日本はかつて世界最大級の木材輸入国でした。住宅建設ブームを支えるかたちで戦後に輸入が膨らみ、1996年には原木換算で約7,500万m³というピークを記録します。当時の国内素材生産は2,200万m³ほど、自給率はわずか22.6%でした。それが2023年には輸入量が約3,800万m³とほぼ半減し、自給率は42.4%まで反転しています。金額にして約1.4兆円。半減したのは量だけでなく、「どこから買うか」という相手国の顔ぶれも、この30年弱でまるごと入れ替わりました。
30年で主役が三度替わった
輸入の中身を10年区切りで眺めると、主役がきれいに入れ替わっていくのが分かります。1990年代はまだ南洋材合板原木の全盛期で、インドネシアやマレーシア(サバ・サラワク)から年間1,000万m³前後のラワン丸太が日本の合板工場へ流れ込んでいました。2000年代に入ると様子が一変します。産出国側が丸太の輸出を規制して現地加工に切り替え、同時に天然林の資源が細ったため、南洋材丸太は急減。代わりに北米のSPF製材と欧州の集成材が住宅構造材として浸透していきました。
2010年代は欧州材の躍進期です。オーストリア・フィンランド・スウェーデン・ルーマニアからの集成材・製材が一気に増え、ホワイトウッド(オウシュウトウヒ)の集成材柱は在来木造の標準仕様になりました。そして2020年代、コロナ禍のウッドショックと2022年のロシア・ウクライナ戦争に伴うG7制裁が重なり、輸入構造は地政学リスクにとても敏感な体制へと変わっていきます。下の図が、その三段階のシェア変化です。
いまの主役は欧州材と北米材
2023年時点で最大勢力は欧州材で、原木換算ベースのシェアは約35%。オーストリア・フィンランド・スウェーデン・ドイツ・ルーマニアの5カ国が中心で、樹種はオウシュウトウヒ(ホワイトウッド)とオウシュウアカマツ(レッドウッド)です。なぜここまで伸びたのか。ひとつは規模の経済で、Stora EnsoやBinderholzといった大手は年産100万m³超の集成材工場を持ち、日本の住宅会社が好む105角・120角の柱を安定供給できます。もうひとつは品質で、欧州集成材は人工乾燥(KD材)が標準、含水率12〜15%に管理されているため施工後の収縮トラブルが少なく、プレカット業者や工務店からの信頼が厚いのです。コンテナで効率よく運べ、北欧・中欧から日本まで45〜60日で届く輸送効率も追い風になりました。
北米材は長く約25%のシェアを保ってきました。柱になるのはカナダBC州産のSPF製材(ツーバイフォー住宅の構造材)、太平洋岸北西部の米マツ(Douglas fir、土台・梁桁に愛用)、米国南部のSYP(防腐土台材)の3つです。ただBC州ではマツノキクイムシ被害でロッジポールパインの蓄積が累計7億m³規模も失われており、長期の供給制約が懸念されています。米マツも近年は現地で製材化が進み、丸太より製材・LVLでの輸入が主流になりました。
南洋材の退場と、ロシア材の消失
かつての主役だった南洋材は、見る影もなく縮みました。1992年には南洋材丸太を約950万m³も輸入し、輸入丸太の55%を占めていたのが、2023年には年間20万m³未満、ピークの50分の1以下です。背景は三つ重なっています。インドネシアが2001年に丸太輸出を全面禁止して現地加工へ切り替えたこと、メランチー類の天然林が枯渇したこと、そして日本側で国産材合板(スギ・カラマツ)が急拡大し、いまや合板原木の9割超が国産材に置き換わったことです。南洋材合板そのものは型枠や梱包材向けに年200万m³規模で残っていますが、原木輸入としての存在感はほぼ消えました。
もうひとつ、最近になって消えたのがロシア材です。極東産のエゾマツ・トドマツ・カラマツ丸太は密度や木理が北海道産に似ていて代替が利き、長く北海道・東北の製材業を支えてきました。ピークの2007年頃には年500万m³を超え、輸入丸太の3割超だった時期もあります。それが2022年のウクライナ侵攻でG7制裁の対象品目となり、ロシア側も丸太輸出を全面禁止。両方向から遮断されて、輸入は前年比9割以上の縮小となりました。原料を失った中堅製材工場のなかには、北米材・国産材への転換に成功した企業もあれば、廃業や縮小に追い込まれたところもあります。
用途で見ると分業がはっきりする
輸入木材を最終用途で4つに分けると、相手国の役割分担がくっきり見えてきます。
| 用途 | 主要輸入形態 | 主力相手国 | 2023年規模 |
|---|---|---|---|
| 構造材(柱・梁・桁) | 集成材・製材・LVL | オーストリア・カナダ・米国・フィンランド | 原木換算 約1,400万m³ |
| 合板・パネル | 合板・OSB・LVL | マレーシア・インドネシア・中国・チリ | 原木換算 約700万m³ |
| パルプ・チップ用材 | 木材チップ | ベトナム・チリ・豪州・南ア | 用材 約400万t |
| 燃料用材(バイオマス発電) | ペレット・PKS | ベトナム・カナダ・インドネシア・マレーシア | ペレット約460万t・PKS約340万t |
製紙向けのチップは、かつての天然林由来から植林木由来へほぼ完全に切り替わりました。製紙各社の持続可能性方針が後押しし、2010年代には大手の購入チップで植林木比率が9割超に。ベトナムのアカシア、チリ・豪州のユーカリが、6〜10年の短い輪伐期で安定供給する体制ができています。一方で新聞紙・印刷用紙の需要減でチップの総量自体は縮小傾向。代わってバイオマス発電向けのペレット・PKS輸入が急増し、燃料目的の植物バイオマスが新しい存在感を放つようになりました。
「最安値」から「リスク調整」へ
2020〜2022年のウッドショックは、日本の調達の考え方を変える転機になりました。米国の住宅着工急増による北米市況の高騰、コンテナ運賃の数倍化、そしてロシア制裁が重なって、欧州集成材も北米SPFも対日価格が2〜3倍に跳ね上がり、納期遅延や着工延期が広く起きたのです。為替も追い打ちをかけました。2020年から2024年にかけて円は1ドル105円から150円へ約40%、ユーロも30%以上減価し、円建ての輸入木材価格を大きく押し上げました。皮肉なことに、この円安は為替変動を直接受けない国産材の相対的な競争力を高め、スギのKD柱が欧州集成材と同等か割安になる品目も出てきています。自給率42.4%への反転は、政策誘導と為替が重なった結果でもあるわけです。
こうした経験を経て、輸入実務には仕入先の地理的分散、3〜6か月分の在庫を持つバッファ型への移行、長期契約や為替ヘッジ、そして国産材の積極利用といった変化が定着してきました。木材調達はいまや単なるコスト管理ではなく、事業継続計画(BCP)の一部です。加えて、クリーンウッド法の2024年改正による合法性確認の義務化や、EUの森林破壊規制(EUDR)への対応で、サプライチェーンの遡及確認や森林認証材(FSC・PEFC)の重要性も一段と増しています。
原木換算3,800万m³・1.4兆円という数字だけ見れば、日本はいまも世界有数の木材輸入国です。けれど中身は1996年とはまったくの別物。コスト最適から「リスク調整最適」へ、単一相手国依存から多元的なポートフォリオへ、天然林由来から持続可能な植林由来へ。自給率の反転と相まって、日本の木材需給は戦後最大級の構造転換のただ中にあります。

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