何年か現場に出ていると、いつか「班を任せる」と言われる日が来ます。自分が伐るのではなく、誰にどの木を伐らせるかを決める立場になる。そのときに効いてくるのが職長・安全衛生責任者教育です。ただし林業では、この教育をめぐる事情が少し特殊です。緑の雇用のフォレストリーダー研修とあわせて、現場を束ねる資格の全体像を整理します。
職長教育とは何か
労働安全衛生法第60条は、「新たに職務につくことになった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者」に対して、事業者が安全衛生教育を行うことを義務づけています。この教育のカリキュラムは労働安全衛生規則第40条に定められており、合計12時間です。
科目を見ると、この教育が何を目指しているかが分かります。機械の操作方法は一つも出てきません。作業方法をどう決めるか、人をどう配置するか、部下をどう指導するか、危険をどう見つけて潰すか、異常が起きたら何をするか。マネジメントの教育です。
とくに「危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置」に4時間――全体の3分の1が割かれています。これはリスクアセスメントのことです。作業を工程に分解し、それぞれの危険源を洗い出し、発生可能性と重篤度で評価し、優先順位をつけて対策する。この時間は令和5年(2023年)4月1日の改正で拡充されました。
ところが、林業は職長教育の義務業種ではない
ここが重要な点です。職長教育の対象業種は労働安全衛生法施行令第19条で限定列挙されています。
建設業、製造業(一部の業種を除く)、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業――この6業種。林業は入っていません。令和5年4月1日の改正で食料品製造業や新聞業・出版業・製本業などが追加されましたが、林業は依然として対象外です。
全産業でもっとも死傷年千人率が高い業種が、職長教育の義務から外れている。奇妙に見えますが、これは林業に監督者の仕組みがないという意味ではありません。別の制度で手当てされているのです。
なお、製材工場や合板工場など木材・木製品製造業は「製造業」なので対象です。同じ会社でも、山の作業班には義務がなく、工場の職長には義務がある――という状態が起こり得ます。
林業の現場は誰が仕切るのか
林業には、職長教育の代わりに作業指揮者と作業主任者という二つの制度があります。
作業指揮者は、特定の危険な作業ごとに事業者が指名する立場です。平成26年の労働安全衛生規則改正により、伐木等機械・走行集材機械・架線集材機械・簡易架線集材装置を使う作業では、作業計画に基づいて作業を指揮させる作業指揮者の選任が義務づけられました。資格要件はなく、事業者が適任者を指名します。
作業主任者は、免許または技能講習の修了を要件とする法定の立場です。林業で関係するのは林業架線作業主任者で、機械集材装置や運材索道の一定規模の作業では選任が義務になります。ほかに、はい作業主任者や地山の掘削及び土止め支保工作業主任者が関係する場面もあります。
そしてフォレストリーダー(FL)とフォレストマネージャー(FM)。これは法定資格ではなく、緑の雇用事業の研修修了者に与えられる登録です。しかし実務上の重みは小さくありません。
フォレストリーダー研修――現場管理責任者になる
FL研修は、林業就業経験5年以上の人を対象とした10日程度の集合研修です。作業班長の候補者、つまり「そろそろ班を任せられる」段階の人が受けます。
扱う内容は職長教育とよく似ています。作業計画の立て方、原価と工程の管理、班員への指導方法、労働安全のマネジメント、そしてリスクアセスメント。修了して国の研修修了者名簿に登録されると、現場管理責任者(フォレストリーダー)として農林水産大臣名の登録証が交付されます。
制度上、決定的に重要なのは次の点です。北海道森林整備担い手支援センターの資料によれば、令和4年度以降、緑の雇用のOJT指導員になれるのはFLまたはFM研修の修了者に限られます。つまり事業体が新人を採って緑の雇用の研修に乗せようとするなら、社内にFLかFMがいなければならない。
この一点で、FL研修は「本人のキャリアアップ」から「事業体の存続要件」に変わりました。指導員がいなければ、若手を採っても育てられない。
その上にフォレストマネージャー(FM)研修があります。対象は就業経験10年以上で、こちらは統括現場管理責任者。複数の現場を統括し、事業体の安全衛生管理体制そのものを回す立場です。FL研修が各都道府県で開かれるのに対し、FM研修は東京周辺で秋に集中開催されることが多いようです。
それでも職長教育を受ける理由
法律上の義務がないのに、林業事業体が職長・安全衛生責任者教育を受講する場面は少なくありません。理由は三つあります。
第一に、治山・林道の公共工事です。これらは建設業として発注されます。建設業には職長教育の義務があり、さらに安全衛生責任者の選任が求められます。安全衛生責任者は、元請が統括安全衛生責任者を選任する現場で、下請(関係請負人)が選任しなければならない立場です(労働安全衛生法第16条)。林業事業体が治山工事を請け負うなら、これが必要になります。
そのため実務では、職長教育12時間に安全衛生責任者教育2時間を加えた「職長・安全衛生責任者教育」14時間をまとめて受講するのが一般的です。
第二に、元請や発注者の要求です。森林整備の委託業務でも、仕様書に職長教育修了者の配置を求める例があります。法定義務の有無とは別に、契約上の要件になる。
第三に、内容そのものの価値です。林業の死亡災害の約7割は伐木作業中に起き、その約7割が50歳以上のベテランです。技術がある人が死んでいる。つまり個人の技量では防げない領域があるということで、そこを埋めるのが作業計画とリスクアセスメント、すなわち職長教育の中身です。
取る順番
現場から管理へ向かう道筋を整理すると、おおよそこうなります。
| 段階 | 目安 | 取るもの |
|---|---|---|
| 1〜3年目 | フォレストワーカー研修 | チェーンソー・玉掛け・車両系建設機械など12種類 |
| 3〜5年目 | 現場の中核として作業 | 伐木等機械・架線系の特別教育、ドローンなど |
| 5年目〜 | 班を任される | フォレストリーダー研修、職長・安全衛生責任者教育 |
| 実務3年以上 | 架線を張る | 林業架線作業主任者免許 |
| 10年目〜 | 複数現場を統括 | フォレストマネージャー研修 |
職長・安全衛生責任者教育は、建設業労働災害防止協会の各都道府県支部、安全衛生団体、民間の教育機関などで受講できます。受講料は1.5〜2.5万円が目安で、2日間。近年はeラーニングと集合演習を組み合わせたコースも増えています。
伐る人から、伐らせる人へ
林業で長く働く人の多くは、どこかで「自分が一番うまい」から「みんなが安全に帰る」へ目標を切り替えます。それは技術の放棄ではありません。むしろ、自分が伐れる木の本数より、班全体が伐れる本数のほうがはるかに大きいと気づくことです。
職長教育の12時間、FL研修の10日間で教わるのは、その切り替え方です。林業のキャリアパスを見渡したとき、現場に残りながら責任を上げていく道の入口が、ここにあります。
そして忘れてはならないのは、この立場になった人が、次の新人を育てる指導員になるということ。緑の雇用がFL・FMをOJT指導員の要件にしたのは、育成の連鎖を制度で担保するためです。資格は、自分のためだけのものではなくなります。

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