SAF(持続可能航空燃料)と木質バイオマス

SAF(持続可能航空燃料)と木質… | Forest Eight

飛行機の燃料を「持続可能」にする——そんな取り組みが、いま航空業界で急ピッチに進んでいます。その主役がSAF(持続可能航空燃料)です。廃食用油や木くずなどから作る燃料で、既存の航空機やタンクをそのまま使えるのが特徴。世界の生産量は2023年に約60万kLでしたが、2030年には約2,000万kL(約30倍)に膨らむと予測されています。日本も、年間約1,300万kLの航空燃料のうち2030年に10%(130万kL)をSAFにする目標を掲げました。この記事では、その中で木質バイオマス(木くず)がどんな役割を担うのかを見ていきます。

目次

SAFの作り方は7通り

SAFは「再生可能な原料から作る、そのまま使える航空燃料」です。国際規格ASTM D7566は7つの製造ルートを認めており、いま主流なのは廃食用油や動物性油脂から作るHEFAで、世界生産の約8割を占めます。木くずが活躍するのは、主にFT合成(ガス化してから液体燃料に再合成)とATJ(一度エタノールにしてから変換)という2つのルートです。

SAF製造経路と原料 7つの製造経路と主要原料の関係を示す SAF製造経路(ASTM D7566認証7経路) ①HEFA 廃食用油・動物性油脂 世界生産80%・最も普及 ②FT合成 木質・廃棄物ガス化 木質バイオマス活用の主軸 ③ATJ エタノール・イソブタノール サトウキビ・トウモロコシ・木質 ④PtL(e-Fuel) 水素+回収CO2 2030年代以降の主力候補 その他経路 ⑤SIP(イソプレノイド) ⑥CHJ(炭化水素処理) ⑦HEFA-SPK SAFブレンド上限:50% 既存燃料と混合使用 ASTM規格でSAFと既存燃料の50%ブレンドが認可。100%SAF対応は試験飛行段階。
図1:SAF製造経路(出典:ASTM D7566、IATA SAF Reference Document 2023)

世界が一斉にアクセルを踏んだ

SAFの生産量がここ数年で跳ね上がっているのは、各国がほぼ同時に義務化へ動いたからです。特にEUの「ReFuelEU Aviation」は、2025年に混合率2%、2030年6%、2035年20%、2050年70%と、世界で最も野心的なスケジュールを法律で定めました。米国も2030年に約1,140万kLの生産を目標に税優遇を用意しています。

SAF世界生産量推移と予測 2018年から2030年までの世界SAF生産量推移 SAF世界生産量推移と予測(万kL/年・対数表示) 2,000 600 200 60 10 2018 2020 2022 2024 2027 2030 2万 30万 60万kL(2023) 2,000万kL予測 2018-2030の12年で1000倍規模に拡大予測。EU・米国の義務化政策が需要を牽引。
図2:SAF世界生産量推移と予測(出典:IATA、IEA、IRENA 2024年資料)

日本の供給体制と木くずの出番

日本は2022年に官民協議会を立ち上げ、2030年に130万kLという目標を決めました。まず動いているのは廃食用油由来のHEFAで、コスモ石油や出光、三菱商事・ENEOSなどが2025〜2027年に商業プラントを稼働させる計画です。木くず由来(FT合成・ATJ)はまだ技術開発段階で、商業化は2030年代に入ってからの見通しです。

プロジェクト 事業者 生産能力 稼働予定
堺SAF(HEFA) コスモ石油・日揮HD等 3万kL/年 2025年
出光SAF(HEFA) 出光興産 25万kL/年 2026-27年
水島ATJ 三菱商事・ENEOS 22万kL/年 2027年
FT合成実証(木質) JGC・住友商事 数千kL 2026年

木質バイオマスのポテンシャルは実はかなり大きいのです。日本の木質バイオマス利用量は年約2,400万t。林地に放置された未利用材や剪定枝、建築廃材まで含めると、SAF原料に回せる余剰は年500〜800万t規模あり、FT合成なら年50〜80万kLのSAFが作れる計算になります。これは2030年目標130万kLの4〜6割。木くずだけで目標の半分近くを賄えるポテンシャルがあるわけです。

日本のSAF原料ポテンシャル 原料別のSAF製造可能量 日本のSAF原料ポテンシャル(万kL/年・推計) 廃食用油 30-40 木質バイオマス 50-80 食品廃棄物 15-20 微細藻類 5 e-Fuel(水素+CO2) 25-30 輸入SAF 0-15 合計130万kL(2030年目標)。木質バイオマスは最大ポテンシャルだが技術成熟度が課題。
図3:日本のSAF原料ポテンシャル(出典:経産省・国交省「SAFの導入促進に向けた取組」2023年に基づく推計)

CO₂は減らせる。でも、値段が高い

SAFのCO₂削減効果は、化石ジェット燃料と比べて60〜90%(ライフサイクル評価)。とくに木くず由来のFT合成は85〜90%と高く、燃やして出るCO₂はもともと森が吸ったものを大気に戻すだけなので、ほぼカーボンニュートラルに近づきます。ただし「伐ったら植える(再造林)」をきちんとやらないと削減率は60〜70%に落ちる点には注意が必要です。

最大の壁はコストです。化石ジェット燃料が1L約100円なのに対し、SAFは廃食用油由来で300〜400円、木くず由来は400〜500円と3〜5倍。原料費に加え、ガス化や合成にかかる設備投資が重く、規模を大きくしないと採算が合いません。

SAFコスト構造 航空燃料の単価比較 航空燃料の単価比較(円/L) 化石ジェット 100 SAF(廃食用油HEFA) 350 SAF(糖質ATJ) 400 SAF(木質FT) 450 e-Fuel(PtL) 700+ 2030年目標(規模効果後) 200 化石燃料比3-5倍。規模拡大・税制優遇・差額補助等の政策支援なしでは市場成立困難。
図4:航空燃料のコスト比較(出典:IATA SAF Reference Document、IEA、経産省試算 2024年)

この価格差を埋めるのが政策です。EUは混合義務+補助金、米国は税控除、日本もグリーンイノベーション基金から木質SAF技術開発に約500億円規模を投じています。ANAやJALはコスト増の一部を運賃に転嫁する方針で、2030年以降の本格普及に向けた仕組みづくりが進んでいます。

森にとっての意味

木くずSAFが面白いのは、航空の脱炭素だけでなく林業の活性化や地方創生にもつながる点です。間伐材や林地残材に新たな需要が生まれれば、間伐や再造林の採算が良くなり、放置されがちな人工林の若返りが進みます。SAF原料の需要拡大は、そのまま林業の市場拡大を意味するわけです。一方で、土地利用を壊さない・生物多様性に配慮するといった持続可能性の証明(FSC・SGEC認証材の活用など)が前提条件になります。航空と林業という、これまで縁のなかった二つの世界がつながろうとしているのが、SAFのもうひとつの見どころです。

よくある質問

SAFって普通のジェット燃料とどう違うの?

原料が再生可能(廃食用油・木くず・水素+CO₂など)という点が違いますが、性能は同等で、既存の航空機やタンクをそのまま使えます。だから「ドロップイン燃料」と呼ばれます。CO₂排出はライフサイクルで化石燃料比60〜90%減らせます。

なぜSAFはこんなに高いの?

原料の確保が難しく、製造設備にも大きな投資が必要だからです。廃食用油は集められる量に限界があり、木くずはガス化や合成の工程で資本費がかさみます。各国の義務化や税優遇で生産規模が広がれば、2030年以降に単価は下がっていく見込みです。

木くずから作るSAFはいつ実用化されるの?

FT合成・ATJともに技術成熟度は中程度で、国内では2026年ごろから実証が始まり、商業生産は2030年代前半が目標です。政府のロードマップでも、木質由来SAFは2030年代の主力候補と位置づけられています。

出典・参考:IATA Sustainable Aviation Fuels経済産業省「SAF」国土交通省「SAF」林野庁「木質バイオマス利用」

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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