なめこ・えのきたけ・ぶなしめじ|施設栽培の市場

なめこ・えのきたけ・ぶなしめじ | Forest Eight

スーパーの野菜売り場で、えのきたけもぶなしめじも一年中100円前後で買える。これって、よく考えるとちょっとすごいことです。天候にも季節にも左右されず、毎日同じ品質のきのこが安定して並ぶ。その裏側にあるのが「菌床ボトル栽培」という、ほとんど食品工場のような量産システムです。なめこ・えのきたけ・ぶなしめじを中心とした施設栽培きのこは、年間およそ34万t、生産額1,500億円規模。特用林産物の中核を担う巨大な産業になっています。

目次

品目別に見る、施設栽培きのこの規模感

2023年の生産量を品目別に並べると、えのきたけ12.7万tが最大で、続いてぶなしめじ12.0万t、まいたけ5.4万t、エリンギ3.7万t、なめこ2.4万t。合計でおよそ36万tに達し、原木栽培が主体のしいたけ(生・乾合計で生重換算約7万t)の5倍以上もの供給量です。施設栽培の規模効果が量産を可能にし、年間を通じて卸売価格を安定させています。

施設栽培きのこ品目別生産量 えのきたけ・ぶなしめじ・まいたけ・エリンギ・なめこの生産量を棒グラフで比較 施設栽培きのこ品目別生産量(2023年、万t) えのきたけ 12.7 ぶなしめじ 12.0 まいたけ 5.4 エリンギ 3.7 なめこ 2.4 しいたけ(参考) 6.7 5品目合計約36万tで国内きのこ生産量の概ね85%。原木しいたけは別系統。
図1:施設栽培きのこの品目別生産量(出典:林野庁「特用林産基礎資料」2023年)

えのきたけは1980年代の鍋物需要とともに急成長し、菌床ボトル栽培が確立した1990年代以降に量産化。ぶなしめじはホクトや雪国まいたけといった大手が「ブナピー」などのブランドで市場を広げ、1990年から2023年で生産量を約4倍に伸ばしました。なめこは味噌汁需要に支えられ、2.4万t規模で安定しています。一方、近年は国産きくらげの生産も伸びており、かつて中国産が市場の大半を占めていたものが、安全性志向と地産地消の流れで国産が約2,500tまで拡大しました。

なぜ長野・新潟に集中するのか

施設栽培きのこは、長野県・新潟県の2県だけで全国生産額の60%以上を占めます。長野県中野市・長野市・飯山市はえのきたけ・ぶなしめじ・なめこの主産地で、県内のきのこ生産額は約700億円。新潟県南魚沼市・五泉市は雪国まいたけの本拠地で、まいたけ生産の過半を握ります。福岡県はエリンギ、福井県はえのきたけと、品目ごとの地域特化も進んでいます。

県別きのこ生産額シェア 長野・新潟・福岡・福井等の県別生産額シェアを棒グラフで示す 施設栽培きのこ生産額の県別シェア(2023年、%) 長野 40.0 新潟 20.0 福岡 7.0 福井 5.0 北海道 4.0 山形 3.0 その他 21.0 長野+新潟で60%超、上位5県で約76%。きのこ生産は地理的に強く偏在
図2:県別きのこ生産額シェア(出典:林野庁特用林産基礎資料、各県農政データを統合)

集中の背景には、いくつかの地の利があります。冷涼な気候は菌床の培養温度(18〜20℃)を保つコストを下げてくれますし、豊富な地下水は菌床の調整に使える。米作り文化のおかげで米ぬかなどの農業副産物が手に入りやすく、大手企業の集積で技術や人材も育ちやすい。長野県中野市は「えのきたけのまち」として町ぐるみで栽培研修を行い、原料調達から廃培地のリサイクルまで地域内で循環する産地クラスターを形づくっています。業界はホクト(長野市、ぶなしめじ・エリンギ主力)、雪国まいたけ(南魚沼市、まいたけ主力)、きのこ総合センター(中野市、えのきたけ主力)の大手3社が、生産額の約4割を占める寡占構造です。

食品工場のような栽培現場

えのきたけやぶなしめじは、850〜1,400mlのプラスチックボトルに培地を詰めて育てる「菌床ボトル栽培」が主流です。工程は、培地調整からボトル充填・殺菌、種菌の接種、培養、芽出し・発生、収穫・包装まで一連の流れになっていて、専用機械で連続生産できます。1ライン日産5万本という大型工場が長野・新潟に複数あり、立ち上げには年間20億円規模の設備投資がかかります。

工程 内容 所要時間
培地調整 おがくず・コーンコブ・米ぬか等を混合(含水率65%) 1〜2時間
充填・殺菌 ボトルに自動充填、121℃で殺菌 3〜4時間
種菌接種 クリーンルームで自動接種 数秒/本
培養 22℃前後の培養室で菌糸を蔓延させる 30〜60日
芽出し・発生 温度・湿度・CO2制御で子実体を形成 10〜20日
収穫・包装 自動収穫機・包装機で連続処理 数秒/本

えのきたけは培養+発生でおよそ45日サイクル・1ボトル250〜350g、ぶなしめじは80日サイクル・200〜250g、まいたけは100日前後で500〜700g。日産5万本にサイクルと収量を掛けると、1ラインで年間数千トンに達します。ホクトはぶなしめじ・エリンギ等で1日130tクラス、雪国まいたけはまいたけで1日100t規模と、まさに食品メーカーレベルの量産能力です。

経営を揺るがす、原料と電力

順風満帆に見えるこの産業にも、悩みの種があります。一つは培地原料です。培地はおがくず・コーンコブ・米ぬか・ふすまの混合物ですが、このうちコーンコブは大半を米国・中国からの輸入に頼っています。2022年のロシア・ウクライナ情勢に伴う穀物相場の上昇で、原料コストは20〜30%も跳ね上がりました。

菌床培地原料の構成と調達 菌床培地の主要原料と国内・輸入の比率を示す 菌床培地原料の構成(重量比) おがくず 40% コーンコブ 32% 米ぬか 20% 他8% 調達構造: おがくず 国産70% 輸入30% 15% コーンコブ 輸入85%(米国・中国) 米ぬか 国産100%(米作副産物) 原料コストは2020年比で約25%上昇。とりわけコーンコブの輸入依存が経営リスク 林産副産物(おがくず)の安定供給が国産原料の鍵
図3:菌床培地原料の構成と調達構造(出典:日本きのこマイスター協会・業界ヒアリングをもとに整理)

もう一つが電力です。培養室・発生室の温湿度管理、殺菌や冷却に大量の電力を使うため、日産5万本規模の工場では月の電気料金が1,500〜3,000万円に達することもあります。2022年以降の電力料金高騰はこの業界を直撃し、生産費に占める電力比率は10%から15%へと上がりました。各社は太陽光発電の自家消費やLED照明・空調最適化で対抗しています。雪国まいたけは県内に太陽光発電所を持ち、ホクトは照明・空調の見直しで単位生産あたりの電力を約15%削減しました。なお、収穫後の廃培地は家畜飼料や堆肥、燃料として再利用され、長野県では廃培地を畜産農家へ、その堆肥を野菜・果樹生産へという地域内の資源循環も成立しています。

長く続いたデフレと、底打ちのいま

きのこの卸売価格は、1990年代後半から2010年代まで長く下落しつづけました。1990年に約700円/kgだったぶなしめじが2010年代には約400円/kgまで落ち込み、いまは460円前後まで戻しています。えのきたけも400円前後で推移。供給能力が技術発達でどんどん拡大した一方、消費者の単価感覚が「スーパー1パック100〜150円」に固定されてしまい、価格を抑え込む構造ができあがっていたのです。

きのこ卸売価格の長期推移 えのきたけ・ぶなしめじの卸売価格1990年から2023年の推移 きのこ卸売価格の推移(円/kg、東京中央卸売市場) 800 600 400 200 0 1990 2000 2010 2020 2023 ぶなしめじ 460 えのきたけ 400 2010年代までは長期下落、その後横ばい〜緩やかな回復。供給過剰と消費単価固定が価格抑制要因
図4:きのこ卸売価格の推移(出典:東京都中央卸売市場統計、林野庁特用林産統計)

2010年代以降は中堅以下の事業者の脱落で供給が調整され、価格は底打ち。1990年に約3万戸あったきのこ事業者は、2023年には約1万戸まで減りました。残った中小は信州産・新潟産といった地域ブランド、有機JAS認証、黄金えのき・はたけしめじなどの品種差別化で大手と棲み分けています。森林組合や農協が運営する小型工場は地域雇用の受け皿となり、収穫・包装といった人手のかかる工程では外国人技能実習生・特定技能労働者の比率も高まっています。

業務用と輸出が次の成長を引っ張る

家庭用パックだけでなく、業務用カット商品・冷凍きのこ・加工原料の市場も広がっています。コンビニのチルド惣菜や冷凍食品向けに規格カットで供給され、生産量の2〜3割が業務用ルートに流れます。そして近年とくに伸びているのが輸出です。台湾・香港・シンガポール向けの生鮮きのこ輸出は年率5%以上で成長し、2023年の輸出総額は約30億円規模。中華料理の鍋物・炒め物の需要が中心で、CA貯蔵(制御雰囲気)コンテナや予冷工程の徹底で品質保持期間を延ばし、北東アジア市場での競争力を高めています。きのこ類はβ-グルカンやエリタデニンといった機能性成分の研究も進んでおり、健康志向の追い風とあわせて、今後10年の成長余地は十分にありそうです。

よくある質問

なぜこんなに大量生産できるの?

菌床ボトル栽培という方式のおかげです。プラスチックボトルに培地を詰め、殺菌・接種・培養・発生・収穫の各工程を専用機械で自動化することで、1日5万本規模の連続生産ができます。原木栽培に比べて単位面積あたりの収量が数十倍になり、長野・新潟の大手工場は食品メーカー並みの量産設備を備えています。

なぜ長野県と新潟県に集中しているの?

冷涼な気候で培養温度を保つ電力コストが抑えられること、豊富な地下水、米作り文化に基づく米ぬかなどの調達のしやすさ、大手企業の集積による技術伝播が複合しています。長野県中野市・新潟県南魚沼市は産地クラスターを形成し、原料調達から廃培地リサイクルまで地域内で循環する仕組みが成立しています。

きのこの価格はなぜ長く下がっていたの?

菌床栽培の技術発達で供給能力が増えつづけた一方、消費者の単価感覚が「スーパー1パック100〜150円」に固定され、価格転嫁が難しい構造になっていたためです。1990年から2010年代にかけて卸売単価は3〜4割下落しましたが、2010年代後半以降は中小事業者の撤退で供給が調整され、底打ちしています。

出典・参考:林野庁「特用林産基礎資料」農林水産省「特産果樹生産動態等調査」東京都中央卸売市場「市場統計情報」資源エネルギー庁「電力料金の状況」日本特用林産振興会

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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