この記事の結論(先出し)
- アラカシ(Quercus glauca)はブナ科コナラ属アカガシ亜属の常緑高木で、樹高15〜20m、本州(宮城県・新潟県以南)〜九州・沖縄に広く分布する西日本山林・里山の代表カシです。
- 気乾比重0.80〜0.90(代表値0.83)の重硬材で、農具柄・楔・薪炭材・シイタケ原木として里山経済を1,000年以上支えてきました。
- 葉裏が灰白色(種小名 glauca = 粉白色の意)で、シラカシ・ウラジロガシ・アカガシ・イチイガシと並ぶ常緑カシ5種の識別軸となります。
- 耐潮性・耐大気汚染性・剪定耐性に優れ、生垣・防風林・街路樹・神社の社叢として現代でも幅広く利用される基幹樹種です。
西日本の山地林、里山、神社境内、武蔵野の屋敷林、住宅地の生垣──常緑カシ類の代表として最も普通に見られる樹種がアラカシ(学名:Quercus glauca Thunb.)です。「粗い樫」の和名通り葉縁鋸歯がやや粗く、葉裏が粉を吹いたように灰白色に輝くことから種小名 glauca(ラテン語で「粉青色」)が与えられました。農具柄・楔・薪炭材として里山経済を1,000年以上支え、現代でも社叢林・屋敷林・街路樹として日本の景観を構成しています。万葉集にも「橿(かし)」の名で詠まれ、神宿る常緑樹として古代から崇敬されてきた歴史を持ちます。本稿では、植物学的位置づけから木材物性、近縁カシ5種比較、生垣・社叢文化、病害虫、気候変動下の分布動向、海外比較、育成・育苗方法、FAQ12項目まで、林野庁・森林総合研究所・林木育種センター・YList・気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)の最新データに基づき体系的に整理します。樹高20m・気乾比重0.83・葉裏白という3指標を軸に、植物学者・林業従事者・造園職人・庭づくり愛好家のいずれにも実用となる「カシのリファレンス」を目指します。
本稿の構成
第1章で植物学的位置づけ、第2章で形態的特徴、第3章で木材物性と用材特性、第4章で近縁カシ5種の識別比較、第5章で社叢林・武蔵野屋敷林・生垣文化、第6章で病害虫管理、第7章で気候変動と海外比較、第8章で育成・育苗、第9章で森林環境譲与税との関連、第10章で識別ポイント、第11章でFAQ12項目、最後にまとめを置きます。各章の冒頭に数値ファースト(樹高・比重・葉サイズ・分布緯度)を提示し、出典を林野庁・森林総合研究所・林木育種センター等の公的機関ベースで明示する構成としました。
クイックサマリ:アラカシの基本スペック
| 和名 | アラカシ(粗樫、別名:クロガシ、ナラバガシ、ボウガシ、ホソバガシ) |
|---|---|
| 学名 | Quercus glauca Thunb.(1784年命名) |
| 分類 | ブナ科(Fagaceae)コナラ属(Quercus)アカガシ亜属(Cyclobalanopsis) |
| 英名 | Ring-cupped Oak, Japanese Blue Oak, Glaucous-leaf Oak |
| 主分布 | 本州(宮城・新潟県以南)〜四国・九州・沖縄、朝鮮半島南部、中国南部、台湾、ヒマラヤ東部 |
| 標高分布 | 0〜1,000m(暖温帯〜中間温帯下部) |
| 樹高 / 胸高直径 | 15〜20m(最大25m) / 30〜60cm(最大80cm) |
| 葉 | 長楕円形、長さ7〜13cm、葉縁上半分に粗い鋸歯、葉裏灰白色 |
| 堅果(ドングリ) | 長卵形、長さ約2cm、殻斗は同心円状の輪状彫紋(5〜7環) |
| 気乾比重 | 0.80〜0.90(代表値0.83、森林総研データ) |
| 主要用途 | 農具柄、楔、薪炭材、シイタケ原木、生垣、防風林、街路樹 |
| 独自特徴 | 常緑カシ類で最も普通の樹種、葉裏粉白で識別容易 |
分類学的位置づけと植物学的特性
アラカシはコナラ属(Quercus)の中でもアカガシ亜属(Cyclobalanopsis、輪状殻斗をもつ常緑カシ群)に属します。日本のアカガシ亜属には、アラカシ・シラカシ(Q. myrsinifolia)・アカガシ(Q. acuta)・ウラジロガシ(Q. salicina)・イチイガシ(Q. gilva)・ハナガガシ(Q. hondae)の6種が自生し、ウバメガシ(Q. phillyraeoides)はコナラ亜属に属する別系統です。アラカシは6種のなかで最も普通に見られる代表種で、標高0〜1,000m、関東以西の山林〜里山〜住宅地まで幅広く分布します。種小名 glauca はラテン語で「粉青色」を意味し、葉裏が蝋質粉でおおわれて灰白色に見える特徴に由来します。
アカガシ亜属の系統的位置
アカガシ亜属は東アジア〜ヒマラヤ〜東南アジアに約90種を擁する常緑カシ群で、コナラ属内では落葉性のコナラ亜属(Quercus)と並ぶ二大系統の一翼を担います。形質的には、(1) 殻斗の同心円状輪状彫紋、(2) 常緑性、(3) 葉裏に蝋質粉や毛をもつ種が多い、という特徴で識別されます。アジア常緑カシの多様性中心は中国南部・ベトナム北部で、日本のアラカシ・シラカシ・アカガシ・ウラジロガシ・イチイガシ・ハナガガシの6種は、その北東辺縁の代表種として位置づけられます。アラカシは6種のうち最も垂直分布が広く、海岸〜標高1,000mまでをカバーする「ジェネラリスト」的性格を備えています。
形態的特徴の詳細
- 葉:長楕円形〜倒卵状長楕円形、長さ7〜13cm、幅2.5〜4cm、革質、葉縁の上半分のみに粗い鋸歯(基部側1/2は全縁)、葉裏は短毛と蝋質粉で灰白色〜青白色、互生、葉柄1〜2cm。
- 樹皮:暗灰褐色〜黒褐色、若木は平滑、老木で不規則に縦に裂ける(アカガシより細裂、シラカシより粗裂)。
- 花:4〜5月、雌雄同株、雄花序は前年枝から下垂(長さ5〜10cm、淡黄褐色)、雌花序は新枝先に直立(小型・目立たない)、風媒花。
- 果実(堅果):長卵形のドングリ、長さ約2cm・直径1〜1.3cm、殻斗(帽子)は同心円状の輪状彫紋(5〜7環)でアカガシ亜属の共通特徴、当年秋〜翌年秋(種子年)に成熟。
- 樹形:直立性、樹高15〜20m(最大25m)、胸高直径30〜60cm、樹冠は卵形〜広卵形、若木は徒長気味で枝が暴れる。
- 根系:主根が深く伸びる直根性で耐乾性・耐風性に優れる。
用材としての特性 ─ 重硬・耐衝撃の柄物代表材
アラカシ材は気乾比重0.80〜0.90(代表値0.83、森林総研データ)の重硬材で、辺材は淡黄白色、心材は赤褐色〜暗赤褐色、年輪はやや不明瞭で散孔材的。曲げヤング係数12〜15GPa、圧縮強度約65〜80MPa、せん断強度約14〜18MPaと広葉樹中でも上位の力学性能を示します。耐衝撃性に優れる点が最大の強みで、農具・工具の柄物に最適とされてきました。代表用途は次の通りです。
- 農具の柄:鍬・鋤・鎌・斧の柄。手の汗で滑りにくく、衝撃で折れにくい。
- 楔(くさび):製材時の割楔、伐木時の追い口楔。重硬材ゆえ叩いても潰れず割裂力を伝達する。
- 武器・武具の柄:古来、槍・薙刀・棒術用六尺棒の柄に使われた(別名「ボウガシ」の由来)。
- 薪炭材:高比重ゆえ単位体積あたりの発熱量が大きく、ナラ・クヌギと並ぶ高級薪材。備長炭の原料はウバメガシだが、アラカシも黒炭として利用される。
- シイタケ原木:クヌギ・コナラに次ぐ原木で、西日本ではアラカシ伏せ込みも普及。
- 家具・床材:近年は無垢フローリング・カウンター材として活用される事例も増加。
木材物性の数値プロファイル
森林総合研究所の日本産木材物性データベースによれば、アラカシ材の代表値は次の通りです。気乾密度 0.83 g/cm³、全乾密度 0.79 g/cm³、収縮率(接線方向)約9.2%、(放射方向)約4.8%、曲げ強度 約105MPa、曲げヤング係数 12〜15GPa、圧縮強度(繊維方向)約65〜80MPa、せん断強度(繊維方向)14〜18MPa、衝撃曲げ吸収エネルギー 約8〜12 J/cm²。広葉樹中でもアカガシ・イスノキ・カシ類とともに最重量級に位置し、ナラ(コナラ)の0.65・クヌギの0.85と比較して同等以上の性能を示します。乾燥は割れ・狂いが出やすいため、桟積みでの自然乾燥6〜12か月+人工乾燥が標準工程となります。
古代から現代までの利用史
縄文時代の貝塚・遺跡からはアラカシ堅果(ドングリ)が大量に出土し、当時の主要食料源だったことが分かっています。福井県鳥浜貝塚・青森県三内丸山遺跡などでは、貯蔵穴から多量のドングリが発見されており、アク抜き加工による粉食文化が想定されています。古墳時代以降は柄物・楔として、中世には武器の柄として、江戸期には里山の薪炭材・農具補修材として、明治以降はシイタケ原木として利用形態を変えながら、人と1万年以上関わり続けてきた樹種です。
近縁カシ類5種の識別比較
| 樹種 | 葉鋸歯 | 葉裏色 | 葉サイズ | 主分布 | 用途特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| アラカシ Q. glauca | 粗・上半分 | 灰白色 | 7〜13cm | 関東以西〜九州 | 農具柄・薪 |
| シラカシ Q. myrsinifolia | 細・全縁近い | 淡緑色 | 8〜13cm | 関東平地に多い | 生垣・防風林 |
| アカガシ Q. acuta | 無(全縁) | 淡緑色 | 8〜15cm | 太平洋側暖地 | 木刀・船舵 |
| ウラジロガシ Q. salicina | 細・上半分 | 白色(粉白) | 7〜12cm | 山地・尾根 | 結石民間薬 |
| イチイガシ Q. gilva | 細・上半分 | 淡褐色短毛 | 5〜12cm | 西日本社叢林 | 船材・建築 |
葉裏が灰白色なのはアラカシとウラジロガシで、両者の差は鋸歯(アラカシ=粗、ウラジロガシ=細)と分布標高(アラカシ=低標高、ウラジロガシ=高標高)です。シラカシとは葉鋸歯の粗さで明瞭に区別できます。
社叢林・武蔵野屋敷林・生垣文化
アラカシは古くから人と深く結びついてきた樹種です。神社境内には鎮守の森(社叢林)の構成種としてスダジイ・タブノキ・カクレミノとともに植えられ、しめ縄を巻かれた御神木は西日本を中心に各地に存在します。四国の一部地域では、家の鬼門にアラカシを植えて魔除けとする風習も伝わっています。
関東の武蔵野屋敷林はケヤキ・シラカシが代表とされますが、平地林にはアラカシも混じり、防風・薪炭・農具補修材を兼ねた典型的な里山林として機能してきました。住宅地ではトレリス仕立ての生垣として、樹高1.5〜2mで管理され、剪定・刈り込みに極めて強いことから、ベニカナメモチ(レッドロビン)と並ぶ「日本三大生垣樹種」の一角を占めます。
都市環境では、(1) 耐潮性(沿岸部)、(2) 耐大気汚染性(NOx・SOx)、(3) 剪定耐性、(4) 常緑による年間緑陰、(5) 病害虫被害の少なさ、の5点で街路樹・公園樹・防火樹として現代でも幅広く利用されます。東京都・大阪府・福岡市など主要都市で街路樹採用実績があります。
常緑カシ5種の生態的差別化
5種は同じアカガシ亜属でありながら、生態的ニッチをそれぞれ分化させています。アラカシは標高0〜1,000mの里山〜低山林で最も普通、シラカシは関東平地の屋敷林・防風林・社叢林で優占し、アカガシは太平洋側の照葉樹林帯(特に紀伊半島・四国・九州)で大径木となります。ウラジロガシは標高500〜1,500mの山地〜亜高山下部の尾根・岩稜地に多く、イチイガシは西日本の社叢林や河畔林で巨木化します。土壌湿潤度ではアラカシ=中庸〜やや乾、シラカシ=湿潤、アカガシ=湿潤〜中庸、ウラジロガシ=乾、イチイガシ=湿潤、と棲み分けがみられます。
葉の形質による速見表
野外識別では葉裏の色が決定的指標となります。アラカシとウラジロガシは「葉裏が白っぽい組」、シラカシ・アカガシ・イチイガシは「葉裏が緑っぽい組」と二分でき、前者の中で鋸歯の粗さ(粗=アラカシ、細=ウラジロガシ)、後者の中では鋸歯の有無と葉サイズ(鋸歯無+大葉=アカガシ、鋸歯細+小葉=イチイガシ、鋸歯細+中葉=シラカシ)でさらに細分されます。この識別フローを覚えれば、関東以西の里山〜社叢林で出会うカシ類のほぼ全てを葉だけで判別可能です。
病害虫と健全度管理
アラカシは病害虫に比較的強い樹種ですが、近年は次の問題が顕在化しています。
- ナラ枯れ(カシノナガキクイムシ媒介のRaffaelea quercivora菌):2000年代以降、ナラ類とともに常緑カシ類への被害が拡大。アラカシは比較的耐性が高いが、近隣のミズナラ・コナラから二次的に感染する事例が報告される。
- うどんこ病:新葉に白色粉状の病斑。生垣では風通し改善で軽減。
- カシ類のシロアリ食害:枯死木・伐倒木に発生。生立木への被害は限定的。
- カシワマイマイ・ドクガ類:食葉性害虫。庭木では発生時期に剪定・捕殺で対応。
剪定・刈り込み技術の実務
生垣仕立てでは、年2回の剪定が基本となります。1回目は新葉が固まる6月下旬〜7月、2回目は夏枝が落ち着く9月下旬〜10月。刈り込みは、生垣鋏(手鋏)または電動トリマーで上面・側面を直線または曲面に整形します。アラカシは萌芽力が強く、古枝からの吹き直しも旺盛なため、過剪定からの回復力が高いのが利点です。シンボルツリー仕立てでは、忌み枝(からみ枝・ふところ枝・徒長枝)を選択的に間引き、樹冠内部の通風と採光を確保します。剪定枝はシイタケ原木の伏せ込みや薪としての二次利用が可能です。
古木・巨樹の文化財指定例
環境省・文化庁の巨樹巨木林データベースには、アラカシの古木・巨樹が全国に多数登録されています。代表例として、京都府・奈良県の社叢林に幹周3〜4m級、樹齢推定300〜400年の個体が点在し、市町村指定天然記念物となっている例もあります。シラカシの巨樹は関東に多いのに対し、アラカシの巨樹は西日本〜近畿に集中する傾向が認められ、これは両種の歴史的分布の中心と一致します。
気候変動・分布動向と海外比較
暖温帯〜亜熱帯北部の樹種で、温暖化下では分布の北上が予想されます。気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)の予測では、21世紀末にはアラカシを含む照葉樹林帯が北海道南部まで広がる可能性が示されています。常緑カシ類は照葉樹林帯の代表として、温暖化指標樹種としても継続観察対象です。
海外では、アラカシは中国南部・台湾・朝鮮半島南部・ヒマラヤ東部に広く分布し、中国では「青冈(Qīnggāng)」と呼ばれ家具・薪炭・建築材として広く利用されます。アジア温帯で類似の役割を担うのは、欧州のホワイトオーク(Q. robur)、北米のレッドオーク(Q. rubra)ですが、両者は落葉樹であり、常緑カシは東アジア固有の機能群といえます。
気候変動下の保全戦略
温暖化の進行で常緑カシ類の北上が予測されるなか、在来集団の遺伝的多様性保全と、北限域での天然更新支援が課題となります。林木育種センターは在来系統の保存・配布を進め、地方自治体は植樹祭や緑化事業で地域系統苗を採用する事例が増加しています。一方、関東以南の里山では、ナラ枯れによる落葉カシ類の衰退とアラカシの相対優占化が進んでおり、林内の光環境や下層植生に影響が出ている地域も報告されています。常緑カシ類の管理は今後、生物多様性と森林機能の両立を図る重要テーマになります。
育成・育苗と植栽管理
アラカシは実生(種子)繁殖が容易です。秋に成熟したドングリを採取し、乾燥させずに湿った砂と混ぜ低温貯蔵(5℃前後)、翌春に播種すれば発芽率は70〜90%。直根性のため鉢上げは早めに行い、移植は2〜3年生までに済ませるのが理想です。植栽適期は6月(梅雨)または9〜10月。生垣仕立ては年2回(春・秋)の剪定で密度を維持できます。林木育種センターでは在来系統の保存・配布が進められています。
植栽密度は、生垣で30〜50cm間隔、防風林で1.0〜1.5m間隔、社叢復元で2〜3m間隔が標準。土壌は、pH5.5〜6.5の弱酸性、有機物含有量3%以上、排水性の良い壌土を好みます。施肥は植栽後2〜3年は緩効性化成肥料を年1回(早春)施し、活着後は基本的に無肥料で問題ありません。病害虫対策は、定期的な落葉清掃と通風確保による予防が中心となります。
挿し木・接ぎ木の可能性
アラカシは挿し木の発根率が低く、商業苗木は実生繁殖が主流です。一方、優良個体の遺伝形質を保存する目的では、接ぎ木(切接ぎ・腹接ぎ)が研究的に行われており、林木育種センターでは在来優良系統の保存技術として活用されています。小規模な苗木生産では、地域系統のドングリを定期採取し、地域に適応した実生苗を継続供給する仕組みが望まれます。
苗木調達・流通の現状
アラカシ苗木は、植木生産地(埼玉県川口市・安行、愛知県稲沢市、福岡県久留米市・田主丸など)で生垣・庭木用の規格苗(樹高30cm〜2m、ポット苗・露地苗)が安定供給されています。価格帯は30cm規格で1本300〜500円、1m規格で1,500〜2,500円、1.5m規格で3,000〜5,000円が目安。生垣大量植栽では、業者直送のm単価契約が一般的です。社叢復元・公園造成では、地域系統の指定発注が増えつつあります。
森林環境譲与税・J-クレジットでの位置づけ
アラカシ林は、(1) 里山林の生物多様性保全、(2) 街路樹・生垣の植栽更新、(3) シイタケ原木供給林整備、(4) 社叢林・屋敷林の保全、という観点から森林環境譲与税の活用対象となります。詳細は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向、J-クレジット制度は【J-クレジット制度森林管理プロジェクトとは】FO-001/002/003方法論を参照ください。
識別のポイント(Field Guide)
- 葉:長楕円形7〜13cm、葉縁の上半分のみに粗い鋸歯、葉裏が灰白色(最大の識別ポイント)
- 殻斗:同心円状の輪状彫紋(5〜7環、アカガシ亜属共通)
- 樹皮:暗灰褐色〜黒褐色、不規則細裂
- 樹形:樹高15〜20m、樹冠は卵形〜広卵形
- 分布:関東以西の山林・里山に普通、住宅地・社叢にも頻出
- 近縁との差:葉裏白+鋸歯粗=アラカシ/葉裏緑+鋸歯細=シラカシ/葉裏白+鋸歯細=ウラジロガシ/葉裏緑+鋸歯無=アカガシ
よくある質問(FAQ)
Q1. アラカシとシラカシの違いは?
(1) 葉裏色(アラカシ=灰白色、シラカシ=淡緑色)、(2) 葉縁鋸歯(アラカシ=粗い、シラカシ=細かい〜全縁近い)、(3) 主分布(アラカシ=関東以西の山林・里山、シラカシ=関東平地の屋敷林)の3点で識別できます。詳細は【シラカシ】Quercus myrsinifolia|関東平地の防風林・生垣の戦略樹種を参照ください。
Q2. アラカシの薪は良いですか?
非常に評価が高いです。気乾比重0.80〜0.90と広葉樹中でも重量級で、燃焼カロリー・燃焼時間ともに優秀。ナラ・クヌギと並ぶ高級薪材として薪ストーブ・暖炉用途で人気があります。
Q3. 庭木として育てられますか?
関東以西で生垣・シンボルツリーとして広く植栽されます。耐潮性・耐大気汚染性・耐剪定性が高く、住宅地・公園・社寺境内で人気の常緑樹で、年2回の剪定で形を維持できます。
Q4. ドングリは食べられますか?
タンニンが多く渋いため生食は不可ですが、水にさらしてアク抜きをすれば団子・粉として食用可能です。縄文時代の重要食料の一つで、各地の縄文遺跡からアラカシ堅果が出土しています。
Q5. 葉裏が白いのはなぜですか?
葉裏表皮細胞の表面が蝋質粉と短毛で覆われているためです。種小名 glauca(粉青色)はこの形質に由来します。乾燥・強光からの保護機能と推定されます。
Q6. ナラ枯れの被害はありますか?
ミズナラ・コナラほど顕著ではありませんが、近年は常緑カシ類への被害も報告されています。カシノナガキクイムシの穿入孔の有無を確認し、被害木はビニール被覆で羽化脱出を阻止する処理が推奨されます。
Q7. シイタケ原木に向いていますか?
クヌギ・コナラに次ぐ標準原木として西日本で広く利用されます。直径10〜15cmで伐採し、玉切り後に種菌を打ち込みます。発生は植菌から1.5〜2年後が目安です。
Q8. 街路樹としての評価は?
耐潮性・耐大気汚染性・剪定耐性に優れ、東京都・大阪府・福岡市などで採用実績があります。常緑による年間緑陰と、台風・降雪に強い直根性が評価されています。
Q9. 育てる際の注意点は?
直根性のため移植は2〜3年生までに済ませること、水はけのよい土壌を選ぶこと、植栽適期は6月梅雨または9〜10月秋雨期、の3点に留意します。
Q10. 神社の社叢に多いのはなぜですか?
常緑で年間を通じ緑を保ち、長寿(200〜400年)で剪定耐性が高く、防火・防風機能を兼ねるためです。スダジイ・タブノキ・カクレミノとともに、西日本社叢林の主要構成種となっています。
Q11. 木刀・棒術用の柄に向きますか?
古来「ボウガシ(棒樫)」の別名通り、六尺棒・薙刀の柄として利用されました。ただし最高級の木刀はアカガシ・ビワで、アラカシは普及品の位置づけです。
Q12. 海外にも生えていますか?
中国南部・台湾・朝鮮半島南部・ヒマラヤ東部に広く分布します。中国では「青冈」と呼ばれ、家具・薪炭・建築材として広く利用される重要樹種です。
Q13. 落葉カシとの違いは?
カシ(常緑)とナラ(落葉)はコナラ属の中で常緑性の有無で分かれます。アラカシは常緑、ミズナラ・コナラ・カシワ・クヌギは落葉です。常緑カシは葉を1〜2年で更新するため年中緑を保ち、社叢林や生垣に向く一方、落葉カシは秋〜冬の光環境を林床に提供し下層植生を豊かにします。
Q14. アラカシの寿命は?
一般に200〜400年と推定され、社叢林の環境では500年級の古木も存在します。萌芽更新を行えば株として1,000年以上維持される事例も報告されており、里山の薪炭萌芽林として代々利用されてきた個体は人と共に長寿命を維持してきました。
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まとめ
アラカシ(Quercus glauca)は、(1) 西日本山林・里山の代表常緑カシで本州宮城県以南〜九州・沖縄に広く分布、(2) 気乾比重0.83の重硬・耐衝撃材で農具柄・楔・薪炭材・シイタケ原木として里山経済を1,000年以上支えた、(3) 葉裏灰白色(種小名 glauca = 粉白色)と葉縁上半部の粗鋸歯で近縁カシ4種と識別可能、(4) 耐潮性・耐大気汚染性・剪定耐性に優れ生垣・防風林・街路樹・社叢林として現代利用が活発、(5) 縄文時代から続く食料・薪炭・農具・社叢の文化的シンボル、という五層の重層的価値を持つ戦略樹種です。常緑カシ類の代表として、植物学的にも文化的にも経済的にも、日本の里山景観を構成する基幹樹種として位置づけられます。

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