【ツブラジイ】Castanopsis cuspidata|西日本の照葉樹林を代表する常緑広葉樹

ツブラジイ(Castanopsis cuspidata)

スダジイと並んで、西日本の照葉樹林を代表する常緑樹がツブラジイ(コジイ/Castanopsis cuspidata)です。九州・四国・西日本中部の鎮守の森を支える主役で、世界自然遺産・屋久島の低地林もこの木とスダジイの混生でできています。見た目はスダジイにそっくりですが、葉の裏が銀白色に光り、ドングリが小さくまん丸――この二つを覚えれば、もう見分けられます。

気乾比重0.53(0.50-0.58 中庸)ブナ科シイ属樹高15m(10-20m, 胸高径50-80cm)常緑広葉樹堅果径1.0cm(球形・スダジイより小)cuspidata=尖った主分布関東以西(社叢林の中核)屋久島世界遺産構成種
図1:ツブラジイの主要スペック(代表値)
目次

スダジイとの見分け方

日本に自生するシイ属はツブラジイとスダジイの2種だけ。よく似ていますが、ポイントを押さえれば確実に区別できます。

形質 ツブラジイ スダジイ
葉裏の色 淡褐色〜銀白色 金褐色〜濃褐色
ドングリ 球形(径約1cm) 長楕円形(1.5〜2cm)
葉先 鋭く尖る(cuspidata=尖った) やや鈍い
雄花序 直立〜斜上 やや下垂
樹皮 浅く裂ける 縦に深く裂ける
分布の傾向 関東以西の内陸〜山地 沿海部に多い

とはいえ分布は重なる地域も多く、社叢林では両者が混じって生えるのがふつう。神社の御神木「シイノキ」も、巨木調査でも、しばしば両種をまとめて「シイ」として扱います。なお分類上、スダジイはCastanopsis sieboldiiのほかCastanopsis cuspidata var. sieboldii(ツブラジイの変種)として扱われることもあり、名前の上でも紛らわしい2種です。スダジイ側の詳しい解説はスダジイの記事もあわせてどうぞ。

シーボルト日本植物誌に描かれたツブラジイの図版。枝葉・雄花序・堅果の解剖図を収録
シーボルト『日本植物誌』のツブラジイ図版(旧学名 Quercus cuspidata として掲載)。左が雄花序、中央〜右が葉と球形の堅果(ドングリ)。写真: Castanopsis cuspidata SZ2 by Philipp Franz von Siebold and Joseph Gerhard Zuccarini(パブリックドメイン), via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

渋抜き不要、縄文人も食べたドングリ

ツブラジイの一番うれしい特徴は、ドングリ(シイの実)がそのまま食べられること。コナラやクヌギのドングリは渋み(タンニン)が強くてアク抜きが必須ですが、シイ属はタンニンがごくわずか。生でもほんのり甘く、炒れば栗のような香ばしさになります。

この食べやすさゆえ、西日本の照葉樹林帯に暮らした縄文人にとって、シイの実はクリ・クルミ・トチノミと並ぶ重要な木の実の食料でした。堅果類は地下の貯蔵穴に蓄えられ、食料が不安定になりやすい狩猟採集生活を支えていたと考えられています。今でも九州・四国の山あいでは「シイの実拾い」が秋の風物詩で、郷土菓子の材料に使われる地域もあります。『万葉集』には、有間皇子が旅先で椎の葉を皿がわりにご飯を盛った歌(「家にあれば笥に盛る飯を…椎の葉に盛る」)も残り、古くから日本人の暮らしに寄り添ってきました。

豊作の年(数年に一度のマスト現象)には大量のドングリが実り、ツキノワグマ・ニホンザル・リス・ネズミ・カケスなど多くの動物の貴重な冬の食料になります。動物が運んで埋めたドングリが芽生え、次の世代の森が育つ――食べやすいことが、この森が続く仕組みにもなっているのです。

「鎮守の森」が守ってきた極相林

ツブラジイは、湿潤温暖な気候で森が行き着く最終形(極相)をつくる木です。常緑なので一年中林冠をふさぎ、その下は薄暗い独特の照葉樹林になります。九州・四国・西日本中部の社叢(しゃそう)林、つまり神社の鎮守の森の中心樹で、屋久島の標高800m以下の低地林はツブラジイとスダジイの混生林として国際的に評価されています。

京都・上賀茂神社の社叢のように、ケヤキ・ムクノキ・シイ・ナラ・エノキなど多様な樹種が混じる社叢林の構成種としても各地に残ります。これは「神社の木は伐ってはいけない」という自然信仰のおかげで、本来の極相林に近い姿が保たれてきた結果。信仰が、はからずも貴重な自然林を守ってきたわけです。環境省の巨樹・巨木林調査では、スダジイが約3,300本で樹種別の登録本数5位(スギ・ケヤキ・クスノキ・イチョウに次ぐ)に入り、ツブラジイを含めたシイ類の巨木の多くが社寺林に残る個体です。

シイタケ原木から家具まで

木材は気乾比重0.52〜0.54で、シイ属のなかではやや軽い部類です(スダジイは0.61とひとまわり重い)。心材は淡い紅褐色で、市場では両種を区別せず「シイ材」として流通します。シイタケの原木としてはクヌギ・コナラに次ぐ主役で、特に九州・四国で根強い需要があります。火持ちのよい薪炭材、温かみのある色を活かしたテーブル天板や床材・造作材にも使われ、経年で深い飴色に変わります。ただし収縮・狂いがやや大きく耐朽性も高くないので、しっかり乾燥させた材を選び、室内用途に使うのが基本です。なお「椎茸」の名は、シイの倒木や朽木にこのキノコがよく生えたことに由来するとされます。

ツブラジイの主用途1シイタケ原木2薪炭・燃材3家具・内装4堅果食用5社叢林・御神木
図2:ツブラジイの主用途

見分け方まとめ

  • 葉裏:淡褐色〜銀白色に光る(スダジイは金褐色)。最大の決め手。
  • ドングリ:径約1cmのまん丸(スダジイは細長い)。
  • 葉先:鋭く尖る。種小名 cuspidata(尖った)の通り。
  • 雄花:5〜6月、淡黄色の花序が枝先で直立し、栗の花のような強い匂いを放ちます。

よくある質問

「コジイ」とも呼ばれるのはなぜ?

スダジイより葉やドングリが小さいので「小椎(コジイ)」、ドングリが丸いので「円椎(ツブラジイ)」。九州では「コジイ」、近畿〜関東では「ツブラジイ」と呼ばれることが多いです。

庭木として植えられますか?

10〜20mの大木になるので、一般家庭の庭には不向き。広い社寺の境内や公園、学校、大規模な生垣(強剪定して使う)向きです。陰樹なので、上に高木のある半日陰のほうが活着がよくなります。

ナラ枯れの被害を受けますか?

ナラ枯れ(カシノナガキクイムシが媒介する萎凋病)はミズナラ・コナラで深刻ですが、シイ属の被害は限定的です。ただしカシなどが混じる社叢林では媒介虫が入り込むリスクがあり、注意は必要です。

寿命はどのくらいですか?

条件がよければ数百年生きる個体があり、社叢林で守られてきた古木は特に長寿の傾向があります。天然林でも長く林冠を占め続ける、成長のゆるやかな木です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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