晩秋の里山を歩くと、真っ赤な実を房のようにびっしり付けた低木が目に飛び込んできます。雪が舞う頃まで枝に残るその赤――これがガマズミ(学名:Viburnum dilatatum)です。地味な存在に見えて、東北・北陸の人たちにとっては昔から馴染み深い「食べられる木の実」。山形では「ジョミ」、福島や新潟では「ヨソゾメ」「ヨツドメ」と呼ばれ、果実酒やジャムに加工されてきました。方言名はなんと約30種。それだけ各地の暮らしに溶け込んできた証です。
レモンを超えるビタミンC――食べる赤い実
ガマズミの実がただ美しいだけでないのは、その中身です。果汁100gあたりのビタミンCは60〜90mgとレモン果汁を上回り、グレープフルーツの2〜3倍。さらにリンゴ酸・クエン酸による鋭い酸味、アントシアニンの鮮やかな赤、プロアントシアニジンのコクが重なり、加工すると深い味わいと色になります。
生のままだと未熟果は渋くて酸っぱいのですが、霜が降りると細胞壁が壊れて糖が増し、青森や岩手では「霜降り後の生食」が伝わっています。とはいえ主役はやはり加工品。果実を氷砂糖とホワイトリカーに漬ければ、3〜6か月で鮮紅色のガマズミ酒(ジョミ酒)に。標準は果実1kg・氷砂糖200〜400g・焼酎(35度)1.8Lで、独特の酸味とタンニンのコクが楽しめます。ほかにジャム、ジュース、近年は「ジョミドリンク」として健康食品の通販でも全国に流通しています。
地域を潤す「ジョミ」――小さな実の6次産業化
山形県長井市は「ジョミ」を地域ブランドとして商標登録し、果実酒・ジャム・ジュース・洋菓子へと展開しています。新潟県阿賀町の「ヨソゾメ」商品、福島の中山間地振興でのガマズミ植栽支援など、東北各県で農林水産省の6次産業化計画に認定された事例が複数あります。原料1kgあたり300〜500円の果実が、加工品になると10〜30倍の価値を生む――小さな赤い実が地域経済を回す好例です。
近年は機能性食品としての研究も進み、山形県工業技術センターはガマズミエキスを「ジョミエキス」として標準化し、地元企業へ供給。主成分のシアニジン系アントシアニンはブルーベリーや黒大豆と似た生理活性を示し、複合素材として機能性表示食品の届出も東北を中心に進んでいます。こうした特用林産物の供給林整備には森林環境譲与税も活用でき、中山間地振興との連動が広がっています(制度の詳細は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向)。
鳥を呼ぶ庭木として
食べるだけでなく、庭木としても優秀です。5〜6月の白い大きな花、夏の濃い緑、秋の真っ赤な実、晩秋の赤紫の紅葉と、一年を通じて表情が変わります。なにより赤い実はヒヨドリ・ツグミ・ムクドリ・カケスの大好物。庭に植えれば自然と鳥が集まる「バードガーデン」の主役になります。マユミやナナカマドなど他の赤実樹と組み合わせ、水場を添えれば来る鳥の種類がぐっと増えます。住宅向けには2〜3mの株立ち中木が3,000〜10,000円ほどで流通しています。
育て方はやさしく、耐寒性(−20℃前後まで)・耐陰性に優れ、病害虫もほとんど気になりません。植え付けは11〜3月の落葉期。注意点は、植えてから2年は乾燥期に水やりを続けること、そして強い剪定を避けることくらい。花芽は枝先に付くので、刈り込みすぎると翌年の実が減ってしまいます。整える剪定は2〜3月に軽く行えば十分です。
なお、よく似た同属のヤブデマリは花序のまわりに大きな白い装飾花が付き、実が最終的に黒紫に熟すので見分けられます。ガマズミは装飾花がなく、実は真紅のまま冬まで残ります。重く粘りのある材は、かつて鎌や鍬の柄、木槌に使われました――「鎌酸実(かますみ)」が名の由来という説があるのも、こうした実用の歴史からです。

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