春先、八百屋の店先に皮つきの生たけのこが並ぶと「ああ、今年も春が来たな」と感じます。でも、その生たけのこは年間を通して食べているたけのこのごく一部にすぎません。コンビニの中華まんやラーメンの具、スーパーの水煮パック──そのほとんどは中国産の加工品です。国内の生たけのこ生産は2023年で約2.0万t。対して加工品の輸入は生換算で8万t以上に達し、たけのこ全体の自給率はすでに20%ほどまで下がっています。なぜここまで国産が縮んだのか、数字でたどってみます。
生は国産、加工品は中国産
たけのこの消費は、春だけの生たけのこ(食用孟宗竹の若芽)と、通年で出回る加工品(水煮・缶詰・メンマ)の2系統に分かれます。生たけのこは3〜5月の季節限定で、出始めの4月初旬は1kg3,000円超、最盛期でも800〜1,500円/kgという高単価品。一方、年間を通じて流通する水煮や缶詰は中国産が主体で、外食・コンビニ・加工食品の需要を支えています。国産2.0万tに対し、加工品輸入は生換算で4倍以上という規模です。
自給率の低下は1980年代から続いています。1985年に約60%だった生換算自給率は、2000年代に40%、2010年代に30%、そして2023年は20%水準まで下がりました。国内生産も1985年の約13.4万tから2023年の2.0万tへと、約40年で15%水準まで縮小。生産農家数も12万戸から1.5万戸へと激減し、平均年齢は70歳超、後継者率は1割を切ります。背景にあるのは、中国の経済成長に伴うたけのこ加工業の発達と、低人件費を武器にした価格競争力です。
福岡・京都・鹿児島が支える国産
国産たけのこの上位3県は、福岡県(約4,000t、シェア20%)、京都府(約2,500t、12%)、鹿児島県(約2,200t、11%)。福岡県八女市・朝倉市は孟宗竹林の集積地でJA共販体制が強く、市場への安定供給を担います。京都府向日市・長岡京市の「京たけのこ」は地理的表示(GI)登録の高級ブランドで、白く柔らかくエグミの少ない品質が料亭や高級料理に評価されています。
「京たけのこ」は西山一帯の粘土質土壌に、藁敷きや客土といった伝統的な土入れ施業を施し、120日以上かけてじっくり管理することで、白さ・柔らかさ・甘みを実現します。出始めの最高単価は1kg5,000円超に達し、高級料亭との直接取引が中心。福岡県の合馬たけのこも京都産と双璧をなすブランドです。京都府は「京たけのこ振興条例」(2018年)で産地保全と後継者育成を支援し、福岡県は「合馬たけのこ街道」を観光資源化して、最盛期には10万人超を集めるイベントに育てています。
竹林16万haの6割が放置されている
日本の竹林面積は約16万ha。このうち食用たけのこ用の孟宗竹が約11万ha、竹細工・建材用の真竹・淡竹が5万ha弱です。分布は西日本(鹿児島・大分・福岡・京都など)に集中しています。問題は、竹林の6割以上が放置・荒廃化しており、実際にたけのこ生産に活用されているのは4割に満たないことです。
| 竹林タイプ | 面積(万ha) | 主要用途 |
|---|---|---|
| 孟宗竹林 | 約11.0 | 食用たけのこ・竹材(栽培利用は約3割) |
| 真竹林 | 約3.0 | 竹細工・建材・釣竿(需要減で大半放置) |
| 淡竹林 | 約1.5 | 食用(西日本)・竹材 |
| 合計 | 約16.0 | 放置率約60%以上 |
放置竹林の困りごとは大きく3つあります。第1に、手入れされない孟宗竹は地下茎を年1〜2mも伸ばして周辺の杉ヒノキ人工林や里山に侵入し、林相を壊してしまう。第2に、密生した竹林は土壌の保水力を下げ、表土流出や斜面崩壊のリスクを高める。第3に、放置竹林からは食用に向かない硬いタケノコしか出ず、地域経済への貢献も失われます。
京都府・福岡県・大分県などは条例や補助制度で竹林整備を支援し、伐竹・粉砕・利活用を進めています。2019年に導入された森林環境譲与税の使途として竹林整備を採択する市町村も増え、伐竹で1ha50〜80万円、チップ化で1m³3,000〜8,000円といった補助が運用されています。ただ、全国の竹林整備事業の対象面積は年間約3,000ha規模にとどまり、放置竹林全体の数%でしかありません。竹チップ・竹粉飼料・竹炭・竹バイオマス・竹建材といった用途開拓も進みますが、各市場は数億〜数十億円規模で、放置竹林の物量を吸収するにはまだ需要が足りないのが実情です。
労働集約な国産、価格4〜5倍の壁
1haの孟宗竹林から採れる食用たけのこは、管理水準で大きく変わります。年1回程度の親竹更新だけの粗放管理なら5〜10t、藁敷き・客土まで行う集約管理なら15〜25t、京都西山の高度管理では25〜35tに達することも。1kg800〜1,500円で売れれば、1haあたり年間粗収益は粗放で500万円前後、集約で2,000万円超と、手のかけ方で収益が桁違いに変わります。ただし労働は3〜5月の収穫期に集中し、早朝に地下茎の位置を読みながら掘り起こす重労働。掘った直後からエグミが増すため、当日中に共販所へ運ぶ短期サプライチェーンが特徴です。
この労働集約な国産が、中国産水煮と真っ向勝負するのは難しい。中国産水煮はCIF価格が約100〜200円/kg、関税(基本3.0%程度)や諸経費を足しても卸で200〜300円/kgです。国産生たけのこの800〜1,500円と比べると、4〜5倍もの価格差。だからこそ外食・コンビニ・加工食品といった業務用市場は、中国産がほぼ独占しています。
結局、国産は「生鮮・春の旬・高単価」、中国産は「加工品・通年・低価格」という棲み分けに落ち着いています。家庭での生たけのこ消費は春の楽しみとして根強く、量は限られても単価は維持されている。一方、通年で安定供給と低価格を求める外食・加工食品は、中国産水煮への依存が構造化しているわけです。
ブランドと地域資源化に活路を探る
価格で勝てないなら、品質と物語で勝負する──それが国産の生き残り戦略です。「京たけのこ」は2017年に地理的表示(GI)に登録され、産地間連携・品質基準・原産地表示の制度的基盤が整いました。価格競争を避け、高品質ブランドとして縮小均衡を維持するこのやり方は、原木乾しいたけと同じ構図です。香港・シンガポール・台湾の中華富裕層や日系料亭向けに、kg1万円超の旬の贈答品として少量輸出する動きも始まっています。
さらに、たけのこ狩りや直販所体験の観光化も産地経営を補完しています。福岡県北九州市・京都府向日市・静岡県浜松市などでは、4〜5月の最盛期に10万人超を集め、入園料・持ち帰り・地元食事込みのパッケージで1人3,000〜5,000円。こうした観光収入は生産者の貴重な副次収入となり、地域経済への波及は数十億円規模になります。後継者育成も急務で、京都府の「京たけのこ後継者育成事業」では2024年までに約120人が研修を修了し、うち約70人が経営を継承・独立しました。気候変動による出芽期の早期化や収量変動という新たな課題も抱えつつ、ブランド戦略・観光連携・地域資源化を組み合わせて、産業の持続性をなんとか保とうとしているのが現状です。
よくある質問
なぜ自給率が20%まで下がったの?
1980年代後半から中国産たけのこ水煮の輸入が急増し、業務用市場を席巻したためです。国内の生産者高齢化、労働集約な掘り作業の負担、放置竹林の増加が重なり、国内生産は1985年比で半分以下まで縮みました。価格差4〜5倍という構造のなかで、国産は生鮮・高単価市場、中国産は加工品・業務用市場という棲み分けが定着しています。
京都の「京たけのこ」はなぜ高いの?
西山一帯の粘土質土壌に、藁敷き・客土といった伝統的な施業を施し、120日以上かけて長期管理することで、白く柔らかくエグミの少ない高品質を実現しているためです。出始めの最高単価は1kg5,000円超に達し、料亭や高級小売向けに販売されます。2017年の地理的表示(GI)登録でブランド保護も強化されました。
放置竹林はどう問題なの?
第1に、地下茎が年1〜2mで周辺の杉ヒノキ人工林・里山に侵入し、林相を壊します。第2に、密生した竹林は表土流出や斜面崩壊のリスクを高めます。第3に、放置竹林からは食用に適さない硬いタケノコしか出ず、地域経済への貢献を失います。森林環境譲与税などで整備が進んでいますが、年間整備面積は約3,000ha規模と、放置竹林全体の数%にとどまっています。
出典・参考:林野庁「特用林産基礎資料」/財務省「貿易統計」/林野庁「森林資源の現況」/農林水産省「地理的表示(GI)保護制度」/日本特用林産振興会

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