森林経営計画認定面積400万ha|認定インセンティブの経済構造分析

手入れする人が報われる制度

「森林経営計画」と聞いても、林業に縁のない方にはピンとこないかもしれません。ざっくり言えば、森の持ち主や森林組合が「うちの森を5年間こう手入れします」という計画を市町村に出して認めてもらう制度です。認めてもらうと補助金が手厚くなったり、税金が軽くなったりする。いわば「ちゃんと手入れする人を優遇しますよ」というしくみです。認定面積は近年で数百万ha規模まで広がり、民有林のかなりの部分を占めるようになりました。この記事では、制度の中身と、人を動かしている「お金のインセンティブ」を見ていきます。

認定面積 数百万ha 規模 民有林の かなりの部分 補助率 上乗せあり 間伐・造林補助 一般より 手厚い 計画期間 5 施業・伐採・更新 市町村長認定 今後の目標 さらに拡大 民有林の 半分近くを 視野に
図1:森林経営計画の主なポイント(林野庁「森林計画制度」より)
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森の計画は三段重ね

日本の森林計画は三段構えになっています。いちばん上が林野庁の全国森林計画(15年)、その下に都道府県の地域森林計画(10年・全国158流域)、さらにその下に市町村森林整備計画(10年・約1,700計画)。森林経営計画は、この一番下の市町村計画の枠内で、個々の森について持ち主が5年分の手入れ計画を立てるものです。もともとは「森林施業計画」と呼ばれていましたが、2011年の森林法改正と森林・林業再生プランを経て「森林経営計画」へ衣替えし、補助の対象や要件が広がりました。

認定の入口はおおむね2通りです。所有者が単独でまとまった面積(目安30ha以上)を持っているケースと、複数の所有者の森をまとめて一つの団地(目安100ha以上)として計画化するケース。計画書には伐採・造林・路網整備の年次スケジュールと、合意した所有者の名簿を載せ、市町村長に申請します。旧制度から変わった肝は、所有者ごとではなく「まとまった一団の森林」を単位に据えたこと、認定を市町村長が行うようにして現場に近い行政が見るようにしたこと、そして集約化・路網整備・主伐後の再造林をセットで求めたことです。これによって、かつて多かった「税制優遇だけが目当ての中身の薄い計画」がふるい落とされ、実際に手を動かす計画だけが残るようになりました。

認定面積はその後、着実に伸びています。2012年度の導入初期から現在までに数倍規模に拡大し、いまも増加傾向が続いています。

認定率は地域で大きく違う

面白いのは、認定の進み具合が地域で驚くほど違うことです。宮崎・北海道・岩手など素材生産が盛んな県は認定率が高く、逆に関東・近畿の都市近郊では認定率が低くとどまる地域が少なくありません。

差を生んでいるのは、ざっくり3つです。森の持ち主が大規模で計画を立てやすいか、地元の森林組合が複数の持ち主の森をまとめて計画化できているか、そして意欲ある素材生産業者が動いているか。この3つが揃った地域ほど、認定率がぐっと上がります。逆に、持ち主が都会に出てしまって連絡もつかない、所有が細かく分かれている、組合の力が弱い——そんな都市近郊では、なかなか進みません。

4つのインセンティブ——なぜ認定をとるのか

持ち主はなぜわざわざ計画を立てて認定をとるのでしょうか。答えはシンプルで、得をするからです。優遇は大きく分けて4本柱あります。

補助の上乗せ。造林・間伐・路網整備の補助率が、認定区域だと一般の森より手厚くなります。路網整備補助は認定区域が優先的に採択される運用が定着しており、認定がないと採択で不利になる——つまり認定は補助金獲得の前提条件として働いています。

税制優遇。これが特に大きい柱です。認定区域内の山林を相続すると、一定規模以上であれば相続税の納税猶予が使え、対象山林の課税価格の8割にあたる相続税額が猶予されます。山林所得にも森林計画特別控除があり、所得税の負担を圧縮できます。林業県の中大規模所有者が認定を強く志向するのは、ほぼこの税制が理由です。

融資優遇。日本政策金融公庫の林業基盤整備資金が、認定区域では無利子または低利で借りられます。長期・低利で、高性能林業機械の更新など大きな投資をするときに効いてきます。

長伐期助成。標準的な伐期を大きく延ばす長伐期施業を選ぶと、造林補助に加算が付きます。投資回収に数十年かかる林業の超長期収益を、政策で下支えする仕組みです。

これらを合わせると、認定を取った森林ほど経営として成り立ちやすくなる設計になっています。大規模な持ち主にとっては、認定をとるかどうかが経営を左右する話です。だからこそ大規模所有者の認定取得率は高く、いまや「とって当たり前」になっています。一方、小さな持ち主は、自分で計画を立てる手間と優遇のバランスから、森林組合がまとめてくれる「集約計画」に乗るのが現実的な選択。計画数の過半は、この組合経由の集約計画が占めています。

計画を作る主役は森林組合

計画を作る主役は森林組合で、計画数の過半を占めます。組合員150万人規模を通じて所有者情報を持ち、合意形成のノウハウを蓄えているからです。残りは認定林業事業体や所有者個人による計画です。1計画あたりの面積は大きく、組合員百〜数百人をまとめる「面的な団地計画」が標準形で、合意形成には半年から1年ほどかかります。

実例として、京都府南丹市の日吉町森林組合は、まとまった面積を複数の計画に分けて認定を取得し、多数の組合員への丁寧な個別訪問を重ねて長期にわたり合意をまとめました。認定後の補助を活用し、機械化と路網整備で素材生産コストを引き下げています。岐阜県中津川市のトヨタ自動車所有林は企業所有林の代表例で、長伐期施業と水源涵養を両立させた計画を、企業のサステナビリティ戦略の中核に組み込んでいます。

長く育てる森が増えている

近年の新しい流れが「長期育成循環施業」です。これまでスギ・ヒノキは植えてから60〜80年で一気に伐る(皆伐する)のが一般的でしたが、これを100年以上まで延ばし、少しずつ間引きながら森を維持していく方式です。長く育てると太い大径材がとれて高く売れるうえ、森が地面を覆い続けるのでCO2を吸い続け、皆伐後の土砂流出のような災害リスクも下がります。収入も一度にどんと入るのではなく、毎年ちょっとずつ分散する。ドイツやスイスの「近自然林業」に学んだ考え方です。この認定面積はまだ全体の一部にとどまりますが、増加傾向にあります。

立ちはだかる「所有者不明」の壁

制度が万能かというと、そうではありません。運用の悩みは主に4つです。複数所有者を集約する団地計画は、1人でも反対すれば頓挫します。私有林の相当部分は所有者不明や連絡不能で、そもそも計画の対象にできません。計画書の作成にはまとまった費用がかかり、推進主体の負担になります。そして5年の途中で市況が動けば、実績は計画からずれていきます。

とりわけ深刻なのが所有者不明の問題です。背景にあるのは相続未登記と共有名義の細分化。1筆の山が十数人〜数十人の共有になっている例は林業県では珍しくなく、伐採方針の変更のような「処分行為」を含む計画は、共有者全員の同意が要ります。1人でも所在不明なら計画化できません。森林経営管理法(2019年施行)の市町村集積計画はこの受け皿として作られましたが、市町村の人手不足で進みは鈍いのが実情です。作成費用には「森林経営計画作成サポート事業」で一定の補助があり、所有者の負担はいくらか和らぎます。

これからの拡大に向けて

林野庁は森林・林業基本計画で、認定面積を民有林のさらに大きな割合へ広げる目標を掲げてきました。鍵を握るのは、やはり所有者不明森林の処理です。森林経営管理法の市町村集積計画と、2024年4月から始まった相続登記の義務化を組み合わせ、対象を計画に取り込んでいくことが求められています。森林資源GISの全国整備や所有者情報DBの充実も並行して進んでおり、計画づくりの手間とコストを下げていく見込みです。お金の優遇という強い動機と、デジタルでの効率化。この両輪がそろってはじめて、目標が現実的な射程に入ります。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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