【シラカシ/白樫】Quercus myrsinifolia|関東平地の防風林・生垣の戦略樹種

シラカシ | Forest Eight

関東平野の屋敷林、神社の境内、住宅地の生垣──関東でいちばん多く植えられている常緑のカシが、このシラカシ(学名 Quercus myrsinifolia)です。名前の「白」は葉ではなく心材の色のこと。赤みの強いアカガシ(赤樫)に対して、シラカシの材は淡い黄白色で明るく、その対比から「白樫」と呼ばれてきました。武蔵野の乾いた北風から農地と家を守る防風林として、江戸時代から関東の景観を支えてきた木です。

気乾比重0.83(0.80〜0.90)重硬・耐摩耗樹高20m(15〜25m)常緑高木葉長10cm(8〜13cm 披針形)葉裏は緑色ドングリ1.5cm(殻斗同心円状)秋成熟
図1:シラカシの主要スペック(含水率15%基準・代表値)

葉は細長い披針形で、英名も「Bamboo-leaf Oak(笹葉樫)」。この細さがまず目印になります。そして葉を裏返すと緑色──これがシラカシ識別の決め手です。よく似たウラジロガシは葉裏が白く、名前のとおり対照的。分類上はブナ科コナラ属アカガシ亜属で、ドングリの帽子(殻斗)に同心円状の輪が入るのがこのグループの共通点です。本州は福島県あたりを北限に、九州まで分布します。

目次

武蔵野の屋敷林を支えた木

武蔵野の冬は「からっ風」と呼ばれる乾いた北西風が吹きます。この風から農地と屋敷を守るため、関東の農家は屋敷の北・西側にシラカシを密植しました。これが屋敷林です。耐寒性・耐風性に優れ、常緑なので一年じゅう風を防ぎ、葉の含水率が高くて火災の延焼も抑える。剪定にも強い──関東の気候風土にこれ以上ないほど適した木でした。

享保期の武蔵野新田開発(1720年代以降)では、入植した農家が屋敷の周りにシラカシを植え、防風・防砂・防火・燃料・農具材を兼ねる多機能林として整えました。埼玉県川越市・所沢市、東京都三鷹市・武蔵野市、千葉県野田市などには今も伝統的な屋敷林が点在し、所沢市三ヶ島の「三富新田」の屋敷林は国の重要文化的景観に選ばれています。樹高を10〜15mに抑え、下枝を打ち上げて風通しを確保する「切り上げ剪定」で代々手入れされ、剪定枝は薪、落葉は堆肥にと、無駄なく使い回す循環型の資源でした。

農具の柄から木刀まで

シラカシ材は気乾比重0.80〜0.90(平均0.83)の重硬材で、心材は淡い黄白色。アカガシより明るい色調が「白樫」の由来です。曲げ強さ110〜130MPaと国産材でも上位クラスの強さがあり、衝撃にも粘り強い。昔から鍬・鎌・鋤などの農具の柄、楔、木槌、木工旋盤の材料として、武蔵野の農村で日用工具材に重宝されました。アカガシより手に入りやすく加工しやすいのも普及の理由です。

現代では剣道・古武道用の木刀の代表素材として知られます。アカガシ製より軽くて扱いやすいため、初心者から上級者まで広く使われる定番。木刀の国内最大産地は宮崎県都城市で、シラカシ・アカガシ・ビワ材を主に使っています。ほかに高級フローリングや椅子の脚、茶杓・茶筒などの工芸品にも、淡色の上品な木目が好まれています。

近縁カシ5種の見分け方

葉形 葉裏 心材色 主分布
シラカシ 披針形 8〜13cm 緑色 淡色 関東平地中心
アラカシ 倒卵形 7〜12cm 淡緑〜白っぽい 赤褐色 関東以西山地
アカガシ 長楕円形 10〜18cm 緑色 赤褐色 本州〜九州山地
ウラジロガシ 披針形 8〜14cm 白色 淡褐色 本州〜九州山地
イチイガシ 長楕円形 8〜14cm 黄褐色毛密生 淡赤褐色 西日本暖帯

まず葉を裏返して緑か白かを見ます。白ければウラジロガシ。緑のなかで、葉が細長い披針形ならシラカシ、大きく幅広い楕円形ならアカガシ。アラカシとは葉形(披針か倒卵か)と分布(平地か山地か)で分けられます。葉裏が緑で細長い葉──これがシラカシのサインです。

見分け方のポイント

  • 葉:細長い披針形8〜13cm、ふちの上半分に細かい鋸歯、裏は緑色(最大の決め手)
  • 心材:淡色(アカガシの赤褐色との対比、「白樫」の由来)
  • 樹皮:暗灰色〜黒褐色で細かく縦に裂ける(別名「クロカシ」の由来)
  • ドングリ:長さ1.5cm、殻斗は同心円状の輪紋
  • 分布:関東平地に普通、屋敷林・神社境内に多い
シラカシの主用途(伝統〜現代)1屋敷林・防風林2生垣・防火樹3街路樹4農具柄・楔5木刀・鍔6旋盤・船材
図2:シラカシの主用途。伝統工具材から現代街路樹まで

よくある質問

「白樫」なのに葉裏は白くないのはなぜ?
「白」は葉ではなく心材の色のことです。赤褐色のアカガシ(赤樫)に対して心材が淡く明るいので「白樫」。葉裏が白いのは別種のウラジロガシです。

シラカシとアラカシの違いは?
葉形がいちばん分かりやすく、シラカシは細長い披針形、アラカシは幅広い倒卵形です。鋸歯もシラカシは細かく、アラカシは粗い。分布もシラカシが関東平地中心、アラカシが関東以西の山地中心と分かれます。

庭木・生垣にできますか?
関東以南で広く植えられます。耐寒性・耐潮性・剪定耐性が高く、生垣やシンボルツリーに人気。年2回(5〜6月と9〜10月)の刈り込みで密で美しい生垣を保てます。葉の含水率が高く延焼を抑えるため、東京消防庁の防火樹としても推奨されています。

ナラ枯れの心配は?
主な対象はミズナラ・コナラですが、シラカシでも被害例があります。胸高直径30cmを超える老木はリスクが高いので、屋敷林の高齢木は穿入孔のチェックや予防的な処置が推奨されます。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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