2020年の豪州ブラックサマー火災では1,860万ha、2023年のカナダ山火事では過去最大の1,840万haが焼失しました。黒く焦げた大地を見ると、森が戻るには気の遠くなる時間がかかるように思えます。けれど、その焼け跡の地中では、すでに再生の準備が始まっています。鍵を握るのが菌根菌──木の根と共生してリンや水を運ぶ菌類です。多くの外生菌根菌(ECM)は火災の熱で死んでしまいますが、一部は耐火性の胞子や深い菌糸、硬い菌核で生き延び、芽生えたばかりの稚樹といち早く手を結びます。この共生がどれだけ早く再構築されるかが、森林回復のスピードと質を左右するのです。
火災は土の中で何を起こすか
山火事は土壌の温度を一気に押し上げます。ただし、その熱は深さによって大きく違います。地表0〜2cmは100〜500℃、樹冠火では瞬間的に700℃を超えることもあり、ここではほぼ全生物が死滅します。2〜5cmでも60〜150℃に達し、タンパク質が変性する55〜70℃を超えるため、栄養菌糸はほぼ消えてしまいます。ところが5〜10cmまで下がると30〜80℃、10cmより深ければ10〜30℃にとどまり、多くの生物が生き残ります(Neary et al. 1999, USDA-FS)。耐火菌の運命は、この「深さ」にかかっています。土壌の含水率が30%以上あると、蒸発冷却で深部の温度上昇が3〜5割抑えられるため、乾季や乾燥年の火災ほど菌根菌の損失は深刻になります。
外生菌根菌の多くは表層10cm以内に暮らしているので、火災で大きな打撃を受けます。群集の変化は地域や火災強度で異なりますが、おおまかには次の道筋をたどります。火災直後に種数が80〜95%も急減し、その後1〜3年でRhizopogonやWilcoxinaといった耐火種がパイオニアとして急増。5〜20年かけて周辺の残存林から胞子や菌糸が侵入して多様性が戻り、元の群集に近づくまでには数十年から100年以上かかることもあります。なかには完全には戻らないケースもあると報告されています(Tedersoo et al. 2014, Science)。
火に耐える菌たちの戦略
火災を生き延びられる菌は、それぞれ工夫をこらしています。Glassman et al. (2016, ISME Journal) が約200試験地のデータを解析したところ、火災後に優占する菌には属レベルではっきりした傾向が見られました。代表的な耐火種を整理したのが下の表です。
| 属 | 耐火戦略 | 主要宿主 |
|---|---|---|
| Rhizopogon | 深部の地下子実体(5-30cm)・厚壁胞子・50年以上の休眠 | マツ類 |
| Pisolithus | 厚壁胞子(1子実体に数百万)・耐乾燥 | 広範(マツ・ナラ・ユーカリ) |
| Suillus | 深部菌糸・マツへの高い宿主特異性 | マツ類 |
| Cenococcum | 硬質菌核・70℃耐熱・極端な耐乾燥 | 極めて広範(500種以上) |
| Wilcoxina | 早期定着・苗床由来の共生 | マツ・トウヒ |
なかでも面白いのがRhizopogonの哺乳類散布です。地下にできる子実体(トリュフのような形)を、リスやシカネズミ、トガリネズミが掘り出して食べ、糞とともに胞子をまき散らします。北米モンタナ・オレゴンの火災跡では、1ha当たり年間10万〜100万個の胞子が小型哺乳類によって運ばれることが示されました(Maser et al. 1978以降)。火災後の早い時期に稚樹へ供給される接種源として、これは非常に重要です。またCenococcum geophilumは、70℃30分の処理後も発芽できる硬い菌核を持ち、単一の「種」ではなく世界で50系統以上が知られる種複合体で、系統ごとに火災耐性が違うこともわかっています。
火災跡の土でめぐる主役交代
火災直後の土壌では、菌類だけでなく微生物全体が劇的に入れ替わります。米国アリゾナのポンデローサ松林を10年追跡した研究(Hart et al. 2005)によると、火災後0〜3か月で細菌バイオマスは8割、真菌は9割以上が減少し、ほぼ無菌に近い「焼け土壌」が生まれます。灰由来のカルシウム・カリウム・マグネシウムが補給されてpHが1〜2上昇するのも特徴です。
その後3〜12か月のあいだに、芽胞を作る好熱性細菌や耐熱性のカビが一時的に優占し、火災跡に特有のpyrophilous fungi(好火性菌)──Pyronema、Anthracobiaといったチャワンタケ目──が焦げた地表にきのこを出します。1〜3年でようやく耐火ECMがマツ稚樹と共生を始め、土壌の窒素循環は腐生菌依存から菌根依存へと切り替わっていきます。真菌の回復ぶりはエルゴステロール濃度で測れて、直後は検出限界以下、3〜5年で健全林の3〜6割、10年でかなり戻る、というのが典型的な経過です。
樹種で違う立ち直り方
火災後にどう森が戻るかは、宿主となる樹種に強く左右されます。マツ類は耐火樹種の代表格で、厚いコルク質の樹皮で母樹が生き延び、熱で開く球果(serotinous cone)から種子をまきます。RhizopogonやSuillusと特異的に共生し、植栽1年で菌根感染率が6〜9割に達します。ナラ類は地上部が枯れても根が生きていて萌芽再生し、ECMネットワークごと保持するのが強み。地中海のコルクガシで典型的です。豪州固有のユーカリ類は地下の休眠芽(リグノチューバー)から再生し、PisolithusやSclerodermaと組みます。日本ではアカマツが火災後再生の代表で、SuillusやRhizopogonと共生します。一方、スギ・ヒノキは火災耐性が低く、再生はほぼ植栽頼みです。
菌根接種という応用技術
こうした耐火菌の力を、人の手で再生に活かすのが菌根接種(mycorrhizal inoculation)です。耐火ECM(Rhizopogon、Pisolithus、Suillusなど)の培養菌や胞子懸濁液を、苗畑での種子コーティングや植栽時の根圏処理で苗に付けておくと、稚樹は最初から共生相手を得た状態で根づきます。とりわけPisolithus tinctoriusは培養が容易で、商用接種剤として世界的に普及しています。
効果は明確で、苗木の活着率・成長率が20〜50%向上します。コロラドの2002年Hayman火災跡(5.5万ha焼失)の再生では、接種を併用した区画で植栽5年後の活着率が無接種比32%向上、樹高成長は28%向上を記録しました(Cline et al. 2007)。同様の効果はカリフォルニアのCamp Fire跡やオレゴンのLabor Day Fires跡でも確認されています。コストは1haあたり3〜30万円ほどで、早期成林による経済効果はそれを大きく上回ります。ただし注意点もあり、できれば地域固有の菌株を使うこと(商用株の多用は遺伝的多様性を下げるリスクがある)、土壌のpHや水分で効果が変わること、長期効果は現場ごとに検証が必要なことは押さえておきたいところです。
気候変動が変える火事と森の関係
気候変動で山火事の頻度と強度が増し、この研究の重要性は年々高まっています。人為起源の気候変動が1984〜2015年の米国西部の火災面積を約2倍にしたという推定もあります(Abatzoglou & Williams 2016, PNAS)。問題は単に面積だけではありません。樹冠火が増えて土壌深部まで熱が及び、耐火種でも生き残れない状況が出てきていること。そして火災の間隔が短くなり、菌根菌群集の回復が追いつかないまま再び燃える「再火災」で、森林が草地へと転換してしまう例も報告されていることです。北米西部の15年データでは、3割超の火災跡でマツ類の再生が失敗したとされています(Stevens-Rumann et al. 2018)。
こうしたなか、火災の発生を前提に樹種選定・菌根接種・林分構造を組み立てる「climate-smart restoration」の考え方が広まっています。耐乾燥・耐熱の苗木と耐火菌根菌を組み合わせる最適化が進み、火災後土壌の環境DNA解析(ITSアンプリコン)で菌類群集の動態を網羅的に追う研究も加速しています。
日本での状況と、これからの課題
日本は湿潤で大規模な山火事が比較的少なかったため、菌根菌再生の研究蓄積も限られていました。ところが2017年の群馬県、2019年の長野県、そして2025年の岩手県大船渡(過去最大級の約2,900ha焼失)と、近年は火災規模が拡大しています。乾燥傾向が進めば、これまで「稀なこと」だった火災が将来の課題に変わる典型例で、FFPRI・北海道大学・京都大学などで研究が始まっています。所有山林を持つ方にできることは、落葉や枯死枝を整理して燃料負荷を下げること、防火帯を保つこと、自治体や林業組合と連携すること。そして再生の場面では、菌根接種苗や気候適応樹種の導入が将来の選択肢になっていきます。
よくある質問
すべての外生菌根菌が火に耐えられるの?
いいえ。耐火戦略を持つのはRhizopogon・Pisolithus・Cenococcum・Wilcoxina・Suillusなど限られた属です。RussulaやCortinarius、Amanitaといった多くの種は火災で消え、30〜100年かけて周辺から少しずつ戻ってきます。
焼け跡で菌根菌が見つかるのはいつ頃?
火災後数か月で耐火種の菌糸が活動を再開し、半年〜1年できのこ(子実体)が観察できます。Rhizopogonは地下にできるので目視は難しいですが、リスやネズミの掘り跡が手がかりに。Pisolithusは黒褐色の角質の子実体を地表に出すので、見つけやすい指標種です。
山火事は森にとって絶対的な悪なの?
そうとも言い切れません。低〜中強度の火災は、多くの生態系で栄養循環の促進や燃料蓄積の低減など、むしろ必須の撹乱として働いてきました。問題なのは、気候変動や燃料の蓄積によって生じる異常な高強度のメガファイアのほうです。
焦土の下で続く営み
真っ黒に焼けた山を見ると、すべてが失われたように感じます。けれど地中深くでは、厚い壁を持つ胞子や硬い菌核が熱をやり過ごし、リスが運んだ胞子が芽生えを待ち、やがて稚樹の根とそっと手を結びます。森が戻るかどうかは、この目に見えない共生がどれだけ早く立ち上がるかにかかっています。気候変動で火災が激しさを増すいま、耐火菌を理解し、接種という形でその力を後押しする取り組みは、焼け跡を森へと導くための確かな一歩になっていくはずです。

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