森林は二酸化炭素や窒素酸化物だけでなく、近年になって存在感が増してきた大気中マイクロプラスチックの受け皿にもなっています。フランスのピレネー山中やチベット高原という人里離れた場所でも観測されたことをきっかけに、微小なプラスチック粒子が世界規模で空を旅していることがはっきりしてきました。この記事では、定義から森林の捕捉メカニズム、樹種ごとの違い、日本の取り組みまでを、できるだけかみくだいて整理してみます。
マイクロプラスチックとは何か
国際標準化機構の技術報告書 ISO/TR 21960:2020 では、粒径 5 mm 以下のプラスチック粒子をマイクロプラスチック(MP)、1 µm 未満をナノプラスチック(NP)と整理しています。製造段階から小さいマイクロビーズや樹脂ペレットを「一次 MP」、ペットボトルや漁網が紫外線や摩耗で砕けて細かくなったものを「二次 MP」と呼び、大気中では後者が主役です。
森林に降ってくる粒子は、その6〜8割が合成衣料に由来する繊維状だという報告が多く、ポリエステル(PET)由来の繊維が特に頻繁に見つかります。タイヤ摩耗、洗濯排水、海洋プラスチックの分解、農業用フィルムの劣化などが主な供給源です。
こんな山奥にも降っている
「都市部はともかく、人里離れた森林なら関係ないのでは」と思いたくなりますが、現実はそうではありません。フランス・ピレネー山中の遠隔地(発生源から95km以遠)では1日あたり365粒子/m²が観測され(Allen et al., 2019, Nature Geoscience)、北極フラム海峡の雪からは1リットルあたり最大14,400粒子が検出されています(Bergmann et al., 2019, Science Advances)。粒径10µm以下の小さな粒子はPM2.5と同じように数日から数週間も大気中に漂い、大陸をまたいで運ばれていきます。
森林がフィルターになる仕組み
大気中のMPが森林に取り込まれる経路はおおきく三つです。重力と乱流で葉や樹皮に直接届く乾性沈着、雨や雪・霧水に取り込まれて落ちてくる湿性沈着、そして山地林に特有の、雲水が直接葉に付くオクルト沈着です。屋久島や白山のように霧の多い場所では、オクルト沈着が全体の3〜5割を占める可能性も指摘されています。
捕まえる側の能力は、葉の量(葉面積指数、LAI)が大きいほど高くなる傾向があります。マツ科の針葉表面にあるクチクラワックスは粘着性が高く、繊維状MPをよく保持します。スギやコルクガシのように凹凸の大きい樹皮も物理的なトラップとして働き、平滑なブナの樹皮よりも多くの粒子を抱え込むとみられています。
研究はまだ初期段階ですが、常緑針葉樹(アカマツ・ヒノキ・スギ)は落葉広葉樹よりも大気中の微粒子を保持しやすいと考えられています。葉の比表面積、ワックス層、通年で葉を保つこと、樹皮の粗さ──この四つが効いています。とりわけスギは全国で約444万haという日本最大の人工林面積(林野庁)を持つため、国全体で見れば大きな受け皿になっているとみられます。逆に落葉広葉樹のブナやコナラは、葉を落とす冬の捕捉量がほぼゼロになります。
地域による降り方の違い
| 場所のタイプ | 主な発生源 | 粒径の傾向 |
|---|---|---|
| 都市部 | タイヤ摩耗・道路マーキング・洗濯排気 | 大粒子(>50µm)が主体 |
| 農村部 | 農業用マルチフィルム・温室被覆材の劣化 | 局地的に高濃度 |
| 山地・遠隔地 | 長距離輸送由来 | 小粒子(<20µm)が支配的 |
| 沿岸森林 | 海塩エアロゾル中の海洋由来PE/PP | 内陸より海洋由来の比率が高い |
森林の浄化機能と、その限界
樹冠で捕まえたMPは、数日から数週間で雨に流されて林床へ移り、最終的には土壌や落葉層に蓄積していきます。大気沈着量の推計値には幅がありますが、いくつかの研究の値を日本の森林面積(約2,505万ha)に当てはめると、国全体で年間おおむね数千トン規模のMPを受け止めている計算になります。
ただし、ここで大事な注意点があります。森林はMPを「分解」しているわけではなく、あくまで一時的に保管しているにすぎません。プラスチックの微生物分解には数十年から数百年という途方もない時間がかかり、伐採や撹乱があれば粉塵化して再び放出される懸念もあります。粒子がさらに細かくナノ化すると、食物網への侵入が加速する点も今後の課題です。
日本の取り組み
環境省は海洋プラスチックごみ対策の枠組みに大気経由のMPも位置づけ、都市部と遠隔地でのモニタリングを進めています。JAMSTEC(海洋研究開発機構)は観測船で太平洋上のサンプルを採取し、国立環境研究所はPM2.5と同時にMPを分析しています。大学の研究グループでは、森林の微気象観測タワーを使って樹冠を通過するMPの動きを解析する研究が始まっています。制度面でも2022年4月にプラスチック資源循環促進法が施行され、製品のリサイクル設計などが求められるようになりました。
よくある質問
Q. どの樹種が一番フィルターとして効果的ですか?
A. アカマツ・ヒノキ・スギなどの常緑針葉樹が、落葉広葉樹よりも大気中の微粒子を保持しやすいとみられています。葉のワックス層と樹皮の粗さが主な理由で、一年を通して葉をつけている点も効いています。
Q. 家庭でできる対策はありますか?
A. 合成繊維の洗濯にフィルター付きネットを使う、タイヤの空気圧を適正に保って摩耗を抑える、使い捨てプラスチックを減らす──こうした身近な行動が発生源の削減に直結します。
Q. 計測はどうやっているのですか?
A. 粒径10µm以上は顕微FTIR(μFTIR)、1〜10µmはラマン分光、それより小さい領域やポリマーの質量定量には熱分解GC-MS(PyGC-MS)を組み合わせます。森林試料は腐植質が多く前処理が難しいため、手順の標準化が進められています。
- 環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」
- 海洋研究開発機構(JAMSTEC)
- Allen et al., 2019, Nature Geoscience 12, 339–344
- Bergmann et al., 2019, Science Advances 5, eaax1157
- Brahney et al., 2020, Science 368, 1257–1260
- Wang et al., 2022, Nature Reviews Earth & Environment
- ISO/TR 21960:2020 Plastics — Environmental aspects

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