この記事の要点
- 森林経営管理制度(2019年4月施行)に基づき、市町村が経営困難な森林を所有者から預かり、意欲ある林業事業体に経営を委託する仕組み。
- 10年間で30万haの経営権集積を政策目標として設定(林野庁、2020年代)。
- 2024年度時点で意向調査実施市町村は約9割、累計集積面積は数万〜十数万haレベル(地域差大)。
- 森林環境譲与税(年間約500〜600億円)が市町村の制度運用を財政的に支える。
- 所有者不明森林・経営放棄林の問題解決と、意欲ある林業事業体への経営集約による生産性向上を両立する政策設計。
日本の人工林1,000万haのうち相当規模が経営放棄・所有者不明・小規模分散化状態にあり、これは戦後造林ブームと相続代替わり・都市化・林業衰退の累積結果として生じた構造的課題です。森林経営管理制度は2019年4月から施行された画期的な制度で、市町村が「経営困難」な森林を所有者から預かり、意欲ある林業事業体に経営委託する3段階の集約スキームを構築します。林野庁は10年間で30万haの経営権集積を政策目標として掲げ、現在は実装フェーズに入っています。本稿では、制度の構造、進捗、市町村の取組み、林業事業体の役割、関連する財政基盤、課題を、数値ファースト・出典明示で整理します。
制度の背景:経営放棄林と所有者不明問題
日本の森林は2,500万ha、そのうち人工林は1,000万ha、ほとんどが戦後の拡大造林期(1950〜70年代)に植林されたスギ・ヒノキです。これらの人工林は2020年代に主伐期を迎えていますが、所有者の高齢化・代替わり・都市移住・経営放棄により、適切な施業が行われない森林が拡大しています。
具体的な構造的課題:
- 森林所有者の高齢化:森林所有者の平均年齢65歳超、80歳超も多数
- 所有者不明森林:相続未登記・代替わり時の不明化、推定数百万件
- 小規模分散:個人所有森林の平均規模5ha未満、施業効率が極端に低い
- 経営意欲の低下:木材価格低迷・林業所得不振により経営放棄が拡大
- 境界不明森林:境界確認未実施、相続時の境界紛争リスク
- 施業履歴の喪失:所有者交代に伴い施業情報が継承されない
これらの構造的課題に対し、従来の補助制度では十分に対応できず、抜本的な制度改革として森林経営管理制度が設計されました。市町村が中核となり、意欲ある事業体への経営権集約を通じて、林業の生産性・持続性を確保する戦略です。
制度の3段階スキーム:意向調査・受託・委託
森林経営管理制度の中核は、以下の3段階スキームです:
| 段階 | 主体 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1段階:意向調査 | 市町村 | 所有者に経営意向を確認、自主管理/市町村委託/無回答を区分 |
| 第2段階:経営受託 | 市町村 | 市町村委託希望森林を市町村が経営権集積 |
| 第3段階:経営委託 | 市町村→事業体 | 意欲ある林業事業体に経営権を再委託(10〜30年) |
意向調査は、市町村が所有者全員に対して個別の意向を確認する大規模調査で、回答率は40〜80%と地域差が大きくなっています。回答内容は、(1)自身で経営継続、(2)市町村への経営委託希望、(3)回答無し・不明、に大別されます。市町村は回答結果に基づき、第2段階で経営受託(市町村が直接権限を持つ)、第3段階で再委託(事業体に権限移転)と進めます。
不明所有者に対しても、公示送達や財産管理人選任等の法的手続きを経て、市町村が経営権を取得することが可能です。これは従来の制度では不可能だった「所有者不明森林の経営権集積」を実現する画期的な仕組みです。
意向調査の現状:市町村の実装状況
意向調査は森林経営管理制度の入り口であり、市町村の実装状況を最も直接的に示す指標です。林野庁の集計(2024年度)では:
- 意向調査実施市町村:全国の約90%超(1,500市町村以上)
- 調査対象所有者総数:累計300万人規模
- 回答率:40〜80%(地域差大、平均60%前後)
- 市町村委託希望:回答者の20〜40%
- 回答無し・所有者不明:20〜40%
都道府県別では、北海道・岩手・長野・岡山・宮崎等の林業地域で実施が進む一方、関東・大都市圏では森林面積の少なさから実施規模が小さい傾向があります。意向調査の進捗が経営権集積につながるまでには、(1)回答内容の精査、(2)森林資源評価、(3)事業者マッチング、(4)経営計画策定、(5)契約締結、と複数のステップが必要で、調査実施から実際の経営委託まで2〜5年を要するのが一般的です。
経営権集積の実態:累計面積と地域差
2024年度時点での経営権集積面積は、林野庁の集計で累計十数万ha規模に達しています。30万ha 目標の達成に向けては中間段階ですが、進捗は当初想定より緩やかなのが実情です。地域別の集積実績例:
| 地域 | 集積面積(累計) | 特徴 |
|---|---|---|
| 北海道 | 数万ha | 大規模森林、町村レベルでの実装進む |
| 東北 | 数千〜万ha | 岩手・秋田で先進事例 |
| 北関東・中部山岳 | 数千〜万ha | 長野・岐阜で実装事例 |
| 近畿・中国 | 数千〜万ha | 奈良・島根で取組み |
| 四国 | 数千ha | 高知・徳島で進む |
| 九州 | 数千〜万ha | 宮崎・熊本で進む |
進捗が緩やかな主な要因は、(1)市町村職員の林業専門性不足、(2)林業事業体の受託キャパシティ不足、(3)森林資源評価コストの高さ、(4)境界確認未済地の多さ、(5)所有者対応の事務負担、等です。これらの課題を一つひとつ解消することで、後半5年間で集積ペースを上げる戦略がとられています。
森林環境譲与税:制度を支える財源
森林経営管理制度の市町村実装を財政的に支えるのが、森林環境譲与税です。2019年に導入され、市町村と都道府県に毎年配分されます。市町村への配分額は年間約500〜600億円規模で、人口・林業就業者数・私有林人工林面積で按分されます。
譲与税の使途:
- 意向調査の実施費用(調査票印刷・郵送・回答集計)
- 森林資源情報の整備(GIS・LiDAR計測等)
- 境界確認測量
- 所有者特定調査(戸籍・登記調査)
- 市町村森林整備計画の策定・見直し
- 林業事業体への経営委託費用の一部
- 木材利用促進・森林環境教育
- 普及啓発・広報
譲与税は2024年度から段階的に増額され、2029年度には満額(年間約600億円)となる予定です。市町村は譲与税を基に、長期的な森林経営管理制度の運用体制を構築できます。一方、都市部市町村では森林面積が少ないため、譲与税の使途が森林整備に限定されず、木材利用促進や森林環境教育に振り向けられるケースもあります。
意欲ある林業事業体:受託キャパシティ
制度の第3段階で経営権を受託する「意欲ある林業事業体」は、各都道府県の森林組合・民間林業会社・自伐型林業者・新興林業ベンチャー等です。林野庁は事業体の選定基準として、(1)施業実績、(2)人材・機械保有状況、(3)経営計画の妥当性、(4)安全衛生管理体制、(5)地域社会との関係性、を提示しています。
受託事業体の現状:
- 森林組合:全国約630組織、最大の受託主体
- 民間林業会社:素材生産業者・造林業者、各都道府県で数十〜数百社
- 自伐型林業者:個人・小規模、新規参入も含む
- 林業ベンチャー:新興企業、ICT・スマート林業を強みとする
- 地域起業組合・NPO:地域連携型の小規模事業体
受託キャパシティの不足が制度進捗を制約する要因となっており、林業事業体の経営強化・人材育成・機械化投資が並行して進められています。森林経営管理制度を機に、地域の林業事業体が再編・統合・連携することで、受託規模・効率を高める動きも見られます。
市町村の体制整備:林務担当の新設
森林経営管理制度を実施するためには、市町村に専門の林務担当部局・職員を配置する必要があります。森林面積の大きい町村では従来から林務担当が存在しますが、都市部・準都市部市町村では新設が必要なケースが多くあります。
市町村の体制整備パターン:
| 規模 | 体制 | 主要業務 |
|---|---|---|
| 大規模林業町村 | 林務課・林務係(複数名) | 独自で全業務遂行可能 |
| 中規模町村 | 農林課内に林業担当(1〜2名) | 外部委託と連携 |
| 小規模町村 | 兼務職員 | 普及指導員・森林組合・コンサルに依存 |
| 都市部 | 環境課・農政課が兼務 | 森林面積に応じた限定運用 |
市町村職員の林業専門性を補うため、林業普及指導員・森林組合・林業コンサルタント・FFPRI等の外部支援が活用されます。林野庁・全国市町村森林整備計画策定協議会等は、市町村職員向けの研修・マニュアル整備・ヘルプデスクを提供しています。
所有者不明森林への対応:法的手続き
森林経営管理制度の特徴の一つは、所有者不明森林への対応を制度化したことです。従来は所有者不明森林に対して市町村が経営権を取得することは困難でしたが、制度では以下の法的手続きが整備されています:
- 所有者特定調査:戸籍・登記簿・住民票・固定資産税課税情報を活用
- 公示送達:所有者に通知が届かない場合の法的擬制
- 財産管理人選任:相続人不存在の場合の家庭裁判所選任
- 経営権設定:上記手続きを経て市町村が経営権を取得
- 収益分配:将来的に所有者が判明した場合の収益分配ルール
これらの法的手続きは時間と費用を要しますが、所有者不明森林を放置せず、長期的に健全な森林として維持するための重要な仕組みです。法務省・国土交通省との連携により、相続未登記対策、不動産登記制度改革等とも連動して進められています。
事例:先進地域の取組み
森林経営管理制度の先進事例として、以下の地域が注目されています:
- 北海道下川町:町有林・私有林の一体管理、循環型森林経営のモデル
- 岩手県紫波町:所有者意向調査の高回答率、地域材活用との連携
- 長野県信濃町:森林経営計画と経営管理制度の統合運用
- 岐阜県郡上市:林業大学校との連携、地域人材育成と経営権集積の両立
- 奈良県東吉野村:吉野林業の伝統と現代的経営管理の融合
- 島根県美郷町:山村過疎化対応としての森林経営管理制度活用
- 宮崎県諸塚村:FSC認証林との統合、収益性と環境配慮の両立
これら先進地域の共通点は、(1)市町村と森林組合・林業事業体の強固な連携、(2)地域住民の理解と協力、(3)専門職員(普及指導員・林務担当)の継続配置、(4)森林環境譲与税の戦略的活用、(5)長期ビジョンに基づく計画的実装、です。林野庁は事例集を毎年更新し、全国の市町村に展開しています。
課題と今後の展望
森林経営管理制度の運用には、以下の課題が認識されています:
- 市町村職員の林業専門性不足:研修・人事ローテーションが課題
- 事業体の受託キャパシティ:林業会社の経営強化が必要
- 境界・所有者特定の事務負担:登記制度との連携、デジタル化推進
- 森林資源評価の精緻化:LiDAR・UAVなどスマート技術の本格導入
- 収益性確保:木材市場の変動リスクへの対応
- 所有者・地域住民の理解:継続的な情報提供と対話の場の確保
- 長期管理体制の維持:30〜50年の長期計画と職員交代への対応
今後の展望としては、(1)AI・スマート林業の本格導入で事務効率化、(2)市町村間の連携・広域化(複数市町村合同の管理体制)、(3)都道府県・国の支援強化、(4)森林環境譲与税の使途拡張、(5)民間林業ファンドとの連携、(6)国際炭素クレジット制度(J-クレジット等)との接続、等が検討されています。
森林経営計画との連携:制度の二重構造
森林経営管理制度と並行して機能している重要な制度として、森林経営計画制度があります。森林経営計画は、森林所有者または委託を受けた者が5年ごとに作成する施業計画で、認定を受けると造林補助・税制優遇等の恩恵を受けられます。森林経営管理制度の経営権集積後は、市町村または委託先事業体が森林経営計画を策定し、補助制度を活用しながら長期施業を進めるパターンが標準的です。
両制度の関係:
| 項目 | 森林経営管理制度 | 森林経営計画制度 |
|---|---|---|
| 創設年 | 2019年(森林経営管理法) | 2012年(森林法改正) |
| 主体 | 市町村が経営権を集積 | 所有者・受託者が計画作成 |
| 計画期間 | 10〜30年(経営委託) | 5年(更新可) |
| 面積要件 | 無し(個別管理可) | 30ha以上が一般的 |
| 主要効果 | 権限集約・経営委託 | 補助制度活用・税制優遇 |
| 連携 | 経営権集積後に計画作成 | 計画認定で補助受給 |
市町村が経営権を集積した森林に対し、市町村または受託事業体が森林経営計画を策定することで、補助制度(造林補助・路網整備補助・間伐補助等)を最大限活用できます。これにより、単なる権限集約だけでなく、実際の施業実装と補助金活用が一体化した運用が可能となります。
境界明確化の重要性:制度成功のカギ
森林経営管理制度の運用において、しばしば最大のボトルネックとなるのが森林境界の明確化です。多くの私有林では境界確認が長期間行われておらず、相続代替わりに伴って境界情報が失われるケースが頻発しています。境界が不明な状態では、市町村が経営権を集積しても、実際の施業範囲が確定できないため、事業実施に支障をきたします。
境界明確化の手法:
- 地籍調査:国土調査法に基づく公的境界確認、市町村が実施主体
- 森林整備地域活動支援交付金:境界確認費用の補助
- UAV写真測量:簡易な境界把握、低コスト
- RTK-GNSS測量:高精度(±5cm)の境界確認
- 近隣所有者立会い:従来の経験則による境界確認
- 古文書・絵図参照:江戸期からの境界記録活用
地籍調査は2022年度時点で全国の進捗率約53%(市街地・農地・林地合算)にとどまり、林地は特に進捗が遅れています。森林経営管理制度の進展のためには、地籍調査・森林境界明確化と一体化した取組みが不可欠であり、市町村レベルでの中長期計画的な実施が求められます。
地域木材の出口戦略:経営委託後の活用
経営権集積によって市町村・事業体が施業を主導できるようになった森林では、伐採後の木材の流通先・出口戦略が重要となります。地域木材を地域で活用する「地域材利用」は、林業の収益性向上と地域経済活性化を同時に実現する基本戦略です。
地域材活用の主要シーン:
- 公共建築物等への木材利用:庁舎・学校・公民館・図書館等での地域材使用
- 住宅市場:地域工務店との連携、地域型住宅ブランドの構築
- 合板・集成材原料:林産業集積地への安定供給
- バイオマス発電・熱利用:未利用材・低質材の活用
- 輸出材:中国・韓国・東南アジア等への輸出
- 家具・木工製品:高付加価値化、デザイナー連携
- 森林浴・観光:森林空間の経済価値化
地域材活用には、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(2010年制定、2021年改正)が重要な制度的後押しとなっています。市町村レベルでも条例・指針の整備が進み、公共建築物の木造化・木質化が進展しています。森林経営管理制度で集積された森林の木材を、地域の公共建築物・住宅・産業に安定供給する体制が、林業収益性向上の基盤となります。
長期収益見通し:30〜50年の経営計画
森林経営管理制度の経営委託期間は10〜30年が標準的ですが、林業は本来30〜50年スパンの長期事業です。市町村と受託事業体は、長期収益見通しを共有しながら、段階的な施業計画を実施します。
標準的な長期収益見通し(スギ人工林30〜50年生の例):
| 段階 | 主要施業 | 収益・支出 |
|---|---|---|
| 0〜10年 | 植栽・下刈・除伐 | 支出主体、補助制度で軽減 |
| 10〜25年 | 間伐(複数回) | 収支均衡、間伐材の販売収入 |
| 25〜40年 | 間伐・主伐準備 | 収益拡大、市場価格次第 |
| 40〜60年 | 主伐・再造林 | 主伐収入が累積最大 |
| 60〜100年 | 長伐期施業(オプション) | 大径材高収益、A材歩留まり改善 |
長期収益見通しは、木材市場価格・施業コスト・補助制度・税制の変動に左右されますが、近年の動向としては、(1)住宅着工数の漸減傾向、(2)合板・CLT等の建材需要拡大、(3)バイオマス発電需要の拡大、(4)輸出市場の成長、等が見られます。市町村と事業体が長期見通しを共有し、市場変動リスクを管理しながら事業を継続することが、制度成功のカギとなります。
森林環境譲与税の使途と地域実例
森林環境譲与税は2019年度から市町村・都道府県に毎年交付される財源で、森林整備・木材利用・森林環境教育等への使途が法定されています。市町村別の交付額は人口・林業就業者数・私有林人工林面積で按分されますが、各市町村の戦略により使途は多様化しています。
都市部市町村の使途例:
- 姉妹都市・連携自治体の森林整備への寄付(横浜市・新宿区・川崎市等)
- 都市部での木材利用促進(公共建築物の木質化)
- 森林環境教育(学校・市民向け)
- 森林ボランティアの育成・支援
- 水源涵養林整備への投資(上流自治体との連携)
林業地域市町村の使途例:
- 意向調査・経営権集積関連事務(人件費・調査費)
- 森林資源情報の整備(GIS・LiDAR・UAV計測)
- 境界確認測量・地籍調査の補完
- 森林整備計画の策定・更新
- 市町村職員の研修・人材育成
- 地域材を使った公共施設整備
- 林業事業体への支援(機械化・人材育成)
2024年度時点で森林環境譲与税の累計交付額は約3,000億円超に達し、市町村レベルでの活用ノウハウが蓄積されつつあります。林野庁・全国森林環境譲与税活用事例集では、優良事例の横展開が推進され、地方自治体間の情報共有・ベンチマーキングが活性化しています。
所有者意向調査の実務:書式・回答率
森林経営管理制度の起点である所有者意向調査は、市町村が個別の森林所有者に対して、書面(または電子申請)で意向を確認する大規模調査です。標準的な調査票には、(1)森林所有者の基本情報、(2)所有森林の所在・面積、(3)施業実績、(4)今後の経営意向、(5)市町村への委託意思、(6)連絡先・自由記入欄、が含まれます。
意向調査の実務で重要なポイント:
| 項目 | 標準的な対応 | 留意点 |
|---|---|---|
| 調査票の作成 | 林野庁標準書式+市町村独自項目 | 書きやすさと網羅性のバランス |
| 送付方法 | 郵送+一部電子申請対応 | 高齢者には紙ベースが必須 |
| 回答期限 | 通常2〜3か月 | 督促・期限延長対応 |
| 回答率向上策 | 説明会・個別訪問 | 地域コミュニティの活用 |
| 無回答・不明対応 | 戸籍調査・公示送達 | 法的手続きと費用 |
| 結果の活用 | GIS連携・経営権集積判断 | 個人情報の保護 |
回答率は地域差が大きく、住民同士の関係が密な小規模町村では70〜80%、所有者の都市移住が進んだ地域では40〜50%程度に留まります。回答率向上には、(1)地域住民・林業組合との連携、(2)説明会の開催、(3)個別訪問、(4)相談窓口の設置、等の取組みが効果的です。
制度の経済効果:林業生産性と地域経済
森林経営管理制度の経済効果は、(1)林業の生産性向上、(2)地域経済の活性化、(3)森林の公益機能維持、の3軸で評価されます。林野庁の試算では、30万haの経営権集積が達成されれば、以下のような効果が期待されます:
- 林業就業者の安定化(雇用の長期確保)
- 素材生産量の年間数十万m³規模での増加
- 地域材の安定供給による加工業者の活性化
- 森林整備の進展による山地災害リスクの低減
- 水源涵養機能・生物多様性の維持
- 森林炭素吸収量の確保(CO2排出削減目標への貢献)
- 地域経済への直接・間接効果(数百〜数千億円規模)
これらの効果は、森林経営管理制度単独ではなく、森林環境譲与税・森林経営計画制度・林業普及指導員制度・林業事業体支援等との組合せで実現されます。総合的な制度パッケージとして、日本林業の構造転換と地域経済の持続性確保を同時に推進する戦略です。
まとめ:経営権集積30万haは森林の未来図
森林経営管理制度(2019年施行)は、日本の人工林1,000万haの構造的課題に対する画期的な制度設計であり、市町村を中核とした経営権集積によって、林業の生産性・持続性・公益性を同時に確保する戦略です。10年間で30万haの経営権集積目標は、日本林業の未来を左右する重要な政策指標であり、林野庁・都道府県・市町村・林業事業体・所有者・地域住民の連携によってのみ達成可能です。
2024年時点で意向調査実施率は90%を超え、累計集積面積は十数万ha規模に達しつつあります。森林環境譲与税という財源、林業普及指導員という専門人材、森林組合・林業事業体という実装パートナーが揃い、制度の社会実装は着実に進んでいます。一方、市町村職員の専門性、事業体の受託キャパシティ、所有者対応の事務負担といった課題は引き続き解消が必要です。次の5年で30万ha目標を達成するためには、現場の継続的な取組みと、制度・財源・人材の三位一体での強化が不可欠です。
森林経営管理制度の意義は、単に経営権を集積するという行政的な取組みに留まりません。日本の森林を、所有者個人の私的財産から、地域の共有財・公益財として位置づけ直し、長期的な健全性・生産性・公益性を社会全体で守り育てる「公的森林管理」のパラダイムシフトを意味します。市町村・都道府県・国・林業事業体・地域住民・市民・科学者が、それぞれの立場から森林の未来に関わる仕組みを構築することが、制度の根本的な目的です。
2030年までの30万ha目標、2050年に向けた森林の公益機能発揮、気候変動下の持続可能性確保、地域経済の活性化など、複層的な政策目標を達成するためには、森林経営管理制度を中核とした統合的な森林政策が不可欠です。スマート林業・新規参入者育成・森林環境譲与税の戦略的活用・市町村連携の強化・国民的理解の醸成が、これからの10年で重点的に進められるべきテーマとなります。日本の森林の未来は、この制度の運用次第で大きく変わると言って過言ではありません。
所有者・市町村・事業体・住民の4者が信頼関係を構築し、長期的な森林経営を実現することが、森林経営管理制度の真の成功条件です。制度がスタートしてから5年余りが経過し、各地で蓄積された実装ノウハウは貴重な政策資産となっています。これらの知見を共有し、後発地域での迅速な実装に活用することで、30万ha目標の達成と、その先にある「持続可能な日本の森林」の実現が見えてきます。森林経営管理制度は、林業政策の枠を超え、日本の国土・環境・地域社会の未来を形作る基盤的な仕組みとして、引き続き発展していくべき制度です。
結論として、本制度は単年度の予算事業ではなく、世代を超えた長期的な森林ガバナンスを構築する仕組みです。意向調査・経営権集積・経営委託・施業実装・収益還元・再造林の循環を地域単位で確立することが、制度の本質的目標です。林野庁・都道府県・市町村の連携、林業事業体の経営強化、林業普及指導員の専門性深化、森林環境譲与税の戦略的活用、地域住民の理解と参画、これら全要素が揃ってこそ、30万ha集積目標は達成可能となります。日本の人工林1,000万haを次世代に健全な姿で引き継ぐため、森林経営管理制度の運用に全国の関係者が一丸となって取り組むことが、いま強く求められています。
- 林野庁「森林経営管理制度ポータル」各年度報告
- 森林経営管理法(平成30年法律第35号)
- 森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律(平成31年法律第3号)
- 林野庁「森林経営管理制度ガイドライン」(2019年)
- 農林水産省「森林・林業基本計画」(2021年6月閣議決定)
- 全国市町村森林整備計画策定協議会資料
- 森林研究・整備機構(FFPRI)森林経営管理制度関連研究

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