【ダケカンバ/岳樺】Betula ermanii|森林限界の指標、亜高山帯生態系の樹種

ダケカンバ | 樹木図鑑 - Forest Eight

この記事の結論(先出し)

気乾比重0.65(0.60〜0.70)中重量・緻密分布標高1,500-2,500m亜高山帯〜森林限界寒冷地適応種樹高15-25m胸高直径30-60cm森林限界では低木化樹皮赤褐〜橙褐薄紙状に剥離最大の識別点
図1:ダケカンバの主要スペック(含水率15%基準・代表値)
  • ダケカンバ(Betula ermanii)はカバノキ科カバノキ属の落葉高木で、森林限界の指標樹種として亜高山帯〜森林限界の中核樹種を担います。北海道〜本州中部の標高1,500〜2,500mに分布し、火山地形や尾根筋では先駆樹種として群落を形成します。
  • 樹皮は赤褐色〜橙褐色で薄く剥がれやすく、純白のシラカンバと明瞭に識別されます。森林限界域では暴風・積雪に適応した湾曲樹形を呈し、標高2,400m級では人の身長ほどの低木状になることもあります。
  • 気乾比重0.60〜0.70の中重量材で、シラカンバ(0.50〜0.55)より重硬。家具材・薪炭材・突板として利用され、登山・自然観察文化において高山景観の象徴として親しまれる樹種です。

標高1,500m以上の亜高山帯〜森林限界、お花畑とハイマツ帯の境界──暴風と積雪に耐えて湾曲した独特の樹形で立つ落葉高木がダケカンバ(学名:Betula ermanii Cham.)です。シラカンバの「亜高山版」として位置づけられますが、樹皮の色(赤褐色〜橙褐色)、分布標高、樹形、材質、生態的役割のいずれもシラカンバとは明確に異なり、独立した生態的地位を占めます。北アルプス・南アルプス・北海道大雪山・白山・八ヶ岳・東北の鳥海山や八甲田の森林限界域で、ハイカー・登山者の目を引く「高山の樹木」として愛される樹種であり、火山地形ではパイオニア種として一次遷移を主導します。本稿では、植物学的特性、亜高山帯生態学、シラカンバとの対比、火山地パイオニアとしての機能、家具材・突板としての利用、北海道〜本州中部の地域別分布、気候変動下の上方シフト、登山文化での位置づけまで、北海道立林業試験場・森林総合研究所・樹木医学会・林野庁の各種データに基づき体系的に整理します。

目次

クイックサマリ:ダケカンバの基本スペック

和名 ダケカンバ(岳樺、別名:ソウシカンバ、エゾノダケカンバ)
学名 Betula ermanii Cham.
分類 カバノキ科(Betulaceae)カバノキ属(Betula
英名 Erman’s Birch, Russian Rock Birch, Gold Birch
主分布 北海道〜本州(中部以北中心)、千島、サハリン、カムチャツカ、朝鮮半島北部、中国東北部
樹高 / 胸高直径 15〜25m / 30〜60cm(落葉高木、森林限界では低木化)
気乾比重 0.60〜0.70(中重量、シラカンバ0.50〜0.55より重)
耐朽性 低〜中(屋外耐久年数3〜5年)
分布標高 1,500〜2,500m(亜高山帯〜森林限界、北海道では低地まで降下)
主要用途 家具材、突板、薪炭材、自然観察、登山文化、高山植物保護林
独自特徴 赤褐色〜橙褐色の薄く剥がれる樹皮、森林限界での湾曲樹形、火山地パイオニア

分類学的位置づけと植物学的特性

カバノキ属の中での位置

ダケカンバはカバノキ属(Betula)の北方系・高山系の代表種で、シラカンバ(B. platyphylla)とは生態的住み分けを示します。両種は雑種を作ることもあり、中標高地(800〜1,500m)では雑種起源と考えられる中間的形質の個体が観察され、北海道では「アカカンバ(赤樺)」と俗称される個体群がこれに該当する可能性が高いと報告されています。学名の ermanii は19世紀のドイツ人探検家アドルフ・エルマン(Adolph Erman, 1806-1877)への献名で、エルマンが1828〜1830年のロシア帝国一周探検中に千島・サハリン・カムチャツカで採集した標本に基づき、シャミッソー(Adelbert von Chamisso)が1831年に新種記載しました。世界のカバノキ属約60種のうち、ダケカンバは東アジア〜北東ロシアの高山・亜寒帯を代表する種で、ヨーロッパのヨーロッパシラカンバ(B. pendula)、北米のペーパーバーチ(B. papyrifera)と並ぶ環北極周辺の主要バーチ三種の一角を担います。

形態的特徴

  • 葉:三角状卵形〜広卵形、長さ5〜10cm(シラカンバよりやや大型)、葉縁に重鋸歯、互生。葉身基部は心形〜切形でシラカンバ(楔形)と区別される。秋に鮮やかな黄色〜橙色に黄葉し「ゴールドバーチ(Gold Birch)」の英名の由来となる。
  • 樹皮:赤褐色〜橙褐色〜灰褐色(最大の識別ポイント、シラカンバの白色とは対照的)、薄い紙状に剥がれやすく、剥がれた樹皮の内側は鮮やかな橙色を呈する。樹齢を重ねると基部から灰褐色化が進み、亀甲状に裂ける。
  • 花:5〜7月(地域・標高により遅め、森林限界域では7月中旬まで遅延)、雌雄同株、雄花序は前年枝先端から下垂(長さ5〜8cm)、雌花序は新枝に直立(長さ2〜3cm)。風媒花。
  • 果実:翼果(小堅果)、長さ約3〜4mm、9〜10月に成熟して風散布。1花序あたり数百〜千個の翼果を生産し、強風によって数km単位で散布される。
  • 樹形:森林限界域では暴風・積雪により幹が湾曲し独特の樹形(最大の景観的特徴)。低標高では樹高15〜25mの直立樹形を示すが、標高2,400m級では低木状の匍匐型となる。
  • 根系:浅根性で広く水平展開する。表層50cm以内に細根が集中し、火山礫地・崩壊地でも定着可能な可塑性を持つ。

「岳樺」の名前の由来

「ダケカンバ」の和名は、「岳(たけ・だけ)=高山」の樺(カンバ)、すなわち「山岳に生えるカバノキ」の意味です。同様に「ソウシカンバ」「エゾノダケカンバ」「アカカンバ(赤樺)」等の地方名があり、いずれも「高山の白樺」「北海道の岳樺」「赤い樺」という地理・生態・形態的特徴を示します。アイヌ語の「タッニ(tat-ni、樺の木)」「タッニコル(樺の山)」もダケカンバ群落を指す名前として記録され、北海道の「樺太(からふと)」「足寄(あしょろ)」等の地名にも関連する民俗植物学的重要性を持つ樹種です。

森林限界の指標樹種としての生態

亜高山帯〜森林限界の生態学

ダケカンバは標高1,500〜2,500mの亜高山帯〜森林限界を主たる分布域とし、(1) 寒冷耐性(耐寒性ゾーン3〜6、−40℃にも耐える)、(2) 強風耐性(風衝樹形での生存)、(3) 積雪耐性(雪圧で湾曲しても折損しない柔軟性)、(4) 短い生育期間(年5〜6カ月)への適応、(5) 強い日射と紫外線への耐性、という北方系・高山系の生態的特性を持ちます。森林限界(おおむね標高2,400〜2,500m、北海道では1,500〜1,800m)では針葉樹(オオシラビソ・コメツガ・ハイマツ)と境界を競合し、ハイカーが「高山らしさ」を実感する象徴的景観を形成します。北海道大雪山系では森林限界が標高1,500m前後と低く、本州中部より約1,000m低い位置でダケカンバ群落とハイマツ帯の境界を観察できます。

森林限界での独特の樹形

森林限界域のダケカンバは、(1) 冬季の強風(北アルプスでは平均風速10〜15m/s、最大瞬間風速50m/s以上)による「風衝樹形」、(2) 数mに達する積雪圧力による「匍匐型樹形」、(3) 雪解け期の凍上による「湾曲幹」、(4) 着氷による枝先の屈曲、を呈します。これらは同種の遺伝的多型ではなく、極端な環境ストレスへの可塑的応答(phenotypic plasticity)で、標高2,400m級では人の身長ほどの低木状になることもあります。同じ個体由来の挿し木を低標高で育てれば直立樹形を示すことが実証されており、低標高では樹高15〜25mの直立樹形を示し、同一種内の表現型可塑性の代表例として植物生態学・樹木形態学で広く研究されています。

シラカンバとの住み分けと識別

項目 ダケカンバ シラカンバ
分布標高(本州中部) 1,500〜2,500m(亜高山帯〜森林限界) 0〜1,500m(平地〜山地)
分布標高(北海道) 低地〜1,500m(道東で海岸線まで) 低地〜1,200m
樹皮色 赤褐色〜橙褐色〜灰褐色 純白〜灰白色
樹皮の剥がれ方 薄く紙状に剥がれやすい、内側が橙色 薄く水平に剥がれる、内側も白
樹形(森林限界域) 湾曲・風衝樹形が特徴 分布せず(標高的に競合しない)
葉のサイズ 5〜10cm、やや大型、基部は心形 4〜8cm、基部は楔形
気乾比重 0.60〜0.70(重硬) 0.50〜0.55(中庸)
北限 カムチャツカ・千島列島 北海道(道南・道央)
主要用途 家具材・突板・薪炭 パルプ・合板・薪・観賞

火山地形のパイオニア樹種としての役割

一次遷移における先駆性

ダケカンバは火山活動後の一次遷移(primary succession)において、極めて重要なパイオニア樹種として機能します。具体的には(1) 北海道有珠山1977年噴火・2000年噴火後の火山礫地、(2) 樽前山外輪山の火山灰地、(3) 浅間山黒斑火山の火砕流堆積地、(4) 御嶽山2014年噴火後の山頂部、(5) 富士山樹海周辺のスコリア地、(6) 駒ケ岳・有珠山・恵山の北海道道南火山群、等で観察され、裸地化した火山地形に最初に侵入する木本種の一つです。風散布される軽量な翼果が広範囲に到達し、火山礫の隙間に発芽・定着できる根系の可塑性が、シラカンバ・ヤナギ類と並ぶパイオニア性の根拠です。1〜2年生実生で年間20〜30cmの伸長成長を示し、10年で樹高3〜5mに達します。

崩壊地・尾根筋・雪崩跡地での先駆性

火山地以外でも、(1) 山岳の崩壊地(地震・豪雨に伴う崩壊跡)、(2) 強風尾根筋、(3) 雪崩走路の樹木が一掃された雪崩跡地、(4) 冷温帯〜亜寒帯の伐採跡地、で先駆樹種として群落形成します。これは森林環境譲与税の対象地(崩壊地復旧林・保安林整備)における植栽・天然更新支援の重要樹種でもあり、北海道・東北の市町村では崩壊地復旧でダケカンバの天然更新を促す施業が実施されています。森林総合研究所北海道支所の長期モニタリングでは、樽前山外輪山で噴火後80年経過時点でダケカンバ群落が成熟し、その後オオシラビソ・トドマツ・エゾマツ等の極相針葉樹に遷移する典型的なパターンが報告されています。

火山地一次遷移とダケカンバの役割(噴火後の年数)0年20年50年80年150年〜極相裸地・火山礫先駆草本+ダケカンバ実生ダケカンバ純林(先駆林)針広混交(移行期)オオシラビソ・トドマツ極相
図2:火山地一次遷移の模式図。ダケカンバは噴火後20〜100年の先駆林相を担う

北海道〜本州中部の地域別分布

北海道での分布特性

北海道におけるダケカンバは「亜高山帯指標種」の枠を超え、低地〜山地の冷涼地に広く分布する基本広葉樹の一つです。道東(釧路湿原周辺、根釧台地、知床半島)では海岸線まで降下し、道北(天塩・宗谷)では海岸沿いの強風地に湾曲樹形で分布します。北海道立林業試験場の森林資源モニタリング調査によれば、北海道のダケカンバ蓄積量は天然林を中心に大規模で、シラカンバとの混交林・純林を形成し、トドマツ・エゾマツとの針広混交林の主要広葉樹成分を担います。大雪山国立公園の高根ヶ原・忠別岳一帯では森林限界(1,500m前後)に純林を形成し、知床半島の硫黄山・羅臼岳でも火山地パイオニア機能を観察できます。

東北〜本州中部の分布

東北地方では(1) 白神山地のブナ帯上部、(2) 八甲田山亜高山帯、(3) 鳥海山外輪山、(4) 飯豊山系・朝日連峰、(5) 蔵王連峰の樹氷形成域、で分布し、ブナ・オオシラビソ・コメツガ等と境界を作ります。本州中部では北アルプス(飛騨山脈)・南アルプス(赤石山脈)・八ヶ岳・浅間山・尾瀬・日光連山等の標高1,500〜2,500mで主要群落を形成し、特に北アルプス上高地〜涸沢、南アルプス荒川岳〜赤石岳、八ヶ岳赤岳〜横岳の登山ルートで「ダケカンバ帯」として登山者に親しまれます。本州中部以南(関西・四国・九州)には基本的に分布せず、近畿地方では大峰・大台ケ原の最高所付近にわずかに残るのみです。

主要な観察名所

観察地 標高 特徴
北アルプス・上高地〜涸沢 1,500〜2,500m 登山道沿いの典型的群落、紅葉期の名所
南アルプス・千枚岳〜悪沢岳 1,800〜2,800m 森林限界域の風衝樹形を観察可能
八ヶ岳・赤岳〜中岳 2,000〜2,400m 赤岳鉱泉〜行者小屋ルートの定番景観
北海道・大雪山高根ヶ原 1,500〜2,000m 道内最大級の純林、ヒグマ生息域
白山・室堂周辺 2,000〜2,400m 御前峰直下の森林限界域、お花畑の縁
鳥海山・千蛇谷ルート 1,800〜2,200m 外輪山の風衝樹形が顕著
八甲田山・酸ヶ湯〜大岳 900〜1,500m 豪雪地で湾曲樹形が低標高で観察可
樽前山・外輪山 700〜1,000m 火山地一次遷移のパイオニア群落

用材としての特性と家具材・突板への利用

木材物性と加工適性

ダケカンバ材は気乾比重0.60〜0.70とシラカンバ(0.50〜0.55)より明確に重硬で、辺材は淡黄白色、心材は淡褐色〜赤褐色を帯び、辺心材の色差はやや小さい。緻密で均質な木目、絹のような光沢を持ち、表面仕上げ(鉋削り・研磨・塗装)の質が極めて高い。曲げヤング率8〜10GPa、曲げ強さ80〜100MPa、圧縮強さ40〜50MPaと中堅広葉樹として家具材・突板に十分な強度を持ちます。北海道では「マカバ(真樺)」と並ぶ家具材として「ナミマカバ(並真樺)」と呼ばれ、ウダイカンバ(B. maximowicziana、最高級マカバ)より一段安価ながら同等の質感を提供する用材として、旭川家具・道産家具メーカーで利用されてきました。

主要利用と限定性

家具材としては(1) ダイニングテーブル天板、(2) 椅子のフレームと座面、(3) キャビネット側板、(4) 突板(厚さ0.2〜0.6mmにスライスした化粧単板)、(5) 床材(フローリング)、で利用されます。薪としてはシラカンバよりやや密度が高く、燃焼カロリー4,500〜4,800 kcal/kgで良質ですが、(1) 分布が亜高山帯保護林に集中、(2) 樹幹が湾曲しやすく直材が少ない、(3) 搬出コストが極めて高い、(4) 国立公園・国定公園内での伐採制限、の4点により商業伐採はほぼ実施されません。北海道の一部低標高地帯(道東・道北の天然林域)でわずかに伐採利用がある程度で、市場流通する家具用ダケカンバ材は希少です。

合板・突板産業での評価

ダケカンバ突板は北海道旭川市・士別市・名寄市の単板メーカーで生産され、住宅内装材・家具側板・楽器側板として利用されます。木目の細かさと均質性、橙褐色を帯びる色味が「北方の落ち着いた高級感」を演出するため、ホテル内装・寺院仏具・茶室建具にも採用例があります。年間生産量は北海道全体でも数百立方メートル規模と限定的で、ウダイカンバ突板の代替・補完材として位置づけられます。

森林環境譲与税の活用余地

ダケカンバは(1) 亜高山帯〜森林限界の生態系保全、(2) 登山道沿いの植生保護、(3) 高山植物保護林の整備、(4) 気候変動指標樹種としてのモニタリング、(5) 火山地・崩壊地の天然更新支援、(6) 森林限界の上方シフト調査、という観点から森林環境譲与税の活用対象となります。譲与税の制度設計と市町村事例は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照ください。北海道の市町村では大雪山周辺自治体(東川町・上川町・美瑛町等)でダケカンバ純林のモニタリング・登山道整備に譲与税が活用されており、長野県の北アルプス麓自治体(大町市・松本市・安曇野市)でも同様の取り組みが進んでいます。

気候変動と分布動向

森林限界の上方シフト

ダケカンバは亜高山〜森林限界の樹種で、温暖化下では森林限界の上昇に伴って分布域が縮小・上方シフトするリスクを持ちます。本州中部の山岳では森林限界が標高100m上昇するごとに、ダケカンバの分布上限も上昇する関係が観察されており、現在の標高2,400〜2,500mの森林限界が2100年までに2,600〜2,700m以上に上昇する予測もあります(IPCC第6次評価報告書のRCP8.5シナリオ準拠)。これは亜高山生態系全体の構造変化を意味し、長期モニタリングの重要対象樹種です。

気候変動研究の指標性

ダケカンバの分布は(1) 年輪解析による過去300年の気候復元、(2) 標高勾配上の生育期間変化、(3) 開花フェノロジーの早期化、(4) 種子生産量の変動、等の気候変動研究で重要な指標となります。森林総合研究所・各大学の研究チームが本州中部・北海道の森林限界域に長期モニタリングプロットを設置し、ダケカンバの個体群動態と気候要因の関連を継続調査しています。日本山岳学会・樹木医学会も登山者市民科学(シチズン・サイエンス)と連携し、登山道沿いのダケカンバ群落の写真記録を蓄積する取り組みを進めています。

識別のポイント(Field Guide)

  • 樹皮:赤褐色〜橙褐色〜灰褐色、薄く紙状に剥がれやすい(最大の識別ポイント、シラカンバの白色と対照的)。剥がれた樹皮の内側は鮮やかな橙色。
  • 分布標高:本州中部1,500〜2,500m、北海道では低地〜1,500m。亜高山帯〜森林限界の指標。
  • 樹形:森林限界域では湾曲・風衝樹形(最大の景観的特徴)、低標高では直立。標高2,400m級では低木化。
  • 葉:三角状卵形〜広卵形、5〜10cm、シラカンバよりやや大型、基部が心形。秋に黄〜橙に黄葉。
  • 剥がれた樹皮:内側が鮮やかな橙色(シラカンバは内側も白)。樹幹に手を触れると皮屑が付きやすい。
  • 生育環境:火山地・崩壊地・尾根筋・雪崩跡地などの先駆樹種として群落形成。
ダケカンバの主用途1家具材2突板・床材3薪炭材4登山・観光5火山地復旧
図3:ダケカンバの主用途。亜高山帯生態系の中核樹種としての多面的価値

よくある質問(FAQ)

Q1. シラカンバとダケカンバはどう違いますか?

(1) 樹皮色(シラカンバは純白、ダケカンバは赤褐色〜橙褐色)、(2) 分布標高(シラカンバは0〜1,500m、ダケカンバは1,500〜2,500m、北海道では両種が低標高で混生)、(3) 樹形(シラカンバは直立、ダケカンバは森林限界域で湾曲)、(4) 葉のサイズと基部形状(ダケカンバはやや大型・基部心形、シラカンバは小型・基部楔形)、(5) 気乾比重(ダケカンバ0.60〜0.70、シラカンバ0.50〜0.55)、で識別できます。中標高地(1,000〜1,500m)では雑種起源の中間個体も観察され、北海道の「アカカンバ(赤樺)」がこれに相当する可能性が高いと報告されています。詳細は【シラカンバ】Betula platyphylla|高原の象徴、白樺水と家具材の戦略樹種を参照ください。

Q2. ダケカンバはなぜ湾曲した樹形になるのですか?

森林限界域での(1) 冬季の強風による風衝(北アルプスでは最大瞬間風速50m/s以上)、(2) 数mの積雪圧力(雪が幹を押し倒す)、(3) 雪解け期の凍上(地表が膨張して樹体を押し上げる)、(4) 着氷による枝先の屈曲、の4要素が複合的に作用するためです。これは遺伝的多型ではなく、環境ストレスへの可塑的応答(phenotypic plasticity)で、低標高では同じ種でも直立樹形になります。同じ個体由来の挿し木を低標高で育てれば真っ直ぐ伸びることが実験的に確認されています。森林限界域の風衝樹形は、自然観察の重要観察ポイントとして登山ガイドブックでも紹介され、植物生態学の表現型可塑性の代表事例として教科書にも登場します。

Q3. ダケカンバは庭木として育てられますか?

北海道・東北の冷涼地、または本州中部の標高1,000m以上の高原別荘地(軽井沢・蓼科・八ヶ岳山麓・志賀高原等)では育成可能です。関東以西の平地では夏季高温(30℃以上の連続日数)に弱く、長期生育は困難で、植栽後10年以内に衰弱・枯損するケースが多数報告されています。樹高15〜25mに成長する大型樹種のため、広い庭・別荘地・公園に向きます。一般的にはシラカンバのほうが平地での植栽適性が高いため、住宅地ではシラカンバが選ばれるのが通常です。山岳リゾート・別荘地では「高山らしさ」を演出するシンボルツリーとして植栽される事例もあります。

Q4. ダケカンバの薪・木材としての評価は?

シラカンバよりやや密度が高く(気乾比重0.60〜0.70)、燃焼カロリー4,500〜4,800 kcal/kgで薪としての評価は良好です。しかし(1) 分布が亜高山帯保護林・国立公園内に集中、(2) 商業伐採がほぼ実施されない、(3) 流通量が極めて少ない、ため、市場流通する薪はほぼなく、北海道の一部低標高地での自家消費レベルに留まります。シラカンバ薪を代用するのが一般的です。家具材としては「ナミマカバ」と呼ばれ、ウダイカンバ(最高級マカバ)の代替材として旭川家具・道産家具で利用されますが、流通量は限定的で家具用ダケカンバ材は希少です。

Q5. ダケカンバ群落を観察するのに最適な時期は?

(1) 5〜7月(雪解け後、新緑期、森林限界域では7月中旬まで遅延)、(2) 9〜10月(黄葉期、鮮やかな黄〜橙の樹冠)、(3) 1〜3月(雪景観期、湾曲樹形が雪原に映える)の3期がそれぞれ異なる景観美を提供します。特に9〜10月の黄葉期は鮮やかな黄〜橙の樹冠と、森林限界の青空・初冠雪の白の対比が美しく、登山・写真撮影のピークシーズンです。北アルプス涸沢、南アルプス荒川岳、八ヶ岳赤岳、大雪山高根ヶ原、白山室堂、鳥海山外輪山のいずれの登山道でも観察可能で、特に涸沢の紅葉は「ダケカンバ+ナナカマド+ハイマツ」の三色が織りなす日本屈指の山岳紅葉景観として知られます。

Q6. ダケカンバはなぜ火山地のパイオニアになれるのですか?

(1) 風散布される軽量な翼果(1個3〜4mm)が広範囲に到達できる、(2) 火山礫の隙間でも発芽・定着できる根系の可塑性、(3) 養分の少ない裸地でも生育可能な低栄養耐性、(4) 強い日射と紫外線への耐性、(5) 急速な初期成長(年20〜30cm伸長)、の5点が複合します。北海道有珠山1977年噴火・2000年噴火の火山礫地、樽前山外輪山、御嶽山2014年噴火後の山頂部など、各地の火山地形でダケカンバ群落の自然形成が観察されています。

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まとめ

ダケカンバは、(1) 森林限界の指標樹種としての生態学的特殊性、(2) 赤褐色樹皮と湾曲樹形による独特の高山景観、(3) 登山・自然観察文化における「高山の樹木」の象徴、(4) シラカンバとの明瞭な生態的住み分けと識別可能性、(5) 火山地・崩壊地のパイオニア樹種としての一次遷移主導機能、(6) 旭川家具・突板産業での「ナミマカバ」としての家具材利用、(7) 気候変動下の森林限界上昇による分布縮小リスクと長期モニタリング指標、という七層の重層的価値を持ちます。商業伐採はほぼ実施されない樹種ですが、亜高山帯生態系の中核樹種として、林政・自然保護・登山文化・気候変動研究・火山地復旧の各領域で重要な位置を占めます。北海道立林業試験場・森林総合研究所・樹木医学会の各種データに基づく科学的理解と、登山者・自然愛好家による市民科学的観察の両輪が、ダケカンバの長期保全と気候変動下の動態解明を支えていく時代に入りつつあります。

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