山地災害|豪雨・地震・火山による森林被害

山地災害 | 樹を木に - Forest Eight

日本の山地災害発生件数は2023年に1,470件、被害額は約1,200億円で、過去10年平均(年間約1,000件・約900億円)を上回る水準です。豪雨・地震・火山という3要因による森林被害は地域・年次で大きく変動し、令和元年東日本台風(2019年)では森林被害だけで約2,500億円、平成28年熊本地震では約450億円が発生しました。本稿では山地災害の発生構造を、原因別・被害規模・地域分布の3軸から解剖します。

この記事の要点

  • 山地災害発生件数は2023年に1,470件・被害額約1,200億円。過去10年平均は年1,000件・900億円で、近年は気候変動による豪雨頻発化で災害件数が増加傾向。
  • 原因別では豪雨が約75%、地震が約15%、その他(火山・融雪・凍結等)が約10%。豪雨災害は西日本(九州・中四国)・東日本(関東甲信越)に集中。
  • 山地災害危険地区は全国に約23万カ所(林野庁指定)、人家・公共施設に近接する重点対策地区は約11万カ所。治山事業予算は年間約700億円。
目次

クイックサマリー:山地災害の基本数値

指標 数値 出典・備考
山地災害件数(2023年) 1,470件 林野庁集計
被害額 約1,200億円 林野庁推計
過去10年平均(件数) 約1,000件 2014-2023年
過去10年平均(金額) 約900億円 2014-2023年
令和元年東日本台風森林被害 約2,500億円 2019年単年
熊本地震森林被害 約450億円 2016年
山地災害危険地区 約23万カ所 林野庁指定
うち重点対策地区 約11万カ所 人家・公共施設近接
治山事業予算 約700億円 2024年度
時間雨量50mm以上発生回数 328回 2014-2023年平均、気象庁

山地災害の発生構造

山地災害は「山腹崩壊」「地すべり」「土石流」「渓流荒廃」の4タイプに大別されます。林野庁集計では、2023年の1,470件の内訳は山腹崩壊が約60%、土石流が約20%、地すべりが約10%、その他(渓流荒廃・倒木被害等)が約10%です。発生原因別では豪雨が約75%、地震が約15%、その他(融雪・凍結・火山・人為等)が約10%です。

山地災害の発生原因別構成 山地災害の発生原因と災害タイプの構成を示す 山地災害の構造(年平均1,000-1,470件) 原因別構成 豪雨 75% 地震 15% 他10% 災害タイプ別構成 山腹崩壊 60% 土石流 20% 地すべり10% 他10% 災害タイプの説明 ・山腹崩壊:勾配30度以上の斜面で表層〜深層が崩落。豪雨時に頻発。 ・土石流:渓流に沿って土砂・石・倒木が流下。下流域の人家被害大。 ・地すべり:斜面の土塊がゆっくり滑動。地すべり地帯(中央構造線等)に集中。 ・渓流荒廃:渓流での侵食・洗掘・河床上昇による複合被害。 出典:林野庁「治山事業」資料、土砂災害統計より作成(概算)。
図1:山地災害の発生原因別・タイプ別構成(出典:林野庁「治山事業の概要」、農水省・国交省統計より作成、概算)
📄 出典・参考

豪雨災害:気候変動下の頻発化

気象庁「気候変動監視レポート」によれば、時間雨量50mm以上の短時間強雨発生回数(全国アメダス1,300地点ベース)は、1976-1985年の年平均226回から、2014-2023年の年平均328回へと約45%増加しました。山地災害の主因である豪雨が気候変動下で頻発化していることは、各種統計で確認されています。

時間雨量50mm以上の発生回数推移 1976年から2023年までの短時間強雨発生回数の推移を示す 時間雨量50mm以上の発生回数(年平均) 400 300 200 100 0 1976-85 226 1986-95 237 1996-05 269 2006-15 293 2014-23 328 40年で1.45倍に。今後30年でさらに2-3割増加の予測(IPCC AR6・気象庁)。
図2:時間雨量50mm以上の発生回数推移(出典:気象庁「気候変動監視レポート2023」より作成)

主要豪雨災害事例

2010年代以降、激甚な豪雨による森林被害が連続して発生しました。平成29年九州北部豪雨(2017年7月)では福岡県朝倉市・東峰村・大分県日田市で多数の山腹崩壊が発生し、森林被害は約400億円。平成30年7月豪雨(西日本豪雨)では広島・岡山・愛媛を中心に山地災害が多発し、森林被害は約700億円。令和元年東日本台風(2019年)では関東・東北の山岳地帯で同時多発的に山腹崩壊が発生し、森林被害は約2,500億円という過去最大規模に達しました。

災害名 発生時期 主要被災地域 森林被害額
令和元年東日本台風 2019年10月 関東・甲信越・東北 約2,500億円
平成30年7月豪雨 2018年7月 広島・岡山・愛媛 約700億円
熊本地震 2016年4月 熊本県・大分県 約450億円
平成29年九州北部豪雨 2017年7月 福岡・大分 約400億円
令和2年7月豪雨 2020年7月 熊本・球磨地方 約350億円
令和3年7月静岡豪雨 2021年7月 静岡県熱海市 約180億円
能登半島地震 2024年1月 石川県奥能登 約350億円(推計)

地震災害:森林の地震応答

地震による山地災害は、地震発生から復旧期にかけて時間差で表面化する特徴があります。本震直後の山腹崩壊・地すべりに加え、地震後の梅雨期・台風期に二次的な山腹崩壊が発生し、被害が累積します。熊本地震(2016年)では本震直後の崩壊面積が約1,200haだったのに対し、翌年6月の梅雨期にさらに約500haが追加崩壊しました。

能登半島地震(2024年1月)では震度7の本震に加え、輪島市・珠洲市・能登町を中心に多数の山腹崩壊・道路寸断が発生しました。森林被害は約350億円(推計)で、林道網の復旧には5〜10年規模の時間が必要と見込まれます。地震動による森林の応答は、根系の支持力低下・土壌構造の破壊・地下水脈の変化という複合効果で、長期的な斜面安定性に影響を残します。

南海トラフ地震・首都直下地震のリスク

政府の地震調査研究推進本部は、南海トラフ地震が今後30年以内に70〜80%の確率で発生すると推計しています。これに伴う山地災害は、四国・近畿・東海の人工林集中地帯を中心に被害規模が想定されており、森林被害だけで数千億円〜1兆円規模になる可能性が指摘されます。首都直下地震・千島海溝沿い地震・日本海溝沿い地震も、それぞれ大規模な森林被害を伴うリスクがあります。

📄 出典・参考

火山災害と長期影響

日本には111の活火山があり、噴火による森林被害は溶岩流・火砕流・泥流・降灰による植生被害として表れます。雲仙普賢岳(1990-1995年)の噴火では火砕流・土石流により約2,000haの森林が失われました。御嶽山(2014年)噴火では水蒸気爆発による降灰被害が約200haに及びました。新燃岳(2011年噴火)では溶岩流による森林損失は限定的でしたが、降灰による植生衰退が広範囲で発生しました。

火山周辺の森林は、噴火後数十年にわたり遷移段階の植生変化を経験します。雲仙普賢岳周辺は噴火から30年経過した現在、ハンノキ・ヤシャブシ等の先駆樹種による二次林が形成されつつあり、長期的な復元プロセスを観察できる重要なフィールドとなっています。

山地災害被害額の推移 2014年から2023年までの山地災害被害額の年次推移を示す 山地災害被害額の推移(億円) 3,000 2,000 1,000 500 0 2014 350 2015 560 2016 820 2017 1,200 2018 1,440 2019 2,500 2020 1,330 2021 880 2022 760 2023 1,200 2019年(東日本台風)が突出。10年平均は約900億円で増加トレンド。
図3:山地災害被害額の推移2014-2023(出典:林野庁「治山事業」、被害状況統計より作成)

地域分布と人工林被害

都道府県別の山地災害被害額(過去10年累計)は、長野・広島・岡山・愛媛・福岡・熊本・大分・宮崎・鹿児島・高知・徳島が上位を占めます。これらは森林率が高い・人工林比率が高い・降水量が多い・地震活動が活発という特性のうち複数を持つ地域です。長野県(中央構造線・糸魚川静岡構造線)、新潟・富山県(地すべり地帯)、四国・九州(豪雨多発地帯)が地域パターンとして識別されます。

人工林の脆弱性

人工林1,020万haのうち、戦後の拡大造林期に造成されたスギ・ヒノキ単純林は、間伐遅れにより林床植生が乏しく、表土流出・斜面崩壊リスクが高い構造を持ちます。間伐が適切に行われた森林は崩壊リスクが約3〜5割低減することが研究で確認されており、間伐推進・複層林化・広葉樹混交林化が山地災害軽減策の中核です。

山地災害危険地区の都道府県別分布 山地災害危険地区上位10都道府県の指定数を示す 山地災害危険地区上位10都道府県(指定数) 高知県 12,500 島根県 11,500 広島県 10,500 山口県 9,500 兵庫県 9,000 岡山県 8,000 福岡県 7,500 愛媛県 7,000 和歌山県 6,500 全国合計 約23万カ所 うち重点対策地区 約11万カ所
図4:山地災害危険地区上位10都道府県(出典:林野庁「山地災害危険地区指定」より作成、概算)

治山事業の構造と予算規模

林野庁の治山事業は、山地災害防止のためのハード対策(山腹工・流路工・防災ダム等)とソフト対策(モニタリング・避難計画)で構成されます。2024年度治山事業予算は約700億円で、内訳は災害復旧治山が約250億円、予防治山(事前対策)が約450億円です。事業規模は他のインフラ整備(道路・河川・港湾)に比べ小さいですが、山地災害発生時の経済被害(年平均900億円)と対比すれば、投資対効果(B/C)の高い分野です。

治山事業は1〜10億円規模の中小規模工事が中心で、地方建設業者・地域林業者の重要な事業機会となっています。災害復旧を契機にエコロジカル工法(木製治山ダム・植生マット工等)の導入が進み、コンクリート構造物中心からの転換も進んでいます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 山地災害は今後も増えますか?

気象庁・IPCCの気候予測によれば、今後30年で時間雨量50mm以上の発生回数はさらに2〜3割増加が見込まれます。これに伴い、豪雨型山地災害は件数・規模ともに増加トレンドが継続する見通しです。一方、間伐・適切な森林管理による森林の防災力向上、治山事業による事前対策強化により、被害額の拡大を抑制する余地はあります。

Q2. 森林の防災効果は数値化できますか?

森林の防災機能(土砂流出防止・崩壊防止・水源涵養)の評価額は、農水省・林野庁が「森林の有する多面的機能の評価」で年間約70兆円(2000年版・2021年再評価)と試算しています。このうち土砂流出防止・崩壊防止機能は約28兆円分とされ、治山事業予算700億円との比較で投資対効果が極めて高いことが示されます。

Q3. 山地災害危険地区23万カ所はどう特定されていますか?

林野庁・都道府県は地形・地質・植生・降水量・過去の災害履歴に基づき山地災害危険地区を指定しています。指定基準は1969年の旧基準と2017年の新基準があり、ハザードマップに反映されます。これら危険地区のうち、人家・公共施設・道路・農地・養殖場等を含む重点対策地区が約11万カ所で、治山事業の優先順位付けの基礎になっています。

Q4. 能登半島地震の森林被害は復旧できますか?

2024年1月の能登半島地震による森林被害(約350億円推計)は、林道網寸断・山腹崩壊・倒木被害等が中心です。林野庁・石川県・国土交通省は連携で復旧計画を策定し、5〜10年規模での復旧スケジュールを想定しています。地震直後の二次災害リスクが高く、梅雨期・台風期の追加被害を抑制するための応急工事が優先されています。

Q5. 個人所有の森林でも治山事業が適用されますか?

治山事業は所有形態に関わらず、保安林指定地域・山地災害危険地区を中心に実施されます。個人所有の私有林であっても、人家保護・流域保全・公益的機能の観点から重要と判断される地域は治山事業の対象になります。事業実施にあたっては所有者同意・地元自治体との調整が必要で、治山事業区域の指定・解除の手続きを経ます。

土砂災害警戒区域と人家保護

土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は、全国で約68万箇所が指定されており、うち土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン、生命・身体に著しい被害が生じるおそれのある区域)が約58万箇所、土砂災害警戒区域が約10万箇所という構成です。これらの区域は山地災害危険地区23万箇所と一部重複しつつ、人家・公共施設に近接する重点リスク地域を法的に位置づける制度です。市町村は警戒区域内の住民への避難情報伝達・ハザードマップ整備・避難所確保の義務を負います。

土砂災害警戒区域の指定は、(1)地形・地質調査、(2)現地踏査、(3)関係住民への説明会、(4)市町村との協議、(5)都道府県知事による指定告示、の5段階で実施されます。指定後の制限として、特別警戒区域では建築物の構造規制(鉄筋コンクリート造等の堅牢構造化)、特定の開発行為の許可制、宅地建物取引業者の重要事項説明義務等が課されます。日本の都道府県は2025年までに全箇所の指定完了を目標としており、現在約95%が完了済みです。

区分 全国指定数 主な制限 所管
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン) 約58万箇所 建築物構造規制・開発許可制 国交省
土砂災害警戒区域(イエローゾーン) 約10万箇所 避難計画策定・ハザードマップ 国交省
山地災害危険地区 約23万箇所 治山事業優先・モニタリング 林野庁
地すべり防止区域 約2,000区域 特殊工法事業・行為規制 林野庁・国交省・農水省
急傾斜地崩壊危険区域 約2.5万区域 急傾斜地崩壊防止工事 国交省

気候変動シナリオ下の災害予測

IPCC AR6・気象庁の気候変動予測モデル(CMIP6 SSP2-4.5シナリオ)では、2040年代の日本の年間降水量が現在比で5〜10%増加、特に時間雨量50mm以上の短時間強雨は20〜40%増加する見込みです。SSP5-8.5シナリオでは増加幅がさらに拡大し、2100年代には現在比で2〜3倍規模の極端降水イベントが想定されます。これに伴い、山地災害件数も現在年1,000〜1,500件水準から、2050年代には年1,500〜2,500件規模へ増加する可能性が指摘されます。

気候変動適応策として、林野庁・国土交通省・気象庁は連携で「気候変動適応計画」を策定し、(1)治山施設の安全率向上(100年確率雨量から200年確率雨量への基準強化)、(2)既存施設の機能強化、(3)流域単位の総合的災害管理、(4)早期警戒システムの高度化、(5)避難計画の精緻化、等を推進しています。これら対策は10〜30年規模の中長期投資を必要とし、年間予算規模で1,000〜2,000億円水準への拡充が議論されています。

森林管理と災害軽減効果の定量化

適切な森林管理は山地災害軽減に直接的な効果を持ちます。研究機関による定量分析では、(1)間伐実施林分は無間伐林分比で表土流出量が30〜50%減少、(2)複層林化された林分は単層林比で斜面崩壊リスクが20〜40%低減、(3)広葉樹混交林化は針葉樹単純林比で土壌保全機能が30〜50%向上、(4)路網密度の高い管理林分は災害発生時の応急対応が迅速化、等が確認されています。これらの森林管理効果は、治山構造物による物理的対策と相補的に機能します。

森林整備による災害軽減効果の経済評価では、1ha当たり年間数万〜数十万円の防災便益が発生すると試算されています。日本の人工林1,020万haのうち、適切な間伐・管理が行われている森林の比率は約60〜70%にとどまり、未管理林分が依然として大きな割合を占めます。これら未管理林分の災害リスクが顕在化する形で、近年の豪雨災害における人工林被害の拡大が観察されています。森林経営計画・森林環境譲与税・森林経営管理制度等の政策枠組みは、この未管理林分問題の解消を主要目標として展開されています。

災害復旧の標準プロセスと期間

山地災害発生後の復旧プロセスは、(1)応急対応(発災直後〜1ヶ月、2次災害防止・人命救助)、(2)緊急復旧工事(1〜6ヶ月、応急的な土砂除去・仮設構造物)、(3)本格復旧工事(6ヶ月〜5年、恒久的な治山構造物・植生回復)、(4)モニタリング・評価(5〜10年、効果検証・追加対策)、の4段階で進行します。被害規模が大きい場合(数百億円〜数千億円規模)は、複数年度の繰越予算で計画的に復旧が進められ、5〜10年の長期プロジェクトとなります。

復旧費用の負担構造は、災害復旧治山事業国費負担2/3〜100%(重大災害は国費全額)、地方公共団体負担0〜1/3、所有者負担原則ゼロ(保安林指定地は原則公費)です。災害発生後の予算確保は、(1)既定予算からの流用、(2)予備費、(3)補正予算、(4)国庫債務負担行為(複数年度予算)、を組み合わせて実施されます。令和元年東日本台風復旧では総事業費約2,500億円が5年間で執行され、流域全体の災害リスク低減に貢献しました。

早期警戒システムと避難情報伝達

気象庁・国土交通省・地方自治体は、土砂災害警戒情報の発表・伝達システムを構築しています。土砂災害警戒情報は、降雨量と土壌雨量指数(土壌中の水分量を示す指標)の両方が一定基準を超えた場合に発表され、市町村単位で住民への避難情報につなげる仕組みです。気象庁の解析雨量・降水短時間予報・降水ナウキャスト等のリアルタイム気象情報と、国交省の土砂災害警戒情報判定基準を統合した運用が標準化されています。

避難情報の発令は、(1)高齢者等避難(警戒レベル3)、(2)避難指示(警戒レベル4)、(3)緊急安全確保(警戒レベル5)の3段階で運用されます。災害対策基本法に基づき、市町村長が発令権限を持ち、テレビ・ラジオ・防災行政無線・緊急速報メール・SNS等の多重化された伝達手段で住民に情報が届けられます。近年は携帯電話の緊急速報メール・自治体公式アプリ・SNS(X、Facebook、LINE)の活用が進み、若年層・中堅層への情報到達率が向上しています。

避難率の現状は、警戒レベル4(避難指示)発令時で対象者の20〜40%が実際に避難する水準にとどまっており、避難の実効性向上が継続的課題です。「正常性バイアス」(自分は大丈夫という心理)、「過去の経験」(前回避難しても被害がなかった)、「避難所の不安」(コロナ禍以降の感染リスク懸念、避難所環境の不安)等が避難率低下の要因として研究されており、自治体・防災教育・地域コミュニティの連携による意識醸成が重要視されています。

森林防災のグリーンインフラ価値

森林の防災機能は「グリーンインフラ」(緑のインフラ、自然の機能を活用した社会基盤)として国際的に評価されつつあります。Eco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction、生態系を活用した防災減災)の概念は、UNESCO・UNEP・国連防災機関(UNDRR)等の国際機関で標準化されつつあり、森林・湿地・サンゴ礁・マングローブ等の自然生態系を災害リスク低減の中核手段に位置づけています。日本のEco-DRR政策は、林野庁・環境省・国土交通省の連携で推進され、森林防災・グリーンインフラ・自然共生社会の3つの政策軸を統合した展開が進んでいます。

森林防災の経済価値評価では、林野庁「森林の有する多面的機能の評価」(2021年改訂版)で年間約70.2兆円の総額が試算され、内訳は土砂流出防止機能28.3兆円、土砂崩壊防止機能8.4兆円、洪水緩和機能6.5兆円、水源涵養機能8.7兆円、保健・レクリエーション3.5兆円、地球温暖化防止1.2兆円、生物多様性保全等13.6兆円という構成です。これら機能のうち、土砂流出防止・崩壊防止の合計約36.7兆円が直接的な防災機能に相当し、治山事業予算700億円との比率で投資対効果が極めて高い分野であることが示されます。

世界の山地災害事例:国際比較

世界の山地災害は、気候変動・地震・火山活動の影響を受ける地域で頻発しています。代表事例として、(1)2021年ドイツ・ベルギー水害(西欧豪雨、被害額約400億ユーロ、死者220人以上)、(2)2022年パキスタン洪水(南アジアモンスーン、被害額約400億ドル、被災者3,300万人)、(3)2023年トルコ・シリア地震(被害額約1,000億ドル、死者5万人以上)、(4)2024年ブラジル・南東部水害、等が挙げられます。これら国際事例は、気候変動下の極端降水・地震活動・複合災害が世界共通の課題であることを示しています。

日本の防災技術・経験は、(1)JICAを通じた途上国防災支援、(2)国際協力機構の海外専門家派遣、(3)日本企業の防災ソリューション輸出(早期警戒システム・治山構造物・センサー技術)、(4)国際学術連携(IUFRO、IFRO、Eco-DRR Network等)、を通じて世界に発信されています。気候変動下の防災対応は、各国の経験と技術を相互参照する国際協力体制が中長期的に重要となっています。

地域別の災害特性とリスク管理

日本の山地災害リスクは地域特性により大きく異なります。九州地方(豪雨災害多発地帯)では年間降水量3,000mm超の地域が多く、線状降水帯の発生頻度も高く、年間災害発生件数の30〜40%を占める時期もあります。中央構造線・糸魚川静岡構造線等の主要構造線沿いの長野県・愛知県・三重県・徳島県・愛媛県・大分県・熊本県は、地質的に脆弱な破砕帯が連続するため、豪雨・地震の両方による山地災害リスクが高い地域です。新潟県・富山県の地すべり多発地帯(中越・北陸地すべり地帯)は冬季融雪も加わり、年間を通じてリスクが継続します。

地域別のリスク管理体制として、(1)都道府県の防災会議・治山技術委員会、(2)市町村の地域防災計画・ハザードマップ、(3)気象台と連携した降雨観測・警報体制、(4)消防団・自主防災組織による地域避難計画、(5)林業関係者・建設業者による応急対応体制、が多層的に構築されています。これら体制は2014年広島土砂災害・2017年九州北部豪雨・2018年西日本豪雨等の大規模災害を契機として段階的に強化されてきました。

住民・地域コミュニティの役割

山地災害対応における住民・地域コミュニティの役割は、(1)平時の防災意識醸成(地域防災訓練・防災教育)、(2)発災前の避難準備・避難行動、(3)発災時の相互助け合い(共助)、(4)発災後の応急対応・復旧支援、の4局面で展開されます。日本の自主防災組織は全国で約17万団体(カバー率約85%)が設立されており、地域単位での防災活動の基盤となっています。

近年の取組みとして、(1)マイ・タイムライン(個人ごとの避難計画)、(2)地区防災計画(地区単位の詳細計画)、(3)防災士の育成(NPO法人日本防災士機構認定、累計約30万人)、(4)避難所運営訓練(HUG)、(5)防災まちづくり、等が地域レベルで推進されています。これら取組みは、行政による公助だけでは対応しきれない災害規模への対応として、自助・共助・公助の連携体制構築を目指すものです。林野庁・国土交通省・内閣府は、これら地域防災力強化施策に対し、補助金・技術支援・モデル事業等を通じて積極支援しています。

防災情報のデジタル化と最新技術

山地災害対応のデジタル化は、(1)衛星画像・SAR(合成開口レーダー)による広域モニタリング、(2)UAV(ドローン)による現地詳細調査、(3)AIによる崩壊リスク予測、(4)IoTセンサー(傾斜計・地下水位計・雨量計)の現地設置、(5)クラウド型情報共有プラットフォーム、(6)VR/ARを活用した防災訓練、等の領域で急速に進展しています。これら技術は災害発生前のリスク評価、発生時の状況把握、復旧期の効率化に貢献し、従来の人力ベースの防災対応を補完・強化します。

具体的な実装例として、(1)国土交通省「砂防インフラDX」プロジェクト(衛星×AI×IoTによる総合監視)、(2)林野庁「治山事業DX」推進(BIM/CIM・3D設計・遠隔監視)、(3)気象庁「線状降水帯予測」高度化(スーパーコンピュータ「富岳」活用)、(4)防災科学技術研究所「リアルタイム災害情報システム」(J-RISQ)、等が運用されています。日本企業(NEC、富士通、日立製作所、NTT、KDDI等)は防災DXソリューションの開発・提供で国際市場展開も進めており、防災技術の輸出産業化が進展しています。

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まとめ

山地災害1,470件・被害額1,200億円・危険地区23万カ所という3つの数字は、日本の森林が常に災害リスクと向き合っている実態を示します。豪雨頻発化(時間雨量50mm以上が40年で1.45倍)、地震活動期入り、火山活動の活発化という3要因が重なる中、治山事業700億円・森林管理70兆円相当の防災機能を組み合わせた複合的災害対応が求められます。森林経営と防災は不可分の関係にあり、適切な間伐・複層林化・広葉樹混交林化が、林業経営と災害軽減の両立の鍵となります。

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