森林調査の現場は、この10年で静かに変わりました。かつては巻尺と輪尺を持って斜面を登り、標準地を取って全体を推定していたところに、いまはドローンが飛びます。レーザを当てれば一本ごとの樹高が出る。苗木も飛ばして運べる。ではその機体を飛ばすのに、どんな資格が要るのか。2022年12月にできた国家資格「無人航空機操縦者技能証明」を軸に、林業の現場で本当に必要なものを整理します。
2022年12月、ドローンに国家資格ができた
改正航空法の施行により、2022年12月5日から無人航空機操縦者技能証明――通称「ドローン国家資格」が始まりました。区分は一等無人航空機操縦士と二等無人航空機操縦士の2つ。受験できるのは16歳以上です。
この制度の狙いは、レベル4飛行(有人地帯の上空を補助者なし・目視外で飛ばす)を解禁することにありました。物流や点検を都市部で成立させるための制度設計です。したがって、林業のように人のいない山で飛ばす用途は、実は制度の主眼ではありません。ここを取り違えると、要らない資格に何十万円も払うことになります。
まず押さえるべきは、資格の等級ではなく飛行カテゴリーの考え方です。
ポイントは「特定飛行に当たるかどうか」。空港周辺、高度150m以上、人口集中地区(DID)の上空という3つの空域と、夜間飛行・目視外飛行・人や物件から30m未満・催し場所上空・危険物輸送・物件投下という6つの飛行方法が「特定飛行」です。これに該当しなければカテゴリーIで、技能証明も許可も要りません。
ここが林業にとって重要なところです。多くの人工林はDIDではなく、日中に、目視できる範囲で、150m未満を飛ばすなら――森林調査の多くはカテゴリーIに収まります。国家資格がなくても、法律上は飛ばせるのです。
それでも技能証明を取る意味はどこにあるか
では無意味かというと、そうではありません。効いてくるのは次の3つの場面です。
第一に、尾根を越える調査。 稜線の向こう側へ機体を送ると、目視外飛行になります。斜面全体を一度に撮りたい林業では、これが日常的に発生します。二等技能証明+第二種機体認証を受けた25kg未満の機体で、立入管理措置を講じたうえで飛ばす場合には、夜間飛行・目視外飛行・人や物件から30m未満・DID上空について国土交通大臣の許可・承認を受けずに飛行できます。都度の申請が消えるのは、業務としては大きい。
第二に、発注者の要求。 森林整備の委託業務や自治体の資源解析業務では、仕様書に技能証明の保有を求める例が増えています。法律上は不要でも、仕事を取るために要る。
第三に、社内の安全管理。 技能証明は事故時の説明責任にも効きます。無資格運用中の墜落と、有資格運用中の墜落では、事業体としての立場がまったく違います。
取得ルートは二つあります。登録講習機関(民間のドローンスクールが国の登録を受けたもの)で講習を受け修了審査に合格すると、実地試験が免除されます。あとは指定試験機関である一般財団法人 日本海事協会の学科試験(CBT)と身体検査をクリアすれば技能証明が交付されます。もう一つは直接受験。費用は抑えられますが、実地試験を独学で通すのは容易ではありません。
注意すべきは有効期間です。技能証明そのものは3年で切れます。更新は満了日の6か月前から1か月前までに申請し、更新講習を受ける必要があります。学科試験の合格にも2年の期限があるため、合格したまま放置すると取り直しです。
試験の中身と、かかる時間・費用
学科試験はどちらの等級も三肢択一のCBTですが、規模がまるで違います。
二等は50問・30分・正答率80%程度、一等は70問・75分・正答率90%程度。一等は9割ですから、取りこぼしがほとんど許されません。出題範囲は航空法規、気象、機体のシステム、運航体制、リスク管理と広く、法令の細部を問う問題が多く出ます。
講習時間の最低基準は国土交通省の告示で定められています。二等の経験者コースは学科4時間+実地2時間の計6時間から成立しますが、一等の初学者コースは学科18時間+実地50時間の計68時間。実に11倍です。ここでいう「経験者」とは、民間技能認証などの一定の飛行経験を持つ人を指します。
費用も比例します。登録講習機関の例では、二等の経験者コースが20万円前後、二等の初学者コースが30万円台、一等の初学者コースは80万円を超えることもあります。これに学科試験・実地試験・身体検査の手数料と、技能証明の交付手数料が加わります。
林業事業体としての現実的な判断は、まず二等です。 レベル4飛行を必要とする林業の業務はほとんどなく、一等の68時間と80万円を回収できる場面が想像しにくい。二等+機体認証で目視外飛行の承認が省ける、その一点で十分に元が取れます。
資格より先に、機体登録とリモートID
技能証明の話より前に、必ずやらなければならない手続きがあります。2022年6月20日から、機体重量100g以上の無人航空機は国への登録が義務になりました。登録せずに飛ばせば、資格の有無にかかわらず違法です。
登録すると登録記号が交付され、これを機体に表示します。あわせてリモートID機能の搭載が必要です。リモートIDは、登録記号・製造番号・位置・速度・高度・時刻などを1秒に1回以上電波で発信する仕組みで、事故時に機体と所有者を特定するためのもの。近年の機体は内蔵していますが、古い機体には外付け機器を取り付けます。
登録は3年ごとの更新制です。山仕事の道具は往々にして「買ったまま」になりますが、ドローンだけは登録の期限管理が要ります。
林業でドローンは何をしているのか
資格の話から離れて、実務を見ておきましょう。
中心は森林資源の把握です。 ドローンにレーザスキャナを積んで飛ばすと、林冠を透過した点群から地盤高と樹高が同時に得られます。地上レーザや航空機LiDARと比べ、機動性と解像度のバランスがよく、数十ヘクタール規模の単木レベルの解析に向きます。得られた樹高・胸高直径の推定値から材積を積み上げれば、立木調査の工程がまるごと置き換わります。カメラだけでも、SfMでオルソ画像と数値表層モデルをつくれます。
運搬も実装が進んだ分野です。急傾斜地で苗木やコンテナ、下刈り用の燃料を荷上げする作業は、これまで人が背負っていました。ここをドローンに置き換えると、労働負荷と滑落リスクが同時に下がります。ただし後述するとおり、投下には承認が要ります。
被害木の探索では、松くい虫やナラ枯れで変色した個体を空から面的に拾えます。地上を歩いて探すのとは効率が違う。鳥獣調査では熱赤外カメラでシカの分布を夜間に把握する試みがありますが、夜間飛行は特定飛行なので、承認か技能証明が必要になります。
逆に言えば、伐る・造材するといった作業そのものは、まだドローンの仕事ではありません。 ドローンは測る・運ぶ・見つける道具です。チェーンソーの特別教育や伐木等機械の特別教育が不要になる日は、当分来ません。
林業で本当に効くのは「資格」より「承認」
ここが実務でいちばん誤解されるところです。二等技能証明を取っても、すべての特定飛行が自由になるわけではありません。
| 飛行の種類 | 林業での場面 | 二等+機体認証での扱い |
|---|---|---|
| 目視外飛行 | 尾根の向こう側の調査 | 立入管理措置を講じれば許可・承認が不要になり得る |
| 夜間飛行 | 熱赤外による鳥獣調査 | 同上 |
| 人・物件から30m未満 | 電線・林道沿いの近接撮影 | 同上 |
| 物件投下 | 苗木・資材の荷上げ | 承認が必要(省略されない) |
| 危険物輸送 | 農薬・燃料の運搬 | 承認が必要(省略されない) |
| 催し場所上空 | 森林イベントの空撮 | 承認が必要(省略されない) |
つまりドローンで苗木を運ぶ運用は、二等を取っても国土交通大臣の承認が要ります。農薬散布にいたっては危険物輸送と物件投下の両方に該当します。林業でドローンを本格的に使おうとするなら、技能証明よりも飛行許可・承認の申請実務(DIPS2.0での手続き、飛行マニュアルの整備、年間包括申請)を覚えるほうが効きます。
実務の順序としては、①機体登録とリモートIDを済ませる、②まずカテゴリーIの範囲で調査運用を始める、③目視外が要るようになったら二等を取る、④投下や散布に踏み込むなら年間包括の承認を取る――という積み上げが現実的です。
緑の雇用の資格とは、性格がまったく違う
最後に位置づけを整理しておきます。緑の雇用で取る12種類の資格は、いずれも労働安全衛生法に基づくもので、目的は働く人の安全です。無資格で就かせれば事業者が罰せられます。
一方ドローンの技能証明は航空法に基づき、守るべき相手は地上の第三者と航空機です。労働安全衛生法の資格ではないので、緑の雇用の標準カリキュラムには入っていません。取るとすれば、事業体の自主的な投資か、林業大学校やスマート林業関連の研修を通じてということになります。
ただし、森林・林業の担い手にとってドローンの位置づけは年々上がっています。 森林経営計画の資源データ、森林環境譲与税を使った市町村の森林調査、境界確認の資料――いずれも空から取ったデータが前提になりつつある。林業のキャリアパスを考えるうえで、チェーンソーと同じくらい将来性のある技能だと言っていいでしょう。
資格を取ることが目的ではありません。山でどんな飛ばし方をしたいのかを先に決めれば、要る資格と要らない資格は自然に分かれます。

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