航空レーザ測量(ALS)|全国整備率95%の達成と運用

航空レーザ測量(ALS) | Forest Eight

飛行機やヘリコプターから森に向かってレーザーを浴びせ、木の高さや地面の形を3次元でまるごと測ってしまう──そんなSFのような技術が、いまや日本の林業の屋台骨になっています。それが航空レーザ測量(ALS)です。林野庁は2014年から都道府県の整備を支援してきて、2024年時点で私有林人工林の整備率はなんと95%超、面積にして約650万ha。たった10年で全国をほぼ覆いきった計算です。「山を一本一本歩いて測る」時代から「空から面で把握する」時代へ。ここでは、その仕組みと、何ができるようになったのかを、なるべくかみ砕いて見ていきます。

目次

レーザーで森を3層に分けて測る

ALSは航空機やヘリに積んだレーザスキャナから、毎秒10万〜30万発ものパルスを地表に撃ち込み、跳ね返ってくるまでの時間で距離を測る技術です。飛行機の位置や姿勢はGNSS(衛星測位)とIMU(慣性計測装置)で正確に押さえているので、一発一発の点を地図の座標にきっちり置き直せます。面白いのは、森の中では1本のレーザーが「樹冠のてっぺん」「葉のあいだの中層」「地面」と階層的に跳ね返ってくること。おかげで、木の表面と地面の形を一度に測れてしまうんです。

ALSの計測原理と森林データ取得 航空機からレーザパルスを照射し、樹冠と地表面を同時計測する原理 航空レーザ測量(ALS)の計測原理 航空機 高度1,000〜3,000m レーザパルス10〜30万発/秒 人工林(樹冠表面) 地表面(DEM) 3層パルス取得 ファースト:  樹冠表面 中間:  中層・下層 ラスト:  地表面 解析出力: DCHM(樹高) DEM(地形) DSM(表面) 本数密度 蓄積 傾斜・微地形
図1:航空レーザ測量(ALS)の計測原理

こうして集めた点の集まり(点群)から、3つの基本データが生まれます。地面だけを抜き出した「DEM(数値標高モデル)」、木や建物を含む表面の「DSM(数値表面モデル)」、そしてDSMからDEMを引き算した「DCHM(樹冠高モデル)」=つまり木の高さの分布です。この3つを土台に、本数密度や材積、傾斜といったさまざまな情報が引き出されていきます。

データプロダクト 定義 主用途 解像度
DEM(数値標高モデル) 地表面の標高データ 地形解析、路網計画、災害評価 0.5〜1mグリッド
DSM(数値表面モデル) 樹冠・建物含む表面標高 樹冠表面の解析 0.5〜1mグリッド
DCHM(樹冠高モデル) DSM−DEM、樹高分布 樹高推定、林相区分 0.5〜1mグリッド
本数密度マップ 1ha当たり立木本数 本数管理、間伐計画 10〜25mメッシュ
蓄積マップ 1ha当たり材積 森林経営計画、収穫予測 10〜25mメッシュ
傾斜・斜面方位マップ 地形の3次元解析 路網計画、災害評価 0.5〜5mグリッド

10年で10%から95%へ

林野庁の支援が本格化したのは2014年の「森林資源情報量整備事業」から。私有林人工林を対象に、都道府県を実施主体として事業費の半分を補助する形で、10年計画で一気に進めました。整備率は2014年の約10%から、2018年に50%、2022年に85%、そして2024年には95%超へ。下のグラフのように、きれいな右肩上がりで全国を覆いきりました。1haあたりのコストは3,000〜10,000円(地形や面積で差)、累計の事業費はおよそ500億円規模。残る5%は離島や複雑な地形などで、2026年頃の完了を目指しています。

ALS整備率の推移 2014年から2024年までの整備率推移 私有林人工林ALS整備率の推移(%) 100 75 50 25 0 2014 2016 2018 2020 2022 2024 10% 25% 50% 70% 85% 95%超 2014〜2024年で10%→95%超に到達。10年で全国整備が概ね完了
図2:ALS整備率の推移(概算)

どこまで正確に測れるのか

「空から測って、本当に当たるの?」というのが気になるところ。実は、地上での林分調査(プロット調査)と回帰モデルで校正することで、かなりの精度が出ます。木の高さは実測との差が±1m以内、本数密度は±5〜10%、材積(蓄積)は±5〜15%。スギやヒノキのように一種類で整然と植わった人工林は特に精度が高く、いろいろな木が混じった天然林は少し落ちる、という傾向があります。

解析項目 標準精度 主要解析手法
樹高(DCHM) ±1m以内 DSM−DEM差分、ピーク検出
本数密度 ±5〜10% 個別木検出、ピーク密度
蓄積(材積) ±5〜15% 樹高×本数×断面積回帰
樹種・林相区分 80〜90%精度 点群形状・樹高分布の特徴量
傾斜・斜面方位 ±0.5度以内 DEM解析、3次元勾配計算

森のあらゆる仕事に効いてくる

ALSのデータは、いまや林業のいろんな場面で使われています。間伐計画を立てるための蓄積把握、所有者不明森林の境界確認、作業道をどこに通すかの最適化、伐ったあとの製材歩留まり予測、土砂崩れリスクの評価、そして森林吸収量を見積もってJ-クレジットを申請する──ざっと挙げただけでも6分野以上。これまで現地を歩いて経験と勘で判断していた仕事を、面的な数字で裏づけられるようになったのが大きな変化です。

活用分野 具体内容 担当主体
森林経営計画 蓄積・本数・林齢分布の把握、間伐計画 市町村・森林組合
所有境界・地番図整備 所有者不明森林の境界確認、地番図の精度向上 市町村・林務担当
路網計画・施業計画 森林作業道・林道の最適配置 森林組合・素材生産業者
木材歩留まり予測 立木材積から製材歩留まりを予測 素材生産業者・製材業者
災害リスク評価 地すべり・崩壊リスク、流域防災評価 都道府県・砂防事業者
炭素ストック評価 森林吸収量の精緻化、J-クレジット申請 都道府県・森林組合

整備されたデータは、林野庁の「J-FOREST」というクラウド基盤を通じて全国で共有されつつあります。森林組合や自治体、研究機関がWeb GIS形式で閲覧・ダウンロードできる仕組みで、一部はオープンデータ、一部は事業者向けの有償データという形で運用されています。林業のバリューチェーン全体でデータを使い回せる土台が、ようやく整ってきたわけです。

空・上空・地上を組み合わせる時代へ

ALSは広い範囲を一気に測るのが得意ですが、それだけでは粗い部分もあります。そこで近年は、ドローンに積んだUAV LiDAR(より低空・高解像度)や、地上に据える地上LiDAR(TLS、木の幹形や直径をミリ単位で計測)を組み合わせる流れが進んでいます。広域はALS、中くらいの範囲はドローン、一本一本はTLS──と段階的にズームインしていくイメージです。

計測手法 解像度・点群密度 主用途
ALS(航空機・ヘリ) 0.5〜1mグリッド、4〜10点/m² 広域・全国整備、森林経営計画
UAV LiDAR(ドローン) 10〜30cmグリッド、100〜500点/m² 小面積精緻把握、個別森林
TLS(地上LiDAR) ミリ単位、100万点/木 個別木材歩留まり、形質計測
衛星LiDAR(GEDI等) 25mグリッド、希薄 大陸規模の樹高分布、温暖化研究

整備率95%超というのは、実は世界的に見てもトップクラス。しかも10年というスピードで達成した点が高く評価されています。これからの10年は、10年サイクルでの更新をどう維持するか、AI・機械学習で個別木の検出や樹種判別の精度をどこまで高められるか、そしてJ-FORESTを軸にデータ連携をどこまで深められるか、が焦点です。空・上空・地上・衛星をつないだ「森林データインフラ」が、林業だけでなく防災や気候変動対策の共通基盤になっていく──そんな未来が、もう手の届くところまで来ています。

よくある質問

Q. ALSデータは誰が入手できますか?

各都道府県の森林環境課・林務課が管理し、市町村・森林組合・素材生産業者・コンサルタント・研究機関にライセンス契約で提供されます。一部はJ-FORESTでオープンデータとして公開され、誰でも閲覧・ダウンロードできます。商用利用や再加工の条件はデータ取扱要領で定められています。

Q. 整備コストは誰が負担するのですか?

林野庁の事業で事業費の50%を補助し、残りは都道府県(一部市町村)が負担します。1haあたり3,000〜10,000円というコストは、10年以上使えるデータの価値を考えればかなり安い水準です。

Q. 残り5%の未整備地域はいつ完了しますか?

離島や国有林の一部、北アルプス・北海道道東などの複雑な地形が中心で、林野庁は2026年頃の完了を目標としています。飛行が難しく計測コストが高い地域のため、優先度と予算配分の調整が続いています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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