仕事としてチェーンソーで木を伐る人には、法律で受講が義務づけられた教育があります。「伐木等の業務に係る特別教育」――通称、伐木業務特別教育やチェーンソー特別教育と呼ばれるものです。労働安全衛生法に根拠を持ち、18時間(学科9時間+実技9時間、おおむね3日間)のカリキュラムで構成されます。2020年8月に制度が大きく変わったので、これから受ける人も、昔の修了証を持っている人も、いま一度ポイントを確認しておきましょう。
2020年に何が変わったのか
かつてこの教育は、伐る木の胸高直径20cm未満(9時間)と20cm以上(14時間)で2種類に分かれていました。しかし現場で太さをいちいち区別するのは難しく、2020年8月1日施行の規則改正ですべての伐木業務が18時間の統合カリキュラムに一本化されました。「造材の方法」や「下肢切創防止用保護衣」の科目が加わり、かかり木処理の禁止事項も法令で明確化されています。
| 項目 | 改正前(〜2020年7月) | 改正後(2020年8月〜) |
|---|---|---|
| 区分 | 直径20cm未満/以上で2種類 | すべての伐木業務で1種類に統合 |
| 時間 | 9時間/14時間 | 18時間 |
| 追加科目 | — | 造材の方法、下肢切創防止用保護衣 |
| 防護ズボン | 推奨 | 事業者の着用させる義務 |
改正の背景には深刻な数字があります。林業の労災死亡は2010年代を通じて年27〜45人前後で推移し、その約6割がチェーンソー関連。死傷年千人率は約25と、全産業平均(約2.3)の10倍以上という最危険業種なのです。なお改正前の修了者には経過措置として補講(4.5時間または6時間)が用意されていましたが、その期間は2020年8月1日で終了済み。未受講のまま業務を続けていた人は、いまから新規18時間の受講が必要です。
18時間で何を学ぶのか
カリキュラムは学科9時間と実技9時間に分かれています。学科では伐木の理論やチェーンソーの構造に加え、振動障害(白蝋病)の予防や関係法令も扱います。実技は受け口・追い口・ツルの切り方を中心に、玉切り・造材、機械の点検整備まで。修了試験はありませんが、全時間の出席が修了の条件です。
実技の中核は「受け口・追い口・ツル」の正確な切削です。受け口は倒す方向に作る三角形の切り込みで、上切りと下切りの角度差は30〜45度、深さは幹直径の1/4〜1/3が標準。追い口はその上方1/3の位置から水平に切り込み、直径の1/10ほどのツルを残して倒れる向きを制御します。この一連の数値感覚を、実技5時間で体に染み込ませていきます。
どこで受けられて、いくらかかるか
実施しているのは、業界最大の林業・木材製造業労働災害防止協会(林災防)をはじめ、コベルコ教習所、キャタピラー教習所、CIC日本建設情報センター、各都道府県の林業大学校などの登録機関です。受講料は1.5〜3万円が目安で、テキスト代や修了証発行料を含むことが多いです。林業大学校の研修生向けや自治体補助があるコースなら、もっと安く受けられる場合もあります。学科の一部はWeb受講に対応する機関が増えていますが、実技9時間は対面が必須で、完全オンラインのコースは認められていません。
受講当日の持ち物は、作業服上下・安全靴・ヘルメット・保護メガネ・耳栓・防振手袋・雨具・筆記用具など。チェーンソー本体は機関の機材を使うのが一般的なので、各自持参は不要なことが多いです。防護ズボンは貸与の場合と持参指定の場合があるので、申込時に確認しておくと安心です。
事業者には、教育以外の義務もある
雇う側にも責任があります。未修了者を業務に就かせないこと、受講記録を3年以上保管すること、そして2020年改正で義務化された下肢切創防止用保護衣(チェーンソー防護ズボン)を支給することなどです。防護ズボンは EN381-5/ISO 11393-2 適合品が標準で、クラス1(鎖速20m/s対応)が一般的。3〜5年、または大きな衝撃を受けたら廃棄が目安です。違反には6月以下の懲役または50万円以下の罰金(安衛法第120条)が定められており、重大災害が起きれば労働基準監督署の送検事案になることもあります。
振動障害の予防も重要な義務です。チェーンソーの連続使用は10分以内・1日合計2時間以内が通達の上限で、防振機種の選定と6か月ごとの特殊健診(振動健診)が求められます。また2020年改正では、かかり木の「投げ倒し」「元玉切り」といった危険行為が禁止事項として明文化されました(規則第481条の2〜4)。ロープ・チルホール・ウインチ・重機による安全な処理が標準です。
事故は減っているが、まだ突出して多い
改正後、労災死亡は緩やかな改善傾向にあります。とはいえ依然として林業は最危険業種のひとつで、油断はできません。
| 年 | 林業労災死亡数 | うちチェーンソー関連 | うちかかり木関連 |
|---|---|---|---|
| 2015 | 40人 | 23人(57%) | 9人(22%) |
| 2018 | 33人 | 20人(60%) | 8人(24%) |
| 2021 | 27人 | 16人(59%) | 6人(22%) |
| 2023 | 30人前後 | 18人前後(60%) | 7人前後(23%) |
18時間の特別教育を確実に履行したうえで、修了後もOJTやリフレッシャー研修を重ね、防護衣をきちんと着る――この組み合わせが事故を減らす王道です。受講はゴールではなく、安全に働き続けるためのスタート地点だと考えてください。
よくある質問
家庭用チェーンソーでも特別教育は必要ですか?
純粋な家庭用(自宅の庭木剪定や薪づくりなど)では法的義務はありません。ただし重大事故も少なくないため、安全のために自主受講する一般の方もいます。仕事(事業)として伐木するなら必須です。
自営業の林家も対象ですか?
「業務として」伐木するなら対象です。自己所有の山林の整理でも、定期的・継続的・組織的に行うなら業務とみなされる解釈が一般的で、労災保険の特別加入対象でもあります。
改正前の修了証だけ持っています。今でも有効ですか?
経過措置期間(2020年8月1日まで)に補講(6時間または4.5時間)を受けていれば有効です。未受講のままなら、現在は新規18時間の受講が必要になります。
海外のチェーンソー認証(NPTC・EFESCなど)があれば免除されますか?
免除されません。日本の特別教育は労安法・規則に基づく独自制度で、海外認証との相互認証はありません。海外資格を持っていても18時間の受講が必要です。

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