SPAC(Soil-Plant-Atmosphere Continuum)モデル:水流の連続体理論

SPAC(Soil-Plan | 育みと収穫 - Forest Eight

結論先出し

  • SPAC(Soil-Plant-Atmosphere Continuum、土壌-植物-大気連続体)は、土壌から植物を経由して大気に至る水流を統一的に扱う水文・植物生理学のモデル。前D10〜D12記事の蒸散・水ポテンシャル理論の統合フレームワーク。
  • 核心概念:水は土壌(高ポテンシャル)→根→幹→葉→大気(低ポテンシャル)のポテンシャル勾配で連続的に流れる。各段階の抵抗(resistance)が水流を決定。樹高30 mのスギで根元-梢間 約0.3〜0.6 MPaの圧力低下が観測される。
  • 応用:気候変動下の樹木水ストレス予測、苗木育成・林業計画、農業灌漑、都市林業(ヒートアイランド削減)等の幅広い領域で標準モデル。森林総合研究所・生態学会・Plant Physiology誌で標準化されている。

SPACモデルは前D10(蒸散)・D11(土壌水ポテンシャル)・D12(樹液上昇)の各概念を統合するフレームワーク。植物生理学・水文学・気象学の交差分野で標準的な考え方です。本稿ではSPACモデルの概念・数式・樹種別パラメータ・計測法・気候変動下のハイドロリック故障・モデリング・林業実務応用・AI予測・都市樹木への展開までを定量的に整理します。

目次

クイックサマリ:SPACモデル

項目 内容
正式名 Soil-Plant-Atmosphere Continuum(土壌-植物-大気連続体)
核心概念 水のポテンシャル勾配による連続的水流(Cohesion-Tension Theory)
提唱 1948年 van den Honert、1965年 Cowan による定式化
類似モデル Ohm’s law類似(水流=駆動力÷抵抗)
主要パラメータ 各段階の水ポテンシャル Ψ(MPa)、各段階の抵抗 R(MPa·s·m⁻¹)
典型値(成熟針葉樹) R_root ≈ 30%、R_stem ≈ 20%、R_leaf ≈ 50%(全抵抗比)
応用領域 植物生理学、水文学、気象学、林業、農業、都市樹木管理
関連数値 P50(50%通水損失水ポテンシャル):被子植物 -1.5〜-3 MPa、針葉樹 -3〜-6 MPa

SPACの基本式とポテンシャル勾配

SPACの基本式(Ohm’s law類似、van den Honert 1948):

水流 J = (Ψ1 − Ψ2) / R
(Ψ1, Ψ2:両端の水ポテンシャル[MPa]、R:両者間の抵抗[MPa·s·m⁻¹])

これを土壌〜大気の各段階に適用:

段階 水ポテンシャル Ψ(MPa) 抵抗 R(相対値) 主要支配因子
土壌(バルク) Ψ_soil(−0.05 〜 −2 MPa) R_soil(土壌水分で10倍以上変動) 含水率、テクスチャ
Ψ_root(−0.5 〜 −1.5 MPa) R_root(全抵抗の30〜40%) 根密度、菌根、aquaporin
幹(木部) Ψ_stem(−1.0 〜 −2.0 MPa) R_stem(樹高で増大) 道管径、樹種、樹高
Ψ_leaf(−1.5 〜 −3 MPa) R_leaf(気孔開閉で50倍以上変動) 気孔導度、葉脈密度
大気 Ψ_atm(−50 〜 −200 MPa、VPD依存) R_air(境界層、風速で変動) VPD、風速、温度

定常状態では、各段階を通る水流は同じ。各段階の抵抗で水ポテンシャルが段階的に低下します。樹高 h(m)に対し重力ポテンシャルは 0.01 MPa/m 相当を要し、樹高 80 mのセコイアでは梢で約 −2.0 MPa の追加負荷となるため、巨木の最大樹高はSPACの観点から制約されると考えられています(Koch et al. 2004, Nature)。

SPACの抵抗構成と樹高別パラメータ

1. 土壌抵抗(R_soil)

  • 土壌粒子と水の吸着(マトリックポテンシャル)
  • 水分量で大きく変動(飽和→pF 4.2 で10⁵倍程度)
  • 根毛との界面での水・栄養取込(rhizosphere conductance)
  • 土壌タイプ別:砂質土は飽和近傍で低抵抗だが乾燥で急増、粘土は逆傾向

2. 根抵抗(R_root)

  • 根の細胞膜・カスパリ線(Casparian strip)
  • 樹齢・根の発達状態で変動(細根表面積で決定)
  • 菌根菌(前B01・B02記事)が抵抗30〜50%低減との報告(外生菌根スギ・マツで顕著)
  • aquaporin(PIP1/PIP2)発現で日内変動あり

3. 幹(木部)抵抗(R_stem)

  • 道管・仮道管の水流抵抗(Hagen-Poiseuille則:流量 ∝ r⁴)
  • キャビテーション(前D12記事)で抵抗増(PLC:Percent Loss of Conductivity)
  • 樹高・樹齢で変動:樹高30 mブナで全抵抗の20%程度、樹高60 mダグラスファーで30%超
  • 環孔材(コナラ等)は道管径50〜400 µmで通水性高、散孔材(ブナ等)は20〜80 µmで安全性重視

4. 葉抵抗(R_leaf)

  • 葉の維管束(葉脈密度 VLA:mm/mm²)
  • 葉肉細胞(mesophyll)
  • 気孔(最大の制御点、g_s で50倍変動)
  • K_leaf(葉ハイドロリック導度):被子植物 5〜30 mmol/m²/s/MPa

5. 大気境界層抵抗(R_air)

  • 葉表面の境界層(boundary layer)
  • 風速で大きく変動(風速2 m/sで境界層厚は無風時の約1/3)
  • VPD(飽差)の効果:VPD 2 kPaで標準的蒸散

キャビテーションと樹木のハイドロリック故障

水ポテンシャルが樹種固有の閾値を下回ると、木部内に空気塞栓(embolism)が発生しキャビテーションを起こします。Choat et al.(2012, Nature)は世界226樹種を調査し、被子植物・針葉樹ともに通常生育時に P50 まで安全余裕がわずか 1 MPa 前後しかないことを示しました。

樹種群 P50(−MPa) 安全余裕(−MPa) キャビテーション耐性
熱帯雨林被子植物 1.0〜2.5 0.5
温帯落葉被子植物(ブナ・ナラ) 2.0〜3.5 1.0
地中海性常緑樹 4.0〜6.0 1.5
温帯針葉樹(スギ・ヒノキ) 3.0〜5.0 1.5
乾燥地針葉樹(ジュニパー) 5.0〜10.0 2.0 非常に高

2010年代以降、世界各地で「ハイドロリック故障(hydraulic failure)」を主因とする森林衰退が報告されています。米国南西部のピニョンマツ枯死(2002〜2003、約1200万ha)、欧州2018年の干ばつによるトウヒ・ブナ枯死、豪州2019〜20年のユーカリ大量枯死等。Hammond et al.(2022, Nature Communications)は世界160事例を解析し、平均気温 +2°C/VPD +0.5 kPa で枯死リスクが2倍化すると報告しています。

気孔の制御役割と等水・非等水戦略

SPACにおいて、樹木が能動的に制御できる主要点が気孔。気孔開閉により:

気孔状態 蒸散量 光合成 水ストレス
全開(g_s ≈ 0.5 mol/m²/s) 最大 最大 水損失大
適度(g_s ≈ 0.2) 中-高 適度
部分閉(g_s ≈ 0.05) 水保持
完全閉(g_s < 0.01) 最小 停止 緊急保護

樹種は気孔制御戦略によって2型に分類されます(Tardieu & Simonneau 1998):

  • 等水的(isohydric):Ψ_leaf を一定に保つよう積極的に気孔閉鎖。スギ、ポプラ、トウヒなど。乾燥に対して保守的。
  • 非等水的(anisohydric):Ψ_leaf 低下を許容して光合成継続。ナラ、ユーカリなど。短期干ばつに強いが極端干ばつで一気に枯死リスク。

計測法:樹液流計とサイクロメーター

手法 測定対象 精度・特徴
Granier法(TDP) 樹幹液流速 低コスト、誤差±10%、長期連続測定可
HRM(Heat Ratio Method) 樹幹液流(双方向) 逆流検出可、夜間補水量計測
Pressure chamber(Scholander) 葉水ポテンシャル 標準法、±0.05 MPa精度
Stem psychrometer(サイクロメーター) 樹幹水ポテンシャル 連続測定、設置難度高、±0.1 MPa
Porometer(LI-6800等) 気孔コンダクタンス g_s直接測定、点測定
Cavitron / Xyl’em P50、PLC曲線 遠心法、樹種特性評価
NMR / マイクロCT キャビテーション可視化 非破壊、高コスト

SPACモデルの応用

1. 気候変動応答予測

気候変動下で温度上昇・VPD増加・大気CO2上昇は、SPACの各段階に影響:

  • VPD増 → 葉-大気ポテンシャル差増 → 蒸散促進(VPD +1 kPaで蒸散+30〜50%)
  • 気温上昇 → 抵抗一般低下・水粘性低下 → 水流促進
  • CO2上昇 → 気孔閉鎖傾向(FACE実験で g_s 約20%減) → R_leaf増 → 蒸散抑制
  • これらの相反する効果の純結果は地域・樹種で異なる

2. 樹木水ストレス監視

SPACモデルベースの監視ツール:

  • 樹幹流速計(thermal dissipation method、Granier 1985)
  • 葉水ポテンシャル測定(pressure chamber、Scholander 1965)
  • 気孔コンダクタンス測定(LI-6800等)
  • 衛星リモセン(NDVI、SIF:Solar-Induced Fluorescence、Sentinel-2/OCO-3)
  • マイクロCT・NMRによる木部キャビテーション可視化

3. 林業計画

植栽樹種選定・密度決定・施業計画でSPACが応用されます:

  • 地域の気候・土壌に応じた樹種選定(P50・等水戦略から判断)
  • 植栽密度と水ストレスバランス(密度低下で個体当たり水資源増、林冠VPD緩和)
  • 間伐強度の決定(強度間伐後3〜5年は残存木の蒸散が30〜50%増)
  • 水源涵養林設計(蒸散と土壌涵養のトレードオフ)
SPACモデル概念図 土壌から大気までの水流の連続性。 SPAC(土壌-植物-大気連続体)モデル ①土壌 Ψ_soil ≈ -0.5 MPa ②根 Ψ_root ≈ -1 MPa ③幹 Ψ_stem ≈ -1.5 MPa ④葉 Ψ_leaf ≈ -2 MPa ⑤大気 Ψ_atm ≈ -50〜-200 MPa 水流の駆動力 ポテンシャル勾配 水の凝集力 気孔(葉) 最大の制御点 出典: van den Honert 1948, Cowan 1965, 標準植物生理学
図1:SPACモデル概念図(出典:van den Honert 1948, Cowan 1965)。
樹種別 P50 とハイドロリック安全余裕 樹種群ごとの P50(50%通水損失水ポテンシャル)と通常生育時の安全余裕の比較。 図2:樹種別 P50 と安全余裕(−MPa) 0 −2 −4 −6 −8 −10 熱帯雨林 温帯落葉 地中海 温帯針葉 乾燥地針葉 被子 被子 常緑 スギ・ヒノキ ジュニパー −2 −3 −5 −4 −10 単位:MPa(負値) 出典:Choat et al. 2012, Nature
図2:樹種別 P50(出典:Choat et al. 2012, Nature; Anderegg et al. 2016)。

歴史的背景

SPACの概念史:

マイルストーン
1948 van den Honertが連続体モデル提唱(Discuss. Faraday Soc.)
1965 Cowan et al.が定量化(J. Appl. Ecology)
1970-80年代 各種実測・モデル化進展、Tyree のキャビテーション理論
1990-2000年代 気候モデル統合(CLM、JULES、SiB2、ORCHIDEE等)
2010-現在 気候変動応答研究の標準ツール、TROBIT・FunDivEUROPE等の国際プロジェクト

主要研究機関・モデル

モデル 機関 SPAC組込度
CLM(Community Land Model) NCAR(米) v5でPlant Hydraulics組込
JULES(Joint UK Land Environment Simulator) 英Met Office・他 SOX水ストレス対応
ORCHIDEE 仏IPSL キャビテーション組込進行中
MATSIRO 日本(東大・JAMSTEC) 標準SPAC実装
VIC(Variable Infiltration Capacity) 米Univ Washington 水文重視・植物簡略
SiB2(Simple Biosphere) NASA・コロラド州立大 古典SPACの代表
SVAT(一般用語) 各機関 気象-植物結合の総称

これらは気候モデル・水文モデルに統合され、地球規模の予測に使用されます。日本国内ではFFPRI・JAMSTEC・東大農学生命・京大農学・北大低温研などが主導しています。

SPACの限界と最新展開

古典的SPACの限界:

  • 定常状態仮定(実際は時間変動:日内・天気・季節)
  • 線形抵抗仮定(実際はキャビテーションで非線形)
  • 複雑な根系構造の単純化(深根・浅根、root hydraulic redistribution無視)
  • 細胞・分子レベルの詳細省略(aquaporin制御、ABA信号)

最新展開(2020年代):

  • 多階層・非線形モデル(Plant Hydraulics、Sperry-Wang統合)
  • 水チャネル(aquaporin)統合(PIP1/PIP2発現とR_root連動)
  • キャビテーション動態(Vulnerability Curve、Refilling論争)
  • 群落レベルへの拡張(trait-based ecosystem model)
  • 機械学習との結合(TreeML、PINN:Physics-Informed Neural Network)

都市樹木と林業実務への応用

都市環境では舗装率・ヒートアイランド・限定根域でSPACの各抵抗が増大し、街路樹の蒸散冷却能と生存余命に直接影響します。横浜国大・東京農工大の調査では、街路樹のケヤキ・イチョウは森林内同樹種より g_s が30〜50%低く、R_leaf増加・葉水ポテンシャル低下が確認されています。米国農務省 i-Tree モデルや、都市樹木の SPAC ベース寿命予測が進められています。

林業実務では、密度管理図や収穫予想表に SPAC 概念を組み込んだ「水ストレス管理」が広がりつつあります。例えば九州のスギ人工林では、強度間伐(30%以上)後に残存木の樹液流量が3〜5年は1.3〜1.5倍に増加し、心材形成・年輪幅増加と相関する事例が報告されています(FFPRI九州支所)。

AI・機械学習による予測

2020年以降、衛星リモセン(Sentinel-2、Landsat-9、OCO-3 SIF)と機械学習(Random Forest、XGBoost、CNN、Transformer)を組み合わせた樹冠スケールの SPAC 予測が急速に発展しています。米国・欧州では枯死リスクマップが1 kmメッシュで提供され、日本でも森林総研・JAXAが「ALOS-3/PALSAR-3」連携で類似研究を進めています。Physics-Informed Neural Network(PINN)はSPAC方程式を制約に組み込み、観測データの少ない地域への外挿精度を高める手法として注目されています。

よくある質問(FAQ)

Q1. SPACの具体的な使い方は?

A. 樹木水ストレス予測、灌漑計画、気候変動応答研究、植林計画等で活用。専門研究では、各段階のパラメータを実測・推定し、水流予測を行います。実務では水収支の概念モデルとして用いられます。

Q2. SPACと蒸散の関係は?

A. 蒸散はSPACの「葉から大気への水流」段階。SPACは蒸散を含む全体水収支のフレームワーク。蒸散量は土壌〜根〜幹の上流条件で律速されます。

Q3. 気候変動下のSPACはどう変化しますか?

A. VPD増・気温上昇で蒸散促進、CO2増で気孔閉鎖傾向と複雑応答。地域・樹種で結果異なり、IPCC AR6でもハイドロリック故障による森林衰退が顕在リスクとして言及されています。

Q4. SPACは林業現場で使えますか?

A. 直接使うのは研究レベルだが、その知見が樹種選定・施業計画・水源涵養林設計に反映される。FFPRI等の研究機関が日本のSPAC研究を主導し、間伐強度や樹種転換の指針づくりに活かされています。

Q5. 個別樹種のSPACデータはどこで入手できますか?

A. 学術論文・データベース(FluxNet・AsiaFlux・TRY Plant Trait Database、Xylem Functional Traits Database:Choat et al. 提供)。日本の主要造林樹種は国内研究機関のデータあり。

Q6. P50 と P88、どちらが重要ですか?

A. P50(50%通水損失)は伝統的指標、P88(88%損失)は致死的キャビテーションの閾値とされます。近年は「ハイドロリック致死点」に近い P88 を重視する研究が増えています。

Q7. 等水・非等水戦略は実務でどう使い分けますか?

A. 短中期的な乾燥地で安全運転をしたい林業現場(スギ等の等水型)と、強い乾燥にも光合成を稼ぎたい収穫期樹種(ナラ等の非等水型)で使い分け。気候変動下では非等水型のリスクが上がるとされます。

Q8. 個人でも SPAC を計測できますか?

A. 簡易には葉水ポテンシャル用 pressure chamber(中古で30万円〜)、Granier 法樹液流計(自作で数万円〜)が普及しています。アマチュア向け IoT センサ(DIY サイクロメーター)も登場しつつあります。

Q9. 都市樹木の SPAC 管理で何ができますか?

A. 大型植栽桝(根域 10 m³以上)、保水・透水性舗装、点滴灌漑などにより R_soil 改善と Ψ_soil 維持が可能。根域改善で街路樹寿命が2〜3倍に延びる事例があります。

Q10. AI で SPAC 予測の精度はどこまで上がりますか?

A. 2024年現在、衛星×機械学習で月次・1 km格子の樹冠水ストレス指標が誤差±20%程度で予測可能。PINN との結合で外挿性能が向上しつつあります。

樹種別 SPAC 特性の詳細データ

主要樹種の SPAC パラメータを Xylem Functional Traits Database(Choat et al. 提供)と FFPRI 公開データから整理します。樹種選定や植栽計画の基礎データとして活用されます。

樹種 P50(−MPa) K_stem(kg/m/s/MPa) 戦略 主分布
スギ(Cryptomeria japonica) 3.5〜4.5 1.0〜2.5 等水型 日本全土
ヒノキ(Chamaecyparis obtusa) 4.0〜5.0 0.8〜1.8 等水型 日本中南部
アカマツ(Pinus densiflora) 3.0〜4.0 1.5〜3.0 等水型 日本全土
ブナ(Fagus crenata) 2.5〜3.2 2.0〜4.0 等水型寄り 日本山地
コナラ(Quercus serrata) 2.8〜3.8 4.0〜8.0(環孔材) 非等水型 日本本州
ミズナラ(Quercus crispula) 2.5〜3.5 4.0〜8.0 非等水型 日本山地
クスノキ(Cinnamomum camphora) 3.0〜4.0 1.5〜3.0 等水型 日本西南
ユーカリ(Eucalyptus globulus) 2.0〜3.5 3.0〜6.0 非等水型 豪州・植林地

環孔材(コナラ・ケヤキ等)は早材の大道管で高い通水性を示しますが、冬季に道管が凍結気泡で機能停止し春に新材形成で更新する戦略を採ります。一方の散孔材(ブナ・カエデ等)と針葉樹は均一な細い導管・仮道管で安全余裕を確保しつつ、年間を通じて安定的な通水を維持します。

干ばつ応答の段階モデル

樹木は乾燥ストレスに対して段階的に応答します。McDowell et al.(2008, New Phytologist)の枯死メカニズム分類は以下の通り:

段階 Ψ_leaf 範囲 樹木の応答 主リスク
第1段階:ストレス前 −0.5〜−1.5 MPa 気孔全開、通常蒸散
第2段階:気孔制限 −1.5〜−2.5 MPa g_s 低下、光合成低下 炭素飢餓進行
第3段階:閉鎖防御 −2.5〜P50 気孔閉、貯蔵糖消費 長期で炭素飢餓
第4段階:キャビテーション進行 P50〜P88 木部空気塞栓蓄積 ハイドロリック故障
第5段階:致死 <P88 通水機能崩壊 枯死

「炭素飢餓(carbon starvation)仮説」と「ハイドロリック故障(hydraulic failure)仮説」は相補的で、近年は両者の同時進行モデルが主流です。日本の温帯林ではハイドロリック故障が支配的とされる一方、北方林・乾燥地では炭素飢餓も寄与すると報告されています。

SPAC研究の国際プロジェクト

プロジェクト 主導機関 内容
FluxNet 米LBNL等 渦相関法による生態系蒸発散の世界観測網(800地点超)
AsiaFlux 日本(産総研・JAMSTEC等) アジアのフラックス観測網、日本のスギ・ブナ林を含む
TROBIT 英国王立協会・各国 熱帯林の樹液流・水動態国際比較
FunDivEUROPE 欧州各国 森林機能多様性と水循環
NEON(米) NSF 大陸スケール生態系観測、SPAC計測標準
TRY Plant Trait DB 独Max Planck 世界最大の植物形質データベース、SPAC関連項目多数

夜間補水とハイドロリックリディストリビューション

SPACは日中の水流に焦点を置きますが、夜間にも重要な水動態が起こります。夜間補水(nocturnal recharge)は、日中の蒸散で枯渇した木部・葉の水分を夜間の根吸収で回復する現象。Granier 法による樹液流計測でも、夜間に通常の10〜30%程度の流量が観測されます。これは細胞の膨圧維持や翌朝の光合成立ち上がりに不可欠です。さらに「ハイドロリックリディストリビューション(HR)」は、深根が湿潤土壌から水を吸い上げ、夜間に浅根経由で乾燥表土へ放出する現象。米国南西部のオークやアフリカのサバンナ樹木で広く確認され、群落水収支に最大10〜20%寄与すると見積もられています。日本でもブナ・ミズナラの古木で類似現象が報告されており、林床植物・菌根菌の水利用と密接に関連します。

SPACと炭素・水カップリング

SPACは水の流れを記述するモデルですが、気孔を介して光合成(CO₂取込)と水(蒸散)が同時に起こるため、炭素・水のカップリングモデルとしても機能します。代表的な指標が WUE(Water Use Efficiency、水利用効率):

WUE = 光合成量 A / 蒸散量 E(mol CO₂ / mol H₂O)
内在WUE:iWUE = A / g_s(VPD補正前)

多くの陸上植物で WUE は 0.001〜0.01(C3植物)。CO₂濃度上昇下では iWUE が長期的に増加(過去50年で+20〜30%)と報告されますが、VPD増の影響で実効WUEは横ばいないし低下する地域も存在します。Ball-Berry / Medlyn 気孔モデルが SPAC と連結され、CLM/JULES 等の地球システムモデルに組込まれています。

SPAC運用の現場チェックリスト

研究レベルから現場レベルへSPAC概念を翻訳する際の実務チェックポイントをまとめます。

  • 植栽前:地域の年降水量・乾燥度(PDSI、SPEI)と P50 から樹種候補を絞る。スギは年降水量1,500 mm以上の湿潤地、ヒノキは1,200 mm以上、アカマツはより乾燥地でも可。
  • 植栽密度:水利用競合を考慮し、乾燥地ほど低密度。ha当たり2,500本(標準)→ 1,500本(乾燥地)が目安。
  • 間伐タイミング:林冠閉鎖後の樹冠直径と樹液流計の長期データから、水ストレス顕在化前に早めの間伐を計画。
  • 気候変動シナリオ:RCP8.5下のVPD・降水予測を取り込み、50年後の優良樹種を再評価。九州・四国でスギ→ヒノキ→照葉樹への樹種転換議論が進行中。
  • 都市樹木:根域容量10 m³以上、保水透水性舗装、街路樹更新時の樹種選定にSPAC診断を活用。

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