森林の機能区分|水土保全・人との共生・資源循環の3区分

森林の機能区分 | Forest Eight

日本の森林2,505万ha——国土の約66%という世界有数の森林率を支えるこの広大な森は、林野庁の機能区分制度によって3つに色分けされています。水土保全林・森林と人との共生林・資源の循環利用林。同じ「森林」でも、求められる役割が違えば、伐り方も補助金も変わってくる。この記事では、その3区分がどう線引きされ、現場の施業にどう効いているのかを整理します。

日本の森林2,505万haの機能区分配分 水土保全林 53%(1,331万ha) 共生林 21%(519万ha) 資源循環林 26%(655万ha) 各区分の主な施業方針 水土保全林:複層林化・小面積分散・皆伐回避・天然力活用 共生林:景観配慮・レクリエーション・教育的価値の保全 資源循環林:通常施業・主伐推奨50年・再造林必須 参考:保安林1,222万ha(17機能・機能区分とは別建て) 水源涵養保安林・土砂流出防備保安林・防風保安林等。機能区分と一部重複指定可能
図1:森林機能区分3類型の面積配分と施業方針の概観(出典:林野庁森林資源現況)
目次

3区分が生まれた背景

この3区分が定まったのは、2002年の森林・林業基本法制定です。それ以前は、森林の機能といえば「水源涵養」「土砂流出防備」など保安林制度(17機能類型)で個別に扱うのが中心でした。2001年の林政改革で「森林の多面的機能の発揮」を政策の軸に据え、施業のかたちも多面的機能発揮型へと組み直された——その産物が3区分です。

区分は所有者の主観ではなく、地形・水源との位置関係・人工林率・道路アクセスといった客観指標をもとに、市町村単位で決まります。2016年の機能類型化見直しで運用基準が現状に即して整理され、2019年の森林経営管理制度では、機能区分が市町村による経営権集積の判断材料になりました。

水土保全林:森の半分以上を占める「水と土を守る森」

3区分で最大なのが水土保全林で、1,331万ha(全森林の53%)。文字どおり水と土を守るのが役目で、森林土壌の貯水能力で洪水と渇水の両方をやわらげる水源涵養、根系と林床被覆による土砂流出・斜面崩壊の抑制、水質浄化といった機能が期待されます。斜面30度以上の急峻地や水系の上流域が中心で、北海道・東北・中部山岳地帯の険しい森の多くがここに入ります。

施業は「守り」が基本です。皆伐は原則回避し、行う場合も1箇所2〜5ha以下の小面積に分散。単層人工林より水土保全機能が高い複層林・針広混交林化を推奨し、標準伐期(スギ50年)より長い長伐期施業や、天然下種更新などの天然力活用も重視されます。こうした公益機能向上に資する施業には、補助単価が上乗せされます(複層林造成で標準の最大1.5倍)。

共生林:人の暮らしと交わる森

共生林は519万ha(全森林の21%)。森林浴やトレッキングの場、観光地周辺の景観、学校教育や伝統文化継承の舞台など、人々の生活・文化・健康と直接関わる森です。都市近郊林、観光地・名所旧跡の周辺、レクリエーション利用が現に行われている森林などが、客観基準で選ばれます。

施業では景観への配慮が最優先。皆伐の景観影響を避けて複層林・択伐林分を保ち、スギ・ヒノキの純林ではなく広葉樹やヤマザクラ・モミジといった花木を交えて見栄えを整えます。散策路や休憩所の整備、環境教育プログラムとの連動、神社仏閣の建築用材や伝統工芸材(漆・桐など)の供給支援も対象です。京都嵐山周辺、日光東照宮周辺、屋久島の世界遺産周辺などが代表例です。

資源循環林:木を育てて使う「林業の本丸」

資源循環林は655万ha(全森林の26%)で、木材生産を主役にした森です。人工林率が高く、林地の成長量が大きく、路網が整って機械化施業ができ、市場や製材工場へのアクセスが良い——こうした条件で選ばれます。3区分のなかでもっとも「通常林業」に近く、皆伐・再造林を含む輪伐施業が認められます。下の表が標準的な施業の流れです。

作業 時期(スギ標準) 主要内容
地拵え・植栽 0〜1年生 伐採跡地整理、苗木植栽2,000〜3,000本/ha
下刈り 1〜5年生 雑草・つる類除去、年1〜2回
除伐・枝打ち 8〜20年生 不要木の除去、無節材生産時に枝打ち
間伐(複数回) 15〜45年生 5〜10年間隔で2〜4回、収穫率20〜30%
主伐 50年生前後 皆伐または収穫択伐、再造林必須

2010年代以降、戦後造林の人工林が伐期を迎えて主伐量が急増しています。再造林を確実にするため、資源循環林の補助は主伐補助と再造林補助のセット運用が標準です。

同じ40〜50年生のスギ林でも、こんなに違う

区分による施業の違いは、同じ1haのスギ人工林を並べてみると一目瞭然です。

施業項目 資源循環林 水土保全林 共生林
主伐方法 皆伐(可) 択伐・群状択伐 択伐・景観配慮型
主伐齢の目安 50年(標準) 60〜80年(長伐期) 70年以上(景観優先)
1回の伐採面積 5〜20ha可 原則2〜5ha以下 小面積分散
再造林 人工再造林必須 天然更新優先・補助植栽 広葉樹混交・花木導入
想定収益(粗利・ha) 200〜350万円 50〜120万円 30〜80万円

資源循環林は主伐収益が大きく、水土保全林・共生林は収益こそ小さいものの、公益機能発揮への補助単価上乗せでバランスが取られています。つまり所有者にとっては、どの区分でも経済的に成り立つよう設計されている——ここが現行制度のミソです。機能区分は造林・間伐・路網などの補助単価を最大1.5倍も動かすので、林業事業体は施業計画を立てる前に必ず区分を確認します。

「保安林」とは別物——二層構造を理解する

機能区分はよく保安林と混同されますが、別建ての制度です。下の表のとおり、根拠法も拘束力も違います。

項目 機能区分 保安林制度
根拠法 森林・林業基本法 森林法
類型数 3類型 17機能類型
指定主体 市町村(森林整備計画) 農林水産大臣・都道府県知事
伐採制限の拘束力 推奨・誘導 許可制(拘束力強い)
税制優遇 補助金単価差 固定資産税・不動産取得税減免

保安林は森林法に基づく強い規制で、伐採には知事許可が必要、農地・宅地転用は原則不可。一方の機能区分は森林・林業基本法に基づく行政誘導で、施業選択や補助単価に影響するものの強制力は弱めです。両者は同じ森林に重ねて指定でき、「水土保全林かつ水源涵養保安林」という二層指定がごく一般的です。

実際の指定は、森林を持つ全国約1,500市町村が策定する市町村森林整備計画(10年計画・5年ごと見直し)を通じて行われます。GISや航空写真で資源状況を把握し、地形・水系・人工林率などから機械的な素案をつくったうえで、所有者・住民・林業事業体・観光関係者の意見を反映して市町村長が決定。この計画は都道府県森林計画、さらに全国森林計画と階層的に整合する三層構造になっています。

これからの機能区分:気候変動という新しい変数

運用には課題も残ります。市町村単位で決まる区分の境界が、水文学的に最適な水系単位の境界と一致せず、隣接市町村で区分が食い違って水土保全機能の連続性が切れる例もあります。補助単価差を意識して区分を「都合よく」設定する動きへの懸念も指摘されてきました。

そこへ気候変動が新たな圧力をかけています。時間雨量50mm以上の豪雨は2010年代に1980年代比で約1.4倍に増え、台風も強大化。水土保全林・保安林の指定範囲拡大や施業の精緻化が求められています。林野庁は2023年から、機能区分と気候変動適応策の連動を強化し、災害ハザードマップとの統合や気候シナリオに基づく機能評価モデルの開発を進めています。森林の炭素吸収量は人工林の高齢化で現在の約4,800万tCO₂から2050年に約3,000万tへ低下する見通しで、資源循環林での主伐・再造林サイクルの加速と、水土保全林・共生林での長期炭素貯留を、区分ごとに使い分ける戦略が問われます。

2002年に始まった3区分は、戦後の「木材生産一辺倒」の林政から、多面的機能を束ねる林政への転換を象徴する制度です。「水土保全53%・共生21%・循環26%」というシンプルな枠組みの裏側には、戦後70年の蓄積と、これから数十年の森づくりの方向性が凝縮されています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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