【リョウブ/令法】Clethra barbinervis|古代救荒食「リョウブ飯」と滑らかな樹皮

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この結論

気乾比重0.60(0.55〜0.65(中重量))重硬・耐摩耗曲げ強度75-90MPa中強度曲げヤング率9-11GPa中剛性耐朽性★★★☆☆低〜中(D3級)
図1:リョウブ/令法の主要スペック(含水率15%基準・代表値)
  • リョウブ/令法(Clethra barbinervis)はリョウブ科リョウブ属の落葉小高木で、古代から続く救荒食「リョウブ飯」の文化を持ち、奈良〜江戸期の飢饉政策と深く結びついた歴史的樹種です。
  • 樹皮は褐色〜赤褐色に滑らかで薄く剥がれ、サルスベリに似た「サルナメ」「サルスベリモドキ」の地方名を生むほどの独特の景観美を放ちます。
  • 夏の白い穂状花序、秋の橙〜赤紅葉、冬の樹皮模様と四季を通じた観賞価値で、里山シンボルツリーとして再評価されている樹種です。

里山林の二次林、雑木林の縁、社寺の境内、住宅庭園のシンボル位置──滑らかに剥がれる樹皮と夏の白い穂状花が独特の存在感を放つ落葉小高木がリョウブ/令法(学名:Clethra barbinervis Siebold & Zucc.)です。古代の救荒食として「リョウブ飯」が記録に残り、養老律令の時代から飢饉時に若葉を食べる文化が継承されてきました。和名「令法」は、政令によって植樹を奨励した行政上の指定樹種であった経緯を示す、極めて稀な命名です。本稿では植物学的特性から救荒食文化、生態学的位置、近縁種比較、用材としての力学特性、観賞価値、FAQまでを網羅的に整理します。

目次

クイックサマリ

和名 リョウブ(令法、別名:ハタツモリ、リョブ、サルスベリモドキ、サルナメ)
学名 Clethra barbinervis Siebold & Zucc.
分類 リョウブ科(Clethraceae)リョウブ属(Clethra
気乾比重 0.55〜0.65(中重量)
曲げ強度 75〜90 MPa
圧縮強度(縦) 40〜45 MPa
せん断強度 9〜11 MPa
曲げヤング係数 9〜11 GPa
耐朽性 低〜中(D3級)
主分布 北海道南部〜九州、朝鮮半島南部、標高200〜1,500m
樹高 5〜10m(最大15m)
胸高直径 15〜30cm(最大40cm)
主要用途 救荒食(若葉)、シンボルツリー、家具材、薪炭材、床柱・銘木
独自特徴 滑らかに剥がれる樹皮、夏の白色直立穂状花、リョウブ飯
リョウブ/令法と主要針葉樹の力学特性プロファイル気乾比重曲げ強度圧縮強度せん断強度耐朽性ヤング率 リョウブ/令法 スギ ヒノキスギを基準とした相対値(外側ほど高性能)
図2:リョウブ/令法とスギ・ヒノキの力学特性比較

植物学的特性──葉・樹皮・花・果実の詳細

リョウブ/令法は、葉・樹皮・花・果実のいずれにも同定上の決定的な特徴を備える、識別容易な樹種です。各器官の特性を以下に詳述します。

  • 葉:倒卵状長楕円形、長さ8〜13cm、幅3〜5cm。先端は尖り基部はくさび形に細まります。葉縁には先端が尖った細鋸歯(鋸歯の数は片側30〜50)が密に並び、葉脈は明瞭で側脈は10〜13対。互生ですが枝先に集中して輪生状に見えるため、ツツジ科の樹種と誤認されることがあります。葉柄は1〜2cmと短く、新葉は展開直後から食用可能で、これがリョウブ飯の原料となります。
  • 樹皮:本種最大の景観的特徴です。若枝は赤褐色で平滑、成木は褐色〜赤褐色〜茶褐色の地肌に薄片状に剥がれた淡褐色〜灰白色の斑模様を呈し、迷彩のような独特の樹皮景観を作ります。剥がれた直後の内皮は明るい黄褐色〜薄桃色で滑らか、サルスベリ(百日紅)の樹皮にしばしば誤認されます。樹皮厚は3〜8mmと薄く、剥皮後の再生も比較的速いことが知られます。
  • 花:7〜8月、当年枝の先端に長さ10〜15cmの直立する円錐〜穂状花序を形成し、白色の小花(直径6〜8mm)が密に咲きます。花弁5枚、雄しべ10本、雌しべ1本。花序全体が垂直に立ち上がる姿は他のリョウブ属樹種にもない特徴で、強い芳香があり、ハナバチ・コアオハナムグリ等の訪花昆虫を多数集めます。蜜源植物としても重要で、養蜂家の間では「リョウブ蜜」が地域限定の希少蜂蜜として流通しています。
  • 果実:10〜11月に熟す球形の蒴果(直径3〜4mm)が穂状に多数並びます。成熟しても落下せず、翌春まで枯れた花序とともに枝に残るため、冬期の同定にも有効です。1果実あたり数十粒の微小種子を含み、風散布されます。
  • 樹形:株立ち〜単幹、樹高5〜10m(極相林では15mに達する個体もあり)、胸高直径15〜30cm。萌芽力が強く、伐採後の切株から複数の蘖(ひこばえ)を立ち上げる性質があり、薪炭利用に適応した二次林型樹形を取ります。

古代救荒食「リョウブ飯」の歴史的背景

リョウブ若葉の食用利用は奈良時代に遡る、日本で最も古く記録された救荒食の一つです。和名「令法(リョウブ)」は、養老律令から平安期にかけて朝廷・諸国が飢饉対策として植樹を「令」じた経緯に由来するとする説が有力で、植物名としては極めて稀な行政命令由来の名です。江戸期の本草書『大和本草』『和漢三才図会』『救荒本草』には必ず収載され、各藩の救荒食物書にも記載されています。

調理法の中心は「リョウブ飯」と呼ばれる若葉の混ぜ飯です。新葉を摘み、たっぷりの湯で2〜3分茹でて水にさらし、軽く絞って細かく刻み、米の炊き上がりに混ぜ込むのが標準的工程。米収量が低く飢饉が頻発した山間集落では、平年でも飯のかさ増し材として常食された地域があり、長野県木曽地方、岐阜県飛騨地方、新潟県魚沼地方、山梨県北杜地方などで20世紀中葉まで実食の記録が残ります。茹でた若葉を干して保存する「干しリョウブ」は冬期の貴重な保存食でもありました。

本草学上は「軽く渋みがあり、香気は淡い」と評され、現代の山菜と比べてもクセは少ない部類に入ります。近年は地域おこし・食文化継承プロジェクトとして、長野・岐阜・新潟の道の駅・郷土料理店で「リョウブ飯」体験が復活しており、救荒食という陰の歴史を地域ブランドへ転換する動きが各地で見られます。

リョウブ科という小さな科の系統的位置

リョウブ科(Clethraceae)はAPG IV分類体系でツツジ目(Ericales)に置かれる小さな科で、世界に2属(Clethra属、Purdiaea属)約75種を含むのみです。日本産はリョウブ(Clethra barbinervis)の1種のみで、近縁種はすべて熱帯・亜熱帯アジアと中南米・北米に分布します。代表的な近縁種を以下に示します。

  • ヤクシマリョウブ(Clethra barbinervis var. yakushimanum):屋久島の高標高域に分布する地域変種。葉が小型で厚く、樹高も低い高山型。
  • アメリカリョウブ(Clethra alnifolia):北米東部に分布する低木種。耐塩性が高く、海岸湿地に生育するため米国では「Sweet Pepperbush」と呼ばれ庭園樹として広く流通します。
  • ナンキンリョウブ(Clethra fargesii):中国中部産、葉裏が白粉を帯び花序が長い。

属内分布の生物地理学的分析では、リョウブ属は白亜紀末〜古第三紀にかけて北半球温帯に広く分布した古い系統で、現在の東アジア・北米・中南米隔離分布は当時の分布縮退の結果と推定されます。日本のリョウブはその北東アジア系統の代表的存在で、生きた化石的な意味合いを持つ樹種です。

力学特性と用材としての利用実態

気乾比重0.55〜0.65、曲げ強度75〜90MPa、圧縮強度40〜45MPa、ヤング係数9〜11GPaの中重量・中強度材で、針葉樹のスギ(比重0.38)より明確に重く、ヒノキ(0.44)よりも重硬な部類に入ります。木目は緻密で年輪界は不明瞭、心材は淡褐色〜淡赤褐色、辺材は黄白色で心辺材の差は明瞭ではありません。乾燥はやや遅いものの狂いは少なく、加工性は良好です。

地域的利用としては、(1)家具材(テーブル天板・椅子の脚物・小箪笥)、(2)建築造作材(柱・小物棚・床框)、(3)薪炭材(火持ち良好・煙の少ない燃焼)、(4)床柱・銘木材としての利用が知られます。特に滑らかな樹皮を活かした「皮付き床柱」は数寄屋建築・茶室の名物材として、銘木店経由で製材1m³あたり10〜30万円のプレミアム取引が継続しています。蘖更新に強いため、薪炭林の重要構成種として里山経済を支えてきた歴史も見逃せません。

生態学的位置と里山林における役割

リョウブは、コナラ・クヌギ・アベマキ等を主体とする落葉広葉二次林(薪炭林)の典型的な伴生樹で、林冠木より一段低い亜高木層〜林縁部に分布します。耐陰性は中程度、土壌pH4.5〜6.0のやや酸性土壌を好み、痩せ地・尾根筋・崩壊地の先駆樹種としても登場します。萌芽力が強く、伐採後の切株から速やかに再生するため、薪炭林の輪伐システムと極めて相性が良い樹種です。

花期7〜8月の白色穂状花は、夏の蜜源植物が乏しい時期に大量の花蜜を供給し、ハナバチ類・スズメバチ類・コアオハナムグリ・トラマルハナバチなど多様な訪花昆虫を集めます。これにより周辺の野菜・果樹の受粉サポートにも寄与し、里山生物多様性の鍵種の一つと位置づけられます。果実は熟すると蒴果が裂開し、微小種子は風散布されますが、発芽率は低く実生定着は限定的で、繁殖戦略の主体はむしろ萌芽更新にあります。

観賞価値とシンボルツリーとしての評価

住宅シンボルツリー・公園樹・社寺植栽の素材として、リョウブの観賞価値は次の四点に集約されます。(1)滑らかな樹皮──冬期にも観賞価値が落ちず、サルスベリ類似のテクスチャは現代住宅の素材感とも好相性。(2)夏の白色直立穂状花──7〜8月に他の庭木が花の少ない時期に咲き、芳香を放つ稀少な夏花樹。(3)秋の紅葉──橙〜赤橙〜暗赤色に染まる紅葉は、ヤマモミジほど派手ではないものの落ち着いた色合いで和風・モダン庭園のいずれにも調和。(4)整った樹形──株立ちにしても単幹仕立てにしても自然な姿に納まり、剪定の手間が少ない。

近年は里山再評価の流れの中で、住宅シンボルツリー・公共施設緑化・社寺境内の補植樹として需要が拡大しています。特に新築住宅の中庭・坪庭に株立ちのリョウブを配する事例が増え、苗木業界では樹高2.5〜3mの株立ち品が3〜5万円で流通する人気樹種となっています。

森林環境譲与税の活用余地

(1)里山林の生物多様性整備事業(薪炭林の伝統的輪伐システムの再構築)、(2)救荒食文化の継承活動(地域学校での「リョウブ飯」体験事業)、(3)山菜利用の6次産業化(道の駅・直売所連携)、という観点から森林環境譲与税の活用対象となります。市町村実施事業として、長野県木曽町、岐阜県白川村、新潟県十日町市等が先行事例として知られます。詳細は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照ください。

📄 出典・参考

気候変動下の分布動向と保全

北海道南部〜九州、朝鮮半島南部に広く分布し、標高200〜1,500mの幅広い高度帯で生育するため、温暖化に対する分布縮小リスクは現時点で低いと評価されます。一方、屋久島の高標高に隔離分布するヤクシマリョウブ変種は、温暖化による上方移動限界に到達する可能性があり、亜種レベルでの保全モニタリングが今後の課題です。林野庁の「森林資源の現況」でも本種は二次林構成種として安定的に把握されており、今後30年スパンの分布予測モデルでも本州以南の生育域は概ね現状維持と推定されています。

近縁種との識別ポイント比較表

樹皮が滑らかに剥がれる落葉樹は日本に複数あり、現場での同定にはしばしば混乱が生じます。リョウブ/令法を含む主要な「滑らか樹皮樹種」の識別ポイントを以下に整理します。

樹種 樹皮色 剥がれ方 花期と花色 分布
リョウブ リョウブ科 褐色〜赤褐色 薄片状に剥がれ斑模様 7〜8月・白色穂状 北海道南部〜九州
サルスベリ ミソハギ科 赤紫〜灰褐色 大きく剥がれて素肌露出 7〜9月・紅紫色 植栽(中国原産)
ナツツバキ ツバキ科 赤褐色〜灰褐色 鱗片状に剥がれ斑模様 6〜7月・白色一日花 本州中部〜九州
ヒメシャラ ツバキ科 赤褐色〜橙褐色 薄片状に剥がれ平滑 6〜7月・白色一日花 本州中部〜九州
カゴノキ クスノキ科 緑灰色〜黄褐色 円形に剥がれ鹿の子模様 9〜10月・淡黄色 本州西部〜九州

葉と花期を併せて確認すれば識別は容易です。リョウブは「7〜8月の直立した白色穂状花序」と「枝先に集中する倒卵形の葉」が決定的な特徴で、他の滑らか樹皮樹種と確実に区別できます。

苗木の調達と植栽実務のポイント

住宅シンボルツリーや公共緑化で使用する場合、苗木の選定段階で以下の三点を押さえると活着率が大きく向上します。第一に、根系の状態。山採り素材は活着が難しく、根鉢が小さい個体は植栽後の旱魃で枯損リスクが上がるため、ポット栽培または十分な根回しを経た「圃場仕立て」を選ぶのが確実です。第二に、樹形のバランス。株立ちの場合は3〜5本立ちで主幹間隔がほぼ均等な個体を選び、単幹の場合は枝張りが四方均等で先端芽が健全なものが理想です。第三に、葉の色艶。健全苗の葉は濃緑で艶があり、葉裏の鋸歯が整然と並びます。逆に黄変・斑点・葉縁の枯れ込みが見える個体は鉢内で根詰まりしている可能性が高く、避けるのが無難です。

植栽後の管理は最小限で済みますが、最初の1夏は週1〜2回の灌水を欠かさず、株元にウッドチップ等で5〜8cm厚のマルチングを施すと活着が安定します。冬の寒肥として腐葉土・堆肥を株元に施し、剪定は落葉期の枝抜き中心。萌芽力が強いため強剪定すると徒長枝が乱立しやすく、樹形を崩す原因となるので注意が必要です。

地域経済と6次産業化の可能性

リョウブを核とした地域振興のモデルは、(1)若葉採取期の山菜ツアー(5月)、(2)開花期の養蜂連携・蜜源ツアー(7〜8月)、(3)紅葉期の里山散策ツアー(10〜11月)、(4)落葉期の樹皮鑑賞・盆栽鑑賞(12〜2月)、と通年型コンテンツが組み立てやすい点が強みです。長野県木曽町ではリョウブ飯と地酒のペアリング企画、岐阜県白川村ではリョウブ蜜の地域ブランド化、新潟県十日町市では古民家カフェでのリョウブ茶提供など、既に多様な事例が動いています。森林環境譲与税の交付額は2024年度に総額約500億円規模に達しており、これを薪炭林整備・救荒食文化継承・里山ツーリズムに連動投入する事業設計は、人口減少地域の地域経営において有力な選択肢となります。

リョウブ/令法の主用途1救荒食2シンボルツリー3家具材4薪炭材
図3:リョウブ/令法の主用途。樹種特性が決定する経営的位置づけを示す

「リョウブ飯」の現代レシピと栄養学的評価

救荒食という暗いイメージとは裏腹に、リョウブの若葉は栄養面でも侮れない素材です。一般的な山菜分析の参考値では、若葉100g中にビタミンC 30〜50mg、β-カロテン 2,000〜3,500μg、カリウム 400〜500mg、食物繊維 4〜6gが含まれ、特にビタミンC・β-カロテンは現代日本人の不足栄養素として注目される成分群です。アクの主成分はタンニン系の渋み物質ですが、2〜3分の茹でと水さらしで大部分が除去されます。

現代の調理法としては、(1)伝統的な「リョウブ飯」(茹でて刻み米に混ぜる)に加え、(2)おひたし(醤油・かつお節)、(3)胡麻和え、(4)天ぷら(衣を薄めにして若葉の風味を活かす)、(5)炊き込みご飯(油揚げ・人参と合わせる)、(6)パスタの青味(ジェノベーゼ風アレンジ)など、和洋を問わず展開できる素材です。香りはクセが少なく、ヨモギやウドのような強い個性は持たないため、料理人にとっては扱いやすい山菜の部類に入ります。

盆栽・小品仕立てとしての価値

リョウブは盆栽素材としても高い評価を受けています。特徴は(1)樹皮の景観美が小品サイズでも楽しめる、(2)葉が小さく密に集まるため葉性が整いやすい、(3)夏の白花・秋の紅葉と鑑賞ポイントが多い、(4)萌芽力が強く整姿しやすい、の四点。樹高30〜60cmの中品〜小品サイズが多く流通し、樹齢20〜50年の古木は10〜30万円のプレミアム価格で取引されます。山採り素材を圃場で養生して仕立てる手法が一般的で、根伏せ・取木・実生のいずれも可能ですが、最も多いのは挿し木による増殖です。

よくある質問(FAQ)

Q1. リョウブの若葉は今でも食べられますか?安全性は?

食用可能で、安全性も確認されています。新葉をたっぷりの湯で2〜3分茹で、冷水にさらしてアク抜きすれば、軽く渋みのある山菜として食べられます。長野県・岐阜県・新潟県の一部では「リョウブ飯」体験イベントが復活しており、道の駅・郷土料理店で郷土食として提供されている地域もあります。ただし大量摂取は避け、適量を食卓に乗せる程度が望ましく、初めて食べる際は少量から試すのが原則です。

Q2. なぜサルスベリと呼ばれることがあるのですか?

樹皮が滑らかで美しく剥がれる性質がサルスベリ(ミソハギ科 Lagerstroemia indica)と類似するためです。リョウブはリョウブ科で分類学的にはサルスベリと完全に別系統ですが、樹皮の景観的類似性から「サルスベリモドキ」「サルナメ」「ハタツモリ」等の地方名が日本各地に残ります。樹皮を観察すると、サルスベリは赤紫〜灰褐色のなめらかな素肌が大きく剥がれるのに対し、リョウブは褐色〜赤褐色の地肌に小さな薄片が斑模様に剥がれる点で区別できます。

Q3. 庭木として育てやすいですか?病害虫は?

耐寒性・耐乾性に優れ、樹高5〜10mに収まるため住宅庭園に向いた樹種です。日当たり〜半日陰を好み、酸性〜中性のやや肥沃な土壌で良好に生育します。病害虫被害は少なく、ナガコガネグモやアメリカシロヒトリの食害が散発する程度。剪定は冬の落葉期(12〜2月)に枝抜き中心で行い、強剪定は萌芽枝が乱れるため避けます。施肥は早春に寒肥として有機質を施す程度で十分です。

Q4. リョウブの開花時期と花の特徴を教えてください

開花期は7〜8月(冷涼地では8〜9月)、当年枝の先端に長さ10〜15cmの直立する穂状花序が形成されます。白色の小花(直径6〜8mm)が密に咲き、強い芳香を放ちます。同時期に咲く樹木が少ないため、夏の里山景観の中でひときわ目立ち、養蜂家の間では希少な「リョウブ蜜」の蜜源として珍重されます。花後の蒴果は冬まで枝に残るため、落葉期の同定にも有効です。

Q5. リョウブの紅葉はどんな色ですか?

10〜11月にかけて橙色〜赤橙色〜暗赤色に紅葉します。ヤマモミジほどの鮮烈さはありませんが、葉が小さく密につくため全体としてしっとりとした暖色のトーンが楽しめ、和モダン庭園との相性が抜群です。紅葉のピーク後はやや早めに落葉し、冬期は枝先の蒴果と滑らかな樹皮の景観に主役が移ります。

Q6. 「令法」という和名の由来は何ですか?

養老律令期から平安期にかけて、朝廷および諸国が飢饉対策の救荒植物としてリョウブの植樹を「令」じた経緯に由来するとする説が有力です。植物名としては極めて稀な「行政命令由来」の命名で、これ自体が日本の食料安全保障史を物語る一語となっています。別説として、若葉を「料(リョウ)」として食するための「法」を定めたとする解釈もあり、いずれも食料政策と密接に結びついた語源です。

Q7. リョウブの材は何に使われますか?

気乾比重0.55〜0.65の中重量材で、家具材(テーブル・椅子の脚物・小箪笥)、建築造作材(柱・床框・小物棚)、薪炭材として地域的に利用されます。樹皮の滑らかさを活かした「皮付き床柱」は数寄屋建築・茶室の銘木材として銘木店経由で流通し、製材1m³あたり10〜30万円のプレミアム価格が継続しています。萌芽力の強さを活かした薪炭林経営にも適し、伝統的な里山経済を支えてきた樹種でもあります。

Q8. リョウブと近縁種の違いは?

日本産はリョウブ1種のみで、屋久島高標高域に変種ヤクシマリョウブが分布します。海外では北米東部のアメリカリョウブ(Clethra alnifolia)が園芸樹として有名で、低木で耐塩性が高く海岸湿地に生育します。中国産のナンキンリョウブ(C. fargesii)は葉裏が白粉を帯び花序が長いのが特徴。リョウブ属は北半球温帯に古く広く分布した系統で、東アジア・北米・中南米に隔離分布する生きた化石的存在です。

Q9. リョウブを植える適期と苗木の入手方法は?

植栽適期は11〜3月の落葉期で、特に厳冬期を避けた12月上旬〜2月中旬が無難です。苗木は山採り素材も含めて造園業者・植木専門の通販で流通し、樹高2.5〜3mの株立ち品が3〜5万円、高さ1m前後のポット苗が3,000〜5,000円が市場価格の目安。植栽後は最初の1夏を乗り切れば活着率は高く、その後の手入れは最小限で済みます。

Q10. リョウブを使った観光・地域振興事例はありますか?

長野県木曽町、岐阜県白川村、新潟県十日町市、山梨県北杜市などが、救荒食「リョウブ飯」を地域文化資源として再評価する取り組みを進めています。道の駅・郷土料理店での試食メニュー化、地元小中学校での食育教材化、里山林整備と連動した山菜採取体験ツアー化、養蜂家との連携によるリョウブ蜜のブランド化など、森林環境譲与税の活用とも連動した6次産業化が各地で動き始めています。これらの取り組みは、過疎集落における「植物を媒介とした文化観光」の典型例として注目を集めており、生物多様性条約の地域目標とも整合する形で進展しています。

Q11. リョウブの蜜源としての価値はどの程度ですか?

養蜂業界では希少な夏期蜜源として知られ、1群あたり花期の採蜜量は3〜8kg程度と中規模ながら、香りと味わいが独特の「リョウブ蜜」として地域限定流通が続いています。色は淡琥珀色〜黄褐色、香りは穏やかな草花調、舌に残る後味は軽くキレが良く、トーストやヨーグルトと相性が良いと評されます。流通量が少ないため120gビンで1,500〜2,500円のプレミアム価格帯となり、地域ブランド蜂蜜として6次産業化の好素材となっています。

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まとめ

リョウブ/令法は、(1)古代救荒食「リョウブ飯」の歴史的価値(行政命令に由来する稀有な和名)、(2)滑らかに剥がれる樹皮の景観美(サルスベリ類似のテクスチャ)、(3)夏の白色穂状花の園芸価値(夏期の希少な蜜源樹)、(4)秋の橙〜赤橙紅葉の四季性、(5)里山二次林の鍵種としての生態的役割、(6)中重量・中強度材としての用材価値(床柱・銘木としてのプレミアム取引)、という多層の価値を併せ持つ樹種です。森林環境譲与税の活用と地域おこしの文脈で、文化・生態・経済の三層を同時に動かせる稀少な里山シンボルツリーとして、今後の再評価が一段と進むと見込まれます。歴史を辿れば養老律令期に植樹を「令」じられた飢饉対策の戦略樹種であり、現代の文脈では生物多様性・地域文化・観光・養蜂・建材・盆栽までを橋渡しする、極めて多面的な里山資源として位置づけ直すことが可能です。

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