木を切ると、そこに蓄えられていた炭素はどうなるのか。燃やしたり腐らせたりすれば大気にCO2として戻りますが、柱や梁、家具や紙として「使い続けている間」は、炭素は製品の中に閉じ込められたままです。この、伐採後の木材製品に固定された炭素のことをHWP(Harvested Wood Products、収穫木材製品)と呼びます。森林がCO2を吸収するだけでなく、伐った木が社会の中で炭素を持ち越してくれる――その効果をどう数える のかを、この記事で整理します。
製品によって炭素の「持ち時間」が違う
HWPの面白いところは、同じ木でも何に加工するかで炭素を抱えていられる長さがまるで違う点です。目安となるのが半減期――投入された炭素の半分が大気に戻るまでの年数で、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が国際標準値として示しています。製材は約35年、合板は25年、そして紙はわずか2年。住宅の柱として使われる製材は数十年単位で炭素を抱え込みますが、新聞や段ボールはあっという間に役目を終えてしまうわけです。
さらに長持ちするのが、近年広がるCLT(直交集成板)や集成材、LVLといったエンジニアードウッドで、半減期は40〜50年。中高層の木造ビルや大スパン構造に使われ、鉄やコンクリートを置き換えながら、製造時のCO2排出を抑えつつ長く炭素を固定します。同じ1m³の木でも、紙にするか大型建築の構造材にするかで、気候への貢献は桁違いに変わってきます。
「半減期」を時間軸で見る
IPCCは一次減衰(first-order decay)という単純な減り方のモデルを使います。投入した炭素は N(t) = N(0) × exp(−k×t)、k = ln2 ÷ 半減期 で時間とともに減っていく、という考え方です。製材100万t-Cを投入すれば、35年後に半分、70年後にさらにその半分が残る計算になります。製品ごとの残存率を並べると、その差が一目で分かります。
| 経過年数 | 製材(35年) | 合板(25年) | 紙(2年) |
|---|---|---|---|
| 1年 | 98% | 97% | 71% |
| 5年 | 91% | 87% | 18% |
| 10年 | 82% | 76% | 3% |
| 35年 | 50% | 38% | — |
| 100年 | 14% | 6% | — |
紙が10年でほぼ消えてしまうのに対し、製材は100年後でも1割以上が残る。建築物に木を使い、それを長く使い続けることが、いかに炭素管理として効くかが分かります。
日本のHWPは年1,000万t-CO2、累積4億t-CO2
日本のHWPによる年間の正味吸収量は、2023年度でおよそ1,000万t-CO2。これは森林そのものの吸収量(約4,800万t-CO2)に上乗せされる分です。中心は製材と紙で、製材は長く貯め込み、紙は流量が大きいぶん差し引きでまとまった寄与になります。
そして1990年からの累積で社会の中に「在庫」として残っているHWPは約4億t-CO2。日本の森林全体に固定された炭素(約45億t-CO2)の1割近くにあたり、決して無視できない規模です。算定は京都議定書の第2約束期間(2013年〜)から標準化された「生産アプローチ」(自国で生産した木材製品の蓄積を数える方式)に基づいており、日本やEU、カナダが採用しています。
長く使う・また使う――効果を伸ばす工夫
HWPの効果を最大化する鍵は、突き詰めれば「木をなるべく長く社会に留めること」です。具体的には二つの方向があります。
ひとつは建築物の長寿命化。日本の住宅の平均寿命は約30年で、欧州の80〜100年、米国の55年と比べて短く、その分HWPの貯蔵効果を取りこぼしています。長期優良住宅やリフォーム促進などで寿命を50年に延ばせれば、累積ストックは1.5倍以上に伸びると試算されています。
もうひとつがカスケード利用。構造材として使った木を、解体後にパーティクルボードや家具へ、最後に燃料へと段階的に活かしていく考え方です。一段階で捨てるのに比べ、1m³あたりの累積CO2固定効果は1.5〜2.5倍にまで広げられます。国産材自給率を高め(現状約42%)、地域の森から製品、建築、リサイクルまでを地域内で循環させることが、森林吸収とHWPを両輪で最大化する道筋になります。
主要出典:IPCC 2006 Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories Vol.4 Chapter 12(HWP)、環境省「温室効果ガスインベントリ報告書」(2025年版)、林野庁「木材需給」(2023)、日本CLT協会データ。

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