【オヒョウ】Ulmus laciniata|葉先3裂のニレ、アイヌ伝統衣装アットゥシの素材樹種

オヒョウ(Ulmus laciniata)の大きな葉

オヒョウ(Ulmus laciniata)は、魚に名前を取られた木である。カレイの仲間のオヒョウは大型で有名なので、検索すると魚が先に出る。ところが木の和名わめいの元は、樺太からふとの白浦しらうら地方で樹皮を指したアイヌ語「オピウ」だとされる。葉を魚に見立てたという説もあるが、懐疑的な見方がある。この木の主役は、葉でも魚でもなく、樹皮のほうだ。

ニレ科ニレ属の落葉広葉樹らくようこうようじゅで、高さは約25mになる。葉の先が3〜9つに裂けるのが目印で、北海道から九州まで、涼しい山地に生える。内側の樹皮(靭皮じんぴ)の繊維は強く、アイヌの人びとはこれを織って、衣服「アットゥシ」にした。

オヒョウの主な特徴樹高約25m落葉広葉樹の高木冷涼な山地に多い葉先3〜9裂形は一定しない裏表に白い短毛花期4〜6月新葉が開く前に咲く花弁のない小花果実約2cm平たい翼果6月ごろ褐色に熟す
図1:オヒョウの主な特徴
目次

ニレ科の中の居場所

まず住所を確認しておこう。オヒョウは、バラ目ニレ科ニレ属に属する。ニレ属は北半球の温帯に約20種があり、日本で「ニレ」といえば、ふつうはハルニレを指す。サクラやバラと同じ「バラ目」に入っているのは意外だが、目は、科の上にある、かなり大きな括りだ。

オヒョウの分類上の位置目バラ目Rosales同じ目の別の科バラ科(サクラ・ウメ)クワ科(クワ)、アサ科(エノキ)科ニレ科Ulmaceae同じ科の別の属ケヤキ属(ケヤキ)※エノキ類は近年アサ科に分ける属ニレ属Ulmus同じ属の仲間ハルニレ、アキニレニレ属は北半球に約20種種オヒョウUlmus laciniataこの記事の主役葉先が3〜9裂する樹皮の繊維でアットゥシを織る※ 目・科の線引きは分類体系によって変わることがある。
図2:目・科・属・種の位置づけ

同じニレ科のケヤキは別の属で、ニレ属との違いは葉の縁にある。ニレ属の葉は、大きな鋸歯きょしの間に小さな鋸歯が入る二重鋸歯にじゅうきょしだ。ケヤキ属は普通の鋸歯である。なお、エノキやムクノキも、以前はニレ科だったが、最近はアサ科に入れることが多い。分類は、動かない台帳ではなく、更新こうしんされ続ける台帳である。

ニレ属を葉で見分ける

日本で見かけるニレ属の代表は、オヒョウ、ハルニレ、アキニレだ。オヒョウは、葉の先が裂けることで、ほかの2種と区別できる。ハルニレは春に咲き、アキニレは、名前のとおり秋に咲く。秋咲きは、ニレ属のなかでも珍しい。

ニレ属の3種を葉で見分けるオヒョウUlmus laciniata葉先が3〜9裂する花は4〜6月、葉より先ハルニレUlmus davidiana葉先はふつう裂けない「ニレ」といえばこの木アキニレUlmus parvifolia花は秋に咲く中部地方以西の水辺※ 模式図(大きさは実際の比ではない)。ケヤキは別属で、葉の縁が二重の鋸歯にならない点でニレ属と見分けられる。
図3:ニレ属3種の葉の違い(模式図)

オヒョウの葉は、一枚として同じものがないとされる。形が一定しない「異葉性いようせい」の木で、裂け方は3〜9と幅がある。縁は重鋸歯じゅうきょしで、両面に白い短毛が密に生えるため、触るとざらつく。

先端が裂けたオヒョウの葉
オヒョウの葉。先端が3つに尖って裂け、縁には大小の鋸歯が並ぶ(ロシア沿海地方)。写真: iNaturalist 観察記録 by Repina Tatyana / CC BY 4.0, via iNaturalist(一部をトリミング、リサイズ・再圧縮)

見分け方のポイント

  • 葉:楕円形だえんけいから広い倒卵形とうらんけいで、先が3〜9裂する。縁は重鋸歯じゅうきょしで、両面にざらつく短毛がある。
  • 樹皮:淡い灰褐色から灰褐色で、縦に細かく浅く裂け、長く剥がれ落ちる。繊維は強靭。
  • 花:4〜6月ごろ、新葉しんようが開く前に、花弁かべんのない淡紅色の小花しょうかが束になって咲く。
  • 果実:長さ約2cmの平たい翼果よくか。6月ごろ褐色に熟す。
  • 冬芽ふゆめ:卵形らんけいで先が尖り、濃い栗色でつやがある。5〜6枚の芽鱗がりんに包まれる。

日本では北海道、本州、四国、九州に分布し、本州以南では山地で見られる。東北地方や信州、木曽に多いとされる。水が十分にあり、洪水のない肥沃な土地を好み、自生じせいする場所はハルニレと似ている。

オヒョウの幹と樹皮
オヒョウの幹(北海道上川町、2019年10月)。樹皮は縦に浅く裂け、長く剥がれる。写真: iNaturalist 観察記録 by timharris / CC BY 4.0, via iNaturalist(一部をトリミング、リサイズ・再圧縮)

アットゥシ──木の皮が衣になる

オヒョウの樹皮繊維で織られたアイヌの衣服アットゥシ
19世紀のアットゥシ(東京国立博物館蔵)。オヒョウの内皮からとった靭皮繊維を糸にして織り上げ。写真: Coat, Ainu, Hokkaido, 1800s AD, attus (bast fiber) – Tokyo National Museum – Ueno Park, Tokyo, Japan – DSC09077 by Daderot(パブリックドメイン), via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

アットゥシは、オヒョウやハルニレなどニレ科の木、またはシナノキ科のシナノキの内皮ないひ(靭皮じんぴ)の繊維を織った布だ。なかでもオヒョウの繊維は、北方の樹種で最も優れるとされ、同じ用途のシナノキより高級で希少だという。別名が「アツシノキ」なのは、この布の名前から来ている。布の名前を、そのまま木の別名にした形だ。

作り方は手間がかかる。樹木に水分が多い5月末から6月ごろに樹皮をはぎ、内皮を取る。柔らかくするため、沼の水や温泉に最長1週間ほど浸けるか、灰汁あくを加えて煮る。温泉に浸けると、繊維が白くきれいに仕上がるといわれる。そのあと細く裂いて撚り、糸にして、腰機こしばた(こしばた)で織る。

アットゥシを織る道具を描いた大正期の図
アットゥシを織る道具まわりを描いた図(武隈徳三郎『アイヌ物語』大正7年)。写真: Ainu monogatari takekuma 08 by Tokusaburō Takekuma(パブリックドメイン), via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

晴れ着には、襟や袖に木綿の布を当て、刺繍ししゅうやアップリケでアイヌ文様を施すことが多い。文様の線の始まりと終わりを角ばらせるのは、魔よけまよけの意味があるとされる。

北海道沙流郡平取町びらとりちょうの二風谷にぶだにで織られるものは、「二風谷アットゥシ」として、2013年に経済産業大臣指定の伝統的工芸品でんとうてきこうげいひんになった。北海道の工芸品としては初の指定である。2020年に開館した国立アイヌ民族博物館(ウポポイ)でも、アイヌ文化の展示を見ることができる。

木材としての顔

木材としては、器具材きぐざい、薪炭材しんたんざい、パルプなどに使える。この木の知名度は、材よりも繊維が稼いでいる。

オヒョウの主な用途1靭皮繊維アットゥシ・縄2器具材道具類など3薪炭材薪や炭に4パルプ紙の原料
図4:オヒョウの主な用途

近縁種との見分け方

  • ハルニレ:日本でニレといえばこの木。オヒョウと似た場所に生える。葉先は、ふつう裂けない。
  • アキニレ:中部地方以西、四国、九州の水辺に分布する。花が秋に咲くので、花期かきだけで区別がつく。
  • ケヤキ:同じニレ科だが別属。葉の縁が二重鋸歯にじゅうきょしにならない。
  • シナノキ:シナノキ科で、ニレとは別の科。内皮ないひの繊維を織物に使う点だけが共通している。

よくある質問

Q. オヒョウとハルニレはどう違うの?
いちばん分かりやすいのは葉先だ。オヒョウは先が3〜9裂し、ハルニレはふつう裂けない。どちらもニレ属で、自生する場所は似ている。

Q. 魚のオヒョウと関係はある?
和名の由来は、樺太からふとの白浦しらうら地方で樹皮を指したアイヌ語「オピウ」とされる。葉を魚に見立てたという説もあるが、懐疑的な見方がある。

Q. どこで見られる?
北海道から九州に分布し、本州以南では山地に多い。東北地方や信州、木曽に多いとされる。水が十分にある肥沃な土地で、ハルニレと並んで見つかることがある。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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