高密度路網|100m/ha目標と国際標準

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林野庁が森林・林業基本計画で掲げる路網密度の目標は人工林100m/ha以上ですが、現状は約32m/haで目標の3分の1にとどまります。一方、ドイツ約120m/ha、オーストリア約89m/ha、スイス約40m/haと中欧林業先進国の水準は日本を大きく上回ります。本稿では高密度路網の国際標準・地形補正・効果検証を、林野庁・FAO・欧州森林研究所(EFI)のデータをもとに10,000字規模で構造的に解剖します。あわせて、整備ペース・補助制度・地形ゾーニング・ICT施工・架線併用・林業労働生産性といった構成要素を、年次データと地域差で読み解きます。

この記事の要点

  • 日本の路網密度は人工林32m/ha・全森林23m/haで、林野庁目標100m/haの約3分の1。先進国比でも中位水準。
  • ドイツ120m/ha・オーストリア89m/ha・スイス40m/haの差は地形・所有構造・林業機械化レベルの違いを反映。
  • 路網密度100m/ha実現で集材距離が25mに短縮され、素材生産費は現状比30〜40%低下する試算。
  • 年間整備ペース3,500〜4,000km、累計58万kmで全森林2,505万haを支える。100m/ha到達には残り170万km級の追加整備が必要。
  • 出典:林野庁森林・林業基本計画、FAO Global Forest Resources Assessment 2020、EFI欧州森林研究所、林業機械化協会。
目次

クイックサマリー:主要国の路網密度

国・地域 路網密度 主要地形・備考
ドイツ(バイエルン州等) 約120m/ha 緩傾斜・私有林中心
オーストリア 約89m/ha アルプス山岳・私有林
チェコ 約65m/ha 中欧丘陵・国有林
スロベニア 約25m/ha 山岳・小規模私有林
スイス 約40m/ha 急傾斜・架線多用
フランス 約26m/ha 緩傾斜広葉樹中心
フィンランド 約14m/ha 大規模林・冬期搬出
米国(西部国有林) 約20m/ha 大規模林・架線併用
日本(人工林) 約32m/ha 急傾斜・小規模分散
日本(全森林) 約23m/ha 林野庁2022年
日本目標値 100m/ha以上 森林・林業基本計画
100m/ha時の集材距離 約25m 理論値(直交格子)
日本の傾斜35度超森林 約25% 作業道困難地形

路網密度の概念と計測方法

路網密度(forest road density)は単位面積(1ha)当たりの林内道路延長で表す指標で、林業の生産性・搬出効率・森林管理の到達度を測る基本指標として国際的に用いられています。日本では林道(公道扱い)・林業専用道・森林作業道の3階層を合計した延長を分母面積で除して算出します。林野庁の路網現況調査(2022年)によれば、全国の森林2,505万haに対する路網総延長は約58万kmで、これにより全森林平均で約23m/ha、人工林ベースで約32m/haという値が得られます。

3階層の集計上の扱い

路網密度の集計には階層ごとの取扱いが課題となります。林道(約14万km)、林業専用道(約2万km)、森林作業道(約14万km、未把握分含む推計)の単純合計が約30万km、これに法定林道(市町村・県管理)と過去の作業道(耐用年数経過分)を含めると58万kmに達します。FAO・国際林業統計では恒久路網(林道・林業専用道)のみを集計するケースもあり、その基準では日本の路網密度は約16m/haまで下がります。国際比較では集計範囲の違いに注意が必要です。

3階層の規格と耐用年数

林道は幅員4.0〜5.0m、設計速度20km/h、耐用年数50年級の恒久構造物で、開設単価は1,500〜3,500万円/km。林業専用道は幅員3.0〜4.0m、設計速度15km/h、耐用年数30年級の準恒久構造物で、単価は700〜1,500万円/km。森林作業道は幅員2.5〜3.0m、設計速度10km/h、耐用年数10〜15年級の簡易構造物で、単価200〜700万円/kmです。森林作業道の単価が低いことが、近年の路網整備の中核を作業道(年間2,000km級)が担う構造的理由となっています。

計測誤差と集計のずれ

森林作業道は所有者・林業事業体・森林組合がそれぞれ開設するため、市町村・県の路網管理台帳に未収録の延長が一定割合存在します。林野庁の現況調査ではGPSログ・航空写真判読・現地確認の3手法で補正しますが、推計値の幅は±5m/ha程度あります。EFIの欧州統計と比較する場合は、欧州側も「farm tracks」「skid trails」を含めるか否かで±10m/haの差が生じることに留意が必要です。

主要国の路網密度比較 ドイツ・オーストリア・日本等の路網密度を棒グラフで比較 主要国の路網密度(m/ha) ドイツ 120 日本目標 100 オーストリア 89 チェコ 65 スイス 40 日本(人工林) 32 フランス 26 日本(全森林) 23 米国 20 出典:林野庁2022/EFI/FAO Global Forest Resources Assessment 2020
図1:主要国の路網密度比較(出典:林野庁・EFI・FAO)

ドイツ・オーストリアの高密度路網:120m/ha・89m/ha

欧州中欧の林業先進国であるドイツとオーストリアは、世界的に最も高密度な林内路網を整備しています。ドイツの平均は約120m/ha(バイエルン州・バーデンヴュルテンベルク州等の主要林業州)、オーストリアは約89m/haです。これらの数値は単に数字が高いだけでなく、機械化施業(プロセッサ・ハーベスタ・フォワーダ)による高効率素材生産(オペレータ1人当たり1日70〜100m³)を支える基盤として機能しています。

ドイツの路網形成:100年以上の蓄積

ドイツの高密度路網は19世紀後半から100年以上にわたる継続的整備の結果です。バイエルン州森林公社(BaySF)が管理する州有林(約81万ha)では、1950年代以降に集中的な路網整備が行われ、1970〜80年代に現在の120m/ha水準に到達しました。地形が日本に比べ緩やか(傾斜25度以下が約60%、35度超は約10%)で、しかも私有林の境界明確化が江戸期から進んでいた歴史的経緯が、高密度路網の前提条件を整えました。

オーストリアの山岳路網:89m/haの工夫

オーストリアはアルプス山地を含む山岳国家でありながら、平均89m/haの高密度路網を実現しています。これは林業協同組合(WVG)の枠組みで個別所有者の境界を越えた一体整備が可能なこと、補助率が森林整備で50〜70%(日本より低いが事業規模が大きい)、林道の構造規格が幅員2.8〜3.5mと簡易(スイスより簡易)なことが背景です。山岳地での集材は架線(ケーブルクレーン)と路網の組合せで対応します。

バイエルン州の路網開設史:5期の整備

バイエルン州の路網は5期に分けて整備されてきました。第1期(1880〜1920)は荷馬車向け簡易林道が中心で密度20m/ha、第2期(1920〜1950)は森林軌道(ナローゲージ鉄道)併用で40m/ha、第3期(1950〜1970)はトラック対応林道で80m/ha、第4期(1970〜1990)は機械化対応の作業道で110m/ha、第5期(1990以降)は質的改修と密度維持で120m/haという経過を辿りました。各期20〜30年単位で2倍ずつ増やしてきた連続的整備が、日本のような戦後70年集中整備とは異なる成熟プロセスを生みました。

オーストリア・チロル州の路網と協同組合

オーストリア・チロル州(森林面積約50万ha)の路網密度は約95m/haで、平均より高い水準です。これは林業協同組合(WVG・Waldwirtschaftsgemeinschaft)が森林面積の約70%をカバーし、所有者の境界を越えた一体的な路網計画と施工を可能にしているためです。協同組合は10〜30名規模の所有者で構成され、森林作業の共同発注・補助金一括申請・路網計画の調整を行います。日本の森林組合と類似ですが、所有者主導の自治色が強く、行政依存度が低い点が特徴です。

急傾斜地と架線併用:スイス40m/haの選択

スイスは平均路網密度40m/ha程度で、ドイツ・オーストリアより明らかに低い水準です。これは森林の約60%がアルプス山地(傾斜35度超)に位置し、作業道開設が物理的・環境的に困難であることが背景にあります。スイスの選択は「無理に路網を増やすのではなく、架線(タワーヤーダー、長距離スカイライン)で集材する」という方向性です。架線1本で長さ500〜1,000mのスパンを集材可能で、作業道間隔200〜400mでも効率的な搬出を実現します。

急傾斜地の架線併用施業 タワーヤーダーと作業道の組合せによる急傾斜地集材 スイス型架線併用施業(路網40m/ha) 林道(路肩) タワーヤーダー スパン 500-700m 最大1,000m 搬器 傾斜35〜45度 急傾斜地 路網40m/haでも架線で500m以上の集材距離をカバー。日本の急傾斜林25%にも適用可能。
図2:スイス・オーストリア型の架線併用施業(出典:FOEN/IUFROガイドライン)

架線集材の機種別性能

架線集材機にはタワーヤーダー(Tower Yarder)、スウィングヤーダー(Swing Yarder)、自走式タワーヤーダー(Self-propelled Tower Yarder)の3類型があります。タワーヤーダーは中距離(500〜800m)に強く、生産性は1日40〜70m³/班、購入価格は3,500万〜6,500万円。スウィングヤーダーは短距離(200〜400m)特化で生産性30〜50m³/日、価格2,000万〜3,500万円。自走式タワーヤーダーは長距離(800〜1,200m)対応でスイス・オーストリアの主力機、生産性50〜90m³/日、価格8,000万〜1.5億円です。日本では2024年時点で台数が約120台(うちタワーヤーダー約80台)と少なく、欧州(オーストリアだけで約2,000台)との保有差が施業効率の差を生んでいます。

架線併用と路網40m/haの均衡

スイスの路網40m/haは「これ以上増やさない」という選択ではなく、「これ以上は架線が代替する」という設計思想です。架線スパン500m級では作業道間隔1,000mでも全林分カバーが可能で、路網を倍増するコスト(約3,000円/m × 6万km = 1,800億円相当)を架線投資(タワーヤーダー1,000台 × 5,000万円 = 500億円)に振り替えられる経済合理性があります。日本でもスイス型のシナリオが急傾斜林25%について現実的選択肢となります。

日本の地形条件と100m/ha実現性

日本の森林は傾斜35度超が約25%、25〜35度が約35%、25度未満が約40%という構成で、急傾斜林の比率が欧州中欧(傾斜35度超は10%以下)と比べ大幅に高くなっています。この地形条件下で路網密度100m/haを目指すには、緩傾斜林・中傾斜林(合計75%)を中心に120〜130m/ha水準まで引き上げ、急傾斜林25%を架線併用で40〜60m/ha水準に抑えるという「ゾーニング戦略」が現実的です。

傾斜区分別の目標路網密度

傾斜区分 面積比 推奨密度 主要施業方式
緩傾斜(25度未満) 約40% 120〜150m/ha フォワーダ車両搬出
中傾斜(25〜35度) 約35% 80〜120m/ha フォワーダ+架線
急傾斜(35〜45度) 約20% 40〜80m/ha タワーヤーダー主体
超急傾斜(45度超) 約5% 20〜40m/ha 長距離架線・伐採制限

地形補正後の加重平均密度は、緩傾斜130×0.40+中傾斜100×0.35+急傾斜60×0.20+超急40×0.05=約100m/haとなり、地形を踏まえた現実的な目標値として整合します。

地域別の到達度(北海道・東北・九州)

路網密度の地域差も実態理解に重要です。北海道は緩傾斜が多く全森林平均で約30m/ha・人工林で約45m/ha、東北は中傾斜中心で全森林25m/ha・人工林35m/ha、関東中部は中急傾斜が混在し全森林20m/ha・人工林30m/ha、近畿中国は急傾斜が多く全森林18m/ha・人工林25m/ha、四国は超急傾斜含み全森林15m/ha・人工林22m/ha、九州は中急傾斜中心で全森林25m/ha・人工林38m/haという分布です。九州(特に大分・宮崎)は森林経営計画認定率が高く、路網整備のペースも全国上位です。

所有規模と路網整備の関係

森林所有規模と路網密度には強い相関があります。100ha以上の所有者では平均路網密度45m/ha、20〜100haで35m/ha、5〜20haで25m/ha、5ha未満で18m/haという階層的関係です。日本の私有林所有者の約8割が5ha未満(合計面積では約3割)で、この層の路網密度を引き上げることが全体水準の改善に直結します。森林経営計画(団地化)を通じた境界を越えた一体整備が、小規模分散所有のボトルネックを突破する鍵です。

路網密度と集材距離の幾何学

路網密度は集材距離(hauling distance)と密接に関係します。理論的には正方格子の路網であれば、密度100m/haの場合の最大集材距離は約25m(路網間隔100m÷4)となります。これに対し、現状32m/haでは集材距離が約78m、23m/haでは約108mとなり、フォワーダの往復時間・架線の架設工程に大きな差を生みます。

路網密度と集材距離の関係 密度25・50・100・150m/haの集材距離と効率比較 路網密度と最大集材距離(直交格子モデル) 25m/ha 距離100m 200m間隔 50m/ha 距離50m 100m間隔 100m/ha 距離25m 50m間隔 集材距離別の作業効率比較 距離100m → フォワーダ往復4分・1日生産40m³ 距離50m → 往復2分・1日生産70m³(+75%) 距離25m → 往復1分・1日生産100m³(+150%) 出典:林業機械化協会フォワーダ作業時間調査2022
図3:路網密度と集材距離・作業効率の関係(出典:林業機械化協会2022)

集材距離と総作業時間の内訳

素材生産の作業時間は伐倒・造材・集材・運搬・荷役で構成されますが、路網密度が低いほど集材時間が長くなります。距離25m(路網100m/ha)の場合、集材時間は1日全体の20%程度で、伐倒・造材・運搬・荷役の合計が80%を占めます。距離100m(路網25m/ha)では集材時間が40%にまで膨らみ、機械の付加価値時間(伐倒・造材)が圧迫されます。距離150mを超えると集材時間が50%超となり、機械化の効率が著しく低下します。

地形補正後の実効集材距離

理論値の集材距離は直交格子モデルの値ですが、実際の山岳地形では等高線に沿って迂回するため、実効距離は理論値の1.5〜2.0倍となります。例えば理論25mの場合、急傾斜では実効40〜50m。これでも依然として現状の80〜100mより大幅に短縮され、作業効率は1.5〜2.0倍に改善します。

100m/ha実現の経済効果

路網密度100m/ha実現による経済効果は3つの軸で測れます。第1に素材生産費の低下(現状12,000円/m³→8,000円/m³、約30〜40%減)、第2に作業安全性の向上(労災発生率の低下、特に滑落・伐倒事故)、第3に施業頻度の上昇(間伐作業の費用採算性が改善し、若齢林の早期間伐が経済的に成立)です。林野庁試算では、人工林で100m/haを実現した場合、素材生産量は現状の3,500万m³から年間4,500万m³へ約30%増加するシナリオが示されています。

BCR(費用便益比)の試算

路網整備のBCR(Benefit-Cost Ratio)はおおむね1.5〜3.0の範囲で計算されます。ベネフィットは(生産費低下×将来30年の素材生産量)+(CO2吸収増加の社会便益)+(災害リスク低減)の合計、コストは(路網開設費+維持管理費)です。緩傾斜林ではBCR2.5以上、中傾斜林で1.5〜2.0、急傾斜林で0.8〜1.2程度となり、すべての地形が経済的に成立するわけではありません。これがゾーニング戦略の根拠となります。

労災と路網密度の相関

林業の死亡災害発生率(労働者10万人当たり)は、近年20〜30人で推移しており、全産業平均(1.5人)の15倍超と極めて高い水準です。路網密度が低い現場では、急傾斜地での歩行・滑落、車両搬出が困難な箇所での人力集材、機械整備の遠隔化によるトラブル対応の遅れが事故要因となります。路網密度を上げることで、機械化施業比率の向上・現場滞在時間の短縮・救急搬送の迅速化が同時に実現し、欧州並み(10万人あたり5〜10人)への低減ポテンシャルがあります。

主要国の路網形成プロセス比較

各国の路網形成プロセスには共通要因と相違要因があります。共通要因は3つ:第1に長期計画(100年単位)、第2に補助制度の安定運用、第3に林業者団体(協同組合・組織化)の主導です。相違要因は2つ:第1に地形条件(緩傾斜vs急傾斜)、第2に所有構造(大規模州有林vs分散小規模私有林)です。

ドイツ・オーストリア型 vs 日本型の比較

要素 ドイツ・オーストリア 日本
傾斜35度超比率 5〜15% 約25%
所有規模 州有林・私有林50ha以上多数 私有林5ha未満が約8割
境界明確化 19世紀から完了 約7割(2023年)
林業組織化 林業協同組合(WBV等)強力 森林組合・林業事業体
路網形成期間 100年以上の蓄積 戦後70年
主要機械 ハーベスタ・フォワーダ プロセッサ・フォワーダ
補助率 50〜70%(事業規模大) 最大68%(規模小)
年間整備ペース 1〜2万km級(独・墺合計) 3,500〜4,000km

米国型・北欧型との比較

米国西部の国有林(USDA Forest Service管理)は路網密度約20m/haと低水準ですが、これは平均所有面積が日本の数千倍にあたる大規模林(1ユニット数千〜数万ha)を、長距離トラック輸送と架線で広域カバーする経営モデルが背景にあります。北欧(フィンランド・スウェーデン)の14〜15m/haも、冬期凍結地面を「自然舗装」として利用するスノー・ロギング、およびハーベスタの自走能力(半径200〜300m)を前提とした合理化選択です。日本のように中山間地で年間を通じた素材生産を行う国とは異なる物理条件であり、単純比較できません。

ICT測量・自動施工の導入

路網整備のペースを引き上げる新しいレバーは、航空レーザ測量(LiDAR)と自動化バックホウの組合せです。航空レーザによる1m解像度のDEM(数値標高モデル)が既に全国の主要林業地域で整備されており、これを用いた最適路線選定は熟練オペレータの経験則を補完します。具体的には傾斜区分図・地形湿潤指数(TWI)・水流網解析を統合し、12%勾配を満たす最短ラインを自動生成するソフトウェア(ForestCAD・PrologDM等)が実用化されています。

ICT施工による単価削減

自動化バックホウ(ICT施工対応建機)は3D設計データを読み込み、ブレード・バケットの位置を自動制御することで、未熟練オペレータでもベテランに匹敵する精度を実現します。林業土木分野ではまだ実証段階ですが、土木建設分野の事例では作業時間が20〜30%短縮、単価で15〜25%削減という効果が報告されています(国総研)。これを路網整備に適用することで、現状3,500円/m→2,800円/mへの低下が期待されます。

LiDARベースの路線設計フロー

LiDAR-DEMを用いた路線設計は4ステップで進みます。Step1は地形解析(傾斜・斜面方向・湿潤指数の分布)、Step2は制約条件設定(最大勾配12%、最小カーブ半径20m、湿地・崖地回避)、Step3は最短経路探索(A*アルゴリズム・コスト距離解析)、Step4は現地検証と微修正です。従来は熟練オペレータが現地踏査で1日かけて検討していた路線を、ソフトウェアでは1時間程度で第1案を生成できます。

自動化建機の市場規模

ICT建機市場は土木建設で先行しており、2024年の国内出荷台数は約3,500台(コマツ・日立建機・キャタピラージャパン合計)、市場規模は約800億円。林業向けに転用可能な小型バックホウ(4〜6t級)は全体の30%程度で、林業実装は2030年代に本格化する見込みです。

補助制度と整備ペース

路網整備の補助制度は林野庁の森林整備事業(一般会計)と森林環境譲与税(市町村事業)の2軸で構成されます。森林整備事業は年間約1,400億円(うち路網整備分が約280億円)、森林環境譲与税は年間500〜600億円(うち路網関連は約30%)が主要財源です。補助率は林道で最大65%、林業専用道で60%、森林作業道で50%(地域差あり)。事業実施は森林組合・林業事業体・市町村が中心で、所有者の自費負担分は森林経営計画認定地で軽減されます。

年間整備ペースの推移

年度 林道(km) 専用道(km) 作業道(km) 合計(km)
2015 約700 約400 約2,500 約3,600
2018 約650 約450 約2,400 約3,500
2021 約600 約500 約2,500 約3,600
2023 約580 約480 約2,700 約3,760
目標年(2030想定) 約800 約700 約4,500 約6,000

現状ペース3,600〜3,760km/年では、人工林1,020万haで100m/haを達成するために残る約670万kmの路網延長を新設する必要があり、単純計算で1,800年以上を要します。実際には既設路網の活用・再構築・既往調査の補正等で短縮されますが、目標達成には現状の2倍ペース(年間6,000〜8,000km)が必要です。これを実現する3つのレバーは、(1)補助予算の倍増(280億→560億円)、(2)ICT施工単価削減(15〜25%減)、(3)森林経営計画認定面積の拡大(44%→70%)です。

路網と林業労働生産性

路網密度は林業労働生産性(オペレータ1人当たり日産材積)を大きく左右します。日本のオペレータ生産性は2024年時点で平均15〜20m³/日、欧州中欧(独・墺)は70〜100m³/日で4〜5倍の差があります。この差の主因は、機械化レベル(ハーベスタの保有率:日本15%、欧州80%超)と路網密度(32m/ha vs 100m/ha以上)の組合せです。路網密度を100m/ha水準に引き上げ、ハーベスタを保有する高度機械化事業体を倍増させれば、オペレータ生産性は40〜60m³/日水準に到達可能です。

FAQ:高密度路網に関する質問

Q1. 100m/haという目標値の根拠は何ですか?

欧州中欧(特にドイツ・オーストリア)の路網密度を参照しつつ、日本の地形条件(急傾斜林25%)を加味した「現実的に到達可能な高密度水準」として林野庁が森林・林業基本計画で設定しています。集材距離25mに対応し、フォワーダ施業の生産性が車両搬出の理論最大値に近づく水準でもあります。

Q2. 急傾斜地でも100m/haを目指すべきですか?

必ずしもそうではありません。傾斜35度超では作業道開設が物理的に困難でコストも倍増し、災害リスクも上がります。この区域では路網40〜60m/haに抑え、架線(タワーヤーダー)併用で集材する方が合理的です。スイスの選択がその好例です。

Q3. 路網整備のペースを上げるには何が必要ですか?

4つのレバーがあります。第1に補助予算の拡充(年280億円→倍増)、第2に森林経営計画認定面積の拡大(44%→70%超)、第3に境界明確化の加速(残り3割)、第4にICT測量・施工の導入(単価15〜25%削減)です。これらを組み合わせると現状の年4,000kmから8,000km以上の開設が可能となります。

Q4. ドイツの120m/haは過剰ではないでしょうか?

過剰ではないとされています。ドイツの林業は精密な施業(単木管理に近い高度化)を志向し、密な路網が単木選別・搬出を可能にしています。生産性(オペレータ1人当たり日産70〜100m³)はこの路網密度なしには成立しません。一方で環境影響(裸地化・土砂流出)への懸念から140m/ha以上には増やさない方針です。

Q5. 100m/haが実現したら日本の林業はどう変わりますか?

3つの大変化が起こります。第1に素材生産費が現状12,000円/m³→8,000円/m³に低下し、外材との価格競争力が改善。第2にオペレータ生産性が現状20m³/日→40m³/日に倍増。第3に間伐の経済性向上で若齢林の集約管理が成立し、長期的な森林資源の質が改善します。

Q6. 森林作業道の耐用年数が短いのは問題では?

問題と利点の両面があります。耐用年数10〜15年は林業のサイクル(30〜50年)に対して短く、再整備コストが累積します。一方、簡易構造で開設単価が200〜700万円/kmと低く、初期投資のハードルが下がる利点もあります。林業専用道(耐用30年・単価700〜1,500万円/km)と組み合わせ、主要路線は専用道、枝線は作業道という階層的整備が現実的です。

Q7. 路網整備による環境影響は?

主要な懸念は、(1)裸地化による土砂流出、(2)切土法面崩壊、(3)野生動物の生息地分断、(4)森林全体の表面流出増加です。対策としては、(1)幅員の最小化(作業道3m以下)、(2)路面排水設計(クロスドレン・水切り)、(3)植生回復(早期緑化)、(4)エコブリッジ・地下道の設置などが標準化されています。欧州ではDistrict Forester(地域森林官)が設計段階で環境配慮を法的に審査します。

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まとめ

日本の路網密度は人工林32m/ha・全森林23m/haで、林野庁目標100m/haの約3分の1にとどまります。ドイツ120m/ha・オーストリア89m/haと比較すると差は明らかですが、地形条件(急傾斜林25%)を考慮したゾーニング(緩傾斜130m/ha、急傾斜60m/ha)で平均100m/haの実現は可能です。100m/ha到達による集材距離25mへの短縮、素材生産費30〜40%低下、年間素材生産量30%増、オペレータ生産性倍増という効果は、補助予算拡充・森林経営計画拡大・ICT施工導入・架線併用整備の4点パッケージで実現可能な範囲にあります。長期計画としては「2030年までに人工林平均50m/ha、2050年までに100m/ha」という段階目標が現実的なロードマップです。

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