【ウワミズザクラ】Padus grayana|ブラシ状の白花と杏仁子の郷土食文化

ウワミズザクラ(Padus grayana)の白いブラシ状の花

ウワミズザクラ(学名がくめい Padus grayana)は、名前に「サクラ」と入っているのに、サクラ属ではない。同じバラ科なので親戚には違いないが、花見の席に呼ばれた形跡はない。咲かせるのは、白い試験管ブラシのような花穂である。しかもこの木、塩漬けにされて酒の肴になり、古代には占いの道具にもなった。サクラの名を借りた、なかなかの働き者だ。

開花期4〜6月葉が出たあとに咲く平地は早く山地は遅い花序長6〜10cm総状花序(ブラシ状)最大の識別点果実径6〜8mm未熟緑→成熟黒杏仁子の原料樹高約20m落葉高木里山〜山地
図1:ウワミズザクラの主な特徴
目次

サクラだけど「サクラ属」じゃない

まず住所を確認しておこう。ウワミズザクラは、バラ目バラ科ウワミズザクラ属の落葉高木らくようこうぼくだ。同じ科にはサクラ属もリンゴ属もバラ属もいる。サクラとは「同じ科の別の属」、つまり、親戚だが同居はしていない。

ウワミズザクラの分類上の位置目バラ目Rosales同じ目の別の科ケヤキ(ニレ科)、クワ(クワ科)エノキ(アサ科)科バラ科Rosaceae同じ科の別の属サクラ属、リンゴ属、ナシ属バラ属、キイチゴ属属ウワミズザクラ属Padus同じ属の仲間イヌザクラ、シウリザクラエゾノウワミズザクラ種ウワミズザクラPadus grayanaこの記事の主役花序の枝に葉がつく花は葉が出たあとに咲く※ 属の扱いは図鑑や研究者で異なる。ウワミズザクラ属をサクラ属などと合わせ、広義の Prunus 属とする立場もある。
図2:目・科・属・種の位置づけ

ただし、この「属」の線引きは学者のあいだでも一定しない。日本の図鑑ではサクラ属(Cerasus)、ウワミズザクラ属(Padus)、ウメなどが入るスモモ属を別々の属として扱うことが多い。一方、研究では、これらをまとめて広義の Prunus 属とし、その下の「亜属あぞく」として区別する立場がある。属と呼ぶか亜属と呼ぶかは、線を引く人の趣味ではなく、どこまでを一つの家族とみなすかという方針の違いである。

サクラの仲間は大きく3グループサクラの仲間(バラ科)広義の Prunus 属ウワミズザクラ属Padus・花が穂状に並ぶウワミズザクラシウリザクライヌザクラエゾノウワミズザクラ常緑のリンボク、バクチノキなどサクラ属Cerasus・数輪が房になるヤマザクラソメイヨシノエドヒガンオオシマザクラウメ・モモの仲間Prunus 狭義ほかウメモモスモモアンズ広義の Prunus 属を3亜属に分ける考え方は、2013年の系統解析(Shi ら)に基づく。日本の図鑑では3グループを別属とすることが多い。
図3:サクラの仲間の3グループ

グループを分ける目印は花の付き方だ。サクラ属は短い軸から数輪が房になって咲く。ウワミズザクラ属は、小さな花が長い軸にびっしり並ぶ。ソメイヨシノの花束とウワミズザクラのブラシは、同じバラ科でも別の設計思想でできている。

ウワミズザクラは北海道から九州まで、里山から山地にかけて生え、高さは約20mになる。種小名しゅしょうめいの grayana は、米国の植物学者エイサ・グレイにちなむ。花序かじょの長さは6〜10cm。葉が展開したあとに咲くので、葉より先に花が出るサクラ属とは順番が逆だ。開花は4〜6月と幅があり、平地では早く、山では遅い。

見分け方のポイント

  • 花序かじょ:長さ6〜10cmの白い総状花序そうじょうかじょ。葉が出たあとに咲く。いちばんの決め手。
  • 葉:長楕円形ちょうだえんけいで、縁に細かい鋸歯きょしがある。葉柄ようへいに蜜腺みつせんが2つ並ぶことが多い。
  • 樹皮:暗い紫褐色しかっしょくで、横に長い皮目ひもくが目立つ。傷つけると、桜餅に似たクマリンの強い香りがする。
  • 果実:はじめ緑色で、熟すと黒くなる。
ウワミズザクラの幹と樹皮
幹の分かれ目。樹皮は灰褐色で、小さな横長の皮目が散る。写真: iNaturalist 観察記録 by Marco Mussita / CC BY 4.0, via iNaturalist(一部をトリミング、リサイズ・再圧縮)

近縁種との見分け方

ウワミズザクラ属には、似た木がほかにもいる。迷ったら、花序かじょがついている枝に注目するといい。ウワミズザクラとシウリザクラは、花序のついた枝に葉がある。イヌザクラは、花序の枝に葉がない。それだけで分かれる。

花序の形と、枝の葉で見分けるサクラ属ヤマザクラなど数輪が房になる短い軸から咲くウワミズザクラシウリザクラも同じ花序の枝に葉がある長い穂状に並ぶイヌザクラ別名 シロザクラ花序の枝に葉がない若木の樹皮は白っぽい※ 模式図。ウワミズザクラ・シウリザクラは花序の枝に葉がつき、イヌザクラは葉のない枝に花序がつく。
図4:花序の形と枝の葉の違い(模式図)
  • イヌザクラ(Padus buergeriana):別名シロザクラ。花序の枝に葉がつかず、若木の樹皮は白っぽい。本州(青森県の太平洋側以南)から四国、九州の山地に生える。
  • シウリザクラ(Padus ssiori):ウワミズザクラの寒冷地版にあたる。花序の枝に葉がつく点は同じなので、見分けには分布と標高を使う。詳しくはシウリザクラの記事で。
  • エゾノウワミズザクラ(Padus avium):北海道と青森県に自生じせいし、ヨーロッパ北部やアジア北部まで分布する。属名の Padus の基準になる種で、「エゾノ」は北海道のウワミズザクラという意味だ。
  • サクラ属(ヤマザクラなど):属が違うので、花が房状になる時点で別物と分かる。比べるならヤマザクラの記事とソメイヨシノの記事へ。

近縁種きんえんしゅと並べてみると、「サクラの名がつくのにサクラ属ではない」という違和感の正体が、花の付き方の違いとして見えてくる。

郷土食「杏仁子(あんにんご)」

新潟県や東北地方には、ウワミズザクラの若い花穂と未熟な実を塩漬けにした「杏仁子(アンニンゴ)」がある。香りがよく、酒の肴として珍重される。国土交通省の広報資料によれば、塩漬けにするなら6〜7月の緑色の時期の実が向き、熟して黒ずむと苦みが増すという。サクラの仲間なのに、お花見ではなく晩酌に呼ばれる木だ。

ウワミズザクラの緑色の未熟な果実
枝に並ぶ未熟な緑の実(2024年6月)。杏仁子の原料はこの段階のもの。写真: iNaturalist 観察記録 by Timur Kalininsky / CC BY 4.0, via iNaturalist(一部をトリミング、リサイズ・再圧縮)

作り方は、未熟な実を塩に漬け込むもの。塩分は15〜20%、漬け込み期間は1か月以上とされる。ただし、サクラの仲間の種子には青酸配糖体せいさんはいとうたいが含まれることが知られている。生の実を食べるのは避け、自己流で加工する前に、厚生労働省の自然毒の解説を確認してほしい。買うなら、地域の直売所や道の駅に並ぶ加工品が無難だ。

古代の占いに使われた木

古事記こじきには、鹿の肩の骨を「天の香山の天の波波迦ははか」で焼き、割れ目で吉凶を占う場面がある。この「波波迦」がウワミズザクラとされる。和名わめいの「上溝桜うわみずざくら」も、亀の甲羅を焼くときに使う、上面に溝を彫った板に由来するという説明が一般的だ。サクラに似た葉から字が当てられ、読みが変わったとされている。

これは昔話では終わっていない。亀卜きぼく(きぼく)は現在も宮中行事や神社で行われ、2019年の大嘗祭だいじょうさいに向けた準備では、奈良県橿原市の神社でウワミズザクラの波波迦が採取された。占いの結果より、1300年以上たっても道具の指定が変わらないことのほうが驚きである。

ウワミズザクラの主な用途1未熟果実(杏仁子)塩漬け・酒の肴2彫刻・版木材道具の柄など3建材軽くて粘り強い4亀卜(神事)波波迦の木
図5:ウワミズザクラの主な用途

木材としての顔と里山での役割

材は軽くて粘り強く、建材のほか、彫刻や版木はんぎ、道具の柄などに使われる。広く流通する木材ではないが、使い道の履歴書は意外に長い。

花には虫が集まり、実は鳥のごちそうになる。里山では、人間が塩漬けにする前に、まず鳥が食べている。

よくある質問

サクラの仲間ですか?

同じバラ科だが、サクラ属ではなくウワミズザクラ属(別属として扱われることが多い)。花は短くまとまらず、長い総状花序そうじょうかじょになる。葉が出たあとに咲くのも、サクラ属との違いだ。

杏仁子はどう作りますか?

未熟な実を塩に漬け込む。塩分15〜20%、1か月以上が目安とされる。生の実は食べず、自己加工の前に厚生労働省の解説を確認すること。

花はいつ見られますか?

4〜6月。平地では早く、山地では遅い。写真のように、葉が出たあとにブラシ状の花穂が下がる。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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