SAR衛星による森林監視|雲を透過して熱帯林の違法伐採を検出する

SAR衛星で違法伐採を検出

熱帯の森を宇宙から見張ろうとすると、最大の敵は雲です。赤道地域では年間の5〜8割の日が雲に覆われ、ランドサットやSentinel-2のような光学衛星では月単位の連続監視がほとんどできません。その隙をついて違法伐採は進みます。ここで決め手になるのが、雲も煙も夜も突き抜けて地表を捉えるSAR(合成開口レーダー)です。電波で森を「触る」この技術が、熱帯林のリアルタイム監視を現実のものにしつつあります。仕組みと主要衛星、実際に動いている警報システム、そして日本の貢献までを整理します。

主要衛星5+機運用中世界観測周期6-14Sentinel-1/ALOS-2解像度10-25m(標準)商用は0.5 m級熱帯林損失370万ha/年(2023)WRI
図1:SAR森林監視の主要諸元と熱帯林損失規模(WRIほか)
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なぜ雲を突き抜けられるのか

SARは自分で電波(マイクロ波)を出して、跳ね返ってくる波の強さや位相を測る「能動型」のセンサーです。太陽光に頼らないので夜でも観測でき、波長が雨粒や煙の粒子よりずっと長いため、それらに散乱されず透過します。アマゾンで年間2〜5万km²規模のバイオマス焼却が起きても、その煙の下を見通せるわけです。森林と伐採跡では跳ね返り方が明確に違い、後方散乱係数で見ると森林は−7〜−12dB、伐採跡地は−12〜−18dB、水域は−20dB以下と、変化を捉えやすいのも強みです。

カギを握るのが波長帯の選択です。波長が長いほど森の奥まで電波が届き、より重いバイオマスまで測れます。Pバンド(60cm)は樹幹まで貫通して300t/ha超まで飽和せず炭素推定に最適、Lバンド(24cm)は樹冠と幹で構造把握に、Cバンド(5cm)は樹冠表面で変化検出に、Xバンド(3cm)は葉表面で高解像観測に向きます。さらに複数時期の位相差を見る干渉SAR(InSAR)のコヒーレンス値は、伐採後に急変するため検出の手がかりになります。

主要なSAR衛星

森林監視に使われる主な衛星を、波長と解像度、観測周期、データ公開条件で並べてみます。

衛星 運用機関 波長/バンド 解像度 観測周期 データ公開
Sentinel-1A/C ESA(EU Copernicus) Cバンド 5×20 m(IW) 6〜12 日 無償・即時
ALOS-2 JAXA(日本) Lバンド 3〜100 m 14 日 研究無償・商用有償
ALOS-4 JAXA(2024打上) Lバンド 3 m 14 日 JJ-FAST統合予定
NISAR NASA-ISRO L+Sバンド 3〜10 m 12 日 無償
BIOMASS ESA(2025打上) Pバンド 50〜200 m 3〜7ヶ月 無償
Capella Space 米国(商用) Xバンド 0.5〜1.2 m オンデマンド 有償
ICEYE フィンランド(商用) Xバンド 0.25〜3 m 1日以下 有償

無償で即時公開されるSentinel-1(ESA)が広域監視の主力、樹冠下まで透過するLバンドのALOS-2(JAXA)が構造・炭素把握に強い、というのが基本的な役割分担です。Capella SpaceやICEYEといった商用のXバンド小型衛星群は、解像度こそ0.5m級と高いものの観測幅が狭く、広域より個別ターゲットの高頻度監視に向いています。波長帯ごとの得意分野を理解して使い分けるのが、運用のコツです。

SAR波長別の森林貫通深度とバイオマス飽和バイオマス感度Pバンド60 cm飽和 300+ t/haLバンド24 cm飽和 150 t/haCバンド5 cm飽和 50 t/haXバンド飽和 30 t/ha用途:P=炭素L=構造C=変化X=高解像
図2:SAR波長別の森林貫通深度・バイオマス感度・主要用途

すでに動いている監視システム

SARを使った熱帯林の警報システムは、いまも世界各地で稼働しています。日本のJAXAとJICAが共同運用するJJ-FASTは、ALOS-2のLバンドSARで世界の熱帯林(約77か国)をカバーし、伐採跡を6週間ごとに更新して無償公開しています。ペルーやブラジルなどでの違法伐採取り締まりへの活用が報告されています。メリーランド大学のGLAD-S1はSentinel-1で全球熱帯林を数日〜十数日周期で監視し、Global Forest Watch上で無償公開。オランダ・ヴァーヘニンゲン大学のRADDは検出に信頼度の段階を付け、誤検出を運用側で吸収できるようにしています。

ブラジル国立宇宙研究所のPRODES/DETERは、光学とSARを併用してアマゾンを公式監視し、その検出結果は連邦警察やIBAMA(環境機関)が違法伐採の証拠として使っています。これらのシステムの多くは無償公開され、各国政府やNGO、ジャーナリストが活用しています。衛星警報の導入で、伐採の発見から現場対応までの時間が大きく短縮された事例も報告されています。

伐採を自動で見つける

SAR画像から伐採を自動検出するアルゴリズムも進化しています。基本は、複数時期の後方散乱係数の差分(log-ratio)から変化を抽出する手法で、森林伐採では数dBの低下が現れます。これに干渉SARのコヒーレンス変化を組み合わせると精度が上がります。長期の時系列から傾向のずれを検知する統計手法や、近年はU-NetやVision Transformerといった深層学習で時系列SARを解析し、小規模な伐採まで拾えるようになってきました。SARに光学(Sentinel-2)やLiDAR(GEDI)を融合させると誤検出を減らせます。こうした処理はGoogle Earth Engineのようなクラウド基盤で実行でき、条件のよい熱帯林では高い検出精度が得られています。

日本の貢献と限界

日本はこの分野で存在感を発揮しています。JICAはベトナム、インドネシア、ブラジル、ペルーなどで森林監視能力の強化プロジェクトを実施し、JJ-FASTの現場活用や現地スタッフへのSAR解析研修、取り締まり制度の設計を支援してきました。林野庁とJAXAは国内でもALOS-2を使い、スギ・ヒノキ人工林の蓄積推定や、令和元年房総半島台風のような被害の即時把握に役立てています。2024年に打ち上げられたALOS-4は分解能と観測幅が向上し、JJ-FASTの速報性をさらに強化する見込みです。

もちろん万能ではありません。Lバンドでも急斜面や混交林では検出感度が落ち、1ha当たり数本だけを抜く選択伐採は樹冠の連続性が保たれるため検出が難しくなります。さらに、アラートが出ても現場で動ける環境警察・森林管理職員が不足する地域では摘発に至らないことが多く、衛星群の運用コストも小さくありません。それでも、こうした課題はAI解析の高度化や光学・ドローンとの統合、国際的な資金支援で着実に埋められつつあります。背景には制度面の追い風もあり、2020年末以降に伐採された土地に由来する大豆・牛・木材・コーヒー・カカオなどのEU域内流通を制限するEU森林破壊規則(EUDR)では、SARを含む衛星データが有力な検証手段とされています。EUDRの本格適用は繰り返し延期され、大企業は2026年12月30日からとなりました。日本企業もEU向け輸出で対応を迫られ、SAR解析サービスの需要が高まっています。

よくある疑問

違法伐採をどのくらい早く検出できる?

観測周期(Sentinel-1で6〜12日、ALOS-2で14日)に処理時間を足すと、伐採後おおむね1〜3週間で警報が配信されます。高頻度で観測できる商用Xバンドの衛星群を使えば、さらに速い警報も可能です。

個人や小規模NGOでも使える?

使えます。Sentinel-1のデータはESAが完全無償で公開しており、Google Earth Engine(無償アカウント)のクラウド上で処理できます。技術がなくても、Global Forest Watchのブラウザ画面なら警報をそのまま可視化できます。

SARで森林の炭素量も測れる?

一定範囲なら可能です。Lバンドで約150t/ha、Pバンドで約300t/haまで飽和せずバイオマスと相関します。短波長のC・Xバンドは30〜50t/haで飽和するため、炭素量の推定より伐採検出向きです。ESAのBIOMASS衛星(Pバンド)は世界初の全球森林炭素マッピングを目指しています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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