日本の森は、誰かの思いつきで切られたり植えられたりしているわけではありません。じつは国・都道府県・市町村の3段階の計画にもとづいて、長い時間軸で管理されています。これが「森林計画制度」です。国が15年の大方針を立て、都道府県が10年の地域計画に落とし込み、市町村がさらに細かく区域ごとに具体化する——ピラミッド型に積み重なったこのしくみを、できるだけかみくだいて見ていきます。

計画は上から下へ流れていく
制度の骨格は森林法(第4条〜第10条)で定められています。一番上が林野庁(農林水産大臣)の「全国森林計画」。15年計画で、全国2,505万haを対象に、伐採・造林・林道・保安林の長期方針を示します。その下に都道府県知事の「地域森林計画」が10年単位で続き、全国の民有林約1,740万haを158の計画区に分けて、伐採量や造林面積の目標を数値で定めます。さらに下が市町村長の「市町村森林整備計画」で、区域内の森を10年計画で具体化。そして一番下に、森の持ち主や森林組合が立てる「森林経営計画」(5年)があります。
このピラミッドの肝は、上位の計画が下位を「縛る」ことです。たとえば全国計画で「年間伐採量は○○m³以下」と決めれば、都道府県の計画はその枠を超えないよう調整し、市町村はさらに細かく区域内の伐採量を割り当てる。一方で、現場の実態を上に返すルートもあるにはあるのですが、こちらは仕組みとして弱い。だから市町村の側からは「画一的な数字が上から降ってくる」と受け止められがち——これが運用上の悩みどころのひとつです。なお国有林(約766万ha)は、この民有林の系統とは別に森林管理局長が計画を立てています。
区切りの単位は「流域」
地域森林計画が森を158に区切る単位は、都道府県の境界ではなく「流域」、つまり川の水系です。森の水源涵養や土砂流出防備のはたらきは水系ごとにまとまって発揮されるので、行政の線引きより自然の地形に合わせるべき、という考え方によります。1計画区あたりの面積には大きな幅があり、北海道の広い流域では規模が大きく、離島など小さな計画区もあります。標準的な伐期も樹種ごとに目安があり、スギ・ヒノキ・カラマツでそれぞれ地域調整された値が使われています。
市町村が森を「色分け」する
市町村森林整備計画でいちばん大事なのが、区域内の森を役割ごとに塗り分ける「ゾーニング」です。水を守り土砂を防ぐ森、生きものや景観のための森、木材を生産する森——おおまかにこの3つに区分し、それぞれにふさわしい手入れの方針を定めます。
| 機能区分 | 主な目的 | 推奨される施業 | 面積比の目安(民有林) |
|---|---|---|---|
| 水土保全林 | 水源涵養・土砂流出防備 | 長伐期・複層林化・択伐 | およそ半分 |
| 森林と人との共生林 | 生物多様性・景観・保健 | 天然更新主体・複層林 | およそ2割 |
| 資源循環利用林 | 木材生産 | 標準伐期での主伐再造林 | およそ4分の1 |
この比率は地域でかなり違います。林業が盛んな県は木材生産の「資源循環利用林」が多く、首都圏近郊では「人との共生林」が多くなる傾向があります。森を有する市町村では、計画の策定率はほぼ100%。ただし、中身の精度や改訂の頻度には自治体間で大きな差があるのが実情です。
持ち主が立てる計画には「ごほうび」がある
一番下の森林経営計画は、3層のなかで唯一、持ち主や経営者に直接の見返りがある計画です。市町村森林整備計画に沿った5年計画を立てて認定を受けると、造林補助金の加算、所得税の特別控除、立木譲渡所得の特例といった経済的な優遇を受けられます。だから普及が進み、認定面積は数百万ha規模まで拡大し、民有林の相当な部分を占めるまでになっています。
2012年の制度創設で、まとまった面積の団地を単位とする要件が現実的に運用できる形になり、森林組合や林業会社が複数の森をまとめて手入れする「集約化施業」の枠組みとして広く使われるようになりました。ただし、認定はされたものの実際の伐採や再造林が進んでいない区域も少なくない——「計画だけが先行している」という課題は残っています。
「立てる計画」から「使う計画」へ
この制度の性格を変えたのが、2019年に始まった森林経営管理制度と森林環境譲与税です。前者は、手入れの行き届かない森について、市町村が持ち主の意向を確認したうえで管理を引き受け、林業事業体に再委託するしくみ。これを動かすには市町村森林整備計画のゾーニングや林地台帳が前提になるため、それまで「作って終わり」だった市町村計画が、いよいよ「実際に使う計画」へと変わりました。森林環境譲与税(2024年度で総額600億円規模)は、その実装を支える財源として配られています。
もっとも、課題も見えています。計画の数字は森林簿や地籍調査の精度に左右され、更新が古い地域では信頼性が落ちます。実際、伐採量や造林面積の目標と実績にはズレが恒常的にあります。森を有する市町村のなかには、林務担当の人員が薄い小さな自治体も少なくありません。それでも、航空レーザー測量による森林データの整備やGISの普及が進めば、計画の精度と更新サイクルは今後さらに改善していく見込みです。紙の上の理想と現場の実態のあいだを、いかに埋めていくか——それが、この重層的なしくみに問われている宿題です。

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