刈払機取扱作業者安全衛生教育|6時間のうち2時間が振動障害

刈払機の講習は6時間・1日

林業に入って最初に持たされる動力機械は、たいていチェーンソーではありません。刈払機です。植えた苗木のまわりの草を刈る下刈り作業は、夏の造林現場の主戦場。そして刈払機は、林業でもっとも身近で、もっとも軽く見られがちな危険物でもあります。この機械を扱うために受けるのが刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育。学科5時間+実技1時間の6時間・1日です。

目次

6時間のうち2時間が「振動障害」

カリキュラムは厚生労働省の通達「刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育について」(平成12年2月16日 基発第66号)で示されています。

刈払機取扱作業者安全衛生教育のカリキュラム学科5時間、実技1時間の合計6時間。うち2時間が振動障害の予防にあてられる。刈払機取扱作業者安全衛生教育のカリキュラム学科教育刈払機に関する知識1h作業に関する知識1h点検及び整備に関する知識0.5h振動障害及びその予防2h関係法令0.5h実技教育刈払機の作業等1h(試運転・作業姿勢・停止)合計6時間・1日。学科5時間のうち2時間が振動障害の予防出典: 厚生労働省通達「刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育について」
図1:刈払機取扱作業者安全衛生教育のカリキュラム(出典:平成12年2月16日 基発第66号)。

科目の配分を見てください。振動障害及びその予防に関する知識に2時間――全体の3分の1です。刈払機の構造の説明より、はるかに長い。

振動障害、いわゆる白蝋病(はくろうびょう)は、手持ち振動工具を長期間使い続けることで起こる末梢循環障害・末梢神経障害・骨関節障害の総称です。指が白くなり、感覚が鈍り、しびれと痛みが残る。いったん発症すると完全には治りません。林業とチェーンソー・刈払機の関係で、もっとも古くから知られている職業病です。

予防の基本はばく露時間の管理です。厚生労働省の「チェーンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害予防対策指針」では、工具ごとの周波数補正振動加速度実効値から1日の使用可能時間を算出し、連続作業時間と1日の合計時間に上限を設ける考え方が示されています。「調子がいいから昼まで刈り続ける」が、いちばんやってはいけないことです。

この教育は「特別教育」ではない

ここは正確に理解しておくべきところです。チェーンソーの伐木等の業務に係る特別教育は、労働安全衛生法第59条第3項に基づく法定の特別教育で、無資格者を就かせれば事業者が法違反に問われます。一方、刈払機の教育は違います。

特別教育ではなく「安全衛生教育」刈払機の教育は労働安全衛生法第59条第3項の特別教育ではなく、通達に基づく安全衛生教育。特別教育ではなく「安全衛生教育」この教育の位置づけ労働安全衛生法 第59条第3項の「特別教育」ではない第60条の2に基づく安全衛生教育通達により特別教育に準じた教育として実施が求められる受けないとどうなるか罰則が直接かかる規定ではないしかし振動障害は業務上疾病教育を怠れば安全配慮義務違反発注者が受講を要件にする例も実質的には必須と考えてよいチェーンソーの特別教育とは根拠条文が違う。「準じた教育」という位置づけ根拠: 労働安全衛生法 第60条の2、平成12年2月16日 基発第66号
図2:刈払機の教育の法的な位置づけ(出典:厚生労働省)。

刈払機の教育は労働安全衛生法第60条の2(危険又は有害な業務に現に就いている者等に対する教育)を背景に、通達によって「特別教育に準じた教育」として実施が求められているものです。

では受けなくてよいかというと、まったくそうではありません。振動障害は業務上疾病として労災認定の対象であり、教育を行わずに作業させて発症させれば、事業者の安全配慮義務違反が問われます。実務上も、公共の造林事業や自治体の委託業務では受講を要件にしている例が多い。法的な強制力の形が違うだけで、受けないという選択肢は事実上ありません。

刈払機のどこが危ないのか

刈払機による災害は、大きく三つに分かれます。

類型 起こり方 対策
キックバック 回転する刃の右前方(時計の2〜4時方向)が硬いものに当たり、機体が作業者側へ跳ね返る 刃の左側で刈る、右前方を当てない、安全カバーを外さない
飛来物 石・金属片・切断された枝が高速で飛ぶ。他の作業者にも当たる 保護めがね・フェイスシールド、作業者間の距離を確保する
切創・接触 惰性回転中の刃に触れる、傾斜地で転倒して自分の脚に当てる エンジン停止を確認、下肢の保護具、傾斜地では等高線に沿って進む

とくに林業の下刈りは、足元が見えない夏の急斜面で行われます。灌木と草が腰まであり、その下に伐根や石がある。転倒すれば、回転中の刃が自分の身体に向く。実技1時間で扱うのは、試運転の手順、正しい作業姿勢、そして確実な停止です。

また、林業の下刈りには熱中症という別のリスクが重なります。7〜8月の日中、防護具を着けて斜面を歩き回る作業は、屋外労働のなかでも過酷な部類です。近年は作業計画にWBGT(暑さ指数)による中止基準を組み込む事業体が増えています。

受講先と、そのあと

実施しているのは林業・木材製造業労働災害防止協会(林災防)の各都道府県支部、建設業労働災害防止協会、コベルコ教習所などの民間教習機関、安全衛生団体など。受講料は6,000〜1万2,000円程度と、林業の資格のなかではもっとも安い部類です。1日で終わります。近年はeラーニングで学科部分を受講できるコースもあります。

緑の雇用では、フォレストワーカー1年目に置かれることがほとんどです。普通救命講習と並んで、いちばん最初に取る資格。チェーンソーより先に刈払機を持たせるのは、造林作業から現場に慣れさせるという順序でもあります。

あわせて受けておきたいのが、振動工具取扱作業者に対する安全衛生教育です。刈払機とチェーンソー以外の振動工具まで含めて、ばく露時間の管理と健康診断の考え方を体系的に扱います。振動障害は、複数の工具のばく露が積み上がって発症するもの。工具ごとに考えていては足りません。

いちばん軽く見られる資格

刈払機は、ホームセンターで誰でも買えます。免許も要りません。だからこそ、「講習なんて要らない」と思われやすい機械です。しかし林業の刈払機作業は、家庭の庭の草刈りとはまったく違います。傾斜、面積、連続時間、そして共同作業。

6時間の講習で覚えることは、突き詰めればふたつです。刃をどこに当てないかと、何時間で手を止めるか。この二つを守れるかどうかが、20年後に自分の指が動くかどうかを決めます。

出典・参考

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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