結論先出し
- Mjøstårnet(ミョーソタルネット、ノルウェーBrumunddal)は高さ85.4m・地上18階、2019年3月完成の世界最高純木造ハイブリッドタワー。延床11,300m²、ホテル72室・住宅33戸・オフィス・レストラン・スイミングを内包する複合用途。Voll Arkitekter設計、地元Moelven Limtre供給。
- 主要構造は外周集成材ブレースチューブ+CLTシャフト。柱は最大1,485×625mmの大断面集成材、対角材で水平荷重を受ける剛性構成。木材総量約4,000m³、CO2固定約2,300tCO2-eq、トウヒ約16,000本相当。
- 2019年CTBUH(Council on Tall Buildings and Urban Habitat)認定で世界最高木造ビルとして2022年Ascent MKE(86.6m、25階)に記録を譲るが、純木造率と地域材調達の徹底度では現時点も国際基準。Brock Commons・Treet・Sara Kulturhus等の北欧高層木造プロジェクト群と並んで世界の規制議論・設計手法の参照軸。
Mjøstårnetは2019年3月にノルウェー・Brumunddalに完成した、当時世界最高の純木造高層ビル。Voll Arkitekter(設計)、Sweco(構造)、Moelven Limtre(集成材製造・施工)の主要チームによる「地産地消の中大規模木造」の決定的事例。本稿ではVoll Arkitekter・Moelven・WCTE2023論文等の一次情報を整理します。
クイックサマリ:基本データ
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 正式名称 | Mjøstårnet(直訳:Mjøsa湖の塔) |
| 所在地 | ノルウェー・Brumunddal(オスロ北方約100km、Mjøsa湖畔) |
| 用途 | 複合用途:ホテル72室、住宅33戸、オフィス、レストラン、スイミングプール、屋上展望テラス |
| 高さ | 85.4 m(軒高、屋上構造物含む) |
| 階数 | 地上18階 |
| 延床面積 | 約11,300 m² |
| 構造形式 | 純木造(外周集成材ブレースチューブ+CLTシャフト+部分プレキャストRC床) |
| 集成材使用量 | 約3,500 m³(柱・梁・対角斜材) |
| CLT使用量 | 約500 m³(エレベーターシャフト・バルコニー・廊下) |
| 使用木材合計 | 約4,000 m³(トウヒ Picea abies 約16,000本相当) |
| CO2固定量 | 約2,300 t CO2-eq(木材1m³あたり0.9tCO2換算) |
| 設計 | Voll Arkitekter(オスロ/Brumunddal) |
| 構造設計 | Sweco Norge AS |
| 木材製造・施工 | Moelven Limtre AS(地元集成材メーカー、Moelv市) |
| 事業主 | AB Invest/Arthur Buchardt(民間ディベロッパー) |
| 事業費 | 約6,000万ユーロ(約95億円) |
| 着工/完成 | 2017年4月/2019年3月 |
| 木材建方期間 | クレーン1基で約9ヶ月(4月開始、12月で構造体完了) |
| 歴史的記録 | 2019年CTBUH認定 世界最高木造ビル(2022年Ascent MKEで更新) |
プロジェクトの背景と歴史的位置付け
Mjøstårnet建設の発端は2014年、地元実業家Arthur Buchardtが「Brumunddalに世界最高の純木造高層ビルを建てる」ビジョンを公表したこと。背景にはノルウェー森林産業の高付加価値化戦略、Innlandet県の集成材生産クラスター、政府のEnova・Innovation Norway支援の3要素があり、Brock Commons(カナダBC、2017)の成功事例が直接の刺激。Brock Commonsの「RCコア+集成材柱+CLT床」ハイブリッドに対し、Buchardtチームは「RCコアを使わず純粋に外周ブレース構造で世界最高を更新する」挑戦的目標を設定しました。
2019年3月竣工時、Mjøstårnetは世界最高の純木造高層建築として国際認定され、CTBUH Timber Buildings首位に。2022年Ascent MKEに記録更新されたが、AscentはRCポディウム(1-6階)を持つハイブリッドで、純木造率ではMjøstårnetが優位。欧州・北欧圏では「純木造高層の到達点」として現在も参照されています。
構造システム:外周集成材ブレースチューブの詳細
Mjøstårnetの構造の最大の特徴は、北米Mass TimberのRCコアを使わず、外周の集成材柱・梁・対角斜材だけで水平荷重を受ける純木造ブレースチューブ構造を実現した点。これは1960-70年代にJohn Hancock Center等で確立したブレースチューブ・フレームの概念を、集成材で構築した応用例です。
- 主柱(外周4面):最大1,485×625mmの大断面集成材柱、トウヒ(Picea abies)GL30c等級。1階から18階まで連続、複数本を鋼板挿入+ボルト接合で継いだ「分節柱」構成。
- 主梁・横補強:各層で柱間を結ぶ集成材梁、断面625×395~725mm程度。床荷重を主柱に伝達。
- 対角ブレース(外周4面):3-4層を1ユニットとした大型対角斜材を外周4面に配置、鉛直荷重の一部と水平風荷重を集約処理。これがMjøstårnetを「ブレースチューブ」と呼ぶ核心要素。
- エレベーターシャフト:CLT(直交集成板、5層~7層)で囲まれた「木造シャフト」。北米事例のRCコアを完全代替し、ノルウェー消防基準を満たす被覆設計を採用。
- バルコニー・廊下・階段:CLT、5層~7層構成。
- 1-10階の床:Trä8(トレオット)専用木造デッキ+音響緩衝層、純木造床。
- 11-18階の床:プレキャストコンクリートデッキ(厚さ約300mm)。重量を上層に意図的に配置することで、集成材構造体の固有振動数を下げ、人間の知覚域(約1Hz以上の風揺れ)を抑制する設計戦略。
Sweco・Moelvenの構造設計では柱頭部の鋼製インターロック金物で柱間連続性を確保。地震荷重はノルウェーが低地震域のため設計クリティカルではなく、支配は風荷重と居住性振動。上層階RC床は意図的バラストとして採用されました。
集成材生産:Moelven Limtreの工場と地域サプライチェーン
Mjøstårnetの「地産地消ストーリー」は、構造体製造を担ったMoelven Limtre AS抜きに語れません。Moelvenグループは1899年創業の北欧大手林産企業で、Limtre部門はMoelv市(Brumunddalから約15分)に集成材専用工場を構え、欧州最大級の生産能力を保有。集成材柱・梁・斜材は建設地から半径約20km圏内で製造され、輸送CO2を最小化しました。
| サプライ要素 | 仕様・調達条件 |
|---|---|
| 樹種 | ノルウェートウヒ(Picea abies、ノルウェー国内で標準的な針葉樹) |
| 原木調達 | Innlandet県(旧Hedmark/Oppland県)内の森林、PEFC認証材 |
| 製材 | Moelven Mjøsbruket等の地域製材所 |
| 集成材製造 | Moelven Limtre Moelv工場(建設地から約20km) |
| CLT製造 | Stora Enso(Ybbs/オーストリア)または地域代替供給 |
| 輸送距離 | 原木→製材→集成材工場→現場で合計100km圏内主体 |
| 木材総量 | 集成材約3,500m³+CLT約500m³=計4,000m³ |
| 原木換算 | トウヒ約16,000本(直径30cm・長さ15m級換算) |
| 森林認証 | PEFC認証(一部FSC)、ノルウェー森林信託管理基準 |
| 接着剤 | MUF(メラミン尿素フォルムアルデヒド)系、低ホルムアルデヒド規格 |
Moelven Limtre工場では最大断面1,485×625mm、長さ16mの大型部材を生産。CNC加工まで工場完了で現場加工は最小限、D-fab戦略によりクレーン1基・約9ヶ月で18階構造体の建方を実現しました。
耐火・防火設計:燃えしろ設計+スプリンクラーの多重防御
耐火性能について、MjøstårnetはBrock Commonsの「encapsulated mass timber」とは異なるアプローチを選択。ノルウェー建築基準TEK17および欧州Eurocode 5に基づく燃えしろ設計(charring design)を主軸に、スプリンクラー・コンパートメント化・避難経路冗長化を組み合わせた多重防御を構築しています。
- 燃えしろ設計:構造材の外側数cm(標準的に外周40-80mm)が炎で炭化(charring)する想定で、炭化層下の有効断面のみで構造機能を維持。EC5の標準炭化速度0.65-0.7mm/分でR180(3時間耐火)相当を達成する設計。
- R180(3時間耐火):主要柱・梁・斜材は3時間の構造維持を保証。多くのRC造高層と同等水準。
- スプリンクラー全層:NFPA 13相当の全フロア自動消火システム、初期消火による炎成長抑制。
- CLTシャフト被覆:エレベーター・避難階段のCLTシャフトには石膏ボード被覆を併用、避難経路の延焼遮断を厳格化。
- コンパートメント化:住戸・ホテル客室を独立防火区画とし、CLT壁+石膏ボード仕上げで延焼を区画内に抑制。
- 避難経路冗長化:階段室を複数系統用意し、片系統が炎・煙で使用不能でも他系統で避難可能。
- 消防車アクセス:周辺道路を消防車が高層対応はしご車を展開できる構造で整備、Brumunddal消防署と事前協議。
これらの設計はノルウェー建築当局(DiBK)の性能規定型評価を経ており、Sara Kulturhus・HoHo Wien等の欧州基準型耐火設計の参照モデルとして引用。「燃えしろ設計+スプリンクラー+コンパートメント化」3点セットは欧州系木造高層の標準ワークフローとなり、北米encapsulated一辺倒モデルと対照的なアプローチで規制議論を多元化しました。
ノルウェーの木造文化と森林産業基盤
Mjøstårnetがノルウェーで生まれた背景には、木造建築文化と発達した林産業クラスターがあります。国土の約37%が森林(約122,000km²)、年間約1,200万m³を伐採。Stavkirke(柱式教会、12世紀以降)等の伝統構法が現代まで継承され、Innlandet県はMoelven・Splitkon・Stangeskovene等が半径50km圏内に集積する集成材・CLT産業の中心地です。
| ノルウェー森林産業の主要指標 | 値(2020年代) |
|---|---|
| 森林面積 | 約122,000 km²(国土の約37%) |
| 森林蓄積 | 約9億m³(うち針葉樹約7.5億m³) |
| 年間伐採量 | 約1,200万 m³ |
| 森林認証率(PEFC) | 約75-80%(民有林) |
| 主要樹種 | トウヒ Picea abies(約45%)、ヨーロッパアカマツ Pinus sylvestris(約32%) |
| 集成材生産能力 | 欧州最大級(Moelvenグループ年産約25万m³級) |
| CLT生産能力 | Splitkon、Stora Enso等で年産10万m³規模 |
| 関連雇用 | 森林・林産業で約25,000人(一次・加工含む) |
政策面ではノルウェー政府が木造建築を推進し、Innovation Norway・Enova・Norwegian Wood Clusterが連携支援。MjøstårnetはEnovaから省エネ助成を受け、ノルウェー木造協会(Norske Tre)等もMjøstårnetを学習ケーススタディとして活用しています。
環境性能・サステナビリティ・LCA
MjøstårnetのLCA評価はNTNU・SINTEF・Moelvenが連携実施。同等規模RC・S造比で建設フェーズの埋込炭素(embodied carbon)削減効果が実証されています。
| 環境性能指標 | 値・効果 |
|---|---|
| 木材によるCO2固定 | 約2,300 t CO2-eq(木材1m³あたり0.9-1.0tCO2換算) |
| 同等規模RC造との建設フェーズCO2削減 | 約30-40%(NTNU/SINTEF試算) |
| 木材輸送距離 | 主要部材の8割以上が100km圏内、輸送関連CO2を大幅圧縮 |
| 木材認証 | PEFC認証材を主体、一部FSC |
| 接着剤 | 低ホルムアルデヒドMUF系、E1規格 |
| 解体時の再利用ポテンシャル | 集成材・CLTは部材単位で再利用・カスケード利用可能 |
| 運用エネルギー | ノルウェーTEK17省エネ基準を上回る、外皮高断熱(U値0.15-0.18W/m²K) |
| BREEAM評価 | Excellent相当の高評価(北欧版BREEAM-NOR) |
| 水力発電由来電力 | 運用フェーズの電力はノルウェー国内水力(再生可能率95%以上) |
Mjøstårnetは1棟で約2,300tのCO2を50-100年単位で固定すると評価。長期的には集成材・CLT部材のカスケード利用も視野に入り、運用フェーズはノルウェー水力発電グリッド(再生可能率95%以上)の恩恵を受け、ライフサイクル全体の炭素フットプリントは欧州平均の同種建築の半分以下とされます。
世界の高層木造ランキング(2025年時点)
| 順位 | 建築物 | 所在地 | 高さ | 階数 | 完成 | 主要構造 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Ascent MKE | 米ミルウォーキー | 86.6 m | 25階 | 2022 | RCポディウム+集成材+CLT |
| 2 | Mjøstårnet | ノルウェー Brumunddal | 85.4 m | 18階 | 2019 | 純木造ブレースチューブ+CLT |
| 3 | HoHo Wien | オーストリア ウィーン | 84 m | 24階 | 2019 | RCコア+木造柱・床ハイブリッド |
| 4 | Sara Kulturhus | スウェーデン Skellefteå | 75 m | 20階 | 2021 | 純CLT複合用途 |
| 5 | HAUT | オランダ アムステルダム | 73 m | 21階 | 2022 | RCコア+CLTハイブリッド |
| 6 | Brock Commons Tallwood | カナダ バンクーバー | 53 m | 18階 | 2017 | RCコア+集成材+CLT |
| 7 | Treet | ノルウェー ベルゲン | 52.8 m | 14階 | 2015 | 外周集成材ブレース+モジュール住戸 |
| 8 | 大林組Port Plus | 日本 横浜 | 44 m | 11階 | 2022 | 純木造耐火ラーメン |
Mjøstårnetは2019-2022年の3年間世界最高位を維持し、Ascent MKE更新後も純木造率と地域材調達の徹底度では現在も世界最高水準。Brock Commons・Treet・Ascent MKE・Sara Kulturhus等と並んで、世界の高層木造比較で必ず参照される基準点に位置付けられます。
Brock Commons・Ascent MKEとの比較
Mjøstårnetの位置付けを明確にするため、世界の代表的高層木造3件と比較整理します。
| 項目 | Brock Commons (カナダ、2017) |
Mjøstårnet (ノルウェー、2019) |
Ascent MKE (米、2022) |
|---|---|---|---|
| 高さ/階数 | 53m/18階 | 85.4m/18階 | 86.6m/25階 |
| 用途 | 学生寮404室 | 複合(ホテル・住宅・オフィス) | 集合住宅259戸+低層商業 |
| 横力主抵抗 | RCコア2基 | 外周集成材ブレースチューブ | RCポディウム+上層CLT壁+集成材柱 |
| 純木造率 | 低~中(RCコア比率大) | 高(純木造率最高水準) | 中(RCポディウム1-6階) |
| 耐火戦略 | Encapsulated(石膏ボード被覆) | 燃えしろ設計+スプリンクラー | Encapsulated+燃えしろ複合 |
| 木材総量 | 約2,700 m³ | 約4,000 m³ | 約6,000 m³ |
| 調達距離 | BC州内Penticton(約400km) | 地元Moelv(約20km) | 米国オレゴン州他(約2,500km) |
| 承認方式 | BC州Site-Specific Regulation | ノルウェー性能規定型評価 | IBC 2021 Type IV-Bベース |
| 歴史的位置 | 北米Mass Timber先駆 | 純木造高層の到達点 | 世界最高記録(現行) |
3件は異なる設計哲学を体現。Brock Commonsは「北米合理性(RCコアで横力処理)」、Mjøstårnetは「欧州純木造志向(外周ブレースで横力処理)」、Ascent MKEは「ハイブリッド(RCポディウム+上層木造)」。Mjøstårnetの選択は木造の力学的可能性を最大限引き出す挑戦的アプローチで、その後の純木造志向プロジェクト(Sara Kulturhus、住友林業W350構想等)の参照軸となり、純木造志向の質的指標として評価され続けています。
居住性能と利用者からの評価
Mjøstårnetは2019年3月竣工から運用継続中で、ホテル72室(Wood Hotel by Frich’s)、住宅33戸、オフィス、レストラン、屋内プール、屋上展望テラスが複合運営。木造空間の心理的・生理的効果はNTNU等の長期モニタリング対象で、定性・定量両面で高評価が報告されています。
| 性能項目 | 評価・実測値 |
|---|---|
| 振動(床振動) | 居住者アンケートでRC比較で「同等」、Sweco実測で1次振動数約0.5Hz以上を確保(風応答領域) |
| 遮音(住戸間) | STC 50相当以上、CLT床+プレキャストRC+浮き床の複合構成で確保 |
| 断熱(外壁) | U値0.15-0.18 W/m²K、ノルウェーTEK17を上回る高断熱外皮 |
| 気密 | プレファブ外壁パネルで高気密、年間空調負荷を最小化 |
| 木質感の認知 | 内装で集成材・CLTを意匠的に露出、「触覚的な温かみ」を高評価 |
| ホテル宿泊者評価 | 木材の調湿効果・自然素材の質感が「上質な滞在体験」として評価 |
| 集合住宅居住者評価 | 湿度安定・音環境良好、長期居住満足度が高い |
近年の木質環境医学研究では、木造空間がストレスホルモン低下・集中力改善等の効果を持つことが実証されつつあり、Mjøstårnetは大規模都市建築での実証事例。Wood Hotel by Frich’sは「世界最高の木造ホテル」として国際的観光資源となっています。
地震・風応答とノルウェーの設計環境
Mjøstårnetの設計クリティカルは地震ではなく風応答と居住性振動でした。ノルウェーは低地震域(Eurocode 8 Zone 1相当)で地震加速度は日本の数分の一、一方Mjøsa湖畔は冬季に強風(10分平均30-35m/s級)が吹く立地で、85.4m高層ビルの設計支配は風荷重と居住者知覚振動でした。
- 木材構造体の柔軟性:木造の自然な減衰特性が風応答を緩和(ξ=2-3%の減衰を期待)
- 11階以上のRC床バラスト:上層階の重量増で固有振動数を意図的に下げ、風揺れの加速度を抑制
- 外周ブレース構造の剛性:対角斜材で水平剛性を確保し、長周期側のピーク応答を制御
- 風洞試験:オランダTNOやノルウェーNTNUの風洞で実大模型試験を実施し、応答加速度・人間知覚閾値(ISO 6897)を満たす設計を確認
- 居住性振動評価:ISO 10137基準で住居・オフィス用途に適合する加速度水準(年最大値0.05-0.10m/s²)を維持
地震多発地域で同級の純木造高層を実現するには、ブレース剛性増強・接合部耐力アップ・粘性ダンパー併用等の追加設計が必要。住友林業W350・大林組Port Plus等はこうした地震対応を組み込み、Mjøstårnetの基本概念を地震域に適応させる試みとして位置付けられます。
後継プロジェクトと国際的影響
Mjøstårnetの竣工は世界の高層木造分野に強いインパクトを与え、複数の後継プロジェクトを誘発。欧州・北米のディベロッパー・設計事務所・規制当局が訪問調査し、設計データ・施工記録・耐火試験記録が後続案件の基礎資料となっています。
| プロジェクト | 所在地・完成 | 規模 | Mjøstårnetとの関係 |
|---|---|---|---|
| Ascent MKE | 米ミルウォーキー、2022 | 86.6m/25階 | 世界最高記録を更新、設計参照 |
| Sara Kulturhus | スウェーデン Skellefteå、2021 | 75m/20階 | 純CLTで複合用途、純木造志向の継承 |
| HAUT | オランダ アムステルダム、2022 | 73m/21階 | CLT住宅、北欧モデル参照 |
| HoHo Wien | オーストリア ウィーン、2019 | 84m/24階 | 同時期完成、設計手法相互参照 |
| 住友林業W350 | 東京(構想、2041年目標) | 350m/70階 | 純木造志向の延長線上、ハイブリッド型 |
| 大林組Port Plus | 横浜、2022 | 44m/11階 | 純木造耐火ラーメン、日本版到達点 |
| 万博 大屋根リング | 大阪、2025 | 外周約2km木造大架構 | 大規模木造の象徴、参照プロジェクトの一つ |
各プロジェクトはMjøstårnetの構造・防火・地域材調達ノウハウを参照しつつ、地域特性・規制環境に最適化を進めています。2020年代後半に急増する10-20階級Mass Timberプロジェクト群の事業性・施工性・耐火安全性を裏付ける一次データとして、Mjøstårnetは継続引用されています。
関連認証・補助金・支援制度
| 制度・パートナー | 内容 |
|---|---|
| Innovation Norway | ノルウェー政府イノベーション機関、Mjøstårnetを重点広報プロジェクトとして支援 |
| Enova | ノルウェー省エネ・気候助成機関、建設・運用フェーズのエネルギー効率支援 |
| Norwegian Wood Cluster | ノルウェー木造業界横断プラットフォーム、Mjøstårnetを学習ケーススタディに展開 |
| PEFC認証 | 森林認証、Mjøstårnetの集成材・CLTで取得 |
| BREEAM-NOR | 北欧版建築物環境認証、Excellent相当を取得 |
| EU Horizon | EU研究助成、関連研究プロジェクトでMjøstårnetを参照対象に展開 |
| NTNU・SINTEF | ノルウェー科学技術大学・北欧最大研究機関、長期モニタリングと設計研究を実施 |
| Norske Tre(旧Trefokus) | ノルウェー木造協会、設計指針・教材整備 |
日本でMjøstårnet級プロジェクトを実現する場合の想定制度組み合わせ:
- サステナブル建築物等先導事業(木造先導型、国交省):先進木造建築への補助
- グリーン建築物等推進事業(国交省):環境配慮建築への支援
- 木材利用促進事業(林野庁):地域材利用補助
- 森林環境譲与税の市町村活用:地域材調達支援
- J-クレジット森林管理プロジェクト:CO2固定のクレジット化
- 建築基準法の性能評価・大臣認定:高層木造の特例設計枠組み
よくある質問(FAQ)
Q1. Mjøstårnetは現在も世界最高の木造ビルですか
A. 2022年7月にAscent MKE(米、86.6m)に高さで超えられ、現時点で世界第2位。ただし純木造率・地域材調達では依然世界最高水準で、純木造志向プロジェクトの参照軸として継続引用されています。
Q2. なぜノルウェーの小さな町に建てられたのですか
A. (1) Innlandet県が集成材産業の世界的クラスター、(2) 事業主Arthur Buchardtが地元実業家、(3) Moelven Limtre工場が約20km至近、(4) 政府・Innovation Norway・Enovaの支援、の4要因の組み合わせ。地域経済振興と産業ショーケースの両面から戦略的に選定されました。
Q3. 高層階の床がコンクリート造というのは「純木造」と言えますか
A. 主要構造(柱・梁・斜材・1-10階床・シャフト・バルコニー・階段)が木材で、上層11-18階RC床は風応答制御の意図的バラスト。CTBUH認定基準でも「主構造の大部分が木造」が対象のため、「純木造高層」として広く認識されています。
Q4. 日本でMjøstårnet級の建物は建てられますか
A. 技術的に可能で、住友林業W350・大林組Port Plus・竹中工務店等の動きがあります。日本固有の課題は地震荷重・防火基準・消防アクセスの3点で、性能評価・大臣認定・燃えしろ設計+メンブレン保護・耐火集成材等で対応します。
Q5. Mjøstårnetは見学可能ですか
A. ホテル(Wood Hotel by Frich’s)宿泊・レストラン利用・1階共用部訪問でアクセス可能。エントランスホール・ロビー等は一般公開され、専門家向け見学ツアーも観光局経由で不定期開催されます。
Q6. 「純木造ブレースチューブ」とBrock Commonsの「RCコア+木造柱」はどちらが優れていますか
A. 設計目的・敷地条件・規制環境による相対評価です。Brock Commons方式は規制承認が容易・施工管理が単純な北米合理性、Mjøstårnet方式は純木造率が高く・地域材調達と相性が良い欧州純木造志向。地震荷重が小さい立地ではMjøstårnet型が成立しやすく、地震多発地域ではBrock Commons型が現実解です。
Q7. 木材の長期維持・耐久性はどう担保されていますか
A. (1) 含水率12-15%以下の厳格管理、(2) 鋼板インターロック金物で接合部応力集中抑制、(3) 高断熱・高気密外皮、(4) 軒出し・水切りによる雨水対策、(5) Moelven・Sweco・NTNUの長期モニタリング、の5層対策で耐用年数100年以上を期待しています。

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