衛星リモートセンシング|Sentinel-2・ALOS-3活用

衛星リモートセンシング | Forest Eight

衛星リモートセンシングは、地球観測衛星に積んだ光学・SAR(合成開口レーダー)センサで、広い森林の状態を継続的に把握する技術です。ESAのSentinel-2は分解能10m・5日に1回・全世界無償公開、Sentinel-1のCバンドSARは雲を透過して昼夜問わず観測、JAXAのALOS-2/4のLバンドSARは樹冠を透過して幹まで捉える――こうした衛星を組み合わせれば、日本全土2,500万haの森林を毎週単位で見張れます。ここではSentinel-2・SAR・JAXA衛星の3軸を中心に、森林被害把握や伐採モニタリング、植生指数解析の使い方を整理します。

目次

主要な観測衛星を一覧で

森林モニタリングで使われる衛星は、無償の中分解能機(Sentinel-2、Landsat、ALOS-2/4)から、高頻度の民間機(PlanetScope)、超高分解能の商用機(WorldView-3)、宇宙LiDAR(GEDI)まで幅広い。それぞれ分解能・観測頻度・得意分野が異なります。

衛星 分解能 リビジット 運用機関 主な用途
Sentinel-2 A/B 10〜60m 5日 ESA 植生指数・全国監視
Sentinel-1 A/B(SAR) 5〜20m 6日 ESA 雲下観測・伐採検出
Landsat 8/9 15〜30m 8日 USGS/NASA 長期トレンド・40年蓄積
ALOS-2(PALSAR-2) 3〜100m 14日 JAXA LバンドSAR・森林マッピング
ALOS-4(2024打上) 1〜25m 14日 JAXA LバンドSAR後継機
PlanetScope(民間) 3m 毎日 Planet Labs 商用・有償
WorldView-3 0.31m 受注 Maxar 超高分解能・有償
GEDI(ISS搭載) 25m 不定期 NASA 宇宙LiDAR・樹高観測

Sentinel-2の13バンドと植生指数

Sentinel-2はESAのコペルニクス計画の光学観測衛星で、2機体制で5日に1回、観測幅290kmと広く全世界を撮っています。MSIというセンサで可視光・近赤外・短波長赤外の13バンドを取得し、可視光4バンド(青・緑・赤・近赤外)は10m、植生のレッドエッジ4バンドは20m、大気観測用3バンドは60m分解能です。

Sentinel-2の13バンド構成 Sentinel-2 MSIの可視光・近赤外・SWIRバンドの波長帯と分解能 Sentinel-2 MSI 13バンド構成 10m 20m 60m 分解能 B1 443 B2 490 B3 560 B4 665 B5 705 B6 740 B7 783 B8 842 B8a 865 B9 945 B10 1375 B11 1610 B12 2190 10m分解能 B2/B3/B4/B8 20m分解能 B5/B6/B7/B8a/B11/B12
図1:Sentinel-2 MSIの13バンド構成(横軸:バンドID、上端の数字:中心波長nm)

森林で主に使うのは可視光(B2/B3/B4)、近赤外(B8)、レッドエッジ(B5/B6/B7)、SWIR(B11/B12)。これらを組み合わせて植生の活性度(NDVI)、樹冠水分(NDWI)、火災跡地(NBR)などを読み取ります。データはCopernicus Open Access Hub等で全世界無償公開され、研究・行政・民間が自由に使えます。

植生指数は複数バンドの反射率を組み合わせて植生の状態を数値化したもの。いちばん普及しているNDVIは近赤外と赤の正規化差で、健全な植生で0.7〜0.9、衰退で0.3〜0.5、裸地で0以下になります。

指数 計算式 主な用途 健全林の値
NDVI (NIR−R)/(NIR+R) 植生活性度・季節変化 0.7〜0.9
EVI G・(NIR−R)/(NIR+C1・R−C2・B+L) 高密度植生・大気補正 0.5〜0.8
NDWI (NIR−SWIR)/(NIR+SWIR) 樹冠水分・乾燥度 0.2〜0.5
NBR (NIR−SWIR2)/(NIR+SWIR2) 山火事跡地・焼失面積 0.4〜0.7
SAVI ((NIR−R)/(NIR+R+L))・(1+L) 疎植林・土壌補正 0.5〜0.8
LAI 回帰モデル/放射伝達 葉面積指数 3〜7

常緑針葉樹(スギ・ヒノキ)のNDVIは年間0.7〜0.85で安定する一方、落葉広葉樹は展葉期(4〜5月)に0.3→0.8、落葉期(10〜11月)に0.8→0.3と大きく変動します。被害林では年平均NDVIが0.1〜0.3下がるため、複数年の時系列分析で被害域を抽出できる。山形・岐阜などのナラ枯れ重篤地では、年次NDVI最大値マップ(Maximum Value Composite)による広域判定が標準になっています。山火事の被害強度マッピングでは差分NBR(dNBR)が国際標準で、日本でも2024年の岩手県大船渡市火災(800ha超)などで、Sentinel-2 dNBRが消火後48時間以内に被害ポリゴンを確定し復旧計画の基盤となりました。

SARは雲の下も夜も見える

光学衛星は雲の下を観測できません。日本は年間平均雲量60〜70%と高く、梅雨や台風期は1〜2か月連続で光学観測が無効になります。これを補うのがSAR(合成開口レーダー)。自ら電波を出して反射を受信するため、雲・夜間・雨でも観測できます。Sentinel-1(Cバンド、波長5.6cm)とALOS-2 PALSAR-2(Lバンド、波長23.5cm)が主力で、Lバンドは樹冠を透過して幹・地表からの後方散乱を捉えるため、森林バイオマス推定に強みがあります。

光学衛星とSARの観測比較 雲被覆下の観測可否、観測対象の違いを示す模式図 光学衛星とSARの観測能力比較 光学衛星(Sentinel-2) 衛星 雲(観測不可) 日中・晴天のみ 色情報(13バンド) 植生指数→葉緑素 分解能:10m 日本年70回観測 SAR(Sentinel-1, ALOS-4) 衛星 雲(透過OK) 日中夜間・雲下OK 後方散乱強度 バイオマス→幹・枝 分解能:5〜25m 日本年60回観測
図2:光学衛星とSARの観測能力比較

後方散乱強度は対象物の表面粗度・形状に依存し、伐採地(裸地)では低く、密生林では高くなります。Sentinel-1のVV/VH偏波の組み合わせで伐採検出はF1=0.8〜0.9に達し、雲の多い梅雨期の伐採モニタリングを補完。さらに違法伐採検出ではSARコヒーレンス(位相相関)解析が威力を発揮します。健全な森林上では位相がほぼ一定(0.5〜0.8)ですが、伐採で植生構造が壊れると相関が失われ(0.0〜0.3)、伐採タイミングを6日精度で特定できる。世界ではSentinel-1ベースのGlobal Forest Watch RADD Alertが年間100万件以上の伐採アラートを自動配信しており、日本でも林野庁がALOS-2/4で試験運用し、無断皆伐の発覚遅延を数か月から数週間へ短縮しつつあります。

JAXAのALOSシリーズ

日本独自の地球観測衛星として、JAXAはALOS(陸域観測技術衛星)シリーズを運用しています。ALOS-2「だいち2号」(2014年打上)はLバンドPALSAR-2を搭載し分解能3〜100mで運用中。「全球森林・非森林マップ」が世界の研究機関で使われ、東南アジアやアマゾンの森林変化監視に貢献しています。後継のALOS-4「だいち4号」(2024年7月打上成功)は分解能1〜25m・観測幅最大700kmと広域・高頻度に。光学衛星のALOS-3「だいち3号」は2023年3月のH3ロケット打上失敗で喪失しましたが、後継機計画が進行中で、分解能0.8m(パンクロ)・3.2m(マルチ)の超高分解能観測を予定しています。実現すれば、25cm級の違法伐採を広域・定期的に検出できるようになります。

クラウドが参入障壁を下げた

かつて衛星解析はENVIやERDAS IMAGINEといった100万円超のソフトと専用GISサーバが必須で、研究機関以外は実質手が出せませんでした。それを一変させたのがGoogle Earth Engine(GEE)。PB級のSentinel-2・Landsat・MODIS・ALOSアーカイブを前処理済みでクラウド提供し、ブラウザ上のJavaScript/Pythonで時系列解析・植生指数算出・面積集計まで実行できます。日本全土2,500万haの過去10年NDVI時系列を解析しても、手元にデータをダウンロードする必要がありません。

衛星データクラウド処理ワークフロー GEE/Planetary Computerでの衛星データ取得から解析・配信までの流れ クラウドプラットフォームでの衛星データ解析 衛星データ取得 Sentinel-2/Landsat クラウド配信 GEE/AWS/Azure 前処理 大気補正・雲除去 指数算出 NDVI/EVI/NBR等 時系列解析・変化検出 伐採検出・被害判定・成長量推定 AI/機械学習 CNN・Random Forest 配信・可視化 WebGIS/API 主要クラウドプラットフォームと特徴 Google Earth Engine(GEE):研究無償、PB級データ、JS/Python API Microsoft Planetary Computer:オープン研究向け、Azure基盤 AWS Open Data:商用、高スループット、各種衛星対応 Tellus(さくら/JAXA):日本独自、ALOS系データ充実
図3:衛星データクラウド処理ワークフロー

GEEで全土NDVI時系列解析を書くコードは50〜100行程度、実行は数分。同じ処理を従来環境で組むとデータダウンロード・前処理・モザイク作成で数週間かかっていました。日本独自のプラットフォームとしてはTellus(運営:さくらインターネット、データ提供:JAXA等)があり、ALOS系のSARデータと国産アプリを統合提供しています。林野庁の森林被害把握事業でもGEE+Sentinel-2のNBR解析で松枯れ・ナラ枯れの被害ポリゴンを月次抽出し、処理コストを従来比で約30%まで圧縮、解析人員1名で全都道府県のスクリーニングを完結できるようになりました。

運用例と他センサとの組み合わせ

林野庁の「衛星データ等を活用した森林被害把握調査」では、Sentinel-2のNDVI時系列で全国2,500万haの異常を検出しています。前年同月比でNDVIが0.15以上下がった箇所を「要確認区域」として抽出し、ドローン・現地踏査の優先順位付けに使うワークフローが標準。2022年9月の台風被害(北海道・東北)では、台風前後のSentinel-2画像比較とSentinel-1の差分干渉SARで風倒被害域を広域把握し、被害面積1,200ha・材積60万m³規模の早期推計ができました。

ただし衛星にも限界があります。10m分解能では単木抽出は難しく、雲で光学観測が中断し、樹種分類も多くは針葉樹/広葉樹の二分類どまりで、樹高や本数といった3次元情報は直接得られません。そこで、広域スクリーニング(衛星)→優先管理域の精査(ドローンRGB)→施業計画地の精密解析(ドローンLiDAR)→研究検証地(地上LiDAR)という階層的なセンサ融合が国内外で標準化しつつあります。さらにNASAの宇宙LiDAR「GEDI」の樹高観測をSentinel-2・ALOS-2と機械学習で統合すれば、全土の地上部バイオマスを面的にマッピングでき、森林研究・整備機構と東京大学が全国2,500万haの炭素ストックを30m解像度で公開しています(地区別RMSE 25〜40t/ha)。

よくある質問

Sentinel-2でスギとヒノキを区別できますか?

分解能10mでは個別の樹種判別は困難です。ただし数ha以上の純林なら、年間の植生指数の季節パターン(フェノロジー)の違いから針葉樹・広葉樹・常緑/落葉の大別は可能。スギ・ヒノキの判別精度は60〜75%にとどまり、高い精度が要るならSentinel-2+ドローンRGBの組み合わせが標準です。

雲が多い日本で実用になりますか?

年間平均雲量50〜70%と高く、Sentinel-2の有効観測機会は年20〜30回に減ります。これを補うには、月次最大値合成で雲被覆分を回避する、Sentinel-1 SARを併用して全天候観測する、複数衛星を組み合わせて観測機会を増やす、の3つが有効です。

どんなスキルが必要ですか?

研究レベルではPython・GEEのプログラミング、画像処理ソフト(QGIS/ArcGIS/SNAP)、植生指数の解釈、統計の知識が要ります。実務では、前処理済みのNDVI時系列マップやWebGISダッシュボードを使えば専門知識なしでも変化検出・被害把握が可能。林野庁・JAXAが自治体向けの研修・マニュアル整備を進めています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次