木材の需給を見ていて意外に思われるのが、ここ10年で一番伸びた品目が「燃料材」だという点です。発電や熱利用に回る木質バイオマスのことで、国内供給量は2014年の約410万m³から2023年には1,200万m³超へ、ざっと3倍に膨らみました。家具や建材に使われる用材が2,200万m³前後で横ばいなのに対して、燃料材だけが右肩上がり。いまでは用材の半分強の規模に育っています。きっかけはほぼひとつ、2012年に始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)です。
木材需給表で「燃料材」が独立した区分として集計され始めたのは、ちょうど2014年からです。それまで細々と「薪炭材」に入っていたものが、発電用の木質燃料を中心に再分類されました。グラフの数値は丸太換算(実体積)で、輸入されるペレットやPKSは一定の換算率で丸太材積に置き換えて計上されているため、実際の重量ベースで見ればもっと大きな存在感があります。
引き金になったFITの買取価格
FITが燃料材を押し上げた仕組みはシンプルです。木質バイオマス発電は燃料の種類で区分が分かれ、林業由来の未利用材(間伐材や伐採跡に放置されがちな末木枝条)には最も高い買取価格が設定されました。これが「山に残していた木にお金がつく」という、それまでなかった経済インセンティブになったわけです。区分ごとの価格を整理すると次のようになります。
| 区分 | 燃料種類 | 買取価格 | 主な発電所規模 |
|---|---|---|---|
| 区分B(小) | 未利用木材(間伐材・林地残材) | 32円/kWh | 〜2,000kW |
| 区分B(大) | 未利用木材 | 24円/kWh | 2,000kW以上 |
| 区分A(小) | 一般木材(製材端材・PKS等) | 24円/kWh | 〜10,000kW |
| 区分A(大) | 一般木材 | 入札制(約20円) | 10,000kW以上 |
| 区分C | 建設廃材 | 13円/kWh | 大半が中規模以上 |
経済産業省のFIT認定情報を見ると、2024年時点で木質バイオマス発電の認定容量は約820万kW。ただし実際に動いているのは約330万kWで、残る約490万kWは認定だけ取って未稼働のままです。この未稼働分が今後動き出せば、燃料材の需要はさらに2〜3割積み増される計算になります。逆に言えば、燃料調達のめどが立たずに認定が取り消される案件も一定数あり、すべてが稼働するわけではありません。
燃料はどこから来ているのか
燃料材の出どころをたどると、大きく4つのルートに分かれます。国産の未利用材(間伐材・林地残材)、国産の一般材(製材端材やパルプ用チップの転用)、解体現場から出る建設発生木材、そして輸入燃料(PKS・木質ペレット)です。2023年の概算では国産未利用材が350万m³前後、国産一般材が500万m³規模、建設発生木材が450万m³規模で、ここに輸入PKS約400万t・輸入ペレット約450万tが乗ってきます。
未利用材は買取価格が最も高い区分Bに対応するので、林業現場では市町村発行の「未利用材証明書」付きの間伐材・林地残材が事業者間で取引されます。チップにすると1m³あたり6,000〜9,000円ほど。用材として市売市場に出すより手間はかかりませんが、単価が低いぶん林業所得への直接の寄与はそれほど大きくありません。発電所と山をつなぐチップ工場(チッパー設備)がどこに立つかで、集荷の効率がかなり変わってきます。一方、解体木材を中心とする建設発生木材は区分Cで買取価格こそ13円と一番安いものの、燃料コストがほぼゼロ(処理費の逆有償)に近く、事業者にとっては利益率の高い区分になっています。
急増したのは「輸入燃料」だった
4つのルートのなかで2010年代後半から特に伸びたのが輸入燃料です。財務省の貿易統計によると、PKS(パームヤシ殻)は2014年の約100万tから2023年には約400万tへ4倍に、輸入木質ペレットにいたっては約7万tから約450万tへと60倍以上に膨らみました。PKSはインドネシア・マレーシア、ペレットはベトナム・カナダ・米国南東部がおもな供給元です。
なぜ輸入に頼るのかというと、国産未利用材の集荷量には物理的な天井があるからです。大規模な発電所は年間10〜30万tの燃料を必要とし、これを国産だけで賄おうとすると集荷半径50〜100kmの広域連携が要る。運搬コストや搬出量の制約でそれは難しく、結局は港湾に立地して輸入燃料を主体にするほうが合理的になります。こうして燃料材の急増は、「国内林業の未利用材を活かす中規模・地域分散型」と「輸入燃料に頼る大規模・港湾立地型」という二層構造に分かれていきました。なお輸入燃料はクリーンウッド法とFITの双方で持続可能性証明が求められ、ペレットはFSC・PEFC・SBP、PKSはRSPO等の第三者認証が条件になっています。
恩恵と、見落とせない副作用
地域への直接の恩恵は、やはり中規模(2,000〜10,000kW)の地域分散型発電所が中心です。1基あたり年間5〜15万m³の燃料を必要とし、半径30〜50km圏の素材生産事業体・森林組合・チップ工場と長期契約を結ぶ。岩手県紫波町・宮崎県諸塚村・大分県日田市・北海道下川町などでは、地域内に発電所ができたことで間伐の実施面積が制度開始前の1.3〜1.8倍に広がったと報告されています。未利用材そのものの単価は安くても、間伐の促進・路網整備・搬出機械への投資といった間接効果が大きいわけです。
ただ、良いことばかりではありません。下の図に整理したように、急増には4つの副作用がついて回ります。
とくに頭の痛いのが製紙チップとの競合です。発電向け未利用材の実質単価(1m³あたり7,000〜9,000円)が製紙用チップのレンジ(5,000〜7,000円)を上回る場面が出てきて、製紙業界が原料を取り合う構図が生まれました。カーボン中立性をめぐる議論も無視できません。木を燃やして出るCO2は再生長で吸収されるから「中立」とされますが、吸収し終えるまでの数十年は大気中のCO2が一時的に増える「炭素借り」が生じます。EUではこの点をふまえてLCA(ライフサイクル評価)を厳密化する流れが強まっており、すでに伐られた未利用材と新規伐採とで評価を分ける考え方が標準になりつつあります。日本のFITも追随していく可能性が高いところです。
2030年代に向けて
第7次エネルギー基本計画(2024年)も第6次森林・林業基本計画(2021年)も、木質バイオマスを再エネの主力電源のひとつに位置づけています。2030年の発電容量目標は稼働ベースで約780万kWとされ、これは現状330万kWの2.4倍。需要はまだ伸びる前提で組まれているわけです。とはいえ集荷ロジスティクスや労働力、路網整備の制約は一朝一夕には消えません。論点を絞ると、(1)機械化集荷や中継土場の戦略立地による未利用材の集荷効率改善、(2)発電だけでなく熱も使う熱電併給(CHP)への重心移動(総合効率を80%以上に高められる)、(3)20年の買取期間が終わったあとのFIP・市場価格への適応、の3点に行き着きます。とりわけCHPは、林業地域で木質エネルギーを無駄なく使い切るうえで鍵になりそうです。
燃料材は、用材が伸び悩むなかで木材需要の新しい柱として育ちました。ただその中身は、地域の山を回す未利用材と、海の向こうから運ばれてくる輸入燃料という、性格のかなり違う二層からできています。数字の3倍という勢いだけでなく、この二層構造をどう成熟させていくかが、これからの本当の論点なのだと思います。

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