林業労働災害|死傷年千人率24.7の業界比較

林業労働災害 | Forest Eight

日本のあらゆる産業のなかで、林業は群を抜いて危険な仕事です。労働災害の発生率を示す「死傷年千人率」は2023年で24.7。全産業平均2.4の約10倍、あの建設業(4.7)と比べても5倍を超えます。なぜここまで突出するのか、どんな事故が多いのか、そして本当に減らせるのか——数字で見ていきます。

目次

千人率24.7とは、どれくらい危険なのか

死傷年千人率24.7とは、働く人1,000人のうち年間24.7人が4日以上休む労働災害に遭う、という意味です。林業就業者は約43,500人ですから、毎年1,000人以上が休業災害に。現場作業員に絞れば、10年勤めるあいだに1〜2回はケガをする計算になります。これは「たまたま事故が多い年」の話ではなく、林業現場のいわば標準的なリスクレベルなのです。

業種別死傷年千人率の比較 林業・建設業・製造業・全産業の死傷年千人率を棒グラフで比較 業種別 死傷年千人率(2023) 林業 24.7 水運業 11.0 陸上貨物運送 10.0 建設業 4.7 製造業 2.6 全産業平均 2.4 林業は全産業平均の10倍超、建設業の5倍超のリスク水準。
図1:業種別 死傷年千人率の比較(出典:厚生労働省「労働災害発生状況」2023年)

水運業(11.0)や陸上貨物運送(10.0)も危険な部類ですが、林業はそのさらに2倍超。この高さの裏には、急傾斜地での作業、立木を倒すという物理的な危険、チェーンソーや重機の高いエネルギー、読みにくい天候と地形、そして2人以下の少人数作業が多いこと——これらが重なっています。いずれも技術や教育だけでは消しきれない、林業に構造的に組み込まれたリスクです。

何で命を落とすのか:かかり木が最大の難所

では、どんな事故が多いのか。下の表のように、死傷件数の45%、死亡事故にいたっては60%が「伐倒木の激突」に集中しています。

災害類型 死傷比率 死亡比率 主な発生状況
伐倒木の激突 45% 60% かかり木処理・受け口・追い口
転落・転倒 20% 15% 急傾斜地・崖・滑落
チェーンソー切創 15% 5% 大腿部・足部・手指
機械操作中 10% 10% フォワーダ・グラップル
木材搬送中・その他 10% 10% 転がり・崩れ・熱中症

とくに厄介なのが「かかり木」です。伐り倒した木が隣の立木に引っかかり、宙ぶらりんのまま止まってしまう状態。いつ落ちるか予測できないのに、処理する人は「なんとか地面に下ろそう」とつい近づいてしまいます。別の木を倒して外そうとして連鎖事故を起こす、ロープで引いた瞬間に崩れて身体を直撃する——労働安全衛生規則はこうした危険な手段を禁じていますが、急場の判断ミスで死亡事故が起き続けているのが現実です。

事故に遭うのは、ベテランの60代

被災者を年齢で見ると、50代以上が約6割。とりわけ60代が突出します。これは林業就業者そのものの高齢化(55歳以上が54%)を映してもいますが、就業者あたりの被災率で見ても60代は他世代の2倍ほど高い。加齢による反射神経や筋力の衰えが、事故リスクを押し上げているのです。

林業労働災害の年齢別発生 年齢階級別の被災者数を棒グラフで示す 林業労働災害 年齢別被災者数(人/年) 20代 100 30代 160 40代 200 50代 280 60代 350 70代+ 200 60代の被災者数350人/年が突出。50代以上で全体の約60%。
図2:林業労働災害 年齢別被災者数(出典:厚生労働省「労働災害発生状況」概算)

面白いのは、世代によって事故の理由が違うことです。20〜30代は経験不足からくるかかり木処理ミスやチェーンソーの不慣れ。40〜50代は熟練ゆえの油断や無理な姿勢。60代以上は身体能力の低下に加え、長年しみついた「いつものやり方」への慣性。だから安全教育も一律ではなく、世代別に設計する必要があるわけです。

小さな現場ほど危ない

もうひとつ見逃せないのが、事業体の規模による差です。下の表のとおり、1〜4人の零細現場では千人率30〜35なのに対し、50人以上の大規模事業体では15〜18と半分以下。安全管理体制、教育頻度、機械化投資、そして安全衛生委員会の設置義務——大きい事業体ほどこれらが整っているからです。

事業体規模 千人率 事業体構成 特徴
1〜4人 30〜35 約40% 家族経営・個人事業主
5〜9人 27〜30 約20% 小規模法人
10〜29人 24〜26 約25% 地域中堅事業体
50人以上 15〜18 約5% 大規模法人・森林組合

ところが日本の林業事業体約8,000社のうち、6割は10人未満の零細。最も危険な規模に最も多くの事業体がぶら下がっている——これが業界全体の災害率を押し上げている構造です。

日本24.7、ドイツ8.0、北欧は3〜4

では、これは「林業だから仕方ない」のでしょうか。国際比較がその答えを示します。同じ千人率で、ドイツは8.0、アメリカは6.5、スウェーデンは4.0、フィンランドは3.5。日本は先進国で最悪です。北欧との差を生む最大の要因は、機械化率です。北欧はハーベスタ・フォワーダの導入率が95%以上で、伐倒も搬出もほぼ運転席のなかでの作業。立木に身体が触れる場面そのものがありません。

対する日本の機械化率は約60%(事業体ベース)。差は歴然です。北欧並みの完全機械化には、路網整備(北欧は100m/ha、日本は20m/ha程度)と急傾斜地用機械の普及が前提で、10〜20年がかりの長期投資が要ります。逆にいえば、千人率を北欧水準に近づける道筋ははっきりしている。機械化と路網整備こそが、安全対策の本丸なのです。

減ってはいる。でも、まだ遠い

救いもあります。年間死亡者数は1990年代の60〜80人から、2020年代には25〜35人へと大きく減りました。安全衛生規則の強化、チェーンソー・刈払機の特別教育義務化、防護衣やフルハーネスの普及、そして機械化による危険作業の置き換え——これらが効いています。2022年には伐木作業時の保護衣(チャップス等)着用が完全義務化されました。

ただし、千人率(就業者あたりのリスク)の改善幅は限定的です。死亡数が減ったのは、就業者数そのものが縮んで分母が小さくなった面も大きい。一人ひとりが背負うリスクは、依然として高いままなのです。山間部では救急搬送に45〜90分、急峻地では2時間超かかることもあり、現場での止血や心肺蘇生といった応急処置スキルや、ドクターヘリの活用が救命率を直接左右します。

林野庁と厚労省は、千人率24.7を10年で半減させ、2030年に15〜18を目指すロードマップを描いています。機械化率を80%以上へ、世代別の安全教育、2人組作業の徹底、応急処置体制の整備。労働災害の多さは、若者が林業を敬遠する最大の理由でもあります。安全を高めることは、そのまま担い手を呼び込むことにつながる——林業の安全対策は、産業そのものの未来を握っているのです。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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