【カシワ】Quercus dentata|柏餅葉と家系不滅の縁起木、海岸防風林

カシワ(Quercus dentata)

柏餅を包む大きな葉、武家の家紋、海岸の防風林——カシワ(Quercus dentata)は、文化と海辺の生態系の両方に深く根を張ってきた木です。ブナ科コナラ属の仲間でありながら、葉が極端に大きく、しかも枯れても枝から落ちない。この一風変わった性質が、日本人との長い付き合いの鍵になっています。

気乾比重0.83(0.75〜0.90)コナラ属で最重量級葉長20-40cm(最大級)ブナ科最大葉樹高15m(10〜20m)中高木葉縁波数7-10対の波状鋸歯識別キー
図1:カシワの主要スペック(含水率がんすいりつ15%基準・代表値)
目次

とにかく葉が大きい

カシワの大きな波状鋸歯の葉
カシワの葉。長さ20〜40cmとブナ科で最大級で、ふちは鋭い鋸歯きょしではなくゆったりした波状。葉柄ようへいが2〜5mmと極端に短く、葉が枝に直接ついているように見える。写真: Quercus dentata leaf by Flynnbar at English Wikipedia / CC BY 2.5, via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

カシワを見分けるのは難しくありません。なにしろ葉が20〜40cm、大きいものは50cmにもなる、日本のブナ科で最大級のサイズだからです。形は先が広がった倒卵形とうらんけいで、縁は鋭いギザギザではなく、ゆったりした波状の鋸歯が7〜10対。葉柄(軸)がわずか2〜5mmと極端に短く、葉がほとんど枝に直接ついているように見えるのも特徴です。

よく似た仲間との見分けも、この葉が決め手になります。クヌギやコナラは葉が細長く鋸歯も鋭い。同じ大葉系のナラガシワでも10〜20cm止まりで、カシワの倍近い大きさには及びません。ドングリは殻斗かくと(帽子)の鱗片りんぺんが反り返ってクヌギに似ますが、葉を見れば一目瞭然です。

枯れても落ちない葉が「家系不滅」に

カシワ最大の個性は、枯葉が翌春の新芽しんめが出るまで枝に残ること(marcescenceと呼ばれる現象)。特に若木や下枝で目立ちます。この性質が、「新しい芽=子が育つまで、古い葉=親が見守って落ちない」という連想を生み、家系が絶えない縁起木として大切にされてきました。

端午の節句に柏餅をカシワの葉で包むのは、まさにこの子孫繁栄の願いから。江戸時代中期に武家社会を中心に広まり、今では全国の行事食として定着しています。家紋の世界でも「柏紋」は代表的な紋のひとつに数えられ、土佐藩主の山内家などが用いました。神事の供物を載せる葉としても古くから使われ、『万葉集』にも「柏」「槲」として登場します。

柏餅の葉は今も食品材料として流通しています。国内でも採取・出荷されていますが、需要の多くは輸入品でまかなわれているのが実情です。

カシワのドングリと反り返った殻斗
カシワのドングリ。殻斗(帽子)の鱗片が反り返るのはクヌギとよく似ているが、葉を見れば取り違えることはない。写真: Quercus dentata – Dawes Arboretum – DSC02842 by Daderot(CC0), via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

コナラ属でいちばん重い部類の材

木材としてのカシワは、コナラ属の中でも飛び抜けて重いのが身上です。気乾比重きかんひじゅうは0.75〜0.90(代表値0.83)で、ミズナラ(約0.68)やコナラを大きく上回り、最重量級のクヌギに次ぐクラス。海岸の風衝地で育った個体は年輪ねんりんが詰まって、さらに緻密ちみつになります。

この高密度と剛性ごうせいを活かして、昔から鍬や鋤の柄、木刀、家具の脚部などに使われてきました。木刀は本来シラカシやアカガシが主流ですが、カシ類が手に入りにくい寒冷地ではカシワが代役を務めました。柾目まさめ板には虎斑(とらふ)と呼ばれる美しい縞模様が出て、米国産ホワイトオークに匹敵する意匠性があり、「ジャパニーズ・ホワイトオーク」として家具材かぐざいに使われることもあります。

カシワと主要針葉樹の力学特性プロファイル気乾比重曲げ強度圧縮強度せん断強度耐朽性ヤング率 カシワ スギ ヒノキスギを基準とした相対値(外側ほど高性能)
図2:カシワとスギ・ヒノキの力学特性りきがくとくせい比較
カシワが立ち並ぶ十勝の平地林
カシワの林(北海道中札内村・中札内美術村)。十勝の平地林ではカシワが優占することが多く、この一帯も既存のカシワ林を活かして整備されている。写真: 131013 Nakasatsunai Art Village Hokkaido Japan00s3 by 663highland / CC BY 2.5, via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

潮風に耐える、海岸の守り手

カシワは、塩を含んだ風や乾燥に耐えられる数少ない広葉樹こうようじゅです。葉の表面のクチクラ層が厚く、葉裏の星状毛せいじょうもうが塩分の侵入を防ぐ。深い直根で砂地にもしっかり根を張ります。だから北海道から九州まで、海岸の防風林・防潮林の重要な構成種となってきました。北海道の砂丘では、強風で背が低く刈り込まれた「カシワ風衝低木林」が天然記念物に指定された地区もあります。

2011年の東日本大震災は、この木の価値を改めて見直すきっかけになりました。クロマツだけの単一林が津波で大きな被害を受けたことから、林野庁の海岸防災林づくりでは、マツの後背にカシワやタブノキなど多様な広葉樹を混ぜて植える方式が標準に。津波の流速をやわらげる効果が期待され、痩せた砂地でも育つカシワは混交林の主役の一つになりつつあります。

カシワの主用途1柏餅葉2家具・農具3薪炭・原木4武具・木刀5海岸防風林
図3:カシワの主用途

気をつけたい「ナラ枯れ」

近年、コナラ属を悩ませているナラ枯れ(カシノナガキクイムシが媒介する萎凋病)は、カシワにも及びます。感受性はミズナラ>コナラ>カシワ>クヌギの順で、カシワは中程度。直径30cmを超える大径木たいけいぼくが夏に急速に枯れやすいので、20〜30年周期で伐って若返らせる伝統的な萌芽更新ほうがこうしんが、結果的に予防策として有効です。萌芽力ほうがりょくが強く、伐った株から勢いよく芽吹めぶきくのもカシワの頼もしさです。

よくある質問

Q. なぜ柏餅にカシワの葉を使うの?
新芽が出るまで枯葉が落ちない性質から「家系が絶えない」縁起を担いだのが由来です。江戸時代中期に武家社会から広まりました。なお東北・北海道など柏葉が採れにくい地域では、サルトリイバラ(サンキライ)の葉を使う「いばら餅」が代わりに親しまれてきました。

Q. 庭木にできますか?
可能ですが、樹高じゅこう15m以上に育つので広い敷地が要ります。直根が強く植え替えに弱いため、最初の場所選びが肝心。縁起木として神社や記念植樹に好まれます。

Q. 寿命はどのくらい?
数百年を生き、巨樹に育ちます。各地に天然記念物として守られている古木があります。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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