枝払い作業の安全:三脚法・カーフ法と樹木の張り判断

枝払い作業の安全 | Forest Eight

伐倒した木を運び出せる状態にするには、まず枝を落とさなければなりません。この枝払い(limbing)という工程は地味ですが、林業の中でもとくに事故が起きやすい場面です。倒れた木は不安定で、地面には枝が散乱し、張った枝はいつ跳ね返るか分かりません。ここでは現場で本当に役立つ判断と技法を、林災防や厚労省の指針をふまえて整理します。

林業死傷災害1,235件/年2023年・厚労省死亡災害28件/年2023年・厚労省PPE規格数5+JIS/ISOT8131等死傷年千人率23.7全産業の約12倍
図1:林業安全の主要数値(厚労省「労働災害動向調査」2023年、林災防資料より)
目次

まず押さえたい基本ルール

枝払いの基本は、林災防「チェーンソーによる伐木作業の作業指針」と労働安全衛生規則に集約されます。ベテランほど大事にしているのは、次の二つです。

一作業に一辺。作業者は倒木の片側に立ち、その側の枝だけを処理します。反対側の枝に手を伸ばさない。横着して向こう側を切ろうとした瞬間にバランスを崩す——これが転倒・切創のよくあるパターンです。

6時方向を切らない。足元、つまりチェーンソーの真下(時計の6時)にある枝はキックバックの危険が高い。面倒でも位置を取り直してから切ります。バー先端での切断はキックバック発生の大半を占めるので、ここを避けるだけで事故はぐっと減ります。

このほか、視界が利く範囲だけ処理する、倒木の上には乗らず地面に安定して立つ、傾斜地では山側に立つ、といった足場の確保が土台になります。進める向きは元口(根側)から末口(先端側)へ、枝は圧縮側から張り側へ。これが標準です。

技法の使い分け

枝の張り具合・太さ・地面との位置で技法を変えます。日常的に使うのはレバー法で、それ以外は状況に応じた引き出しと考えてください。

技法 適用 特徴
レバー法(テコ法) 細〜中枝(直径3〜10cm) 倒木を支点に切る。最も使う安定技法
引き切り 圧縮側 チェーン下面で切る標準・安全な切り方
段階的除去 密集枝 外側から内側へ、視界を確保しながら
カーフ法 強い張り・大径枝 張り側に切り込みを入れて張力を逃がしてから本切断
三脚法 持ち上がった枝 三方向で支えて安定させてから切る
二人組み 大枝(直径15cm超) 1人が切断、1人が安全管理と退避誘導

レバー法は、バーを倒木の上に支点として置き、エンジン側を上げ下げして枝にチェーンを当てるやり方です。テコの原理で力が要らず、長時間でも疲れにくいので初級訓練の中心になっています。

カーフ法は張りの強い枝で効きます。曲がりや拘束で強くテンションがかかった枝をいきなり切ると、跳ね返り(スプリングバック)で大事故になりかねません。そこで張り側に三分の一ほど切り込み(カーフ)を入れて張力を逃がし、それから圧縮側で本切断する。順番ひとつで跳ね返りを抑え込めます。

出典・参考

機械化が事故を減らしている

近年はハーベスタやプロセッサによる機械的枝払いが広がっています。林野庁「林業機械化の現状」(2022年)によると、ハーベスタは全国で約2,300台、プロセッサは約2,800台が稼働中。前者は伐倒・枝払い・玉切りを一台でこなし、後者は枝払いと玉切りに特化して価格も抑えめなので中小事業者でも導入しやすいのが特徴です。

ただし日本の高機能林業機械の普及率は3〜4割程度で、機械化率95%超の北欧とは差があります。急傾斜地が多く、所有森林が小規模に分散しているのが制約です。それでも効果は明確で、北欧では機械化の進展とともに林業の死亡災害が1980年代から約75%減りました(Forestry Statistics Finland 2020)。日本でも下図のように死傷災害は漸減傾向にあります。

2,0001,5001,00050002010201420182022林業死傷災害件数の推移(2010〜2023)1,8991,235
図2:林業死傷災害件数の推移(厚生労働省「労働災害動向調査」より作成)

主なリスクと装備

枝払いで多いのはキックバック、つまずき・転倒、張り枝の跳ね返り、上方からの落下物、そしてチェーン接触による切創です。キックバックはチェーンソー事故の25〜30%(米国OSHA)を占め、低キックバックチェーンとチェーンブレーキ(0.12秒以内停止)、両手保持で予防します。長時間作業では振動障害(HAVS)や騒音性難聴も無視できず、作業時間の制限と適切な防護具で抑えます。

防護装備はJISとISO/ENで規格が定められ、着用が義務または強く推奨されています。最低限そろえたいのは次の通りです。

装備 主な規格 ポイント
保護帽 JIS T 8131、EN 397 メッシュバイザー・イヤーマフ取付対応。製造から5年で交換
イヤーマフ JIS T 8161 NRR 25dB以上推奨。騒音は100〜115dBに達する
防護衣(チャップス) ISO 11393-2、EN 381-5 クラス1(20m/s)で多くの現場は十分。切り込み履歴があれば即廃棄
安全靴 JIS T 8101、ISO 17249 S級先芯+耐踏抜き+防滑。チェーン耐切創ブーツも市販

チェーンソー防護衣は多層構造で、チェーンが切り込むと長繊維が引き出されてスプロケットを止める仕組みです。一度発動したものは再使用できないので、繊維の露出や破れが見えたら新品に替えてください。

状況が変われば注意も変わる

同じ作業でも条件次第でリスクは大きく動きます。雨や凍結時は足場が滑り視界も悪く、事故率は晴天時の約1.7倍(北欧の研究)。風速10m/s以上では林災防が作業中断を推奨しています。傾斜30度を超えると転倒リスクは平地の約3倍になり、ロープ確保や二人組以上が原則です。腐朽の進んだ病害木は打診で内部の空洞を確かめてから手をつけます。マツ枯れ・ナラ枯れの被害木はとくに要注意です。

教育と緊急時の備え

チェーンソーで伐木業務に就くには、労働安全衛生法に基づくチェーンソー特別教育(学科9時間+実技9時間)が必須です。新規就業者には林野庁「緑の雇用」の3年研修があり、現場管理者には林業職長教育も整備されています。近年はVRシミュレーターでの事前訓練も導入が進んでいます。

忘れてはならないのが緊急時の備えです。山間地は救急医療まで遠く、受傷から1時間の「ゴールデンタイム」を超えがちです。止血帯(CAT)など救急用品の常時携行、ヘリ進入可能地点のGPS記録、班員相互の止血・心肺蘇生講習を欠かさないこと。動脈性出血で直接圧迫が効かないときは止血帯を使い、装着時刻を必ず記録します。林業の労災保険料率は60/1000と全業種で最も高く、1人親方も特別加入制度で対象にできます。ほぼ必須の備えと考えてください。

よくある質問

1日に何本くらい処理できますか?

樹種やサイズ、経験で大きく変わります。直径20〜30cmの針葉樹なら熟練者1人で1日10〜30本程度。ハーベスタなら1日100〜200本以上も可能です。新人はまず半分以下を目標に、安全優先で量を上げていきます。

キックバックが起きたらどう対処しますか?

起きてからの対処はほぼ不可能で、予防がすべてです。人の反応時間(約0.25秒)よりチェーンブレーキの作動(0.12秒以内)の方が速いので、ブレーキが事実上の防御。両手保持・低キックバックチェーン・バー先端を当てない、この3点を徹底します。

個人で枝払いするときのコツは?

焦らず、無理せず、PPEと機械整備を怠らないこと。けがの代償は治療費だけでなく休業や後遺症にも及びます。自伐林業でも特別教育を受け、できれば二人組み作業を強くおすすめします。

主要出典・参考

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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