【ウバメガシ/姥目樫】Quercus phillyraeoides|紀州備長炭の原料、日本最重量級の樹種

ウバメガシ | Forest Eight

高級な寿司屋や焼き鳥店で使われる「紀州備長炭」──あの、叩くとカンカンと金属のような音が鳴り、煙も出さずに10時間以上燃え続ける炭。その唯一の原料が、このウバメガシ(学名 Quercus phillyraeoides)です。和歌山県の海岸近くに育つ常緑のカシで、気乾比重は0.95〜1.10と、日本に生える木の中で最も重い部類。この圧倒的な密度の高さが、備長炭ならではの品質を物理的に支えています。

気乾比重1.05(0.95〜1.10)国産材最重量級樹高5-10m胸高径20-40cm常緑小高木備長炭生産約1,200t和歌山県/年輸出比率約30%炭素含有率95%超白炭・備長炭1,000℃級燃焼
図1:ウバメガシの主要スペック(含水率15%基準・代表値)

分類はブナ科コナラ属アカガシ亜属。カシ類の仲間ですが、葉が3〜6cmととても小さく、これがいちばんの見分けポイントです。葉のふちは上半分にだけ鈍い鋸歯があり、下半分はつるりと全縁。新葉が淡褐色〜紅褐色を帯びて出てくる独特の色合いが、「老女(姥)の目」を連想させたことが「姥目樫」という和名の由来とされます。本州は千葉県あたりを北限に、四国・九州の海岸線に多く分布します。

目次

紀州備長炭、400年の物語

備長炭の名前は、江戸時代初期の元禄期(1700年前後)に紀州田辺の商人「備中屋長左衛門」が江戸へ大量に出荷して評判を得たことに由来すると伝えられます。屋号の「備中屋」と名前の「長左衛門」から「備長炭」。紀州藩はこの製炭業を保護産業に指定し、ウバメガシ林を10〜20年周期で伐る輪伐管理を制度化しました。今も和歌山県田辺市・みなべ町を中心に約60〜70軒の炭焼き工房が稼働しています。

備長炭は「白炭」と呼ばれる製法で作られます。土と石で築いた窯で1,000〜1,200℃まで一気に焼き上げ、最後に窯の外へ取り出して灰と砂をかぶせて消火する。一般的なバーベキュー用の黒炭が400〜600℃の低温で炭化するのに対し、白炭は高温で揮発分や水分を限界まで飛ばすため、炭素含有率95%超という高純度になります。1窯あたり約2週間、温度や色を職人が見極める完全な手仕事です。この緻密さが、長時間・高温・無煙という三拍子そろった品質を生みます。2017年には農林水産省の地理的表示(GI)に登録され、年間生産量約1,200トンのうち3割ほどが海外の高級和食店へ輸出される国際商品になっています。

なぜウバメガシでなければならないのか

備長炭の質の秘密は、ウバメガシの木質構造にあります。細胞壁が占める割合(細胞壁率)が60〜65%と非常に高く、スギの約25%、ヒノキの約30%と比べると、同じ体積に2倍以上の物質が詰まっている計算になります。この高密度がそのまま炭化後の炭素量に、つまり発熱量と燃焼時間に転換されます。クヌギやナラ、ほかのカシでも炭は作れますが、紀州備長炭の「金属音」「煙皆無」「10時間燃焼」という特性はウバメガシでなければ再現が難しい。だからこそ、この小さなカシは余人をもって代えがたい存在なのです。

海岸を守り、玄翁の柄になる

木材としてのウバメガシは備長炭原料が9割以上を占めますが、重さと粘りを生かして鍬・斧・玄翁(大型ハンマー)の柄にも昔から使われ、特に玄翁の柄では最高級品とされてきました。ただし硬すぎて刃物が傷むため機械加工が難しく、製材市場での流通はごくわずかです。

一方、潮風や乾燥に強く、剪定にもよく耐える性質から、海岸の防潮林や臨海部の生垣としても重宝されます。クロマツやタブノキと組み合わせて、津波・高潮対策の防災緑地に植えられることもあります。海岸近くの別荘地では、潮風で枯れにくい数少ない常緑樹として人気です。

近縁カシとの見分け方

樹種 葉サイズ 分布 気乾比重 主用途
ウバメガシ 3〜6cm(最小) 千葉以西海岸 0.95〜1.10 備長炭・玄翁柄
シラカシ 7〜14cm 関東以西 0.83〜0.90 建築造作・器具
アラカシ 7〜13cm 東北南部以西 0.80〜0.95 器具・薪炭
アカガシ 9〜14cm 東北南部以西 0.85〜1.05 船舶材・武具

ウバメガシは葉が極端に小さいのですぐ分かります。さらに分布が海岸寄りに偏るのも他のカシと違うところ。内陸の里山ではあまり見かけません。

見分け方のポイント

  • 葉:3〜6cmと小型(カシ類で最小級、最大の決め手)。ふちの上半分だけに鈍い鋸歯
  • 新葉:淡褐色〜紅褐色を帯びる(「姥目」の由来)
  • 樹形:低木〜小高木。海岸の風衝地では幹が湾曲する。剪定で密な生垣になる
  • 分布:千葉以西の海岸近く・沿岸の里山に集中
ウバメガシの主用途1備長炭原料2玄翁・農具の柄3生垣・公園樹4海岸防潮林
図2:ウバメガシの主用途

よくある質問

「ウバメ(姥目)」ってどういう意味?
新葉が淡褐色〜紅褐色を帯びて出てくる様子が「老女(姥)の目」を思わせる、というのが有力な説です。地方によっては「馬の目(ウマメ)」がなまったとも言われ、「ウマメガシ」と呼ぶ地域もあります。

紀州備長炭以外の備長炭との違いは?
市場には紀州備長炭(和歌山県・GI登録)、土佐備長炭(高知県)、日向備長炭(宮崎県)、輸入炭などがあります。GI登録の紀州備長炭が品質管理がいちばん厳格で、業務用高級店の標準炭。土佐備長炭がそれに次ぐブランドです。本物はGIロゴと産地証明で見分けられます。

庭木・生垣にできますか?
関東以西の温暖地(年平均13℃以上)なら植えられます。潮風・剪定・火に強く、海岸近くの住宅地で人気。低木〜小高木なので狭い庭でも仕立てやすいです。寒冷地(東北北部以北)では寒害で枯れやすく不向きです。

ドングリは食べられる?
渋み(タンニン)が強いので、灰汁抜きしないと食べられません。スダジイやマテバシイのような生食できるドングリとは違います。シカやサル、イノシシにとっては大切な秋の食料です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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