HoHo Wien(ウィーン)─欧州最大級木質ハイブリッド24階

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「Holz Hochhaus(木の高層)」を略してHoHo(ホーホー)。ウィーン東部の新興地区Seestadt Aspernに2019年に立ち上がったこのタワーは、地上24階・高さ84mという欧州最大級の木造ハイブリッド高層建築です。竣工当時、ノルウェーのMjøstårnet(85.4m)とほぼ肩を並べ、「木で高層ビルが建つのか」という問いに一つの答えを出しました。設計は地元ウィーンのRüdiger Lainer + Partner、構造は木・鋼ハイブリッドを得意とするWoschitz Group、発注はデベロッパーのCetus Baudevelopment(旧Kerbler)です。

竣工2019ウィーン規模24階84 m全高延床19,500総床面積木材比率75%対全構造重量
図1:HoHo Wienの主要諸元
目次

「木材75%」の正体

HoHo Wienを語るとき必ず出てくるのが「木材75%」という数字です。これは建物全体の質量ではなく、構造躯体の重量に占める木材の比率を指します。エレベーターや階段、設備シャフトをまとめたコアは鉄筋コンクリート(RC)で固め、ここで耐震と剛性、そして火災時の避難経路を一手に引き受ける。その周りをBSH集成材の柱梁とCLT床が囲む――という構成です。

ウィーンは地震がほとんどない土地なので、24階の高さでは地震よりも風が効きます。だからこそ、RCコアでがっちり剛性を稼ぐやり方が経済的に理にかなう。柱梁と床は工場でプレファブ化した乾式工法なので軽く、現場での組み立てが速い。実際、地上躯体の建方はわずか約8ヶ月で、同規模のRC建築の7割ほどの期間で立ち上がりました。

要素 素材 役割
コア(EV・階段・設備) RC 耐震・剛性・耐火避難経路
柱・梁 BSH集成材(燃えしろ付) 鉛直・横架の主要構造
床スラブ CLT+RC合成(200mm前後) 面内剛性・遮音・防火
外壁 木質プレファブパネル 外装・断熱・気密
基礎・地下 RC 地中躯体・耐水
構造重量に占める木材/RCの内訳(HoHo Wien)木材 75%RC 25%主にBSH集成材柱梁・CLT床・木質パネル外壁RCはコア・基礎・床合成スラブの一部に集中配置炭素貯留(推定):約 2,800 tCO₂eq※構造材使用量から概算
図2:木材/RCの内訳と推定炭素貯留量

使われた木は、地元のトウヒ

主役の木材はオーストリア・トウヒ(Picea abies、ノルウェー・スプルース)。中欧の山岳地帯に広く育ち、構造用集成材とCLTの定番樹種です。使用量はおよそ3,600m³。調達はオーストリア国内と隣接する独・スロベニアが中心で、PEFCやFSCの森林認証材が使われています。柱梁にはBSH集成材、床と一部壁にはCLT(Mayr-Melnhof、Stora Ensoなど)、高強度部位にはLVL、という使い分けです。

この木の中に固定された炭素は推定約2,800 tCO₂eq。建物が建っている限り、それだけの炭素が大気から隔離され続ける計算になります。LCA研究によれば、建設時の温室効果ガス排出は同規模RC建築よりおよそ40%低いとされています。ただし「カーボン・ネガティブ」と言い切るには、伐った森をきちんと再造林することが前提――その点も含めて評価すべき数字です。

1棟にホテルもオフィスも住戸も

HoHo Wienのもう一つの面白さは、1棟の中に用途が縦に積み重なっている垂直ミクストユースです。低層に公共スペースとショップ、その上にレストランやウェルネス、中層は約160室のホテル、さらに上はオフィス、最上部は住戸――というように、フロアを上がるごとに建物の役割が変わっていきます。

欧州の大型オフィスビルでは珍しい構成ですが、運用面では需要のリスク分散として効きました。コロナ禍でホテルやオフィスの空室が増えても、住戸やレストランが収益を支える。竣工後数年で各用途の入居率は90%超と高水準を保ち、「木造」というブランド価値がテナント獲得を後押ししたと評価されています。

24階を木で建てる――最大の壁は「火」

木造高層で一番厳しいのは、構造でもコストでもなく防火です。HoHo Wienは欧州基準の耐火等級R90(90分耐火)を達成しました。これはRC建築と同じ水準で、同じ安全性を木造ハイブリッドで実現したことが認証取得の最大のハードルでした。

支えているのは多層の防御です。木は表面から炭化していくため、その炭化分(R90で約60mm)をあらかじめ太く見込んで断面を残す燃えしろ設計。避難動線はRCコアで耐火構造に。共用部の柱梁は石膏ボードで被覆し、全館にスプリンクラー、煙制御システムも装備する。さらに構造ディテールは実大規模の火災試験で挙動を確認しています。これらはオーストリア木材研究所(Holzforschung Austria)などと連携して検証され、後続の木造高層プロジェクトの参照モデルになりました。

欧州の木造高層ラッシュの中で

HoHo Wienは孤立した作品ではなく、2015〜2021年に欧州・北米で一気に集まった中高層木造化の潮流の一部です。同時期の代表例と並べると、その立ち位置がよく見えます。

プロジェクト 所在・竣工 高さ 構造
HoHo Wien ウィーン・2019 24階 84m 木材75%+RCコア
Mjøstårnet ノルウェー・2019 18階 85.4m 純木造に近い
Brock Commons カナダUBC・2017 18階 53m 木造柱梁+RCコア
Sara Kulturhus スウェーデン・2021 20階 75m 純木造

Mjøstårnetが純木造を志向し、Sara Kulturhusが文化施設、Brock Commonsが学生寮という単機能なのに対し、HoHo Wienの個性は複合用途・大規模・商業ベースという点にあります。「木造高層は採算が取れる」ことを実地で示したベンチマークとして、欧州各国の後続プロジェクト(ロンドン、ベルリン、パリなど)に広く参照されています。

もちろん課題も残ります。EU内で各国の防火基準が異なり設計のたびに個別評価が要ること、実大火災試験のコスト、長期メンテナンスの経年データがまだ蓄積途上であること――。HoHo Wien自身が、その答え合わせのリファレンスになっていくはずです。

よくある質問

Q. 一般人もホテルとして泊まれますか?

はい。IntercityHotelなどのチェーンが入居しており、通常の予約サイトから宿泊できます。約160室で、木質感のある内装を体験できます。ロビーやレストランなどの公共エリアも自由に訪問できます。

Q. 日本に同規模の事例はありますか?

2026年時点で24階級の木造ハイブリッドが商業稼働している例はまだなく、Port Plusヨコハマ(11階)やFlatsWoodsなど10数階級が代表事例です。建築基準法の耐火要件と、欧州より大きな地震荷重が課題になっています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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