結論先出し
- 高知県は森林率84%(全国2位、全国平均66%を大きく上回る)、年間素材生産量およそ59万m³(2022年・林野庁木材需給報告)を擁する林業県。林野庁・国土交通省と連携し、CLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)建築の全国普及拠点として位置付けられている。
- 高知県森林会館(2017年完成、地上4階・延床約1,900m²)はCLT+集成材ハイブリッド構造の県有公共施設で、CLT使用量は約500m³規模。県産スギ・ヒノキを中心に「設計から施工まで地域材で完結する」サプライチェーンの実証となった。
- 大豊町の高知おおとよ製材CLT工場(2014稼働)と岡山・銘建工業の2大生産拠点体制、梼原町総合庁舎・梼原町立図書館(隈研吾)・四万十町役場等の地域材建築群が、高知県を「木造の聖地」として全国にアピールしている。
高知県は森林率84%(北海道・国有林を除けば実質全国1位水準、岐阜県と並ぶ)の山岳県で、近年はCLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)の普及拠点として全国の注目を集めています。本稿では高知県森林会館を起点に、林業の現状・CLT産業の生産能力・地域経済への含意・全国への波及・将来課題までを、出典付きの数値で整理します。
クイックサマリ:高知県とCLT
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 高知県の森林率 | 84%(全国2位、全国平均66%) |
| 森林面積 | 約59.6万ha(県土の約84%) |
| 年間素材生産量 | 約59万m³(2022年) |
| 主要造林樹種 | スギ(約44%)・ヒノキ(約31%) |
| CLT生産体制 | 高知おおとよ製材+銘建工業(岡山) |
| 主要CLT建築事例 | 森林会館、おおとよ社員寮、雲の上の図書館(梼原町) |
| 制度活用 | 森林環境譲与税、サステナブル建築物等先導事業、地域型住宅グリーン化事業 |
| 関連記事 | 梼原町の地域材建築、銘建工業の集成材技術 |
1. 高知県の林業現状:森林率84%の山岳県
高知県は四国島の南半分を占め、県土376,200haのうち約59.6万ha(84%)が森林という日本有数の林業県です。森林面積に占める人工林比率は約66%で、戦後造林されたスギ・ヒノキが主伐期(51年生以上)を迎えています。年間素材生産量は約59万m³(2022年、林野庁木材需給報告)で、北海道・宮崎県・大分県に次ぐ全国上位の水準。国産材自給率が約42%に上昇する流れの中、高知県は「使う山」のモデル地域とされてきました。
| 指標 | 高知県 | 全国平均/全国合計 |
|---|---|---|
| 森林率 | 84% | 約66% |
| 森林面積 | 59.6万ha | 2,505万ha |
| 人工林率 | 約66% | 約41% |
| 素材生産量(2022) | 約59万m³ | 約2,100万m³ |
| 木材自給率(参考) | - | 約42%(2022) |
| 主伐齢級到達率 | 高水準 | 増加中 |
高知県は地形が急峻で平地が少なく、農地拡大の余地が乏しかった歴史的経緯から「林業に特化せざるを得なかった県」と言われます。土佐藩時代の「留山(とめやま)制度」による森林保全の伝統、明治以降の造林政策、戦後の拡大造林を経て、現在のスギ・ヒノキ人工林資源が形成されました。
2. 高知県森林会館:CLT普及の象徴
高知県森林会館は、2017年に高知市丸ノ内に完成した県有施設で、林業振興部門・木材利用関連業務・展示機能を担うCLT普及拠点です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 高知県高知市丸ノ内 |
| 用途 | 事務所・会議室・展示・研修 |
| 階数 | 地上4階 |
| 延床面積 | 約1,900m²(参考値) |
| 構造 | CLT+集成材ハイブリッド木造 |
| 主要木材 | 高知県産スギ・ヒノキ |
| CLT使用量 | 約500m³規模(推計) |
| 完成 | 2017年 |
| 事業位置付け | サステナブル建築物等先導事業(木造先導型) |
森林会館は単なる事務所ではなく、「県産材で県の林業を語る建物」として設計されています。1階エントランスにはCLTパネルの実物展示、断面サンプル、ラミナ構成の解説パネルが配置され、年間多数の建築士・施工業者・自治体関係者が視察に訪れます。県は森林会館を起点に、CLT技術研修・普及セミナー・林業見学ツアーを展開しています。
3. 高知おおとよ製材:日本第2のCLT工場
高知県大豊町に立地する高知おおとよ製材は、2014年にCLT工場を稼働させた地域材CLT生産拠点です。同工場は岡山の銘建工業に次ぐ国内第2のCLT生産能力を持ち、四国・西日本の地域材CLT供給の中核を担っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 高知県長岡郡大豊町 |
| 稼働開始 | 2014年 |
| 生産能力 | 年間数千m³級のCLTパネル |
| 原料 | 地域材スギ・ヒノキ(高知県産) |
| JAS認証 | CLT JAS(直交集成板)取得 |
| 主要供給先 | 森林会館、おおとよ社員寮、県内外公共施設 |
大豊町は人口約3,000人の山間自治体で、高知おおとよ製材は地域雇用の中核でもあります。林業・製材・CLT加工・建築施工までを地域内で完結させる「一貫サプライチェーン」の実証地として、林野庁が補助金を投じてきた経緯があります。
4. 高知おおとよ製材社員寮(2014年):日本のCLT先駆事例
森林会館に先立つ2014年、おおとよ製材敷地内に完成した社員寮は、日本初の本格的なCLT建築物の一つとして建築界で大きな注目を集めました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 高知県大豊町 |
| 用途 | 製材会社社員寮 |
| 階数 | 地上3階 |
| 構造 | CLTパネル工法 |
| 木材 | 地域材スギ・ヒノキ |
| 完成 | 2014年 |
| 意義 | 日本初級のCLT本格活用事例 |
5. 高知県のCLT普及戦略と政策
高知県は2010年代前半から「CLTを利用した中規模建築物の実証地」として、全国に先駆けて複数事業を展開してきました。
- 地域材活用CLT:高知県産スギ・ヒノキの付加価値化(製材→CLT化で単価約1.5〜2倍)
- 公共施設のCLT化:県・市町村・国の合同事業
- 森林環境譲与税の活用:木造化推進・森林整備に充当
- サステナブル建築物等先導事業(木造先導型):国交省補助で森林会館等を整備
- 研修・普及活動:建築士・施工業者向けCLT技術研修
- 森林環境税:高知県は全国に先駆けて2003年に独自の県税を導入(年500円)
6. 高知県の地域材建築群:森林会館の前後
高知県には森林会館以外にも、地域材活用の象徴的建築が県内各地に点在しています。
| 建築 | 所在 | 用途・特徴 |
|---|---|---|
| 梼原町総合庁舎 | 高岡郡梼原町 | 木造庁舎、地域材活用 |
| 雲の上のホテル/図書館 | 梼原町 | 隈研吾設計、地域材+CLT |
| 四万十町役場 | 高岡郡四万十町 | 地域材木造 |
| 香美市立美良布小学校 | 香美市 | 木造校舎、地域材 |
| 高知県立林業大学校 | 香美市土佐山田町 | 林業人材育成、木造 |
| 須崎市立図書館 | 須崎市 | 地域材活用 |
とくに梼原町(人口約3,300人)は隈研吾の地域材建築が6棟集積し、「隈研吾の聖地」として国内外の建築ファン・観光客を集める地域です。森林会館・雲の上の図書館・おおとよ製材社員寮は、いずれも「地域材で地域を語る建築」という共通の思想で結ばれています。
7. CLT工法の構造設計:基礎から実装まで
CLTは厚さ約30mmのラミナ(ひき板)を直交方向に3〜7層積層接着した大判パネルで、面材として構造的役割を果たします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| パネル厚 | 90mm(3層)〜210mm(7層)が標準 |
| パネル寸法 | 幅3m × 長さ12m級まで生産可能 |
| 強度等級 | JAS規格でMx60-3-2等を規定 |
| 用途 | 耐力壁・床版・屋根・コア等 |
| 接合 | ビス・ドリフトピン・引きボルト等 |
| 耐火性能 | 1時間〜2時間耐火構造の認定取得済 |
| 建築基準法 | 2016年告示でCLT工法の構造計算基準制定 |
CLTは欧州(オーストリア)で1990年代に開発され、日本では2013年12月にJAS規格化(直交集成板)、2016年4月に建築基準法告示で構造計算基準が整備されました。これにより、CLTを構造材として使用する建築の確認申請が標準化され、普及が加速しました。
8. 産地と消費地のサプライチェーン
高知県のCLT産業の特徴は、「林業→製材→CLT加工→建築施工」を地域内で完結させていることです。
- 川上(林業):森林組合・素材生産業者が県産スギ・ヒノキを伐採
- 川中(製材・CLT加工):高知おおとよ製材ほか県内製材所がラミナ製造、CLTパネル化
- 川下(建築・施工):県内ゼネコン・工務店が森林会館等を施工
- 輸送距離:県内で完結する場合おおむね100km圏内、CO2排出量を大幅削減
このモデルは「地材地建(地域材で地域を建てる)」と呼ばれ、林野庁が全国展開を推進する政策フレームの原型となっています。
9. 経営的視点:地域材の付加価値化
| 段階 | 製品 | 単価目安(m³当たり) |
|---|---|---|
| 素材(丸太) | スギ丸太 | 約12,000〜15,000円 |
| 製材品 | スギ製材 | 約30,000〜45,000円 |
| 集成材 | 構造用集成材 | 約60,000〜90,000円 |
| CLT | CLTパネル | 約100,000〜150,000円 |
丸太からCLTまで加工度を上げると、付加価値は約8〜10倍に拡大します。林野庁・経産省は、丸太輸出(中国向け等)よりも国内CLT加工で地域経済への波及を生む政策を志向しており、高知県のモデルが全国に波及しています。
10. 木造建築教育・研修プログラム
高知県は高知県立林業大学校(香美市土佐山田町、2015年開校、定員20名)を運営し、林業従事者・木造建築技術者を育成しています。森林会館は同校の研修フィールドとしても機能し、CLT工法・木造設計・森林管理の実地研修が提供されています。
- 1年制基礎課程:林業基礎・チェンソー・刈払機・素材生産
- 専攻課程:林業経営・林産業・木材加工
- 建築士・施工業者向け短期研修:CLT工法・耐火設計・確認申請実務
- 大学・研究機関連携:京都大学・東京大学等との共同研究プロジェクト
11. 観光・産業観光の機能
森林会館・おおとよ製材・梼原町の地域材建築群は、近年「木造建築ツーリズム」の対象地として注目されています。年間で建築士・自治体・林業関係者を中心に視察ツアーが組まれ、高知県の地域経済(宿泊・飲食・観光)に波及しています。
| 視察先 | 主要訪問者 |
|---|---|
| 森林会館 | 建築士、自治体、林野庁関係者 |
| おおとよ製材 | 製材業者、CLT利用検討企業 |
| 梼原町(隈研吾建築群) | 建築ファン、海外観光客 |
| 四万十町・香美市 | 地域材活用検討中の自治体 |
12. 真庭市(岡山)との比較:双璧のCLT拠点
| 項目 | 高知県(高知市・大豊町) | 岡山県(真庭市) |
|---|---|---|
| CLT工場 | 高知おおとよ製材(2014) | 銘建工業(2013、国内最大) |
| 象徴建築 | 高知県森林会館(2017) | 真庭市役所、銘建工業オフィス |
| 森林率 | 84% | 約79% |
| 地域材 | スギ・ヒノキ | ヒノキ中心、スギも |
| 主導 | 県+林野庁 | 市+民間(銘建工業) |
| 特徴 | 公共施設主導、政策連携 | 企業主導、バイオマス発電と一体 |
高知県(公共施設+政策主導)と真庭市(民間企業+バイオマス一体)は対照的なモデルですが、両者の連携・競合が日本のCLT産業全体を牽引しています。
13. 課題と将来展望
- コスト:CLTは鉄筋コンクリート造より2〜3割高、補助金依存からの脱却が課題
- 耐火・準耐火基準:都市部の中高層建築への適用には更なる耐火性能向上が必要
- 主伐後の再造林:高知県の再造林率は約30%、放置林化リスク
- 担い手不足:林業従事者の高齢化(全国平均年齢53歳、高知県も同水準)
- 輸出展開:アジア圏の木造高層建築需要への対応
- カーボンニュートラル:木材によるCO2固定量の定量評価・取引制度
高知県は2050年カーボンニュートラル目標達成のため、森林吸収量・木材CO2固定量の最大化を県政の柱に据えています。森林会館はその「政策の象徴」として、今後数十年にわたり機能し続ける見込みです。
14. 高知県内CLT建築・地域材建築の詳細マップ
高知県森林会館を中心に、県内のCLT・地域材建築は以下のようなネットワークを形成しています。それぞれが「政策実証」「企業実装」「観光資源化」「教育拠点」の役割を担い、相互補完しながら「木造の県」高知のブランドを構築しています。
| 地域 | 主要建築 | 役割 | 完成年 |
|---|---|---|---|
| 高知市 | 高知県森林会館 | 政策・普及拠点 | 2017 |
| 大豊町 | 高知おおとよ製材社員寮 | 企業先駆事例 | 2014 |
| 大豊町 | 高知おおとよ製材CLT工場 | 生産拠点 | 2014稼働 |
| 梼原町 | 梼原町総合庁舎 | 地方行政の木造化モデル | 2006 |
| 梼原町 | 雲の上のホテル/図書館 | 隈研吾設計、観光拠点 | 2018 |
| 梼原町 | マルシェ・ユスハラ | 隈研吾設計、地域交流 | 2010 |
| 香美市 | 高知県立林業大学校 | 人材育成拠点 | 2015開校 |
| 香美市 | 美良布小学校 | 木造校舎 | - |
| 四万十町 | 四万十町役場 | 地域材庁舎 | - |
| 須崎市 | 須崎市立図書館 | 地域材公共施設 | - |
これらの建築群は、高知県を東西南北に縦断する「木造建築回廊」を形成しており、近年は建築学生・自治体担当者・林業関係者の研修ルートとして整備が進んでいます。とくに梼原町は人口約3,300人に対し年間視察・観光客が数万人規模に達し、地方創生のモデルケースとも評価されています。森林会館はその「玄関口」として、高知駅から徒歩圏という立地の利を活かし、視察ツアーの起点機能を担っています。
15. CLTパネル製造プロセスと品質管理
森林会館に使用されたCLTパネルは、原木から製品まで以下の工程を経ています。各工程でJAS規格に基づく品質管理が行われ、強度・含水率・接着性能の検査が実施されます。
| 工程 | 内容 | 管理項目 |
|---|---|---|
| 1. 原木選別 | スギ・ヒノキ丸太を径級・年輪幅で選別 | 節・割れ・曲がり |
| 2. 製材 | ラミナ寸法(厚30mm × 幅120mm程度)に製材 | 寸法精度 |
| 3. 乾燥 | 人工乾燥で含水率15%以下に | 含水率測定 |
| 4. 強度区分 | 機械式グレーディングで強度等級判定 | ヤング率測定 |
| 5. ラミナ縦継ぎ | フィンガージョイントで長尺化 | 接着強度試験 |
| 6. 幅はぎ | 側面接着で大判ラミナ層を構成 | 接着面状態 |
| 7. 直交積層接着 | 3〜7層を直交配置、プレス接着 | 圧締圧力・時間 |
| 8. 養生・仕上げ | 養生後に表面仕上げ・寸法調整 | 寸法・表面性状 |
| 9. プレカット | CADデータに基づく現場合わせ加工 | 開口部・接合部精度 |
| 10. 出荷・現場搬入 | パネル単位でトラック輸送 | 養生・梱包 |
森林会館の場合、原木伐採から建物完成までおおむね12〜18か月を要したとされ、地域材100%でこのリードタイムを実現できる地域は全国でも限定的です。
16. 環境性能:CO2固定とライフサイクル評価
木造建築のCO2削減効果は、建設時排出削減と炭素貯蔵の二重効果で評価されます。
| 指標 | 木造(CLT) | RC造 | S造 |
|---|---|---|---|
| 建設時CO2排出(kg-CO2/m²目安) | 約280 | 約560 | 約430 |
| 炭素貯蔵(kg-C/m³木材) | 約250(スギ) | 0 | 0 |
| 解体・廃棄時バイオマス利用 | 可能 | 困難 | リサイクル可 |
| ライフサイクル総合評価 | 低炭素 | 高炭素 | 中 |
森林会館(延床1,900m²)の場合、RC造比でおよそ500トン規模のCO2削減と推計され、加えて木材中の炭素貯蔵量も加算されます。これは森林会館自体が「都市の中の人工林」として機能していることを意味します。
17. 国際比較:CLT先進国との関係
| 国・地域 | 主要事例 | 特徴 |
|---|---|---|
| オーストリア | KLH社、Stora Enso社 | CLT発祥、生産世界最大級 |
| カナダ(ブリティッシュコロンビア州) | Brock Commons(18階建寮) | 木造高層化のフロンティア |
| ノルウェー | Mjøstårnet(18階建、木造世界最高層級) | 木造高層の象徴 |
| 米国 | Ascent(25階、CLT+集成材) | 2022年、世界最高層木造 |
| 日本(高知・岡山) | 森林会館、真庭市役所 | 中規模公共建築主導 |
欧州・北米が「高層木造のフロンティア」を競う中、日本(とくに高知・岡山)は「中規模・地域材完結型」のモデルを確立しつつあります。住友林業W350構想(2041年完成目標)は、日本がこの分野で世界に挑戦する象徴です。
18. 関連認証・支援制度
| 制度 | 所管 | 内容 |
|---|---|---|
| 森林環境譲与税 | 総務省・林野庁 | 森林整備・木材利用に充当 |
| サステナブル建築物等先導事業(木造先導型) | 国交省 | 森林会館はこの枠組で整備 |
| 木造公共建築物等の整備支援 | 林野庁 | CLT等への補助 |
| 地域型住宅グリーン化事業 | 国交省 | 地域材住宅への補助 |
| FSC・PEFC・SGEC認証 | 国際・日本 | 持続可能な森林管理証明 |
| 高知県森林環境税 | 高知県 | 2003年導入、年500円/人 |
19. 高知県の林業史:留山から拡大造林、CLTへ
高知県(旧土佐藩)の林業史は、江戸期の留山(とめやま)制度に遡ります。土佐藩は山林を「御留山」「藩山」「百姓山」に区分し、優良木材の伐採を厳しく管理しました。仁淀川・四万十川流域では水運による木材輸送が発達し、藩財政の主要収入源でもありました。
| 時代 | 主要施策・出来事 | 主要樹種 |
|---|---|---|
| 江戸期(17〜19世紀) | 留山制度、川下げ輸送、藩営林業 | ヒノキ、スギ、ケヤキ |
| 明治期 | 官民有区分、造林奨励 | スギ・ヒノキ造林開始 |
| 大正・戦前 | 木材市場拡大、人工林育成 | スギ・ヒノキ |
| 戦後(1950〜70年代) | 拡大造林、林道整備、機械化 | スギ大量植林 |
| 1980〜90年代 | 外材流入、林業低迷期 | - |
| 2000年代 | 森林環境税導入(高知2003)、林業再生 | 主伐期到達材 |
| 2010年代 | CLT本格普及、地域材建築群整備 | 地域材CLT |
| 2020年代 | カーボンニュートラル政策、森林吸収源活用 | 多様化 |
高知県森林会館は、この400年の林業史の延長線上に位置する「21世紀の留山政策の象徴」と言えます。江戸期の藩営林業が現代の県営CLT普及に置き換わり、地域材で公共建築を建てる思想は連綿と継承されています。
20. 経済波及効果:森林会館がもたらしたもの
森林会館を含む高知県のCLT・地域材建築群は、地域経済に多面的な波及効果をもたらしています。
- 直接雇用:高知おおとよ製材CLT工場で約50〜80名の地域雇用、製材・林業従事者を含めると数百名規模
- 素材生産業の活性化:CLT向けスギ需要で県内素材生産業者の受注増、価格安定
- 視察・研修関連消費:年間数千名の視察者による宿泊・飲食・交通消費
- 建築設計事務所の専門性向上:県内設計事務所がCLT設計ノウハウを蓄積、県外受注へ
- 林業大学校卒業生の地元定着:1学年20名のうち約半数が県内林業・木材産業に就職
- 移住・交流人口:梼原町・大豊町等の山間部で地域おこし協力隊・移住者増加
森林会館建設の総事業費はおよそ10〜15億円規模と推計されますが、上記の波及効果を含めると、投資効率は決して低くないと評価されています。とくに山間部における雇用維持・地域社会の存続という観点では、金銭評価しがたい価値を生んでいます。
21. 設計上の工夫:CLT+集成材ハイブリッド
森林会館は純粋なCLTパネル工法ではなく、CLT+集成材ハイブリッド構造を採用しています。これは大空間(会議室・展示室)の柱・梁を集成材ラーメンとし、外周壁・床版にCLTパネルを使う合理的な構成です。
| 部位 | 構造材 | 役割 |
|---|---|---|
| 柱・梁 | 大断面集成材 | 大空間の確保、剛性 |
| 外周壁 | CLTパネル | 耐力壁、断熱、意匠 |
| 床版 | CLTパネル | 水平剛性、遮音 |
| 屋根 | CLTパネル+集成材小屋組 | 軽量化、断熱 |
| コア(階段室) | CLTパネル | 耐震要素 |
| 接合部 | 鋼板挿入+ドリフトピン | 力学的合理性 |
このハイブリッド構成により、CLTの面材としての強みと集成材の線材としての強みを両立し、4階建て・延床1,900m²の中規模建築をコスト効率よく実現しています。日本の中規模公共建築のCLT化において、この「CLT+集成材」モデルは事実上の標準解となっています。
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ高知県がCLT普及拠点なのですか
A. 森林率84%(全国2位水準)の林業県、地域材生産・林業基盤、県・自治体の積極施策、地理的に銘建工業(岡山)と近接、土佐藩留山以来の森林保全文化、等の複合要因です。
Q2. 高知県森林会館はいつ建てられ、規模はどのくらいですか
A. 2017年完成、地上4階・延床約1,900m²、CLT+集成材ハイブリッド構造で、CLT使用量は約500m³規模(推計)です。
Q3. 高知県森林会館は見学できますか
A. 県の公共施設として一般公開部分があります。1階エントランスのCLT展示や研修スペースは見学可能。事務所・会議室は業務用のため平日業務時間内に限られます。
Q4. 高知県の地域材CLTは他地域でも使えますか
A. はい、JAS規格適合のCLTは全国流通しています。高知県産CLTを首都圏・関西圏の建築物に使用する事例も増加中で、輸送コストとCO2排出が課題です。
Q5. CLT建築のメリットは何ですか
A. 短工期(プレカット施工)、軽量化(基礎縮小可能)、地震時の振動低減、木質感による快適性、CO2固定、サステナビリティ等です。一方コストは鉄骨造・RC造よりやや高く、設計者・施工者の経験蓄積が必要です。
Q6. 個人住宅でCLTは使用できますか
A. 大規模建築向けの傾向ですが、住宅・小規模施設での部分活用(壁面・床版)も拡大中です。地域型住宅グリーン化事業等の支援制度活用が現実的です。
Q7. 高知おおとよ製材と銘建工業の違いは何ですか
A. 銘建工業(岡山・真庭市)は国内最大のCLT工場で集成材・バイオマス発電と一体運営。高知おおとよ製材は四国唯一のCLT工場で、地域材CLTの先駆例です。両者は補完関係にあり、日本のCLT産業の双璧です。
Q8. CLT工法は耐震性・耐火性に問題ありませんか
A. 耐震性は鉄筋コンクリート造と同等以上の評価があり、CLTパネルが面材として揺れに強いです。耐火性は1時間〜2時間耐火構造の大臣認定を取得済みで、中規模建築での使用は法的に問題ありません。
Q9. 高知県の林業は採算が取れていますか
A. 主伐期到達材の活用と地域材CLT化により、間伐中心の従来モデルより採算が改善傾向です。ただし担い手不足・再造林率の低さは全国共通の課題で、高知県も森林環境譲与税等で対応中です。
Q10. 高知県のCLT建築を視察するルートはありますか
A. 高知市(森林会館)→大豊町(おおとよ製材社員寮・CLT工場)→梼原町(隈研吾建築群)→四万十町(役場)の順で1〜2泊2〜3日のツアーが組めます。県の林業振興部に事前相談が望ましいです。
Q11. CLTは将来も普及し続けますか
A. カーボンニュートラル政策・森林吸収源活用の流れの中、中規模公共建築・集合住宅での採用は拡大が見込まれます。一方、住宅市場での標準化はコスト次第です。
Q12. 森林会館の設計者は誰ですか
A. 高知県の建築事業として設計者・施工者が選定されています。詳細は高知県林業振興・環境部にお問い合わせください。県内設計事務所・ゼネコンが関与しています。
Q13. CLT建築は維持管理に手間がかかりませんか
A. 適切な防水・通気設計と定期的な目視点検により、RC造と同等以上の長期耐久性が期待されます。森林会館は外壁防水納まり・軒の出を確保し、内部は調湿性能を活かす設計です。県は維持管理マニュアルを整備しています。
Q14. 高知県のCLT技術は海外輸出されていますか
A. 国内市場への供給が中心ですが、近年はアジア圏(韓国・台湾・東南アジア)からの引合いも増えています。日本のCLTは高品質スギを原料とし、湿潤気候適合性で評価されています。
Q15. 木造建築のコストはRC造より本当に高いのですか
A. 中規模建築(3〜5階)ではCLTがRC造比で1〜2割増のケースが多いものの、工期短縮・基礎縮小・解体時バイオマス活用等を含めたライフサイクルコストでは差が縮小します。補助金活用と設計合理化で同等以下となる事例も増加中です。

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