーク出力よりも低回転からのトルクの立ち上がりです。ガソリン2サイクルは高回転で最大出力を出すため低回転では鈍いのに対し、ブラシレスDCモーターは停止状態から即座に高いトルクを出せます。このため、硬木の玉切りで噛み込みからの立ち上がりが早く、小〜中径材の玉切りでは同クラスのガソリン機に匹敵する作業スピードが得られる、というのがメーカーや各種テストの一致した評価です。一方で、大径木を長時間切り続ける用途では、発熱管理や電池消費の面でまだガソリン機に分があります。

稼働時間という最大の弱点

とはいえ、現状の最大の弱点はやはり連続稼働時間です。カタログの「最大○○分」は軽切断のテスト条件で、実伐倒では大きく目減りします。20〜25cm材中心の玉切りなら、5.0Ah電池1本でプロ機が30〜40分、Milwaukee 16″(6Ah)で45〜55分というのが実勢です。1日作業の必要電池数をシナリオ別にまとめると次のようになります。

作業シナリオ 5Ah電池1本でのカット数 必要電池数(1日8時間)
20cm材玉切り(プロ機) 120〜180カット 3〜4個
30cm材伐倒(プロ機) 10〜15本 3〜5個
樹上枝下し(樹上機) 200〜300カット 2〜3個
大径木40cm伐倒 2〜4本 5〜7個(実用域外)

このため、プロ運用ではハーネスで背負うバックパック型大容量電池(Husqvarna BLi950X 940Wh、STIHL AR 3000 Lなど)の併用が一般化しています。BLi950Xを背負って542i XP G2を回すと20cm材で約2時間連続作業ができ、ガソリン機の燃料1タンク(30〜40分)を超える稼働を実現します。電池7〜9kgを背負う取り回しには慣れが要りますが、電池交換と移動のロスが消える効果は大きいです。

用途で使い分けるのが正解

結局のところ、いま現実的なのは「全部バッテリーに替える」ことではなく、用途ごとの合理的な使い分けです。整理するとこうなります。

用途 バッテリー機の適性 運用の目安
樹上作業(アーボリスト) ◎ 第一選択 T542i XP / MSA 220 T、電池3〜4個
住宅街・市街地の剪定伐採 ◎ 第一選択 MSA 220/300、UC011G、電池2〜3個
自治体・公園・道路管理 ◎ 第一選択 UC011G、CS3640DA、Milwaukee 16″
家庭の薪作り(年5m³未満) ○ 適 EGO・Makita等、電池1〜2個
本格林業・搬出伐倒(年100m³+) △ ガソリン機優位 主力ガソリン+補助バッテリー機
大径木40cm超の伐倒・原木玉切り × ガソリン機必須 MS 462/500i、572/592 XP

樹上作業・住宅街・自治体管理・小径木の玉切り(〜30cm)はバッテリー機が第一選択。一方、大径木40cm超の伐倒や1日中の連続搬出はまだガソリン機が有利です。多くのプロ林業企業が「バッテリー樹上機+バッテリー中型機+ガソリン大型機」の3本立てに落ち着いているのは、こうした特性をふまえた合理的な選択なのです。

コストはどこで逆転するか

初期投資はバッテリー機のほうが高くつきます。本体に加えて、プロ運用では電池を複数(一般に3個以上)と急速充電器を揃える必要があり、システム一式ではガソリン機の本体価格を大きく上回ります。一方、ランニング面ではバッテリー機が有利で、燃料代がかからず、キャブレターや点火系のオーバーホールも不要です。数年スパンで見ると、稼働時間が長い事業者ほど初期投資の差が燃料費・整備費の差で埋まっていく関係にあります。逆に稼働の少ない事業者では、電池の経年劣化による交換費もあり、ガソリン機のほうが安く収まることもあります。

金額に表れにくい要素も無視できません。バッテリー機は振動が低いぶん1日あたりの作業可能時間を確保しやすく、住宅街での騒音苦情を避けられ、始動が確実で暖機も要りません。自治体・造園・電力・アーボリストの事業者がバッテリー機を主力に切り替えているのは、こうした運用上の利点が価格差を上回ると判断できる領域が広がったためです。

これからの10年――固体電池がカギ

2030年代の鍵を握ると見られているのが固体電池(Solid-State Battery)です。現行のリチウムイオンよりエネルギー密度が高く、低温での性能低下も小さいとされ、実用化すれば現状最大のボトルネックである「稼働時間」と「寒冷地性能」を大きく改善する可能性があります。自動車メーカーや電池メーカーが2020年代後半以降の量産を目標に開発を進めており、その技術が屋外動力機器に降りてくれば、ガソリン機は超大径木・極寒地・遠隔地といったニッチへ集約していく、というのが大方の見立てです。

よくある質問

バッテリーは何個くらい必要ですか?

プロ運用なら5〜6Ah電池が最低3個、できれば4〜5個。ローテーションで連続稼働できる体制が前提です。さらにバックパック型大容量電池を1個加えると20cm材で2時間連続作業ができます。家庭用なら1〜2個で十分です。

バッテリーの寿命と交換コストは?

リチウムイオンは充放電500〜1,000サイクルで容量が初期の7〜8割まで低下します。プロで毎日2サイクル使うなら2〜3年で交換目安、家庭の週末利用なら7〜10年使えます。交換コストはプロ用5〜6Ah電池1本で6〜10万円、バックパック電池で15〜25万円。電池単価は下落傾向(2018年比約40%減)が続く見込みです。

寒冷地での性能低下はどう対策しますか?

リチウムイオンは0℃で容量85%、-10℃で70〜80%、-20℃で50〜60%まで落ちます。北海道・東北の冬季現場では、電池を体温で保温する、使用直前まで保温バッグに入れる、ヒーター内蔵バックパック電池を選ぶ、厳寒期はガソリン機メインに切り替える――この4つが現実解です。STIHL・Husqvarnaのプロ電池は-15℃まで動作保証されています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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